ゾンビになって生き返ったので 復讐してやる

カイガ

136話「滅亡をもたらす剣」


*サブタイの「剣」は、「つるぎ」と読んで下さい。どうでもいいかもですが...。




 「あんた...何で!?今この魔人は俺しか狙ってきていない!俺を囮にしてあんたらだけで撤退すべきだろうが!そんな残り少ない魔力を、ここで使ってどうするんだよ!?」

 思わず彼女に向かって叫んでしまう。今俺は...何故か、彼女はここで戦ってほしくない、さっさとここから逃げて欲しいと思ってしまっていた...。理由は分からない、とにかくそう思ってしまっていた。

 「もう誰も死なせない、君を消させもしない。私は、君も救うって決めてるから!!ここで命を懸けて戦う...!!」

 “聖なる雷刃” “聖なる水槍”

 そう言ってさらに魔法を唱える。眩《まばゆ》い雷の刃に澄んだ色をした水の槍...なんだあの魔法?見たことない属性だ。まだ、オリジナル魔法を隠し持っていたってのか?
 気になるが今はそれどころじゃない。体が再生したことを確認して、アレンを抱き起す。急所は避けているが出血が酷い。服をちぎって応急処置をする。このままアレンを背負って早く撤退しなければ...!
 気付けば藤原に加えて高園と米田、米田の召喚獣に乗ったお姫さんも駆けつけて、高園と米田がヴェルドを攻撃して、お姫さんがこっちに来てアレンを召喚獣に乗せた。


 「お前まで...」
 「今は、撤退することだけを考えて下さい!皆さんの行動を、無駄にしないためにも...。まずは、この大陸を出ましょう!」
 「......そうだな」


 お姫さん...ミーシャの意見にひとまず従って一緒に逃げることにする。俺は脳のリミッター解除で速く走れるので俺だけ走って逃げることに。その間も戦況は変かしていってる。


 「逃がさないわよ~!」
 「させません!!」

 追ってきたネルギガルドとそれをさらに追って斬りかかるクィンと八俣。同時にスリム女も追撃してくるがそれをも食い止めている。ベロニカは出るまでもないと高を括ってるのか、追撃しには来ていない。世界を滅ぼし得る力を持った魔人族が3人...。今の俺だと何千回も殺されるくらいの戦力差だ。アレンが深手を負い、満身創痍の藤原と、消耗している高園と米田...そして八俣。
 全員万全状態でいる魔人族と、連戦状態で疲弊している連合国軍と弱体化した俺...。状況が悪いのは明らかだ。
 
 “闇渦《くろうず》”

 ヴェルドの圧倒的な暗黒魔法が、藤原と高園の攻撃を全て無に帰す。とんでもない超高魔力の前に、彼女らの魔法や狙撃が為す術も無く消される。そして奴は一瞬で俺たちに追いつき、俺の両脚が奴の魔法で消滅した。

 「ぐわっ!」
 「コウガさん!!」

 勢いよく地面に突っ伏した俺を見たミーシャが止まって呼びかける。アレンもどうにか起き上がって俺を助けに来ようとしている。

 「お姫さん...アレンを連れてお前らで逃げろ。故ハーベスタン王国に鬼族の生き残りたちがいる。そこまで逃げるんだ...!」
 「だ...めだよ、コウガ...!」
 「そ、んなこと...!」
 「今はどういう行動が正しいか、お前なら分かるだろ?お姫さん頼む...!」
 「コウガさん...!私はまた貴方を救うことが出来ず、貴方を見捨てて逃げなければならないのでしょうか...!?」
 
 ミーシャが涙を流しながら俺に背を向けていく。とりあえずは俺の言うことを聞いてくれるみたいだが、中々行こうとしない。かなり葛藤しているようだ。

 「......“また”、か...。俺は、お前のこと誤解してたのかもな...。優しくて思い遣りのある奴だよ。だからこそ俺の言葉に従ってくれるよな?俺の大切な仲間を、助けてくれ」
 「っ...!コウガ、さん...!!」

 泣き声を堪えながら召喚獣に乗るミーシャ。アレンが叫んでいるが許してくれ...。このままじゃマジで全滅す――


 「茶番は終わりか?」 

 ドスザクザクッ!
 うつ伏せで倒れてる俺の背中に、黒い槍がいくつも突き刺さる。心臓が破られる。さらに脳も潰される。が、痛くはない。

 「ほう...?これだけやっても死なないか。その死なない体を活かして、父上を殺したのか」
 「まぁ、な。痛くもなんともない。そんな俺を、どうやって消すつもりだ?塵一つ残さず消し続けるか?」
 「それも良いが貴様には速やかに消えてもらう。俺が何の準備も無しにここに現れたとでも思ったか?
 貴様のような不死の生物を滅ぼす術を習得してきた。それを以て貴様を完全に葬ってくれる...!!」


 そう言ってヴェルドの右手から、見たこともない属性を帯びた、ヤバいオーラを放つ闇色の剣が現れた。何だアレは...?
そう疑問を持つ間もなく、謎の剣を構えてヴェルドがゆっくりと向かってくる。ヤバい...《《アレで斬られたら俺は死ぬかもしれない》》!これマジで絶体絶命だ、このままじゃ本当に死ぬ!消えて、無くなる...!?
 

 「く...そぉ...!!」
 「死ね...カイダコウガ!!」


 無慈悲に振り下ろされる剣。


 「コウガっ!!」
 「「コウガさんっ!!」」
 「甲斐田君...!!」


 アレンとミーシャ、他数名が叫ぶが、全員間に合う可能性は無い。くそっ、本当にゲームオーバーか。まさか、二度も死ぬことになるとは...人生何が起こるかなんて本当に分からないな。
 帰りたかった。元の世界に。やりたいこと山積みのまま、今度こそ終わる...。
 復讐も完遂できないまま、中途半端に終わる。俺は満たされないまま死ぬ。

 (――ちくしょう...!)

 ――ザシュウウウ!!



 その剣は......いつまで経っても、俺に届くことはなかった。刃が届く寸前、俺とヴェルドの間に割って入ってきた者が、俺に変わってその剣の一撃をくらって......くらって.........


く、ら.........って...............



 「ごふっ...!
 ...............か、いだ...君...」


 
 「なに、やってんだよ......?あんた、何でそんなところにいるんだよ!?俺を庇って、こんな...!!」
 「言った...でしょ...?“誰も死なせない、消させない”って...」


 俺の代わりに斬られ...俺を庇ってくれた女......藤原美羽を咄嗟に支える。胸から腹までバッサリ深く斬り裂かれてしまい、血がヤバいくらい出ている。普通なら即死する傷だが、生命力が強いお陰か、辛うじて生きている。
 脂汗をびっしょりとかき、血の塊を吐きながらも、俺を守れたことに安堵したような笑みを浮かべている。痛いだろうに。苦しいだろうに。あんな恐ろしく強くて、絶望を絵に描いたような化け物を前にしてなお、彼女は自分の身を顧みずに俺を守ったっていうのか...!!
 

 (あんたは、どこまで...俺を......!!)

 「くそ、くそ、くそぉ!!ぅああああああああっ!!!」


 俺はやけくそに叫んで、藤原を背負って走りだした。考えるよりも先に体が動いたってのはまさにこのことだろう。気が付けばそうしていた。もうがむしゃらに駆けていた。が...当然それを許す敵じゃないだろうな...。だが知るか!!早くここから逃げてやる...!!




 「俺の剣を受けて即死しない?あの女、何かしたな?この剣の性質をすぐに見抜くとは、大したものだ。まぁいい、全員斬り殺す!!」

 皇雅を庇って魔剣をモロにくらった美羽に訝しげに思ったヴェルドだったが、気を取り直してすぐに皇雅を斬ろうとしに行く......が、

 ギィン!!「っぐ...!?」
 「行かせはせんぞ、小僧。俺が相手だ」

 ヴェルドが移動しようとする隙を狙った倭によって妨害される。

 「貴様も...異世界の人族だそうだな?貴様も、殺してやろう」
 「ヴェルド様!甘く見ない方が!その異世界人、あの時とは別次元の強さを発揮してます!!」

 「高園、クィン...お前らはあいつらのところへ行ってやれ。ここは俺がどうにかくい止める」
 「そんな...あなた一人で対処できるレベルじゃ...」
 「命懸ければどうにか出来るだろう。それに、お前たちも彼女のことで気が気でないはずだろ?彼女のもとへ行くべきだ」
 「......必ずまた駆けつけます!!」

 こうして彼女たちも戦場から離脱。残るは人族最強の戦士のみとなった。


 「...1人で4人もの魔人族と戦うつもりか?無謀な」
 「力を使いこなせていないだろうガキなど俺の相手じゃないさ。来いよ、全員斬ってやるよ」

 そう挑発すると同時に倭の戦気が爆増した。文字通り命の炎を燃やしている様だ。その迫力に魔人族全員が怯んだ。その直後......


 「助太刀するぞ、人族最強の戦士よ...!!」
 「傷を癒して再出陣してみれば、随分様変わりしてやがるなぁ?」

 
 そんな倭のもとに、増援2名が登場した。
 「あららぁ!?あなたまだ生きていたの!?」
 「そういえば殺し損ねていたな...ならここで完全に殺すとしよう」


 「仲間たちと......国王様のお陰でどうにか生き延びた。だがこのままでは終われない!今回は彼の為に戦う...!!」
 亜人族の王子アンスリール。


 「“龍”を完全に怒らせると、魔人族だろうが死ぬぜ?」
 竜人族のカブリアス。

 彼らが倭の助太刀に現れた。
 「お二人方...助力頼む」
 「「承った」」

 そして、彼らの命懸けの防衛戦が始まった...!

 



 「先生、先生...!!」
 「ごめんなさいミワ、私には回復魔法が全く使えず...!せめて携帯回復道具で...!」
 「美羽先生、もう少しで治療できるから意識をしっかり―」

 サントの王宮に着いて、藤原を寝台に寝かせて以降、医療班がくるまでの間、高園たちがずっと声をかけ続けている。ここで彼女の目が閉じれば、もう全て終わるのは明らかだ。

 「.........」

 一方の俺は無言のまま、同じく寝台に横たわっているアレンの手を握っているだけだ。アレンは、止血はしてあるからすぐにどうこうというわけじゃない。だが早く治療しなければならないことに変わりない。俺の不安を見抜いたのか、アレンも俺の手を優しく握ってくれている。
 そしてやっと医療班が駆けつけて藤原とアレンの治療にかかる。だがやっぱり、藤原はもう手の施しようがなかった。臓器がいくつも斬り破られていて、そのせいで血を多く流してしまっている。何より魔力がほぼ底をついてしまっているのと回帰魔術の副作用によって生命そのものが消滅しかかっている。治療ではもうどうしようもない事態だ...。


 「そ、んな...!美羽先生は、もう助からない...?」
 「嫌、嫌だよぉ先生...!死なないで!!」
 「ミワ、私がいながら...ごめんなさい!」
 「.........」

 皆悲しみの声を上げる中、俺は相変わらず沈黙したままでいた。彼女に目を向けることさえできない。

 だが、藤原が突如、顔をこちらに向けて俺の名を呼んだ。高園たちもつられて俺を見る。無視するわけにもいかないので、アレンの手を離して藤原のもとへ行く。
 今にも閉じそうな目をなんとか堪えて開いて、浅い呼吸を必死に繰り返しながら、俺に何かを言おうとしている。俺は五感を自在に操れるから彼女のか細く小さな声を聞き取ることが出来た。

 だがその内容は、あまりにも予想外なもので、思わずギョッとした顔で藤原を見てしまった。



 「甲斐田君...私を......“捕食”して」
 

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