今日から俺は四天王!
第1章4話 ぅゎこのじじぃっょぃ。
指導場にて。
「この剣を使いなさい。」
キンライは木刀をカイトに渡した。
「剣術指南してくれるなんて、ありがとうな。」
木刀は傷だらけだがずっしりと重く、なんとなく伝説の剣がイメージされる。
「スペードとして、その前に魔王軍として、戦いぐらい出来ないと困る。しっかり教われよ、クロサキ。」
ブローが読書をしながら話した。その素顔は相変わらず、フードで隠れてよく見えない。本当に真っ黒で、輪郭すらわからない。
––––話は食堂に戻る。
「...ああそうか。お前、魔力の使い方も戦い方も分からないのか。」
嫌そうな顔で(とは言っても顔は見えないので推測だが)ブローがカイトに言った。
「すまん。正直ここら辺の人と殺し合いしても勝てる気しない。魔力の使い方もよく知らん。」
「当たり前!素人が魔法バンバン使って剣でズバズバやられたらアタシ達のメンツ丸潰れよ!」
ラヴが笑う。全く、胸が揺れてるぜ。
「まあまあ、この老いぼれの錆びついた剣で良ければ喜んで教えましょう。」
老いぼれ、とは。キンライの身体を見る限りかなり達人であるのがわかる。鍛えられた肉体や、たまに見える鋭い眼差しは威圧感がある。
「じゃあ空いた時間があったら、お願いしようかな。」
おい、とブロー。
「この国一番の剣豪だぞ?貪欲にいけ、貪欲に。私は様子を見てよう。私だって剣豪の弟子だからな。」
「魔法の使い方は、アタシが教えてあげるね!いつでも暇だから名前呼んで!」
「...なんか君ら二人いっつも暇だね?」
––––という事である。
「修学旅行で木刀買ってしばらくの間遊んでたけど、思いっきりは振った事ないな。」
中学3年以降全く触っていなかった木刀の重さが手にずっしりと伝わる。
「思い切り人に斬りかかる事はカイト様の世界では無いと聞きます。始めはゆっくりでいいので、好きな様に私を切りに来てください。」
「なこと言われたってなぁ...」
思い切り人を傷つける、なんて抵抗があるに決まっている。カイトはどうしても最初の一振りが出なかった。
「やれやれ...よっぽど平和ボケしてると見える。木刀貸せ。じーさんが丈夫かどうか分かればいいんだな?」
ブローは読んでいた『必見!梅雨の美しい植物達!』を椅子に置き、木刀を構えた。何読んどんねん。
「2週間ぶりか、じーさん。魔法と能力は無しで行こう。」
「ええ、剣のみで。」
一瞬の静寂、瞬きをする間にブローは間合いを詰めキンライの胸元に入り左肩を切り上げようとした。
だが、キンライは素早く掌をブローの手元に強く当て、切り上げる前にその体制を崩した。
すかさず、容赦無い一振りがブローを襲う。
ブローは足を踏み替え、木刀で受け止め、それから流し、素早くターン。キンライの背後に回る。
すぐさま斬りかかるが、それが分かっていたかの様にキンライも素早く回転、ブローの剣を打ち返す。
返されたブローは後ろへステップ、間合いをとろうとした。が、それがミスだった。
ちっぽけな間合いはたった一歩で無くなり、バックステップによって浮いた身体は足元の一撃を防げず、大きく身体が仰け反る。
受け身をとろうと自然に出した右手を足で蹴飛ばし、その足のまま強く踏み出す。
無防備になったブローの木刀は、
あっけなく
弾かれてしまった。
–––カラーン。
木刀がカイトの前に転がる。
「...クソッまた負けた。」
「同じパターンが多すぎます。そして癖も。魔力に頼ってばかりではまだまだ。鍛錬しなさい。」
開いた口が塞がらない。
「すっすげー!今何したんだよ!なんか、ブワってしたらガッてされてヴオオンってされたぞオイ!」
「私はお前が今何を言いたいのかが分からん。」
ブローが立ち上がり、冷静に話す。
「まだじーさんに勝ったことないんだ。今の見て分かったろ?励めよカイト。じゃーな、仕事行ってくる。」
軽く背伸びをすると、彼はツカツカと指導場を去った。
「...さてカイト様、指導に入りましょう。今日は1日付き合って、もとい突き合って斬り合いましょう。ホッホ。」
ニコリ、とキンライが笑う。
「はは...身体もつかな...。」
苦笑をしつつも木刀を取り、長い稽古が始まった。
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