今日から俺は四天王!

ノベルバユーザー358273

1章15話 剣を棄てた剣士の意地





今より少し前の話だ。








※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※




金属音が部屋に響く。


それは、椅子に掛けてあった剣がずれ、床に落ちた音。


「キンライ...?」


フードを被った少年しょうじょ、ブロー・シェイトが心配そうに見つめる。
なぜならば、白髪混じりの強兵ソード・キンライは、冷や汗をダラダラと垂らしながら倒れた剣を見つめていたからだ。右手を伸ばし剣を握ろうとしているが、その腕は震え、動悸を起こしているようにも見える。


「な、なあ。剣、拾わないのか...?」


「...ああ、すまん。」


ハッとしたキンライは剣を持ち、立ち上がる。


「これが老い、か...」


少しずつシワの増えてきた彼は、剣の触れる、触れないだけで理解してしまったのだ。他でもない、自分自身の身体の異常に。


「...ブロー」


「なんだよおっさん」


「オレは、いや...私はもう前線には出ない事にします。」


「え!?」


「剣術指導の方に精を入れて、それから...そうですね、この城も28代目魔王になってから手入れを随分としていないですね。掃除を少しずつしましょう」


「ちょっ、何言いってるんだよ!急に敬語なんか使っちゃって!?」


「まずは、形から。」


「そうじゃない、らしくないって言ってるんだ!」


「...私はもう、剣を持てない。最前線で戦っていく資格が、ない」


「おっさん?」


「気づいてしまったのです、『老い』の恐ろしさに...私はたった今、掛けてあった、動いてもいない剣を掴み損ねた。...こんな事、今までの人生の中で一度もなかったのだ。僅か数センチのブレが、僅か数秒のズレが、戦場を狂わせる。もう、オレの剣豪の名の期限は切れてしまった...」


力の抜けたキンライはまるで、何かを悲しむように遠くを見つめている。


「一生を共に過ごし、鍛え上げてきた此の剣は、いわばオレの唯一の自尊心の塊と言えるだろう。それを今、オレは、オレは、オレの手で手放したのだ...!自らの...『老い』などという、くだらない理由で...!そうだ、あの時から、『あの人』を守ることが出来なかった、あの日から、オレはもう、既に...!」


刃がカタカタと震える。力いっぱい握り、手が震えているためだ。


「...すまない、私を1人にしてくれないか。今は、自分の事で精一杯だ。」


「...ああ。わかった。無理は、しないようにね」






















「そういや、じーさん」


「なんでしょう。」


「あの日から、随分とらしくなったじゃねぇか。本当に、ジジイみたいだぜ」


「そうですね、すっかり慣れてしまいました。」


「...いいのかよ、それで」


「人とは変わりゆくものです。そういう貴方も随分と勇ましい口調になりましたな。」


「フン、真似事のうりょくの延長線上にできたこびりカスさ。前の方がオレらしいか?」


「いえ、どちらも貴方です。...確かに私の剣は既に衰え、鈍り、錆びついてしまいました。ですが明日、勇者様の召喚。その時次第では、私の老いぼれたつるぎをみっともなく振るう日が来るでしょう。」


「サンライトのウワサだけど、随分真面目な勇者様らしいぜ。来てくれたら、きっと...。来るといいな、勇者」


「ええ。そして今度こそ、私は勇者様を守る盾となりましょう。」


「頼んだぜ、師匠」


「ええ、もちろん。」














※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※












「キンライッ!!!!」






「むぅっ...!」




鮮血が辺りにばら撒かれる。小爆発で吹き飛んだキンライの右腕が、剣を掴んだままゴロンと転がる。
痛みに顔を歪ませ、左手で右の肩を押さえる。血はとめどなく溢れ、ぼたぼたと音を鳴らし、床に叩きつけられている。




「カエンダン!」


吹き飛ばした本人、『ヴァン・フレイビア』が追撃をかける。火球はキンライめがけ、飛んでいく。


「キ、キンライッ!」


「ここで避けたら、貴方に当たる!」


爆風で尻餅をついているカイトを守ろうと、カエンダンを正面で受ける。


「ぐっ!」


「そろそろ降参こーさんしたほーが身のためだぜジジイ!」


カイトは手を広げ、気弾を打とうと構える。
が、しかし


「カイト様、逃げるために魔力を使いなさい!窓から行くのです!」


とキンライが叫ぶ。


「でも...!」


「逃げろ!!!ここでオレが死ぬより、貴方が敵国に奪われる方が駄目だ!!!」


「っ...!」


「大丈夫、まだ秘策はあります...!」


「...信じるぞ、キンライ!」


爆風で割れた窓に向かって走るカイト。


「オイオイ、逃がさねーってーの...!?」


キンライがヴァンを鋭く睨む。
ゆらりと黄色いオーラが彼を包み始める。


「んだよ、魔力は持ってないんじゃ...」


「持っていないわけではない。使えなかっただけだ。」


キンライのシワのある頬の皮膚がピキピキと剥がれ落ち、鱗が現れる。


「鱗!?魚人族かなんかかテメェ!」


「泳ぐしか能のない小物と一緒にしないでいただこう。私の真の力、種族の能力...。我ら『龍人族』の力...!ここに全て注ぐ!」


「龍人族!?その種族は滅ぼされた筈だぜ!」


「純粋なものはな...。人の血のせいで弱くなっているが、『龍化』はできる。」


だんだんと顔つきが龍のように、爬虫類のようになっていくキンライ。筋肉が膨張し一回り大きくなる。


「クソッ!メンドクセー事になる前に首を切る!」


「足掻かせてもらうぞ、三銃士...!」


そうして、片腕の老兵は剣を棄て、最期の手段に出た。













「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く