今日から俺は四天王!
1章15話 剣を棄てた剣士の意地
今より少し前の話だ。
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金属音が部屋に響く。
それは、椅子に掛けてあった剣がずれ、床に落ちた音。
「キンライ...?」
フードを被った少年、ブロー・シェイトが心配そうに見つめる。
なぜならば、白髪混じりの強兵ソード・キンライは、冷や汗をダラダラと垂らしながら倒れた剣を見つめていたからだ。右手を伸ばし剣を握ろうとしているが、その腕は震え、動悸を起こしているようにも見える。
「な、なあ。剣、拾わないのか...?」
「...ああ、すまん。」
ハッとしたキンライは剣を持ち、立ち上がる。
「これが老い、か...」
少しずつシワの増えてきた彼は、剣の触れる、触れないだけで理解してしまったのだ。他でもない、自分自身の身体の異常に。
「...ブロー」
「なんだよおっさん」
「オレは、いや...私はもう前線には出ない事にします。」
「え!?」
「剣術指導の方に精を入れて、それから...そうですね、この城も28代目魔王になってから手入れを随分としていないですね。掃除を少しずつしましょう」
「ちょっ、何言いってるんだよ!急に敬語なんか使っちゃって!?」
「まずは、形から。」
「そうじゃない、らしくないって言ってるんだ!」
「...私はもう、剣を持てない。最前線で戦っていく資格が、ない」
「おっさん?」
「気づいてしまったのです、『老い』の恐ろしさに...私はたった今、掛けてあった、動いてもいない剣を掴み損ねた。...こんな事、今までの人生の中で一度もなかったのだ。僅か数センチのブレが、僅か数秒のズレが、戦場を狂わせる。もう、オレの剣豪の名の期限は切れてしまった...」
力の抜けたキンライはまるで、何かを悲しむように遠くを見つめている。
「一生を共に過ごし、鍛え上げてきた此の剣は、いわばオレの唯一の自尊心の塊と言えるだろう。それを今、オレは、オレは、オレの手で手放したのだ...!自らの...『老い』などという、くだらない理由で...!そうだ、あの時から、『あの人』を守ることが出来なかった、あの日から、オレはもう、既に...!」
刃がカタカタと震える。力いっぱい握り、手が震えているためだ。
「...すまない、私を1人にしてくれないか。今は、自分の事で精一杯だ。」
「...ああ。わかった。無理は、しないようにね」
「そういや、じーさん」
「なんでしょう。」
「あの日から、随分とらしくなったじゃねぇか。本当に、ジジイみたいだぜ」
「そうですね、すっかり慣れてしまいました。」
「...いいのかよ、それで」
「人とは変わりゆくものです。そういう貴方も随分と勇ましい口調になりましたな。」
「フン、真似事の延長線上にできたこびりカスさ。前の方がオレらしいか?」
「いえ、どちらも貴方です。...確かに私の剣は既に衰え、鈍り、錆びついてしまいました。ですが明日、勇者様の召喚。その時次第では、私の老いぼれた剣をみっともなく振るう日が来るでしょう。」
「サンライトのウワサだけど、随分真面目な勇者様らしいぜ。来てくれたら、きっと...。来るといいな、勇者」
「ええ。そして今度こそ、私は勇者様を守る盾となりましょう。」
「頼んだぜ、師匠」
「ええ、もちろん。」
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「キンライッ!!!!」
「むぅっ...!」
鮮血が辺りにばら撒かれる。小爆発で吹き飛んだキンライの右腕が、剣を掴んだままゴロンと転がる。
痛みに顔を歪ませ、左手で右の肩を押さえる。血はとめどなく溢れ、ぼたぼたと音を鳴らし、床に叩きつけられている。
「カエンダン!」
吹き飛ばした本人、『ヴァン・フレイビア』が追撃をかける。火球はキンライめがけ、飛んでいく。
「キ、キンライッ!」
「ここで避けたら、貴方に当たる!」
爆風で尻餅をついているカイトを守ろうと、カエンダンを正面で受ける。
「ぐっ!」
「そろそろ降参した方が身のためだぜジジイ!」
カイトは手を広げ、気弾を打とうと構える。
が、しかし
「カイト様、逃げるために魔力を使いなさい!窓から行くのです!」
とキンライが叫ぶ。
「でも...!」
「逃げろ!!!ここでオレが死ぬより、貴方が敵国に奪われる方が駄目だ!!!」
「っ...!」
「大丈夫、まだ秘策はあります...!」
「...信じるぞ、キンライ!」
爆風で割れた窓に向かって走るカイト。
「オイオイ、逃がさねーってーの...!?」
キンライがヴァンを鋭く睨む。
ゆらりと黄色いオーラが彼を包み始める。
「んだよ、魔力は持ってないんじゃ...」
「持っていないわけではない。使えなかっただけだ。」
キンライのシワのある頬の皮膚がピキピキと剥がれ落ち、鱗が現れる。
「鱗!?魚人族かなんかかテメェ!」
「泳ぐしか能のない小物と一緒にしないでいただこう。私の真の力、種族の能力...。我ら『龍人族』の力...!ここに全て注ぐ!」
「龍人族!?その種族は滅ぼされた筈だぜ!」
「純粋なものはな...。人の血のせいで弱くなっているが、『龍化』はできる。」
だんだんと顔つきが龍のように、爬虫類のようになっていくキンライ。筋肉が膨張し一回り大きくなる。
「クソッ!メンドクセー事になる前に首を切る!」
「足掻かせてもらうぞ、三銃士...!」
そうして、片腕の老兵は剣を棄て、最期の手段に出た。
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