ゾンビになって生き返ったので 復讐してやる
サイドストーリー 「ザイ―トのウォーミングアップ」
「ん~~。地上へ出るのは半年ぶりかぁ。陽の光が眩しいなおい」
名も無き孤島で、男...魔人族序列1位ザイ―トは目を細めて一人呟く。2mはある体躯を伸ばして体に活を入れて解していく。
「さて...ここにいては下にいるあいつらに気付かれるなぁ。悪いが少し勝手させてもらうぞ」
本来ならばザイ―トはこの孤島の地下深く...地底にある魔人族の本拠地にて待機するはずが、彼の勝手で無断で地上に抜け出していることになる。
「まぁ“存在遮断”を発動している以上いずれはベロニカにバレてしまうのだろうが...。後で適当に詫びを入れよう。じゃあ......ウォーミングアップと行こうか」
能天気にそう独り言を言ってからザイ―トは島を飛び発って、音速の飛行をして大陸へ移動して侵攻し始める。移動してすぐに着いたのはベーサ大陸......人族の主戦力が多く集っていると言われているサント王国がある大陸だ。その国を滅ぼせば人族は簡単に瓦解する。ザイ―トが今その国に侵攻すれば、人族は敗北は免れないだろう。
しかしザイ―トはサント王国に目を向けてはいなかった。この大陸には人族の王国がもう一つ存在している。ザイ―トはその国を見据えて悪意ある笑みを湛える。
「“ウォーミングアップ”で来たんだ...。なら今の俺の相手に相応しいのは前座レベルの勢力だろ?じゃあ、行こうか...」
そして魔人族のトップは世界を相手に静かに牙を向ける...。
少し時は遡って...ベーサ大陸北部に位置するイード王国では既に侵略してきたモンストール群との戦闘を始めていた。モンストールと魔物の群れ総勢1万体はいるが、その比率は下位レベルのがほとんどであり、上位はそこそこの数、災害レベルは1体いるかどうかの程度だった。その程度の戦力でこの国は滅ぼせると踏んだ魔人族の侮りに憤る者、大した戦力を投入されずに済んで安堵する者の数はまばらだった。その為これから戦う者全員の士気・戦意は十分だった。
イード王国の戦力は、自国の兵士団全員に加えサント王国の兵士団もいくつか合流させており、更には各国から有志で集めた冒険者も参加してもらっている。莫大な報酬につられた欲に正直な者たちもいれば、この世界の為にと正義感を燃やす者たち、自身の力を誇示すべく参加した者たちもいて戦争参加の動機はそれぞれだ。
だが彼らの実力は本物であり、中には災害レベルの敵と数度相手にした猛者もいた。
「我が国には少々もったいないくらいの戦力投入ではと思われたが、かの主戦力がここに回してもらえなかったことを加味すれば、これは納得して良いと言えるな...」
イード王国国王であるルイム・イードは独り言を呟く。世界中から集められた猛者たちと自国の兵士団と友好国の兵士団。ルイムにとっては頼もしい布陣であった。
「それに...こちらに侵攻してきた敵は、災害レベルの奴はあまりいないとのこと...。ならばここでの戦を早々に終わらせて、サントへ戦力を返してやらねばな」
先程の報告で、サントに魔人族が現れたとのこと。世界を脅かす戦力を持つ化け物が相手ならいくら戦力を寄越しても過剰ではないはずだ...。
「よし...早くこの戦いを終わらせるぞ...!」
イード王国からやや離れた平原・荒れ地にて、人族連合国軍とモンストール・魔物群との激しい戦闘が繰り広げられている。
「――ふっ!!」
イード王国兵士団長のハンスは、順調に敵の数を減らしていく。彼の実力は単独でBランクまでの敵を討伐できるレベルだ。故に敵を一体一体、単独で確実に討伐していく。
彼の武器は大剣。常人ならば持ち上げるのがやっとの重量だが、彼の膂力ならば軽々と振り回せる。力だけではなく技量もトップレベルだ。剣裁き・小回りも利いており、さらには魔力を纏わせることも可能にしている。イード王国では彼がいちばん強い兵士であることは誰もが周知している。
しかしその彼に比肩する実力を持つ者が、この戦場にいた。
「ぉおおおおお!!」
サント王国兵士団長のコザ。彼も世界各国で名だたる兵士である。剣の腕はもちろん、砲術にも長けている。魔力を込めた砲撃が彼の強みであり、上位レベルの敵はその技で容易く屠られていく。
ハンスとコザがいることで兵士団の士気は常に最高潮に達しており、彼らの戦力も底上げされていた。
「信頼されているなっ!!俺とあんたの活躍が、皆の士気・戦意を保つ要因となっている。俺たちの存在が、皆を強くさせているっ!!」
「違いないな、その分プレッシャーが重いが。それで皆が奮戦してくれるのならこの兵士の身、いくらでも使わせてくれよう!!」
コザとハンスはお互いそんなことを言いながらさらに目の前の敵を屠っていく。そして二人の雄姿を目にした兵士たちがさらに勢いづいていく。今やこの軍相手に上位レベルの群れなど相手にならないくらいであった。
「はっはーぁ!兵士どもの勢いがスゲーな。主にあの二人の活躍のお陰か。はっ、あいつらばかりやらせてたら俺の活躍が減るってもんだ!負けてられねーな!歴戦の冒険者を嘗めるなっ!!」
そして二人の進撃に触発された冒険者たちも負けじと奮戦していく。彼らの活躍もまた味方にプラス効果をもたらしている。
もはや誰一人として戦意を喪失する者などいない。
「よぉおし!!さぁさぁこのまま俺が全部敵を倒してや―――」
.........はずだった。
――――ドパンッ!!
「ほう?粋がってた割には随分軟弱な奴だったな。つまらん」
ついさっき勇んでいた猛者が、何の前触れもなしに首無し死体と化してしまう。その突然で考えられない展開に誰もが固まってしまう。快進撃を続けていた二人の兵士団長も同様だった。今殺された冒険者はAランクの上位の猛者だった。それが一瞬で殺されたのだから無理もない。
「ああ?何だぁ?一人殺されたくらいで動揺しやがって...。しっかりしろよ。お仲間の仇は今隙だらけだぞ?
俺は魔人族のザイ―トだ」
冒険者を瞬殺した敵...ザイ―トは人族らに挑発と自己紹介をする。直後兵士らと冒険者ら全員が戦慄する。
「魔人族...!?まさか、この男が!?」
兵士・冒険者ら数十人がザイ―トを囲んで武器を構える。そして合図無しに一斉に攻撃魔法を放つ。
「何だ、やればできるじゃないか。掛け声無しに一斉攻撃は中々だ。ただ......威力が足らな過ぎる―――」
スパパパパパパパ.........ッ
高レベルの攻撃魔法を大量にくらったにも関わらず平然と...傷一つついていないザイ―トは、兵士・冒険者たちの目に映すことなく駆けて...彼らの首や胴体を斬り飛ばした...!
「歴戦の冒険者たちまでもが...一瞬で......っ」
ただの一撃で多くの兵士と冒険者が屍と化した光景を、誰もが愕然とした様子で見ていた。
「う~む。この程度のレベルなのか、今の人族の戦力は。《《あの少年》》みたいな戦力を持つ奴はそういないか。まぁいい......準備運動がてら、この世界の侵略を進めて行こうか――」
そして...悪魔の侵攻は、瞬く間にイード王国の軍を壊滅させた。
巨象が蟻の大群を踏み潰すが如く、誰もが為す術も無くザイ―トの手で彼らの命は無惨に散らされてしまう。
「ぞ......ん”な”.........っ」
「お前は、少々出来る方だったな。災害レベルの同胞数体は相手に出来るくらいだ。まぁ俺にとってはゴミだったが」
コザもまた、己の持てる全てをぶつけるも何一つ通用せず、腹を掻っ捌かれてしまい打ち捨てられる。
(こんな、あっさり殺されるのか俺は...。これが魔人族......成程、“理不尽”そのものだなコレは。クィンから忠告されていたのに、この様だ......情けない)
コザの腹からは自身の臓器がこぼれ出ている。血が噴き出て焼けるような激痛が襲うがやがてそれすらも感じなくなる。体が震えるくらい寒さを覚え意識が...否、生命が終わろうとしている。
(クィン......済まない。最後まで不甲斐ない兵士団長だった俺を許せ...。サント王国を頼む...!
ガビル様......必ず人族に勝利を......!!)
声を出すことさえままならなかったコザは、心の中でそう叫んで、息絶えた...。
「く...そ...がふっ...!」
「ふむ、この軍の主戦力は今殺した奴とお前くらいか。ならここはもう良いか。同胞ども、あとは適当に蹂躙しろ」
ハンスを掴んだままのザイ―トは周りのモンストールに指示を出して移動する。しばらくして戦場から何人もの苦悶と絶望に満ちた絶叫が響いたが、ザイ―トはそれらに目もくれなかった。
「お”ま、え”......俺を連れで、何を......!?」
「ちょっとした余興だ。お前ら人族を絶望させる為のな」
苦痛に悶えながら問うハンスにザイ―トは残虐性を孕んだ笑みを見せてそう答える。彼の答えの意味は、彼がたどり着いた地を見てすぐに分かり、ハンスは顔を真っ青にさせた。
「お、俺たちの...国っ」
「くっくっく...。お前がこの王国の中でいちばん強いと聞いたぞ?そのお前のこんな有り様を見せれば、この王国の民どもはどう思うだろうなぁ?」
ザイ―トは戦場から王国内へ侵攻して、国を破壊し始める。街や村を無差別に蹂躙していき、ハンスを見せつけて叫ぶ。
「この王国でいちばん強い兵士はこの有様だ!魔人族相手にお前らゴミカス戦力しかない人族どもに敵うわけがない!お前らは滅ぶんだよ」
ハンスのことを知らない国民はいない。だからこそハンスの痛ましい姿を目にした国民は皆絶望した。国王も同様だ。
「そんな......ハンスが...。この国の兵士団が、負けた...!?」
「ルイム様......申し訳、ありま―――」
「用済みだ」
ザシュ...と、無情にハンズを鉤爪で切り裂いて彼の命を消し去った...。
「あ...あぁ......っ」
「さてここにいるのはゴミ以下のカスばかりか。運動がてら消し飛ばそうか...。人族は、滅ぶべきだ――」
「ぐ......ぅおおおおおおおおおおおおっ」
この日、イード王国は一人の魔人によって滅ぼされた。誰もが恐怖と絶望の渦に巻き込まれて死んでいった。ルイムもその一人。
「力も無い奴が国王を名乗るか。魔族にとっては考えられないな。上に立つ者こそが強くなくてどうするのやら」
「お”......のれ”.........っ」
四肢を斬り落とされ胴体に風穴を空けられたルイムは、痛みと悔しさ、絶望で顔を歪ませて苦し紛れに毒吐くことしかできないまま、絶命した...。
「はぁ。少しは体が温まったか――――ん?」
王国を滅ぼして一息ついたところでザイ―トは自身の拠点地に異物...半年前に消し損ねた少年・甲斐田皇雅が紛れ込んでいることにようやく気付いて驚く。
そして...必ず消すと決めていたあの少年と決着をつけるべく、ザイ―トは飛び去って行った。
《ククク、もっとだ。もっと俺を愉しませろ。こんなつまらない蹂躙よりもお前たちが血を流して全力をぶつけ合う死闘が見たいのだ!さぁ......行けザイ―トよ。俺をもっと愉しませろ......っ!!》
自分の内なる異物の言葉に、ザイ―トが気付くことはなかった―――
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