今日から俺は四天王!
1章7話 異世界チートは使えない?
カイトが異世界に来てから二週間が経った。カイト本人もミリネアに少しずつ慣れ始め、1日の習慣ができていた。
朝9時から9時30分まで(ただし全員が揃う時間は9:30を過ぎるし、30分では話は終わらないため11時までかかる)四天王定期集会。 正午まで魔力放出の練習。食堂で1時30分までご飯。夜まで剣の訓練。風呂、寝る。
正直、放出の練習はよく分からないし、剣の訓練も筋トレや地味な動きの繰り返しでつまらない上に疲れる。
(本当の異世界ってこんな感じなのか。ずーっとこの城に閉じ込められてるようで...。外は、どんな感じなのかな。)
手のひらにある出来かけのマメをぼうっと見ながらカイトは考えていた。
そんな時、食堂でブローがこう言った。
「さて、そろそろ始まるか...カイト、明日は外に出ないか?街に行こう」
「ぶーちゃんマジでっ!?」
「お前ぶーちゃんって呼ぶのやめろ。...実はお前が召喚された日の翌日、任命式...と言っても楽しむような祭りをする予定だったんだ。勇者が来たぞ、戦争に勝つぞってな。」
「はは、物騒な祭りだな。でも、なんでやらなかったんだ?」
「『機械魔兵』が現れたんだ。」
そう言ってブローは一冊の本を出した。
「あー、ミリネア語は勉強中だっけか?まあいい。この本には機械魔兵という危険生物の詳細が書かれている。」
開かれた本のページには可愛らしい白いマスコットが描かれていた。
「この...マシュマロみたいな一ツ目おばけが機械魔兵?ははは、ずんぐりむっくりだなぁ」
「僕が小さかった頃、こいつらと同じ種のモンスターに母親を殺された。」
ビクッとカイトはブローの顔を見た、が暗くて見えない。
「それだけじゃない。こいつら、ミリネア中にゲリラ的に現れ、人を襲い魔力を吸い取り、ぶくぶく太っていくのさ。アズフィルア、サンライト、トド、メカトロニムもこの怪物には手を焼いている。だから、甘く見ないほうがいい。」
「...悪い。」
「いいんだ、仕方ないさ」
と、彼はため息を吐きポフっと本を閉じた。
「さて、そんな怪物が...お前が召喚された日に偶然現れやがったのさ。深夜だったから、外に出てる住民がいなくて良かったがな、屋台やらなんやらがダメになって急遽予定を変更した。」
「そんな危ない奴らウロウロしてんのに祭りなんか..!」
「いや、大丈夫だ。普段は寄せ付けないように街中にバリアを張ってるからな。...まあ、あの日だけ偶然にもバリアを張ってなかったんだが。」
「なんで?バリア張る機械的なものが壊れた?」
「アタシ1人でやってんの!えっへん!」
食堂のおばちゃんからもらった肉まんを食べながら、ブラッディがドヤ顔で近づき、カイト達と同じ席に座った。
「ブラッディが、町全体にバリア?(街の大きさ知らんけど)出来るものなのか?」
「ちょっと、バカにしないでよね!この国一の大魔法使い様よ!?...あの日はちょっと、魔力を使い果たしちゃってて...その...」
「鼻血出してぶっ倒れたのさ。」
「ブロー!」
少し顔を赤くしてブラッディはブローを睨みつける。
「おいおい、完全にブラック企業じゃんかよ!ちゃんと休めてんのか...?」
魔法を教えてくれるブラッディが、倒れてまで街を守っている。カイトはなんだか、魔法を教わるのが申し訳なくなってきた。
「なあ、ぶーちゃん。そのバリアって、俺も覚える事は出来るかな。」
「今のお前じゃ無理だ。魔力を具現化し、それを保ち続けるなんて僕もキンライも出来ない。...ただし、『スペードの証』があれば話は別だ。覚えてるか?」
スペードの証。カイトが召喚された日に魔王が放った言葉である。
「そのスペードがなんだって?」
「まず、一つ話をしないといけない。僕たちは、『親や種族から受け継がれる魔力』による『魔法』と、『自分自身、又は外部』から手に入れる『能力』の2種類の力がある。」
「例えば、キンライのおじちゃんいるでしょ?キンライは魔法はあまり使えないの。剣に魔力をブワって入れて強くするくらい。でもねー、アタシは見た事ないんだけど、『ドラゴン』に変身出来る能力を持ってるらしいのよ!『ダイヤの証』ってかっこよくない!?」
「なんか、もうあの人強すぎだな。2人は?」
「アタシは『治癒』の能力。怪我を治せます!それが『ハートの証』からもらった能力」
(なんかショボいな。)
「治癒系統は魔法の最高ランク級だ。全種族の身体を完璧に理解し、状態の異常を瞬時に理解し、魔力の微粒子を結合、高速回復できるように粒子一つ一つに魔力を送り込む。誰にでもできる事じゃない。」
(ごめんなさいショボくないです。)
「...さて、『クローバーの証』は『変装』だ。と言っても着替えるわけじゃないぜ。魔力を体に纏い、化ける能力だ。」
「それは、スパイとかに使えちゃったりするやつ?」
「そうだな、かなり向いてる。」
「この能力のすごいところはねー、口調とかもいろいろ同じにしちゃうの!騙す相手の記憶を元に人格を作っちゃうの!」
「...つまり?」
「一時的に、だが化ける『本人』そのものになれると言っても過言ではない。あまり言いたくないが、カイト。僕はまだお前を敵のスパイだと思っている節がある。お前はバカだからそんな事ないのにな。」
「すっげー失礼!」
「素性を知られるのがかなり致命的なんでな。今、僕の顔は見えないだろう。」
「ああ...恐ろしいほどにフードの中は真っ暗だ。」
「アタシは見えるけどネ。」
「一人一人で変えられるのか。...ねえ俺は?」
「『スペードの証』は『超具現化』だ。」
「アタシのバリアの上位互換ってトコね。魔力をより操れる。もちろんバリアだとか、あとは剣やどデカイエネルギー弾まで作れるようになるわよん」
「なんかすごいチートっぽい気はする。」
「ちーと、は知らないが、難しいぜ。頭の中で、剣が想像出来るか?それがどんな重さか、どんな長さか。それだけじゃない、切れ味、肌触り、握り具合、形、何で作られているか、どこに出すか。さらにそれを感覚で、瞬間的に発動する。戦場ではそれが求められる。どうだ?」
「はは、俺に出来るかなぁ。やっぱ異世界チートって簡単に出来るもんじゃねーわ。」
「でもさ、そもそもカイトは『スペードの証』もらってないんでしょ?魔王様はまだカイトがどのくらい強いか知らないもんね」
「うーん」とブラッディが悩んでいたら、ブローが席を立ち、
「まずは、機械魔兵を倒せるようになる程の基礎が出来れば良いんじゃないか。簡単ではないがな。」
と若干諦めたように言って立ち去ってしまった。
「...バリア覚えてみる?」
「いや、遠慮しとくぜ。まだ俺には出来なさそう。」
カイトも「仕事、頑張れよ。」とブラッディに言って食堂を出た。
王座の間にて。
「失礼します。」
「...ブローか。どうした。」
「明日の任命式ですが、魔力の淀みが感じられます。おそらく、機械魔兵かと。」
「サンライトに先を越され過ぎている。お前も聞いてるだろう、東の勇者の話を。」
「ですが、それでは国民が..!」
「関係無い。変更は無い、下がれ。」
「っ...!それも『お父様』とやらの命令か...!」
「聞こえなかったか。下がれ、と言っている。...俺が今、お前を殺せるかどうかを理解してないようだな?」
「...失礼します」
バタンッと扉の音。
魔王は静かに外を眺めた。
空には鳥も雲も無く、黒がそこには広がっていた。
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