ゾンビになって生き返ったので 復讐してやる

カイガ

サイドストーリー 「術の応酬戦と超能力同士の死闘」(後編)


*やや長め





 セン姉妹とルマンドがベロニカに追い詰められている一方、小夜は操っているモンストールたちとともにベロニカの召喚魔獣を全て相手していた。戦力は魔獣群の方がやや上回っているが、小夜による幻術で魔獣たちの行動を上手く阻害して徐々に戦力差を埋めて状況をものにしている。
 しかし、小夜にとってこの戦いを長引かせるのは非常にマズいことであった。


 「......っ!また、モンストールが私の支配から解けて...!」


 “死霊魔術”で屍族《モンストール》を完全に支配し続けるには、相当の体力と魔力、そして精神力が必要とされる。しかも操る対象が強大な程、支配するのが困難になってくる。特に災害レベルのモンストールを支配に置くのはそれなりに負担がかかる。皇雅のような規格外に強過ぎる者は、せいぜい行動を縛る程度しかできない。
 今の小夜はSランクのモンストールまでは自分の操り人形に堕とすことができるがそれもそう長くは続かない。かといってSランクモンストールを今解放してしまうと戦局が一気に不利になってしまう。

 故に小夜はまずレベルが低いモンストールから支配を手放すことにした。いちばん強い個体を最後まで支配に置くことにして、なるべく多くの魔獣を討伐していき、同時に支配から解放されたモンストールも即座に討伐するよう動いている。
 魔獣の数も残り僅かになったが、同時に操っているモンストールも一体のみとなってしまっている。さらには解放されたモンストールたちも小夜に牙を向けて襲ってくる。
 

 「このままでは私が殺される...。使うなら、今!」


 追い詰められる前に小夜は最後の切り札...魔石の粉末を取り出して摂取する。生物がそれを多く摂ると廃人になって戻れなくなるあるいは死ぬというリスクがあるものだが、この状況下ではリスクに躊躇っている場合ではなかった。

 (覚悟はしてきてる...だから私は、ここで勝負に出る!!)

 小夜が摂取した粉末は倭が定めていた上限量ギリギリあるいは少し超過した量だ。下手すれば自滅して終わるという危険な賭けに、彼女は出たのだ。
 
 昔の私だったら、こんなことせずに逃げ出していただろう。小夜は胸中で自分を振り返る。彼女は強く変わった。追い詰められたこの状況に屈することなく前を見てしっかり立っている。
 そんな強く変わった彼女に、奇跡が起こった。


 「は、あああああああああ......!!」

 
 魔石の粉末による効果は、廃人化をギリギリ避ける程度の量で能力値を通常の約100倍に、魔法のレベルを2以上跳ね上げるものだ。
 しかし小夜の場合、その伸び幅はクィンや縁佳を凌駕していた。
 今の彼女の魔力は、以前より200倍上がっていた。それにより、

 「今なら私も、強力な召喚獣を呼び出したり、モンストールを強く縛ることができる......はあぁ!!」

 小夜は“死霊操術”をさらにパワーアップさせて再度多くのモンストールを支配して魔獣を襲わせる。さらに彼女の“召喚術”で1匹強力な召喚獣を発現させた。


 (多くを呼び出すより純度が高い...強いのを1体召喚するだけで良い。これで魔獣たちを倒して、その後にこの子で操っているモンストールも全て討伐する。
 お願い、私たちの勝利の為に......っ!)


 小夜の想いに応えるように、白い毛で覆われた細身の幻獣が、鋭角を振るって目の前の魔獣を両断する。
 召喚獣に戦わせている間に小夜はセンたちの様子を見る。

 (あっちは...かなりマズい...よね。三人とも“限定進化”してなお追い詰められている。さらに強くなることが出来れば覆すことが......私が助ける!!)

 即座に速さに特化した獣を召喚してそれに乗ってセンたちのところへ駆けつける。

 “黒陽炎《くろかげろう》”

 小夜の炎と闇の複合魔法でベロニカの視界を遮ることに成功する。この魔術は目くらましに使われるものだ。幻を見せることも出来る。


 「くっ、こんなもので隠れられると思うな。数秒で破ってくれる!」


 ベロニカ程の魔力を持つ者ならこの炎の壁など数秒で破ってくるだろう。だが小夜にとっては、その数秒があれば十分だった。

 「三人ともこれをっ!魔石といって戦力をしばらく超強化させられるものです。粉末にして摂取すればリスクをあまり負うことなくパワーアップできるので、急いで摂って下さい!!」

 小夜が小瓶を三つ投げて渡す。三人とも魔石については少し前にアレンから聞いている。この存在を忘れていた彼女たちは天恵と言わんばかりに粉末を摂取して、さらにパワーアップする。
 その時ルマンドが小夜にこんな提案を持ちかける。
 
 「魔石...まさか人族がそれを持っていたなんて...。
 サヤちゃん、魔石はまだある?それも、石そのものがあった方が良いわ。私なら《《魔石と上手く適合できる》》からまだ摂取できるわ――」

 突然の新事実に皆は驚くが、時間が無い為すぐにルマンドの言われた通り魔石そのものを渡す。小夜が魔石を持っていた理由は、彼女が魔石の補充係りだったからである。
 そして魔石を取り込んだルマンドは―――


 「ハァッ!!小賢しい時間稼ぎを!全員すぐに殺して.........あれは、魔石による強化?
 え―――――?」


 「悪いけど すぐに決着をつけましょう―――」


 奇跡と呼べるような超強化に成功した。

 「私よりもさらに伸び幅がある...!これが石そのものを取り込んだ場合の強化...すごい...!」
 「で、でも!石を取り込んだりしたら、命に関わる副作用が...!ルマンド!?」
 「.........大丈夫。数分で解けば、無事に済むから」

 センの心配にルマンドはにこりと笑って大丈夫だと応える。

 「バカな......魔人族以外で石そのものを取り込んで死なない種族がいたなんて!しかもよりによって鬼族が...!」
 「いえ、鬼族も魔石そのものを取り込んだら高確率で死ぬか廃人になるわ。神鬼種である私だけが特別なの。
 それより、この状態で戦えるのは本当に短いから、すぐに終わらせてもらうわ――」

 ルマンドがそう告げた瞬間―――


 「ぐああああああああああっ!?」


 赤い電撃がベロニカの全身を襲い大ダメージを負わせた。

 「三人とも、魔人族とは私が一人で戦うわ。この力は味方にもダメージを負わせてしまうから...。皆はまだ残っている魔獣とモンストールの殲滅をお願い。
 彼女は必ず私が倒してみせるからっ」

 ルマンドの強い意思を感じ取ったセンとガーデルはその言葉に従い、小夜を連れて二人の戦場から離れる。

 「この威力...私の魔力と同等ですって...!?」
 「そうね今の私の魔力は、初期値の大体1000倍(150000000)といったところね」

 バチバチと全身から濃い魔力を出しながら、ルマンドは魔法を放つ。

 “百雷閃波《びゃくらいせんぱ》”

 「ぐ...“氷柱剣狂舞《ブリザード・ロンド》”」

 ルマンドの幾百もの雷の波動とベロニカのいくつもの氷剣が激突する。先程まではベロニカが完全に押していたが、今は完全に拮抗している。

 「調子に、乗らないことねっ!!」
 「そうね。だから一回一回に全力を込めて放つわ」

 “嵐爆炎波《フレイムウイング》”
 “氷砂礫嵐《アイスストーム》”

 “颶風の狂乱暴撃カオス・テンペスト
 “黒き焔塊の尽滅爆ダーク・スーパーノヴァ

 “螺旋巨光槍《トルネード・ランス》”
 “黒闇撃滅雷鉾《ダーク・ライトニングランス》”

 二人とも国一つを簡単に落とす威力の魔法を撃ち合う。さらに数回撃ち合ったところで、ベロニカが自身の最強の武器...超能力を使用した。
 

 “サイコバースト”

 空気と重力を凝縮したような透明色の巨砲が、ルマンドを消し飛ばそうとする。


 神通力“念衝波動《ねんしょうはどう》”

 対するルマンドも、神鬼種のみが使える最強の超能力、「神通力」でベロニカの超能力を真っ向からかき消してみせた。


 「私の超能力を真っ向から打ち破った...?こんなこと、が...!」
 「言ったはずよ、“神通力”に勝る超能力は存在しないって」


 絶対的強者と化そうとしているルマンドと怒りと焦燥に駆られるベロニカ。
 二人の戦いに決着が訪れようとしていた。




 一方、小夜とセンとガーデルの戦いも佳境を迎えていた。

 (キツい、苦しい...。でもこれが私にできること、すべきことだから!絶対に諦めない!!縁佳ちゃんも、倭さんも、そして......甲斐田君も必死に戦っているはずだから、私も...!!)

 「限定強化」と魔石による重ね強化で、体力と魔力の消耗速度が上がり、既に枯渇寸前にまで身を削っている小夜は、途轍もない苦痛に襲われているがそれでも“死霊操術”を解くことはせず、モンストールをコントロールし続けている。
 口や鼻、目から血を流そうが弱音を吐くことなく二人のサポートをし続ける。

 「「“幻殺拳”」」

 セン姉妹による武撃で魔獣たちを次々撃破していく。頭に魔力を込めた拳を打ち込み、脳内に幻術を流し込んで相手の脳内を破壊する幻術と武術の合わせ技が二人の最強技だ。この技に耐える魔獣はここには存在せず、全て一撃必殺で討伐されていく。

 「はぁ、はぁ...魔獣はもうあと一体だけね!サヤちゃんありがとう!!もうモンストールの支配解いて大丈夫よ!」
 「本当にありがとう!!よく頑張ってくれたね!」

 二人の声を聞いた小夜は小さく微笑み、糸が切れたようにその場で倒れる。同時に目の前で召喚獣が消えてしまい、魔獣が彼女に襲い掛かる。
 その直前、


 “暗黒雷閃《ブラック・ライトニング》”
 “焔嵐渦《えんらんか》”


 「ギャアアアアアアアア......ッ」

 小夜の背後から強力な二つの複合魔法が魔獣を跡形残らず消し去った。

 「あ、なたたちは......」

 「よく頑張ったな!センたちを支えてくれたこと礼を言うぞ」
 「十分だ。後は俺たちに任せてくれ」


 ネルギガルド討伐戦に参加していたギルスとキシリトが、この戦場に駆けつけてきた。

 「二人がいるってことは...もうそっちは終わったのね!」
 「ああ。アレンの復讐は達成された。後は、こいつらと最後の魔人族を片付けて終いだ!」
 「待たせてすまなかったなガーデル、サヤ。そしてセンとルマンドも!一気にケリをつけるぞ!!」

 そこから四人の鬼による猛攻撃が始まる。

 「合わせるぞギルス!!」
 「ああいくぜ...!」 
 ““魔力二重巨光線にじゅうきょこうせん””

 二人の魔力光線を融合させて放つ合わせ技。巨大な魔力光線がモンストールたちを一瞬で炭に変える。

 ““幻悪夢《げんあくむ》””
 
 セン姉妹による大規模の幻術で敵全ての行動を不能にさせる。

 “阿修羅武拳《あしゅらぶけん》”
 “阿修羅武蹴《あしゅらぶしゅう》”

 動けなくなったモンストールたちを二人が片っ端から強力な武撃を放って粉砕していく。


 そしてベロニカが率いてきたモンストールや召喚された魔獣は、全て討伐された。


 「後は...一人だけ」






 
 「この私が、鬼族如きの超能力と互角...いや劣ってるですって!?認めるかあああああああっ!!」
 「私の“神通力”はこの時の為にあった!ここで勝たなきゃ意味が無い!!」

 小夜たちから離れた場所では、ルマンドの「神通力」とベロニカの「超能力」が激突していた。互いに全力をぶつけている為二人の周辺は更地と化している。


 超能力 “星潰《ほしつぶし》”
 神通力 “神波渦《かんぱか》”


 ベロニカが重力で出来た巨大な魔力の塊を、ルマンドが念力で巨大な波動の渦を、それぞれ全力でぶつける。

 「「あああああああああああっ!!」

 数秒間拮抗した後、僅かにルマンドの念力がベロニカを上回って押し勝った。

 「ぐ、ううう...!ネルギガルドが、負けた...。私の駒たちも全滅している...」

 少し前から別の戦場で戦っていた魔人族ネルギガルドが死亡したことを察知していた。さらには自分の駒であるモンストールと召喚魔獣まで尽きたことも途中で知った。
 自分が追い詰められていることを自覚したベロニカはやや狂乱し始めている。世界の頂点に位置するはずの魔人族がこんな状況に陥っていることが許せないでいる。
 彼女のプライドが、この状況を許すわけにはいかなかった。


 「私は...この世界を掌握して、私好みの世界に変えようと...!
 ここで果ててたまる、か......っ!!」

 超能力奥義 “滅び潰し全てを消し去る魔超念力サイキネ・マキシマムストーム
 
 ベロニカの全てを懸けた最後の超能力が発動する。黒く禍々しい、全てを闇に引き摺りこんで消し去るような念力の巨大な波が全てを呑み込もうとする。


 (アレンたちが勝って生き残っている。だったら私たちも生き残らないと、ハッピーエンドにならないよね!絶対に倒して、皆とまた笑い合う為に、
 負けられない!!)


 神通力 “神鬼《かみき》”


 そしてルマンドも、自分と仲間たちの未来の為に、命を懸けて超能力を発動する。


 「はああああああああああああっ!!!」


 ベロニカの念力の波が穿たれ大きな穴が生じる。あっという間に彼女の最後の念力は破られた。


 「こ、れは...空間を捻じり切る超念力......私の力を、超えて......」


 ベロニカは「魔力防障壁」を展開して「神通力」を防ぐが、自分の全てを打ち破られてしまい、それによって戦意を失くしつつある彼女に、ルマンドの最強の「神通力」を防ぐ術はなかった。


 「私の野望は叶わず、か......。ザイ―ト様、私はまだ.........」


 ルマンドの「神通力」に呑まれていくベロニカは「限定進化」を解き、意識を闇に沈めて墜ちていった。

 「や......った。私たちの未来を、守れた......」

 ベロニカが完全に戦闘不能になったことを確信したルマンドは、魔石強化と「限定進化」を全て解いて、疲労困憊の状態になりながらも鬼族を護ったこと、自分たちの復讐が達成されたことを喜んだ。
 疲労のあまりに地面に倒れようとしたその時、センが駆けつけてルマンドを抱きとめた。

  「ルマンドっ!やったね...!倒したね!勝ったね...!!」
 「うん、私たちの勝ちだよ。鬼族を皆守った。死んだ仲間たちの仇も...討てたよ!!」


 二人抱き合って涙流しながら歓喜の声を上げる。キシリトとギルスに支えられながら歩いている小夜もガーデルも、勝利したことを喜び、感涙していた。

 「縁佳ちゃん、美紀ちゃん、美羽先生...。私も少しは成長して前に進められたよ。私も誰かを支えて守れるくらいに強くなれました...!」

 
 遠くでまだ戦っているであろう縁佳と死別した同級生と先生を想って涙ぐむ小夜を、ガーデルがよしよしと優しく撫でる。
 




 「セン、ガーデル、ルマンド、そしてサヤも...。ありがとう、魔人族から皆を守ってくれて...!」
 「アレンも、私たちの仇を討ってくれてありがとう......ってその腕、大丈夫!?」

 戦いが終わって数十分後、ネルギガルドを討ったアレンたちが小夜たちのところへ合流した。アレンとルマンドが互いに労い合い、この戦いで生き残れたことを喜び合った。

 (途中凄い戦気を感じた。あれはルマンドのものだった。魔人族を超えていたレベルだった。私より強い。ルマンドはやっぱり凄い...)

 ルマンドの途轍もない戦気を今も感じ取っているアレンは、彼女を心の中で称える。族長になるには彼女を超えないといけないと、アレンは一人新たな目標を立てた。

 その後、非戦闘員の鬼族と人族に治療を施してもらい、ネルギガルドとの戦いで戦死した倭に黙とうを奉げたところで、遠くから新たな戦気を感知した。
 戦気の正体は皇雅のもの。何か危機を感じ取ったアレンは、すぐに彼がいるサント王国へ向うと言ってカミラの屋敷から出ようとする。

 「アレンさん!」

 そこへ小夜が彼女を呼び止める。強い意思を感じ取ったアレンは小夜に目を向ける。小夜はアレンに頭を下げて、

 「縁佳ちゃんやクインさんもどうかよろしく頼みます...!」
 「うん......必ず誰も失わせない。任せて!」

 小夜に力強く頷いて、アレンは最後の戦場へ颯爽と駆けて行った。




 故ハーベスタン王国にて魔人族序列3位ベロニカ陥落。および序列5位ネルギガルド討伐。


 なおベロニカは後に降伏宣言をして鬼族の捕虜となった――。







*これで戦闘回は全て終わり。
次のストーリーが最後のサイドストーリーになります(一応たぶん)。

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