ゾンビになって生き返ったので 復讐してやる

カイガ

143話「5人で」


 時は少し遡る。
 
 爆音とともに舞い戻ってきたヴェルド(“限定進化”でいる。鋭い角と闇色の翼が生えて赤黒い鱗で覆われた姿になってる)を見据えて俺とクィンは共に構える。


ヴェルド 110才 魔人族 レベル750
職業 ―
体力 30769000
攻撃 80081000
防御 53010000
魔力 100000000
魔防 50230000
速さ 38790000
固有技能 剣聖 槍術皆伝 怪力 瞬神速 瘴気強化 気配感知 存在遮断 魔法弱体化鎧 魔力防障壁 全属性魔法レベルⅩ 滅魔法レベルⅩ 魔力光線全属性使用可 武器錬成 高速再生 限定進化 


 「クィン。あいつの能力値は俺より上だ。だが心配するな。それでも俺たちの方が強い。何でか分かるか?」
 「それは...あなたには無限に強化できる固有技能があるから、でしょうか?」
 「まぁそれもある。だけどその強化にも限度がある。そこにお前が加わればどうなる?つまりそういうこと。俺とあいつとが拮抗すれば、クィンがいる限り絶対に敗けることはねぇ。だから俺たちの方が強い。」
 「コウガさん...。えーと、凄く嬉しい言葉なのですが、結局何が言いたいのでしょうか?」
 「......要するに、臆するな。俺の後に続け」
 「はい...!ありがとうございます!!」

 とりあえずクィンの震えは止まったな。代わりに頬を赤らめているがまぁいいか。それにしても恐怖を抱くのも無理ないか。あのヤバい存在感を放つ奴を前にすれば、な。
 奴のステータスを見たことではっきりした。不死の俺を殺し得る属性の正体を。

 “滅魔法” 名前からしてヤバいな...。不死をも滅ぼし得る属性。聖魔法と対を為す闇魔法のさらなる上位互換属性か。その属性を剣に宿して俺を殺そうとした。
 今の俺でも、あの剣で斬られたらきっと滅んで消えるのだろう。要注意だ。

 「さて...“聖なる魔力防障壁”“聖属性付与”“見切り付与”“複眼付与”“怪力付与”“危機感知付与”“自動高速再生一部付与”“超生命体力付与”」

 瞬時にクィンに俺の固有技能を付与させた。これで、クィンもヴェルドとまともに戦えるようになる。


 「これは...凄い、魔石を使わない状態で一気に能力値が跳ね上がりました!コウガさん...大丈夫なのですか?」
 「問題無い。ゾンビにはゾンビなりの戦い方がある。俺には脳を酷使することで無限に強くできる。さらに、俺たち二人だけじゃないぜ、この戦いは」

 水晶玉をチラつかせてそう答える。

 「そう、でしたね。コウガさん...来るみたいです」
 「ああ。じゃあ、行ってくる」
 ドッッッッ―

 そう言い残して、一瞬でヴェルドに肉薄する。
 (60000%)

 
 「まだ挨拶がまだだろうが、カイダコウガ。 “滅獄炎槍めつごくえんそう”」
 「それならもう済んだだろうがお互い。テメーが先で俺がさっき返してやっただろうが。 “聖絶拳”」

 ゴウっと闇色の炎の槍が飛び出してきたと同時に俺の方からも聖属性を帯びた拳をぶつける!

 ガッッッッッッ!キィンンンンンンン―!!
 互角の威力をぶつけ合って、互いに飛び退く。滅属性には聖属性が効く。逆もその然りのようだが。ただ、俺の場合それだけでは終わらなかった。

 ジュウウウウウウウ...!「やっぱり体に聖属性を直接付与するのはダメか...」

 左手が痛々しく爛れていた。すぐに再生して治ったが、下手すれば攻撃途中で拳や足が溶けて消えてしまうだろうな。
 さっきの奇襲で槍を投げ飛ばした時も、投げた方の手が少し爛れていた。もしかすると、が当たってしまったな...。

 (ゾンビに聖魔法使うのは滑稽で不相応ってことか。今の俺はあいつらに近い種族。相性最悪の属性を纏うのは危険、か)

 体に付与するのはほぼ不可能、だが魔法で放つのはノーリスクらしい。仮に付与したとしても“回復”ですぐ治せるのだから気にはしないが。使いどころに気を付ける必要はあるな...。


 「その聖なる光...貴様も使えるのか。俺の滅属性と対を為す属性を」
 「まあな、完璧じゃないが。あの時俺を斬ろうとした剣に、その属性が付与されていたんだな?そいつは不死の俺をも滅ぼし得る力ってか」
 「その通りだ。この属性がある以上、貴様を殺せることができる。ゾンビなどとイレギュラーな種族が誕生したようだが関係無い。全てを滅ぼすこの剣と魔法で、我が父上の仇...カイダコウガ、貴様を殺す!!」
 「どうやらザイ―トを殺した俺への復讐の為に挑みに来たようだが、俺もテメーを復讐する為にここへ戻って来た!テメーがあの時振り下ろした剣から俺を庇って守ってくれたあの人の仇を討ちにきた!」
 「ならばお互い復讐の為に殺し合うぞ!復讐心・憎しみが強い者が、勝者だっっ!!」


 ヴェルドの怒りの咆哮とともに俺たちは再び駆けて、両者激突した。
 お互い大切な人を殺された。それぞれ目の前にいる者によって。俺たちが殺し合う理由はそれだけで十分だ。
 世界の存亡がどうとか、今そんなことなど毛ほども頭に無い。ただ己の憎しみをぶつけて、恨みを晴らし、己を満足させる為だけに戦っている。


 「「死・ねえええええええええええええええええええええええ!!!」」

 ガギィィィィィィィィィィィィィ!!
 
 まぁ戦う理由なんてそんなものの為でも良いだろ。復讐の為、誰かを護る為、ただ力を存分に発散させたい等...。そういうので良いんだよ!!

 “滅雷刃らいじん
 “聖風刃拳ふうじんけん

 雷の刃と聖属性が付与された風の刃を纏った拳が激突、何度もぶつけ合う。火花が散って周囲に雷と風の刃が飛び散り地面が切り刻まれていく。
 十数度斬り合ってから俺は突然左へ移動した。直後その横を、氷が入った水の大砲が超高速でとんでいき、ヴェルドを襲った。

 「ふん...!」

 ズパァと水の大砲を両断するヴェルドだが、そうなることを予測していた俺は既に奴の懐に入り、“連繋稼働”で全身の加速と力を右足へパスしていく。

 「吹っ飛べ“蹴速《けはや》”」
 「な...ぐお!?」

 マッハ数十で繰り出した右足刀蹴りが、ヴェルドの顎を捉えて砕き、はるか上空へ吹き飛ばした。聖属性付与させていたため、右足が溶けかかっているが、“回復”ですぐ元通り。

 “滅嵐獄雷テンペスト
 数コンマ後、上空から闇色の風の渦と雷が降り注いだ。が―

 「その行動は予測していた。“聖魔力結界”」
 バリバリバリ、ババババババババババ...!!

 ジャストタイミングで聖魔法を込めた障壁をドーム状に出現させて、俺と、先程“水砲”を放ったクィンを囲み、魔法を防いだ。

 「カイダはともかく...あの女までもが反応できただと!?隙はつくらなかったはずだ...!」

 ヴェルドが驚愕に目を見開く。その様を見て俺は不敵に笑ってみせる。
 
 「テメーの行動は全て予測できるぜ?テメーの攻撃はくらわねー。俺も、クィンもだ」
 「ほざけ、図に乗るな!」
 「それはそうと、さっきはナイスタイミングだったぞクィン。予測通りに撃ってくれたな」
 「はい!本当に、カミラさんの予測通りでしたね」
 「というわけで引き続き頼むな...カミラ」

 『はい!彼の行動は全て私が予測し、的確な対処行動を出してみせます!!』


 まぁ一連の流れはカミラの「未来完全予測」のお陰だ。
 俺の目には、ミーシャが作り出した「遠見」が付与されたコンタクトレンズがつけられている。それを通して水晶玉とリンクさせてヴェルドの姿が見えるようにしている。
 さらにカミラには「複眼」を付与してあるから、ヴェルドの動きも俺の移動速度にもついていけている。俺の目を与えたようなものだから見えるのも当然だ。
 そうすることで常にヴェルドの姿を視認することが可能、奴の未来を予測できる。
 奴一人に固有技能を発動させているから、魔法を放つタイミング・剣筋・移動するタイミングなど全て筒抜けだ。ただ思考は現地に行かなければ予測できないらしく、そこは諦めた。
 そしてクィンには水晶玉を託してある。戦う直前に俺はクィンに水晶玉を渡しておいた。そうすることでカミラの指示をいち早くキャッチできるからだ。俺?耳が良いからな。離れていても聞こえるってわけだ!

 「クィン、お前の剣聖が必要だ。俺とカミラで隙をつくるから、奴を斬れ」
 「必ずやり遂げます!!」
 「よし、さぁこっからは“ずっと俺らのターン”展開だ!力の差を思い知れ!!」




 
 ――そして現在。
 ヴェルドの剣の動き、魔法を撃つタイミングとその属性、俺はどう動いたら良いか、クィンの攻撃タイミングなど全てが予測され、その通りになった。
 俺自身とクィンの武力・カミラの未来予測・ミーシャによる「遠見」。これだけ揃って敗けることなどあるわけない。もう勝つ気しかしない。

 「く...ぐぅ!」
 「もうシメーか?出し惜しみ無しでそんなものか?」

 ヴェルドの攻撃を悉く回避して防いで、こっちの攻撃だけが通り...こちら側が有利だ。
 最後の一撃はクィンの聖剣だ。半年間必死に鍛錬しただけあって、見事な一閃だった。
 今俺は、膝を着いて肩から大量に血を流して荒く呼吸をしているヴェルドを冷たい眼で見下している。能力値はこいつが上だ。だがそれで実力が完全に上だということ、勝負に勝つことにはならない。
 それを俺は身をもって学び理解している。あの先生と同級生、そして先輩から教わった。


 「―――!これは...!」

 さっさと殺そうと思った刹那、気配が二つ消えたことに気付いた。一人は禍々しい邪悪な気配...ネルギガルドだ。アレンはついに復讐をやり遂げたんだ!そしてもう一つが...

 (倭......ありがとうな。みんなを守ってくれて。あんたは偉大な先輩だ...!)

 歯を食いしばって思考を切り替える。改めて殺しにいこうとしたが、この僅かな躊躇いを隙に、ヴェルドが先に攻撃を仕掛けてきた。
 滅属性を付与した魔剣の切っ先を向けて特攻してくる。
 やられる――

 「――わけないけどな(ヒョイ...)」

 ドスッ「な......に...!?」

 魔剣の刺突をくらう直前、俺はガードをすることなく、魔剣を躱そうともせず、ただ首を左に傾ける。その動作をしただけだ。
 そしてその横を、音だけが通り過ぎて―
 見えない何かが、ヴェルドの頭を貫いた...!

 「“見えざる矢”。流石だ......縁佳」

 後ろを振り返り、はるか遠く離れたところから弓を構えて残心の構えで立っている縁佳を見て、俺は小さく笑った。

 俺たちは、5人で戦っている。勝てる気しかしないっての!


 「...お前がここに来たということは、あの女魔人は討伐できたんだな?」
 「うん。始めはアンスリールさんとカブリアスさん二人と一緒に戦って、それでも追い詰められたけど、途中でマリスさんっていうラインハルツの兵士が駆けつけてくれたお陰で、倒せたよ」

 マリス...ラインハルツ王国の兵士だっけ。そういやカブリアスも、ドリュウと一緒にこの戦場に駆けつけてくれたみたいだな。あいつらは部外者だというのに、意外とお人好しだなぁ。礼を言わなければな。特にドリュウ、アレンの助太刀感謝だ。

 「皇雅君、私が今射た魔人が、トップなんだよね?私の狙撃で、討伐できたのかな...?」
 「どうだかな?あいつは他の魔人と比べて異質だ。脳天射抜いて死んでくれるかどうかまだ分からない。その証拠に奴の気配はまだ絶えていないからな」

 不安そうに尋ねてくる縁佳にそう答えることしかできない。倒れてピクリともしていないが死んだことを確認していない。

 「復讐はまだ終わっていない。最後は俺が締める。二人とも、ありがとうな」
 「「コウガ君(さん)...」」

 二人の呟きを背に俺は奴の存在を完全に消しにいく。あいつは存在しちゃいけない。テメーら魔人族は滅ぶべきだ。あの人が死ぬ要因をつくったテメーは特にだ。その異質で詳細不明の何かについては全く未知で分からないが、そいつが表に立つ前に、そいつごとテメーを消してやるよ!!

 「じゃあな、ヴェルド!!“聖絶脚”」
 力と速度を左脚にパスした状態で渾身の蹴りを振るう。これでヴェルドの首を消して、全て終いだ!!

 そう思っていた。

 刹那――




 《いいや、終わりじゃない...まだ何も始まってすらいない。むしろここからだ...!》




 目に映っている景色の何もかもが...

 闇色に染まった...!

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