ゾンビになって生き返ったので 復讐してやる

カイガ

124話「洞窟での対話」 


 「......まさか、こんなところで出くわすとは。写真で見たものより死人感が出てるなぁ、カイダコウガ」
 「テメーは...?」

 2ヵ月程前だったろうか?アレンとエルザレスたちから武術を全て習得した俺は、それ以降ずっと一人で技を磨いていた。地底や無人の洞窟、モンストールが支配する地帯など、色んなところを転々と移動しては修行していた。
 そんなある日、デルス大陸にある地下洞窟にて、俺は、袴衣装...“和”を取り入れている格好をした男と遭遇した。俺の名前と顔を知っているようだが、俺は知らない。相手はおそらく危険人物リストに載ってる俺を見たから、こうして知ってる様子でいるのだろう。というか...和服?この世界で??奇妙な男に躊躇なく「鑑定」で見破った。すると...

 「......ヤマタワタル?日本名だと!?年齢...んだこりゃ。職業が侍...って、テメーまさか、俺と同じ日本から!?」

 俺の目には驚愕の情報が映っていた。そして俺の言葉に今度はヤマタという男が驚愕した。

 「お前、俺の正体を...!?おいおいおい......マジかよ?」
 お互いあまりの衝撃の出来事にしばし呆然とする。やがて俺から口を開いた。

 「俺がテメーのステータスを見破ったのは、“鑑定”という固有技能のお陰だ。偽装してもこいつは全てを見破る。テメーにとっては予想外だったみたいだが」
 「なるほどな......まさかこんな形で俺の正体がバレるとは。世界にはそんな技能もあったのか。さて、次はお前の疑問に答える番だな?まず俺の名前だが、文字はこうだ」

 腰に差してある刀―日本刀を抜いて壁に斬りかかる。そこには刀傷で書いた文字があった。

 ――八俣《やまた》 倭《わたる》。それがこの男の本名だ。

 「俺がこの世界に来たのは、今から約110前といったところか。ラインハルツ王国の召喚士によって呼び出された俺は、当時の魔人族たちとの戦争に身を投じた。年はそれでも大体65になったくらいだったが。見た目は今のお前と...救世団の彼らと近いくらいだった」

 「あの異世界召喚は、俺たちの代が二回目だってのはしっていた。最初の召喚生たちはもう寿命で死んだと思ってたけど、まさかまだ生きてる奴が、しかも見たところまだ齢40半ばの見た目じゃねーか。しかもその時の年齢だって、見た目と一致しない年だ。テメーはいったい...?」

 八俣の言葉通りだとするならこいつの年齢は少なくとも100歳を超えていることになる。だが目の前にいるこの男の見た目は年不相応に若い。若過ぎる。
 なんせ奴の実年齢は170もあるのだ!特殊技能が関係しているというのなら納得がいく。ただしその技能は「鑑定」で覗けないから何の技能かは分からない。

 「“肉体全盛期化” これが当時若い状態でいられた理由だ。この特殊技能は召喚された際の“特典”だったそうだ。俺の場合はコレだった。まぁ召喚される直前の俺は、病で床に臥していた死にかけの爺だったからありがたかったが」

 俺たちの時と違ってこいつは死にかけの状態で異世界に召喚され、その際に若返り&病気完治という特典がついたということか。つーか、この手の展開って普通、俺たちみたいな学生か若い奴が召喚されるのがお約束だろうに、まさかのお爺ちゃんが召喚されるとか、斬新過ぎるわ!!

 「ん...?というよりあんたのその武器って“日本刀”だよな?それを持ってこの世界に来たってのか?いったい何時代の人間なんだ...?」

 刀を見て気付いた。それは俺にしか造れない武器のはずだ。そういう技能があるならまだしも、まずそれはない。「武装化」系の技能はザイ―トのものだったからだ。奴以外であの技能を持つ生物はいないはずだ。その日本刀があるってことは、考えられるのは...こいつが元の世界から持ち込んだってことになる。
 さっきの切れ味からして、本物であることに違いない。そんなものを現代の世界に持ち込めば銃刀法何やらで職質確定だ。ならばこいつは俺が生きていた時代の人間じゃない...?

 「俺が日の本国で生きていた時代か?およそ...慶長10年だったか?戦がようやく一息ついて安らかに逝くかって時に、こんな世界に呼ばれたものだから、参ったよ当時は」

 慶長...徳川将軍の時代!?まじかよそんな大昔の時代の人間だったのかよ!?元の世界とこの世界の時間って平行じゃなかったのか?

 「全員、あんたと同じ時代から来た人間だったのか?」
 「いや、全員ほとんど別の時代から呼ばれたそうだ。俺の時代から数百年後から、逆にさらに昔の時代からも来た者もいた。時系列がバラバラだったらしい。当時の召喚術は不完全なものだったらしい。お前の代では、同じ時空・同じ時代から呼び出すことが出来るくらいに進歩したみたいだが。まぁ仕方あるまい。特典の方に力を入れたみたいだったからな」

 バラバラ...邪馬台国時代、戦国時代、俺たちの時代の平成・それ以降の時代など、色んな時系列から召喚したってことか。んで、今回の召喚は時代は統一したものの特典とかは特には...ってこともないか。「逆境強化」なんてものがついてたし。

 「そして俺が今もこうして生きながらえているのは、特殊技能“細胞分裂遅延化”が理由だ。こいつも最初からついていた技能らしくてな。
 名前の通り俺は老いるのが常人よりもはるかに遅い体質になった。100年以上経って共に戦ってきた仲間が寿命で死んでいく中、俺だけが元気に生きているってな。言っておくが俺にもちゃんと寿命はあるし、致命傷くらえばちゃんと死ぬぞ。まぁあと何年生きられるかは俺にも分からないが。
 最初は何の使い物にならない技能だったが、今はそうでもない。こうして復活した魔人族から再び世界を守ることになったしな。まさか滅んだはずの敵とまた戦うことになるとは思わなかったが」

 そこからも八俣から当時の戦争のこと、魔人族を退けた後のことを色々聞いた。
 若返りや寿命延長など即興の戦には使えない技能しか授けられなかった為、他の召喚生よりかなり劣っていて戦争ではあまり活躍できなかったこと。しかし年月が経つにつれて、体力が衰えていく周りに対し自分だけが衰えるどころか増々技術・腕力・体力・魔力が強化されていったこと。仲間たちとのジェネレーションギャップに驚かされまくったこと。そして...次々いなくなってしまった仲間たちの最期を看取ってきたことなど。
 懐かしんで、どこか偲ぶ気持ちが窺えた。俺もエルザレスやザイ―トの話を振ると通じたので、話に興が乗った。しばらく話し込んだところで、俺も八俣も真剣な話に入った。

 「何で、自分が異世界召喚されたことを、偽名を使ってまで隠してたんだ?」
 「俺は...別に名声の為に戦ってるわけじゃなかったからな。世界全体が魔人族のことを伏せると決めたと同時に、俺たち異世界召喚組のことも伏せることにした......俺たち全員の意思の下で、だ。あんな忌まわしい凄惨な歴史は子どもたちには伝えたくなかったと、当時の大人たちはそう考えていたそうだ。俺はそいつらの意思を汲んで、今日まで自分の素性を隠してきた。といっても、ラインハルツの代々国王さんとかには俺の素性は明かしているが」
 
 そんな事情があったとは...。そんなに大昔の魔人族は過激だったのかよ。ヤバいな。

 「仲間を看取ったと言ったが、魔人族をとりあえずは討ち滅ぼしたあんたらは、元の世界に帰ろうとはしなかったのか?」
 「元の世界...日の本に帰る魔術は当時はまだ完成できていなかった。それ以前にバラバラの時代から来た俺たちがそれぞれの場所へ帰るとなると、そこから数十年以上の時間をかけなければ帰る為の魔術は完成しないと言われた。まぁ俺を含む召喚生全員はこの世界に残る意思があったから特に気にならなかったが」

 俺からもいいかと、今度は八俣が話を振ってきた。


 「......お前は、自分を見捨てた同士どもを復讐して殺したと聞いた。そして残りの...高園たちをも殺すつもりでいると。そして、魔人族の現長であるザイ―トも、討伐する気でいる。つまりお前は復讐の為に動いていると見て良いのだな?」
  「そうなるな。あと2ヵ月程したら魔人族どもは動くだろうと予測している。俺や人族・魔族全てを滅ぼすべく動き出そうとするはずだ。同盟国どもはそれに対抗すべく、連合国軍なんて結成して戦争準備の最中なんだろ?」
 「まぁな。ついでに結成目的にはもう一つあってな。高園縁佳たち同じ異世界の人間たちを、お前から守る為にもある」


 「つまり、俺とも戦うことも視野に入れてるってことか...?」

 とここで俺は、分かりやすく殺気と魔力を噴き出してみる。即座に俺から距離を取って武器を構える八俣。しばらく睨み合って、先に俺が全て解除した。


 「冗談だ。俺から手を出すことはしないが、邪魔するってんなら...殺す」
 「参ったねぇ。今の睨み合いで悟った......お前と本気で殺し合って、勝てる気がしない。少なくとも人族の誰にもお前を倒すことは不可能だろうな...。そんなお前からあいつらを守る......骨が折れるどころじゃないなぁ」

 自嘲するように呟く八俣に俺は最後の質問をする。

 「あんた個人としては、俺を敵だと認識しているか?あんたは召喚生全員と団結して魔人族と戦っていたが、俺は...団結するどころか殺したからな。そこんところどうよ?」

 しばし黙って、変わらない調子で答える。
 
「お前のやったことは、先輩としては痛ましくは思っている。同じ日の本の戦士同士で血を流すこと...この世界の要人も残りの奴らも望んではいまい。それと...俺はお前を今は敵としては見ていない。できれば敵になってほしくはないと思っている」

 「そうか......あんたの言う通りかもな。望んではいない...。俺も、敵には回したくはないと思っているよ...《《先輩》》」
 
 そう言って八俣から背を向ける。話したいことは全て話した。もうここに長居する理由は無い。

 「行くのか。魔人族たち、特にザイ―トと戦う場合、健闘を祈るぞ...《《後輩》》」
 「......ああ、そっちもな」

 八俣は、それだけ言ってから洞窟から去って行った。俺は奴の去った跡を数秒見た後、修行を再開した。
 奴とはまた会うことになる、それも敵として......そんな予感を胸に抱きながら、俺は技を繰り出した――





 「――ということが、鍛錬の途中で偶然あってだな」

 会議場の中心でラインハート改め、倭が衝撃的な真実を語った。その間誰もが驚愕のあまりにポカンとしたり、開いた口が塞がらない様子だったりと色々なリアクションをとった。

 「わ、倭さん!?が、170才の超お爺ちゃんで、かつて魔人族と戦って、そしてずっと生きてきて...!?」
 「100年以上前に異世界召喚したとは知ってましたが、そのうちの一人がこうして生きていたというのは驚かされました...!そんな特殊技能があったなんて」
 
 縁佳たちもミーシャもまだこの真実を消化するのに時間がかかっている様子だ。そんな中、ガビルが何か思い出したかのように言葉を発する。

 「そういえば、変わった剣の超達人からかつて剣術を教わったことがあると父様から聞いたことがある...もしや八俣様が...!」
 「八俣様だなんてよしてくれ。まぁそうだな...後進の兵たちに色々教えたことはあったが...そのひとりにあんたの家族もいたのかもな」

 そう言ってから、縁佳や美羽たちに自分のステータスプレートを見せた。それを見た全員が目を剥いた。恐らくここにいる全員よりも、倭のステータスが上である。力だけなら彼が人族トップとされている。

 「然甲斐田と遭ってからこの時まで、ステータスはそんなに変わっていない。だがあの時点で俺は、奴に敵わないと確信してしまった...奴は強過ぎる。ここにいる全員が束になっても勝てないと断言しよう」
 「「「「「...!!」」」」」

 倭の有無を言わさない発言に、全員が閉口する。実際目にした者の言葉は重く実感させられる。ましてやその発言者が歴戦の戦士なのだからなおさらだ。

 「それでも、お前たちは戦うと、変わらずに断言できるか?」
 参戦する戦力たちをしっかり見据えて倭はそう問いかけた。

 「昨日言った通り、戦います!勝てる敵う関係無く、立ち向かわなければならないんです!!」
 その問いに最初に答えたのが美羽だった。ミーシャや縁佳、クィンも同意見らしく、全員決心ついた様子だった。彼女たちの意志を確認したのか、倭は短く笑うと謝罪する。


 「試すようなことを言って悪かった。お前たちの決意は昨日確認したというのに」
 (これは俺の覚悟を確認したようなものか...彼女らの目を見て、改めて決心がついた)

 そして倭は続きを...己の決意を告げる。

 「俺も戦おう。お前たちとは短い付き合いだが、同じ日の本出身の同志。死なせたくないのが本音だ。だがやはり今のままでは、甲斐田に蹂躙されて終わりだろう。
 そこでだ...これも隠していた秘密なのだが...」

 そう言って、懐から何かを取り出して、テーブルに置いた。訝し気にそれを見る全員に、またも衝撃的な新情報を告げた。



 「そいつは魔石。こいつこそが、甲斐田に対抗し得る新たな切り札だ」





 「そんな、衝撃的な出来事が...!教えては、くれなかったのですね...」

 俺のカミングアウトに最初は驚いていたが、次第に不機嫌な顔になった。アレンもさり気に俺の脇腹を抓ってきた。痛くねーけど。

 「大昔の魔人族については丸々歴史が消されてたんだ。それにあやかって八俣の奴も正体を隠してたんだろう。奴の意思を汲んで、黙っておくことにしたんだ。お前らに話さなかったのは悪かったよ」

 軽く頭を下げて詫びると、ここぞとばかりにアレンが交渉を持ちかけてきた。
 「許してほしければ、あのマッサージやって。あとコウガの料理も食べたい、作って」
 「私も、甘やかして下さい。私が熱で寝込んだ時と同じように色々尽くして下さい」
 「......分かったよ。じゃあ引き続き敵兵情報頼むな?」


 俺の承諾を聞いた二人はハイタッチを交わして微笑んだ。やれやれ。
 少し一休みしようとのことで、個室に戻る最中、俺は八俣について考えていた。


 (八俣倭...あいつは侮れない。元クラスメイトどもや魔人族どもと同じように考えてはいけない。俺にとって脅威になり得る存在だ。100年間、奴は少しずつだが毎日能力値が上がっているとのこと。今も奴は成長し続けている。だからあんなステータスになってたんだ)

 奴のステータスを脳裏に浮かべながら、俺は八俣と戦うシミュレートもしておこうと決意した。



ヤマタワタル 170才 人族 レベル529
職業 侍
体力 103000
攻撃 310500
防御 50600
魔力 36000
魔防 53000
速さ 99900
固有技能 全言語翻訳可能 瞬神速 斬術皆伝 二刀流斬術皆伝 怪力 見切り 気配感知(+索敵) 雷電魔法レベルⅩ 光魔法レベルⅩ 嵐魔法レベルⅩ 限定超強化 
*強化発動時、能力値100倍上昇
*特殊技能 細胞分裂遅延化

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