ゾンビになって生き返ったので 復讐してやる

カイガ

サイドストーリー 「鬼に軍略」(中編)


 災害レベルのモンストールらを先頭に100体規模の化け物の大群が、地底から現れてオリバー大陸を闊歩していく。途中大陸内にいる数十の魔物と合流して、人族や魔族らにとっては悪夢のような光景である。
 それらの大群が目指す先は特に特定はしていない。それらは魔人族軍の自由軍のようなもので、魔人族らがまだ侵攻していない地を侵略せよという命令のままに進行している。
 現在魔人族に襲われていない地はオリバー大陸の西部、デルス大陸の南部、ベーサ大陸の東部と中央部、その他無人島いくつか。
 化け物の大群は他にも二つ程別れて各地へ侵攻している。オリバー大陸にいる大群は今、故ハーベスタン王国を攻めようとしている。そこにまだ人族や魔族が潜んでいるという情報が魔人族から知らされていて、そこを完全に滅ぼすよう命じられている。
 そしてそこに残存している戦力は取るに足らない、小規模の群を寄越せば簡単に滅ぼせるだろうと高を括った魔人族は、その地に魔人族を寄越さなかった。せいぜいGランクの魔物とモンストールが30体程度、それらを統率させる係りのSランクモンストールが3体の戦力だ。
 故に化け物の大群は、

 「「“羅刹撃《らせつげき》”」」
 「「「ボギェラッ!?」」」

 “焔雷《ほむらいかづち》”
 「「「ベグァアアァア!!」」」

 “闇夜の大嵐ブラック・テンペスト
 「「「ゲュヤア”ア”ア”ア”ア”ア”......ッ!!」」」

 5人程の鬼族の精鋭戦士たちによって半壊させられていた――。



 「ハッ!5年以上前の俺らだと思うな!?魔人族らとも戦うことを想定して死ぬほど鍛錬してきた俺らの戦力はお前ら烏合の衆なんか雑魚にしか見えねー!!」
 「よくも、よくも...私たちの里を...!!ここに来たモンストールども、全部ぶっ殺す!!」
 「これはただの防衛戦じゃない、私たちのお前らに対する“復讐”だっ!!」


 聞こえる...。まぁまぁ離れていても皆の頼りになる声が聞こえる。
 前衛にいるスーロンが冷静に怒りながら無慈悲に武を振るって敵を屠り、
 同じく前衛のソーンが怒りで顔を赤くさせながら、その手足を化け物たちの血で赤く染めながら次々と敵を狩っていき、
 中衛にいるギルスとキシリトが前衛が戦いやすくなるよう絶妙な距離を取って絶妙なタイミングで強力な魔法を放って敵を消していく。

 皆大丈夫。それぞれ一人でも対処できるのにああやって皆が一緒にいれば全然問題無い。だから私は前へ行ける。誰かの気を遣わずに遠慮なくガンガン進んで行ける。無理はしていない。敵はそれだけ弱いって分かってるから。私たちの軍略家がオーケーを出してくれたからこうして私だけ攻めまくっている。こんな奴ら、「限定進化」の状態からさらに力を引き出すことなく屠れる!!

 雷鎧装備 “爆ぜり狂う流星雷拳エレク・マルチメテオ

 軽く上へ跳んで、雷で私自身を加速させて急降下しながら、雷速の拳の流星群を振り落としていく!

 敵数十体があっという間に潰れて死んでいく。その中にはGランクっぽいモンストールもいた。


 「...お前たちには慈悲の欠片も寄越さない。復讐だから。私たちは復讐鬼としてお前たちを殺していく」


 私だけじゃない。スーロンたちも皆、怒り猛っている。復讐心を持って戦っている。お前たちがいなければ鬼族の里は今も存在していた。私たちの平穏を奪った罪は重い、死んで償え。
 コウガの言う通り、これは復讐。絶対にこいつらを赦してはいけない。里を滅ぼしておいてなおも私たちの居場所を奪おうとするこいつらは...悪だ、この世から排除すべき害だ...!


 「はあああああああああっ!!」


 攻める。苛烈に攻めていく。余力は十分に残して。奥にいるデカい力を持った敵たちに備えて温存しながら、しかし全力で敵を殲滅していく。
 殴り、裂いて、突き、刺して、潰して...あらゆる手段を以て敵をたくさん殺していく。
 ふと上を見やると飛行系の敵が数十里へ攻め入っていた。私たちを素通りして拠点地を先に潰そうという魂胆らしいたぶん知能が高い魔物がそう判断して他の奴らを率いたんだろう。
 空を飛んで素通りしていく奴らを、私もスーロンたちも全く相手にしなかった。する必要が無いと分かってるからだ。


 「軍略家《カミラ》は、お前たちの浅い戦略なんかお見通し。全部読まれてるよ」


 「「“咆哮”」」


 化け物たちが領地にさしかかったその時、二人の“咆哮”をモロにくらってスタン状態になる。

 「そんな隙だらけだと」
 「色々術がかけ放題だね」

 そして「咆哮」を放った二人...センとガーデルが続いて空中でスタンにあっている化け物たちに“術”をかけた。


 「「“幻夢《げんむ》”」」

 (((((――ビクッ)))))


 二人がかけた“術”...「幻術」にかかった空中の化け物たちは瞬間、目から光を失い脱力した状態になる。あいつらは今、幻術でつくらされた自分の夢の世界にいる。
 その世界で新しい敵と戦う夢。その世界で地獄の苦しみを体験する拷問を受ける夢。その世界で何もかも自分の思い通りに事が進んで満悦する夢。
 センとガーデルはそうやって敵を色んな夢の世界へ誘い現実での行動を奪うことができる。故に“堕鬼”。
 当然私たちから見た化け物たちは隙だらけ。狙い放題だ。
 でも止めを刺すのは前衛と中衛《わたしたち》じゃない...彼女がやってくれる。

 「全部消し去ってあげる......」

 魔力の質が鬼族トップのルマンドによる魔法で、空中にいる化け物たちを全て殺し尽くした。

 「!あ......まだ残っている」

 よく見るとGランクモンストールらしき生物が正気を戻して傷を負いながらもルマンドに迫っていた。

 「でも...大丈夫だよね」

 
 “神通力《じんつうりき》”


 「ガッ!?――――ペラ......ァ」

 モンストールがルマンドに接近する直前、モンストールが見えない何かに全身が強く捻じられて変形していく。やがて渦状に潰れていき盛大に血肉をまき散らして消えて果てた。
 “神通力”...言い換えると超能力と言われている神鬼種にしか宿らない特殊技能。魔法の類ではあるけど属性魔法とは別物らしい。
 それはあらゆる物体を自在に浮かせて操ることができ、さっきみたいにあらゆる物体を際限無く捻じって潰して破壊することができ、何か波動のようなもので攻撃ができるというもの。
 魔力に比例して威力が上がるらしく、魔力が非常に高いルマンドと相性ピッタリの技能。強い。本当に強い。しかも今日は調子が良いからGランクモンストールなんかも瞬殺できるくらいに強い!

 前も後ろも私たちは強い、無敵だ。こんな化け物だけなら大丈夫。
 気が付けば向かってくる敵がほとんどいなくなり、残すのはSランクモンストールらしき化け物が3体、私たちを睨んでいる。あいつらを全部狩ればこの戦いが終わる...!
 私のところにスーロンとソーンが来て、次いでギルスとキシリトも合流して、最後にセンたちも来た。後衛三人の後ろにはカミラもいる。今からの戦いには彼女が不可欠だから来てもらった。
 
 「カミラ、そこからでも見える?」
 「ええ...バッチリです。この戦い、私たちが勝ちました...!」

 スーロンの問いにカミラは「勝てる」ではなく「勝った」という強気過ぎる勝利宣言で答える。それを聞いた私たち全員が愉快気に笑う。

 「カミラが言うなら間違い無いね。私たちはもう《《勝った》》。あとは、実践するだけ」


 そう言って抑えていた力をここで解放する。皆も一気に全てを解放する。私たちの戦気が爆発的に増加して、今ならかつて滅ぼした獣人族なんかも数分で全滅できそうなくらいに強化した。
 私も、半年前だったらSランクモンストールには一人では倒し切れなかったレベルだった。けど今は違う。1体なら私一人で確実に仕留められる...!
 でも今回は皆と協力して奴らを殺す。鬼族の強さの真髄をここで発揮する...!

 敵は三体。一体は蝶の様な羽を生やして胴体からは尖った触手を生やした化け物。
 一体は草食猛獣の角を持ち6本の腕を生やした二足の牛のような化け物。
 一体は強暴そうな顎を持ち頭には鋭く頑丈そうな角を生やし、翼竜のような細長くもとんでもない筋力を持つ爪を持った、色々混ざった恐竜の化け物。
 
 「やっぱりSランクモンストールって、何か生物としての範疇を完全に逸脱してるよな。しかも見た目が生理的に無理。あんな奴らに里を滅ぼされたと思うと...!」
 「そうね。あなたのその憎悪を今ここで吐き出しなさい。うってつけの相手が目の前にいるから」

 各々憎悪を3体のモンストールに向けて戦闘態勢に入る。それを察したモンストールたちもそれぞれ触手や角などを武器にして殺気を放ってくる。

 「じゃあカミラ、お願い」
 「はい―――“叡智《えいち》の眼” “未来完全予測”」

 私の呼びかけにカミラは頷くと、彼女にしかない彼女だからこそ発揮される特殊技能を二つ発動する。
 カミラは青く輝いた目を敵三体に向けて見据える。数秒経つと一息ついて静かに宣言する。
 
 「敵の“全て”を把握しました。いいですか、まずあの羽を生やしたモンストールは――」

 敵の「全て」を読み取ったカミラは、私たちに早口で敵の情報を分かりやすく説明する。あいつの属性はああだ、こういう戦い方をする、こんな立ち回りをする、そして弱点はこれとこれ......全部しっかり教えてもらった。
 私たちから攻めてこないと分かったモンストールたちが攻撃するかと思ったがしてこなかった。否、攻撃できないどころか動けないでいた。
 
 「ごめんね、今最後の作戦を伝達してるところだから」
 「自分らにとって都合良い夢でも見ながら待っててね」

 センとガーデルによる幻術で現実での行動を完全に阻害されている。彼女たちの幻術に嵌まるきっかけは、咆哮による音と彼女たちの視線にあたる。敵はほぼ確実に彼女たちの術に嵌まることになっている。

 「―――以上が敵の情報です。では、まずギルスさんとソーンさんで牛型のモンストールを。後からセンさんがあれに止めを。
 羽と触手を持つモンストールはルマンドさんとガーデルさんで。キシリトさんも後半から突っ込んで下さい。
 そして残りは、アレンとスーロンさん二人でお願いします!」

 カミラの指示を聞き終えた私たちは一斉に動く。同時にモンストールどもも正気に戻る。全員自力で幻術を破ったみたい。レベルが高い敵だとこういうこともあるってセンたちから聞いてた。
 それに、ちょうど幻術が解けるだろうってことも、予測されてたから問題無い...!
 

 さあ 勝利を確立させよう...!!


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