転生したら妖狐な幼女神になりました~前世の記憶と時空創造者~

じゃくまる

妖狐! もふもふ! 魅惑の美女クレハお母様!

 メイドたちとアルマたちを見ながら色んなことを考えていた日の翌日、ボクの元をクレハお母様が訪れていた。
 妖狐族の頭領であり長く生きる大妖狐でもあるクレハお母様は、その青銀色の長い髪の毛とその頭から生える美しい狐耳、腰から生える美しい尻尾を堂々と揺らしながらメイドに案内されてやってきた。

 ちなみに今日のボクの服は、クレハお母様が持ってきた大和服の一部で『小袖』というものだ。
 ちなみに色はなぜか薄桃色。
 

「アリスや、大和風屋敷を構えぬか? 作り方なら教えるのじゃが?」

 こっちに来るなりいきなりそう言うクレハお母様。
 ボクは思わず「大和屋敷って、なんですか?」と聞き返してしまった。

「これはしたり。『神郷』には『大和国』という国があるのは知っておるかのぅ? 主に神々と妖怪といわれていた妖種が住んでいる場所なんじゃが」

「ごめんなさい、実は知らないんです」

 実はボク自身、そんなに他世界のことは詳しくはない。
 せいぜい神界や精霊界についてある程度知っているくらいだろうか。
 まぁ今となっては魔界や天界についても分かるようになってきたけど。

「よいよい。そのように気にすることはない。少なくとも妖狐の姿になれる以上、神郷と其方は無関係ではないのじゃ。それをよ~く覚えておくがよい」

「はい、クレハお母様」

「うむ。本当に愛い子じゃのぅ」

 クレハお母様はそう言うと、ボクをグイッと引き寄せる。
 その弾みでボクの顔は、クレハお母様の豊満な胸の谷間に挟まるようにして埋まってしまった。

「大胆じゃのぅ。とはいえ、其方もいずれこれくらいにはなるじゃろう。ルナが生きていたら我と同じくらいになったじゃろう」

「ルナ……」

 ルナのことを話しに出され、ボクは思い耽ってしまう。
 前世での大切な妻だったルナ。
 今は亡きボクの遺伝子の片割れ。

「そう悲しむでない。ルナが寂しがるじゃろう? もしかしたら其方がいつか、ルナを蘇らせることもあるかもしれんが、其方はこれからも長い時を生きるのじゃ。泣くよりも笑って生きることを考えるようにするとよい」

「ん……」

 ルナのことは今でも思い出すと悲しい。
 それほどに愛していた大切な妻だった。
 クレハお母様とルナはよく似ていたし、今のボクもそんなルナによく似ていると思う。

「なに、娘が増えたと思えば儲けものじゃ。我はアリオスもアリエスもどちらも大切な子じゃと思っておる。そうそう、そんな其方にこれを渡そう」

 クレハお母様はそう言うと、ボクの目の前に薄っすら淡く光る丸い石ころを差し出してきた。

「石ころ? でも、うっすら光ってる……」

「そうじゃ。これは我らが祖先、『時渡りの神狐』と呼ばれる存在が残したとされる、宝玉らしいのじゃ。持つべき者が持つとき、その本当の力が開放されるとか」

「本当の力……」

 目の前にぶら下がっている石ころは、クレハお母様の手から伸びる紐で結ばれている。
 その淡く光る石ころは、まるで脈動するかのように少しずつ明滅する回数を増していく。

「アリエスや、触ってみるかのぅ? 何やら気になっておるようだし」

「ん~。ちょっとだけなら……」

「うむ。さ、持つがよい」

 クレハお母様の手から解き放たれた淡く光る石ころはボクの掌にぽすんと落ちて収まる。
 すると――。

「えっ? なにこれ……」

「なんとしたことじゃ!?」

 ボクの掌に収まった石ころは、繰り返す明滅が徐々に治まっていくと、次第にその形を失うように崩れ去っていく。
 そして、石ころだったものはキラキラ輝く光の粒になり、ボクの体の中に溶け込んでいく。

「何で……?」

「まさか、其方が持つべき者だというのか。我が娘が」

 クレハお母様は驚いた表情で呟くそうにそう言うと、不意にボクを強く抱きしめた。
 ただでさえ胸の谷間に挟まっている状態なのに、そこからさらに力を入れられるものだから、乳圧によって潰されそうになってしまった。

「クレハお母様、痛くないけど苦しい」

「はっ。おぉ、すまぬ。我が取り乱すとは情けなや」

「いいけど、どうしたの?」

 ボクが問いかけると、少しだけ悲しそうな顔を見せるクレハお母様。
 それから胸に埋もれるボクの耳をいじりくりながら「なんでもないのじゃ」とだけ言った。

「むぅ。クレハお母様? 耳、気持ちいい?」

 何かをごまかすようにボクの耳をいじくるクレハお母様を見上げながらボクが問いかけると、とても嬉しそうな顔をして「当然じゃ」と言って笑う。

「そっか。ならよかったよ。ちょっとくすぐったいけど」

 嘘である。
 実は死ぬほどくすぐったい。
 妖狐の時は耳が頭上にあるため、指なので撫でられるととてもくすぐったいのだ。
 鳥肌が立って、背筋がゾクゾクするような不可思議な感覚を感じることが出来る。
 不快なようなそうでもないような、よくわからない感覚だ。
 
「あんまり耳をなでると、ボクもお母様の耳を撫でちゃうぞ!」

「これ、やめよ! 耳は撫でるものではないのじゃ!」

 ボクが伸ばした手をパシンと叩き落としてクレハお母様がそう言ってくる。
 
「理不尽。ボクだけいじられるとか意味わからないから!」

「ふふ、ならば実力で触ってみるがよい。そしたら尻尾をもふらせてやろうぞ」

「よっし、負けないぞ!」

「その代わり、できぬ時は、アリスの尻尾をもふるからのぅ?」

「!?」

 そう言った瞬間、クレハお母様の目が怪しく輝いた。
 やばい、あれは本気だ。
 本気でボクの尻尾をもふるつもりだ!

「さぁさ、その可愛い尻尾で我を満足させるのじゃ!」

 胸に埋もれたままのボクは、この不利な状態から脱すべく、一気に飛び起きようとした。

「させぬ!」

「ぷぎゅっ」

 力を入れた瞬間、ボクの前方を抑えにかかったクレハお母様の柔らかな腕に体が激突。
 その腕を跳ね除けること敵わず、ボクは変な声を出して再び胸の谷間へと沈んでいく。

「すまぬすまぬ。まさかそんな勢いで飛び起きようとすると夢にも思わず抑えにかかってしまったのじゃ。痛くなかったかのぅ?」

「む~。まさか腕から逃れることも敵わないなんて……」

 ボクがそう言うと、クレハお母様はコロコロと笑いながら「まだ幼い狐じゃからのぅ」と言ってボクの頭を撫でてきた。
 子供扱いされているようでなんだか悔しい。

「これこれ。そのように睨むでない。愛らしい顔が台無しじゃぞ? さて、我の勝ちじゃから、その可愛い尻尾を撫でさせてもらおうかのぅ」

「ちょ、まって!?」

「またぬ」

 それからクレハお母様は、実に嬉しそうにボクの尻尾を「ほ~れほれ~」と言いながら撫でさすってきた。
 くすぐったかったりぞくぞくしたりと身体が忙しく反応したけど、それなりに長い時間が経つと、だんだんとボクの意識は薄れていってしまった。

「ねむ……」

「よいよい。まずはよく眠るのじゃ。そうじゃ、我の尻尾を枕にするがよい。起きるまで、我は其方の側におるでのぅ」

「くぅ~……」

 クレハお母様のその言葉を最後に、ボクは意識を手放した。

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