ゾンビになって生き返ったので 復讐してやる

カイガ

127話「絶望を与えていく」


 (甲斐田君のところに堂丸君が...!!)

 とある場所から「遠見」で戦況を見守ること数十分。世界の厄災と化した男、甲斐田皇雅が現れたことを確認した縁佳は、無意識に胸を高鳴らせて、同時に締め付けられる思いもした。これから彼と戦わなくてはならない。殺されるかもしれない。そういった気持ちを抱きながら彼女はここ戦場にいる。

 すぐに同じく後衛にいる米田小夜と曽根美紀に合図を送ってそれぞれの役割を全うすべく戦闘態勢をとった。皇雅の近くには堂丸と中西晴美、そして美羽がいる。彼らで皇雅をどうにか抑え込んで、さらに米田の魔術で拘束状態にさせて、その隙に縁佳が狙撃して止めて、無力化させる...という作戦だ。

 ――しかし、そう簡単に事は進んでくれなかった。皇雅の人智を容易く凌駕した異次元の力を前に、早くも一万近くもの手練れの兵士たちが殺されてしまい、今はクラスメイトの堂丸が彼に攻撃されていた。周りの兵士たちや美羽が阻止しようとしたが、あろうことか、皇雅は堂丸を掴んだままどこか遠くへ離れて行った。最悪の事態だ。恐らく皇雅は復讐の為にあえて戦場から離れたのだ。

 「小夜ちゃん!甲斐田君のところに!!」
 「ごめんなさい!もう、追いつかない...!」
 「そ、んな...!」

 縁佳はその場で絶望した。彼女の狙撃で皇雅を狙うことはできる。だが今はまだ彼女の手札を明かしてはいけない。今動けば作戦は破綻する。だがこのまま見過ごせば、堂丸は助からない。

 「私は、助けられないの...!?堂丸、君...」

 己の無力さを感じた縁佳は、嘆くことしかできないでいた...。




 
 (俺たちサッカー部は今年は地区予選に進めたんだ!ここで勝ち残れば全国だぜ!いやー俺らの代は歴代でもかなり強いって監督が褒めてくれてさ~)
 (凄いねサッカー部は...。こないだの県大会決勝だって、堂丸君が得点源だったよね?小林君と里中君との連携凄かったよ。私サッカーはよく分からないけど、あの時は凄かったって思ったなー。)
 
 (ほ、本当!?あの決勝戦で勝てたのはもちろん小林と里中の力もあるけど、た、高園が応援に来てくれたお陰だってあるんだぜ!?そうだ!高園の試合っていつだよ?今度は俺が応援しに行くからさ、教えてくれよ!)
 (本当?ありがとう。えっとね、次の試合は夏休みの―)

 こないだの試合に高園が見に来て応援してくれたのが、何より嬉しくて励みになった。サッカー今まで頑張ってきてて良かったって思った瞬間だった。俺に対する好感度も悪くないようだし、これは告白するチャンスかもしれない!けどいつやろうか?今は高園も全国大会に向けて弓道にとても真剣でいるから邪魔したくないし...。

 (お前まだ高園に告白してねーのかよ?いい加減動かねーとマジでとられるぞー?須藤あたりとか怪しいぞ、あいつ最近は高園路線に入ってるって聞いたし)
 (この際結果とか恐れずに告っちゃいな!そうやって引きずってるとプレーに影響出るかもしれないだろ?俺たちの最強連携が崩れたらヤバいぜ?俺たちがお膳立てしてやっからいけよ!!)

 (お前ら...そうだな。ウジウジしててもしょうがねぇ。いっそ全部吐き出してスッキリしよう!そんで部活も恋も充実してやるぞー!!)
 (なに告白成功したことにしてんだよ馬鹿!でもその意気だ頑張れ!!)

 バシンと背を叩いて激励する里中と小林。こいつらの存在がこれほどありがたいと思ったことはない。生涯のダチだよこいつらは。


 ......この世界に来てもその気持ちは変わらず――
 「―いつまで下らない回想に耽ってんだ?あと無駄に長い。無駄に尺を取るな、ここからはずっと俺のターンなんだよっ!」

 ドシュゥ!!「ぐぎゃあ!!」



 勝手に浸り出した(そんな気がした)こいつのクソキモい回想を強制終了させるべく、貫手で堂丸の肩を刺し貫いた。反対も同じように貫いて両方とも肩が上がらないようにしてやった。これで大槌は振り回せない。

 カミラの指示に従い、俺はこいつを掴んだまま一旦戦場を離脱した。その方が一人一人集中して復讐できるというありがたい助言をもらった。途中藤原らしきの魔法で妨害されたが「魔力防障壁」をとばして妨害を妨害してやった。
 さらに、超広範囲に水・大地の複合魔法でつくった巨大沼に「王毒」を混ぜて毒沼化させておいたので、誰も近付けない。飛ぼうにしても毒沼の真上に行くと毒が含んだ気体に触れてご臨終だ。大回りするか毒沼を消すかしないとすぐに俺のところへは行けない。
 これで、この糞ゴミ野郎を集中して復讐できる...!


 「じゃあ存分にやろうか堂丸くーん?俺を殺すとか何とか、運んでる途中で喚いてたなぁ?やってみろよ、魔石とかで強化してもあの程度のしか強くなれなかった雑魚が」
 「だ、まれええええええええ!!テメーだけはぶっ殺す!!高園に近づけさせるかよおおおおおおおお!!」

 俺の挑発にまたもあっさり乗った堂丸は、武器をガンスタイルに戻して乱射する。この武器は対象から距離が近い程威力が上がるらしく、今の距離ではさっきよりも強くなってた。近距離で放ってきた砲弾を避けることなく武装硬化した右手で
弾こうとしたが、砲弾に触れた瞬間もの凄い炎熱が俺を襲った。これは焼夷弾か!


 「テメーみたいな外道にもなぁ!高園はみんなの輪に入れようと考えていた!テメーと俺たちを和解させようと動いていた!俺はテメーのことが嫌いで、大西や須藤らと同じハブることに賛成していたけど、高園は俺にテメーと仲良くしてやってほしいと持ちかけてきた!!
 何でテメーなんかが、高園に気にかけてもらってんだよ!?当のテメーはそんな高園の厚意を無視して輪に入るどころかクラスの雰囲気を悪くしやがって!!テメーが全部悪いんだろうが!!あの時の実戦訓練で見捨てられるのも当然だ!!テメーが大西や須藤に安藤、そして里中と小林を殺した行為は、復讐でも何でもない、ただの逆恨みだああああああ!!」


 砲撃しながら好き勝手に喚き散らす堂丸。炸裂弾にレーザー光線、炎熱魔法が付与された砲撃を撃ち続けながら俺に対する恨み言をずっと吐き続ける。その目には狂気すら感じられた。この半年間、俺はこいつらを殺したいと憎み続けてきたが、どうやらそれはこいつも同じだったらしい。
 全く、愉しませてくれるじゃないかぁ!?これこそ復讐のし甲斐があるってわけだぁ!!

 止まない砲撃の嵐を、拳と蹴りで悉く吹き飛ばし、障壁を身につけてダメージを軽減させて防ぎ、魔力光線で相殺しながら悠然と歩む。半年前の俺だったらこの砲弾の雨はちときつかったかもな。けど残念。格が違い過ぎたな...!

 あと数歩分の距離まで近づくと、堂丸が突然喀血して膝を着いた。その隙を見逃さず瞬時に奴の両腕を引き千切って(その際堂丸は激痛のあまり大絶叫した)、砲筒を全力で殴りつけて破壊して這いつくばらせた。肩付け根から夥しい血を流してうつ伏せに倒れる堂丸を冷ややかに見降ろしながらさらに重力をかけて動けなくした。せいぜい口くらいは動かせるようにしておいた。


 「一瞬隙を見せたな?魔石を少し摂取したって聞いたが、やはりアレはハイリスクを伴うアイテムらしいな。長時間それに頼ると身を滅ぼす、ってところか?」
 「...!...!!」
 「あ?これでも加減してやってんのにまともに喋れないのか、魔防弱過ぎだろテメー」

 そう言って重力を少し弱める。代わりに背中を踏みつける力を強めた。背骨にヒビ入ったのか、変な音がした。


 「ぎゃあ”っ!!か、いだあ”ッ!!」
 「汚い声出すな耳障りだ。それより無様だなぁ?俺に復讐するべく戦争に参加して、前衛として俺に進撃した結果がコレだ。ま、テメーの復讐心なんて所詮その程度だ。その気持ちが弱いから力もクソ弱いんだよ。
 そういえば高園が何とか言ってたな?俺を輪に入れる?和解させようとした?余計なお世話だ!あいつは最初から何も見えちゃいねー。心の底から独りを好いていた俺自身の輪を乱したあいつが悪いというのに、それを拒絶したらテメーらが醜く煩く糾弾してハブりやがったんだ。そうだろ?結局テメーらが勝手に騒いで勝手に非難して除け者にしたんだよゴミが」

 辛うじて俺の方に顔を向けた堂丸は、尚も激昂しながら反論する。

 「お前なんかに、構ってくれた高園の気持ちを理解しようともしないクソ野郎が、偉そうに語るな!!さっきも言ったろうが、テメーのやってることは逆恨みだって!あの時お前が見捨てられたのは、全部甲斐田、お前自身が招いたことだっ......(グリィ...!)―ぐ、あ”あ”あ”ああああ!!」
 「......かもな。テメーの言う通り、俺のやってることはもしかしたらただの逆恨み、八つ当たりの類なんだろうってな......。


 それの 何が 悪い?」


 「な......!?」

 思わず絶句した様子の堂丸を見下して続ける。

 「いいか?俺は自分が不快に思った、害されたと思ったら、そうさせた奴らを制裁、殺すと決めている。全ては自分の為。“復讐”などと言葉を飾っているが、その実ただの私怨を晴らす為の行為かもしれない。だがそれの何が悪い!?俺はただ、自分が“敵”だと認識したゴミ野郎をこうやって駆除しているだけさ!!」

 ゴキボキィ!!

 「がはぁ...!!おえぇ...!」

 踏みつける力をさらに強めて堂丸のくだらない言い分を遮り、俺も好き勝手に喋る。
 そう、こいつの言う通り...結局は自分の私怨を晴らす為に今まであいつらを殺してきたに過ぎない。といっても過去のツケが回って見捨てられたのは事実だが、それが原因で死んだわけだし、やっぱり復讐心の一つ抱いたって変じゃないと思うが。まぁこの低脳ゴミクズに何を言ったって無駄だろうから言わないで良いや。

 「というか、テメーはさっきから高園のことをやけに引き合いに出してるが...もしかしてあいつにご執心中?好意抱いてたりする?もしそうならテメーが高園のことでムキになるのも納得いくな。そんな奴を殺すだなんて言う俺を、殺したいと思うのも当然か...。
 よし、なおさら高園を殺すとしよう!テメーが嫌がること、絶望することを徹底的にやろうじゃねーか!テメーはそんな俺を憎み、テメーの非力さに憤慨し、屈辱を味わいながら、無様に甚振られて死ね!!くくく、あはははははははははははぁ!!!」

 堂丸が高園に恋慕を抱いていることは、不本意だが学校にいた頃から薄々感ずいていたが、今のやり取りで確信した。だから俺はあいつをも殺すと、この醜いボロクズの心に傷をたくさんつけてやった。あまりにも可笑しくて思わず哄笑してしまった。

 「甲斐田ぁ...!てめえ”え”え”え”え”え”え”え”え”え”え”え”え”え”え”!!!」

 「うるせええええええええ!!もっと苦しめよ生ゴミ野郎がッ!!」

 さらに激昂したボロカス堂丸の怒声に逆ギレで返す。そこからもっと過激な残虐行為に及んだ...!

 ゴッ!バキィ!ゴリィ!ジュウゥ...!ブチイイィ!グシュウウウ!!

 その後、頭や背の骨を殴りつけてへし折り、熱で炙ったり、両脚も千切ってダルマ状態にして、黒い日本刀で何度もぶっ刺した。

 「ほら俺を憎め、俺を恨め!俺を殺したいって叫んでみろ!俺を睨んでみろ!テメーが殺したい男は、こうしてテメーを見下してるぞ?このままだと、テメーが好いている女を殺しにいくぞ?止めるなら今だぞ?四肢が欠損したその体で、俺を殺してみろよぉ!?片手剣士の俺なんかよりよっぽど優れた職業を授けられた救世団の戦士さんよおぉ!?あっははははははははははッ!!」
 「ぐ...がっ、はがあぁ...あ”...」

俺の煽りに対する返事は、途切れ途切れの苦悶の声だった。言い返す体力・気力さえもう残っていないみたいだ。あーあ、ベロニカとかいう魔人族の魔術だったら何度も殺せたんだろうなぁ...こいつを潰すゲームはもう終わりかよ...。
 こいつは...学校では俺をひたすら避けて真正面からは強く言わねーくせに裏では悪評広めていた弱虫のクズで、この世界では力を持ったことを良いことに俺をリンチして最後はあのゴミカスどもと笑って俺を見捨てたという大罪がある。よって、残酷な死刑を執行する!

 「テメーも死んだ後は永遠の地獄をさまよえ。高園は絶対にテメーと同じところに送ってやらねー。一人で永遠に苦しみ続けろ!
輪廻・獄界エンドレス・ヘル』!!」

 「!!あ...あ、あ」

 ボロカスで風前の灯火となった堂丸に、大西にも使った死後も地獄が続く闇の魔法をかけた後、その場で飛び上がって左脚を巨大な斧に変形させる。踵落としのフォームのまま急降下。奴の体を割く寸前――



 「絶望を抱いて墜ちろ」



 ザンッ......!

 冷たく言い放って......堂丸の胴体を真っ二つに切断した。最期に奴は何か呟いて、絶命した。


 「た...かぞ、の......い”、ぎ......の............」


 “高園、生き残れ”か?この期に及んであいつのこと考えるとか、本当に好きなのな?どうでもいいが。目障りなので重力を操ってこのゴミ死体を丸めて圧縮して、消し去ってやった。死体が消えたと同時に、胸がすいて良い気分になれた。


 「一人目」


 そう呟いて、毒沼を消し去って、再び戦場へ戻って行く。
 大体あいつは、自分と俺との戦力差をまだ理解出来ていなかったのか?魔石なんかで俺を倒せると思ってのあの最初の一撃を放ってきたのか?とんだ無駄死にだったな。あるいはそれを踏まえた上での特攻だったのか。仲間を殺した俺を前にして頭に血が上り突っ込んできた...と?まぁそうなるもの無理はないが......そういうことをするのはせめて俺クラスまで強くなるべきだったな。
 固有技能やドーピングに依存するだけで肝心の鍛錬をおろそかにしていた。そのせいで俺に一方的に嬲られて無様にその下らない命を散らしたんだ。

 努力が足りなかった堂丸勇也、お前は.........怠惰・でしたね!!
 まぁせいぜい永遠の悪夢で苦しんでいろ。俺を害したテメーには当然の報いだ。


 じゃあ、戦場に戻ったところで、次は...ここからいちばん近くにいる、あのプリースト糞女中西晴美を処刑しよう...!
 


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