今日から俺は四天王!
1章8話 【悲報】俺氏、約800万人の前でやらかすwww
「やっぱり魔王軍のとこでも城下町?は賑わってるなぁ!あれは、市場...だよな?いいなー、行ってみたい!おっ!アイツでけー!巨人族的なポジションか!2mはあるぜ」
「おいカイト、あんまり騒ぐな。衣装が汚れるぞ。」
ブローが腕を組んで注意する。
「その正装お似合いですぞ、カイト様。」
「ありがと、キンライ」
カイトは今、アズフィルア国の首都『ウォーリアム』の広場の仮設テントで、こそこそと様子を伺っている。大事な式の為、カイトは髪を整え白をベースとしたロシアの軍服のような服を着ている。アズフィルアでの正装らしいが、カイトからしたらコスプレ感が否めない。
テントの先にはカラフルな露店が並び、一帯はお祭りムードである。
「カイト様の世界でも、こう言った祭りはあるのでしょうな。」
「まーね。いろんな種族が楽しそうに騒いでるの見るとついつい見に行きたくなっちゃうね。」
「アタシ達が行ったらみんな大混乱よ!行くなら、このフード被ってね?」
「えーと、認識阻害フードね。便利だねぇ異世界の道具って。」
腰に刺した、使うことが無いであろう剣の柄をいじりながらカイトはおちゃらけた。剣はキンライのお下がりである。四天王の正式就任のお祝いでもらったのだ。
「さて、そろそろ本番だ。サンライトの『東の勇者』が活躍してる今、アズフィルア国民は『西の勇者』の言葉を真剣に聞くだろう。くれぐれも、変な事は言わないように。」
「あー、やばいキンチョーして来たわ。ビシッと決めたい。」
テントの先から声が聞こえる。
『これより、任命式を行います。国民の皆様は静粛に。』『ヒューーッ!』『待ってたぜー!』『キャー!勇者様ー!!』
「おーいおい、黄色い声が聞こえるぜ。参ったなぁ。お兄さん頑張っちゃうぞ!」
「うげっ。お前、式中にその気持ち悪い笑顔をしたら殺すからな。」
「お前今眉間にシワを寄せてるだろ。顔見えなくてもわかるぜ。」
「やっと西の勇者が出てくるのよ?みーんなカイトを待ってるわ!キンチョーしないようにね?」
それから少し時間が経った広間にて。四天王が入場した後、メガネの司会者が一言。
『黒崎海斗様より、お言葉をいただきます。黒崎様、お願いします。』
小鳥のさえずりしか聞こえなくなるほど場が静かになり、国民全員がカイトを見る。カイトがマイクの前へ。
「ん"っん"っ......国民の皆様。私は黒崎海斗と、申します。.......っと、よろしくお願いします。違う世界から来たので……わからない事だらけで、あのー、至らない点もあると思うんですけど、力になっていけたらなって思うので、これからよろひくお願いしまひゅっ。」
ざわっ。
(ぐあ〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっっ!!!噛みました!!無理だって!!高校生に800万人は無理だってよ!!なんださっきの言葉!!ちゅーがくせいか!!わしゃ中学生なんか!!!!」
「うるせぇ!独り言の癖やめろ!いつまでもウジウジすんじゃねぇ!」
「あはははは!カイト、顔真っ赤だったね!声震えてたね!あはは、あはははは!はーっはっはっは!!」
「笑いすぎですぞ、ブラッディ。とても立派でしたぞ、カイト様。」
四天王のフォロー(?)もあるが、カイトはアズフィルア国の人口約800万人に見られたのだ。一生の恥以外なんと言おうか。
テントの外から声が聞こえる。
『なんか、オドオドしてたな。勇者っつってもやっぱ普通の人だわ。』『かーっ!東の勇者が本物か、こりゃウチの国の負けだな。』『なんかダサくない?マジウケたんだけど』『弱いんだろうなぁ』『ネットでイキってそう』
「はぁ...」と大きなため息。
「...街でも回ればどうだ?フード被っときゃ大丈夫だから。」
「被っときゃって...周りからはどう見えんだっけ?」
ほぼ泣きかけの目でカイトはブローを見た。「うわっ」とブローが引いたのち、説明してくれた。
「フードについてる耳から空気中の魔力の周波を合わせて顔や声を違和感の無いものに変える。一般人に紛れる事ができる。俺の『クローバーの証』の、下位互換ってとこだな。」
「猫耳か...男子高校生には絵面的にもちと厳しいが、異世界だし、もういっか」
「あんまり粗末に扱うなよ。この国では10着しか無い。」
「やっぱチートアイテムってレアっすね。よし、街を見に行こう。お前らはどうすんの?」
「アタシはいつも通り見回り!」
「俺も同じく。こういう祭りって、何かと事件が起きるからな。お前も気をつけろよ。」
「私もブラッディやブローと同じく警備をします。カイト様はこの街を楽しんで下さい。街を知る事が国を知る事にも繋がるでしょう」
「なんか、仕事しなくてすいません。じゃ、行ってくる!」
「この剣かっこいいなぁ。強そう」
「兄ちゃんわかってるなァ!コイツは数ある有名な剣の中でも、さらに有名な伝説の剣さァ!」
緑の多い広間から少し離れた武具防具屋通りの一角で、カイトは剣を見ていた。薬草や武具防具など、異世界に来たら是非買いたいものを記念に揃えようとしていた。
「はー、すごい剣が売ってるもんだな。ちなみに、いくらですか?」
「伝説の剣が、79万8千Gだぜ兄ちゃん!」
「...『プライスダウン』って書いてある気がするんだけど。」
「ちっ...アズ語が読めたか...おおっと、悪りィな!60万Gだったぜ!」
「...伝説の剣がこんな武具防具通りで、しかもプライスダウン?」
「ラッキーだったなァ兄ちゃん!」
ふと、周りに目をやると他の武器屋の店主が可哀想な人を見る目でカイトを見ていた。
『あの坊主、あの剣を買うつもりらしい』『がらくた屋の剣なんかろくなもんでねぇぞ。』『扱う奴の問題だが、ちとあの剣はクセが強いからな。可愛そうに』
「おいおっちゃん話が周りと少し違うみたいだな?」
「50万Gにしよう!」
(伝説の剣が30万近く値下げされたぞオイ。)
「手持ちが20万Gしかないなぁ。」
「ケッ...ケツの青いガキは帰んなァ。お前さんにやるエモノなんざねェよ。」
「態度の豹変!!」
ニカニカと笑っていたおっさんは急に足を組み、くしゃくしゃのタバコを吸い始めた。
「...こっちの葉っぱみたいなのは、なに?ヤバいやつ?」
「な訳あるかァ。ここ一帯で採れる『薬草』。俺はしがない雑貨屋さ。300Gでどうだガキンチョ。」
「300G!?薬草が!?こんな一面森みたいなのに?」
「あァん?馬鹿言ってんじゃねェ。コレばっかりはどこ行ったって同じだぜ。」
「ぐぐ...しゃあねぇ記念に貰おうか。ケガしないとも限らん」
「毎度、大事に使えよガキ。ここいらじゃ薬草は珍しいからな。」
「薬草が珍しいって?」
「さっきから…お前さんは一体どこから来たんだ?この辺の事を知らないってなると、出身はトドの様だが、バリアの外を知らないって一体...」
「え、ああそうだな。悪い悪い、ど忘れしてた。」
(しまった、これ以上聞くのはまずいかも。ブラッディが国を包むように張っているバリア。バリアの外を知らないんじゃ、俺の出身の設定があやふやに...というか、バリアの外に何が…)
「...ところでガキンチョ。お前さんの腰に付いてる立派な剣は一体...。」
「え?け、剣を集めるのが趣味でね。」
「へえ、いい趣味だ。俺と同じ趣味。」
店主は再びニカッと笑った。
「な、何かな?」
「やるよ、この剣。」
そう言ってガラの悪そうな店主は伝説の剣をカイトに差し出した。
「はあ?20万しかないって!」
「この伝説の剣の名は『秘剣オメガ』だ。覚えたか。今はナマクラに見えるだろう?こいつァ持ち主を選ぶんだ。だから『価値が無い』と見る阿呆がいるのさ。」
周りをニヤリと睨む店主。ギクッとする周り。
「お前さんが持ってるその剣、サンライトの王国騎士が持ってたモンだな。どこで手に入れた?」
「い、言えない。」(知らねーし!キンライのだし!)
「がっはっは!言えない、ときたか。だがその剣、かなり手が入ってる。よほどの剣好きと見えるね。オメガは見る目のあるお前さんにやるよ。可愛がってやってくれ。俺は、剣が好きな奴が、好きなのさァ。」
「重い、この剣。」
バリアの外を見てみたくなったカイトは通りから外れた路地にいる。
「しっかし...」
城の近くや、街の中央は緑があり、花が咲き小鳥が歌う様なカラフルな風景であったが、バリアの近くまで来るとそれは減りスラム街の様になっていた。
路上の端に布を敷き寝泊まりしている人もいれば、ゴミを漁り、明日を生きようとする人があちらこちらにいる。
(酷いなここは。それにしたって、通りから少し離れただけでこんな所に着いちゃうのか。一体、何が原因でここまで...。薬草が育たない状況の外って...?)
狭くなった路地を、しばらくまっすぐ進んでいくと薄桃色の半透明な壁に出会った。
(これが、バリア。...っ!?この先って...!」
「悪党、覚悟ぉー!!」
「うわっ!」
突然背後から、幼い声がした。咄嗟にカイトは振り向き、振りかぶられた鋭い木の棒を稽古通り弾いた。
「あっ...!」
「あっぶね...!あんな普通のナイフで刺されたら死ぬって!お前、悪党ってどういう事だよ!」
「こっ殺すなら殺せよ!あんたのその身なり、魔王軍だろ!非道の軍め!」
「な、なんで魔王軍ってわかったんだ!?つーか、非道!?」
「お前が、お前らがやったんだろ ...!このバリアの外!」
(これって俺らが!?なんで、どうやって...!)
「俺たちの家を、家族を返せぇ!」
泣き叫ぶ少年、カイトはどうしようもない焦りと疑問を感じていた。
バリアの外。
そこには広間にあった自然豊かな風景とはまったくかけ離れた、どこまでも続くような荒野があった。
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