ゾンビになって生き返ったので 復讐してやる

カイガ

122話「節目」


 夜になった頃、カミラの家に着いた。カミラと鬼族全員は無事だったみたいだ。敵は全て返り討ち、魔人族も攻めてはこなかったとのこと。家に着いたらカミラが駆けよってきて抱き着いてきた。けっこう心配かけたみたいで、軽く謝罪しながら宥めた。

 「こうして無事戻ってきてくれた、それだけで十分です...!私も迎えに行きたかったけれど、無力な私では不可能ですし...」
 「いや、カミラはその優秀過ぎる頭脳でみんなをサポートしたんだろ?帰り途中アレンから聞いたぞ、カミラの軍略で楽に迎撃できたって。全てカミラの予測通りに敵が動いてくれてやりやすかったて。そうやってアレンたちと戦ってくれた、無力なんかじゃない」
 「でも、私もコウガの近くで戦いたいのです!この能力をコウガの近くでもっと...」

 この半年間でカミラはさらに俺のことを気にかけ、親しく関わってくれるようになった。彼女は俺の近くで共に戦うことに執着している。同じ仲間のアレンを意識しての、そういう姿勢なのだろうか。アレンは戦場を駆ける戦士、俺の近くで戦えることもあるからそれが羨ましい的な?気持ちはありがたいが、カミラにはカミラの戦いがあるんだよなぁ。

 「それは...頭では分かってはいるのですが、感情がそうはって...!」

 指摘したら自覚はある、が感情の問題とのこと。ま、仕方ないか。

 「通信越しで俺をサポートしてくれ。それなら俺はカミラの助けを得られる」
 「......それで妥協します。コウガの助けになれるなら...!」

 と、こういう風に宥め完了。なんだかカミラは世話好きのお姉さんってキャラが俺の中で定着しているのだが、本人には内緒でいる。

 「さて...まぁとにかく全員無事に迎撃戦を切り抜けたようで良かった。俺も魔人族の長を殺した。ついで二人の雑魚魔人も殺した。人族と魔人族との戦争も一区切りついたそうだ。しばらくは停滞すると考えられる。動くとすれば、五日後だ」
 「五日後、ですか?何か起こるのですか?その時に」

 カミラが質問する。今後の展開を今知ってるのは俺とアレンだけだったな。まぁ何が起こるなんて、答えは単純なのだが。

 「復讐だ。俺の復讐対象が人族陣営にいる。俺の最後の復讐を、五日後に決行する。で、この世界全ての同盟国を代表するお姫さんがそれを良しとせず、俺の邪魔をする気でいるらしい。俺は自分を邪魔する奴らも殺すつもりでいる。だから...

 今度は俺と同盟国連合との戦争が勃発する。本格的に第三勢力として参戦だ...!」

 俺の戦争発言に、鬼族たちがざわついた。カミラもけっこう驚いている。

 「その戦争って、私たちも戦うの?人族と戦うことになるの...?」

 ガーデルが控えめにそう尋ねた。声からして奴らと戦うことに抵抗があるように思えた。まぁ当然か。

 「その必要は無い。お前ら鬼族は引き続きモンストールや魔人族の迎撃に...自分たちの戦いだけに集中してくれ。もし魔人族が現れたら、その時はカミラに呼んでもらって俺が駆けつけるからさ」
 「分かった......」
 「よし...。次の連合軍との戦争も、俺一人で相手するつもりだ。今の俺に...敵はいない。誰も、俺に力で対抗できる奴は存在しない」

 自身満々にそう告げた俺に、みんなは畏敬(ちょっと畏怖も含まれてた)の念がこもった目を向けてきた。俺はゾンビだから、みんなは俺の戦気を感知できず、俺の力量が理解できないわけだが、俺には色々実績があるから、ある種の信頼が寄せられている...気がした。
 だが、カミラだけ難しい顔で意見してきた。

 「確かにコウガの力に対抗できる戦士・兵士はもう存在しないでしょう。けれど侮れない要素があります......敵の軍略です。コウガ、もし戦うのであれば、私を使って下さい。私には同盟国の戦力...特に軍略家を職業としている人たちについての情報を持っているので。いくら強くても、やっぱり無策で勝てる程、戦争は甘くないです」

 最後は真剣に俺を見据えてそう言った。かつてハーベスタン王国全てと俺・アレンで戦争をしたことがあったが、圧倒的力で王国をねじ伏せてやった。だが今回は王国2つか3つ分。その戦力は膨大。しかもその中にはかなり強くなってるだろう藤原、高園、そしてクィンもいる。他にも知らない強者もいるみたいだろうし。ここはカミラの正論に従うか。

 「カミラの言う通りだな。連合軍にカミラクラスの軍略家がいたら、ヤバい搦め手で俺が足元掬われる恐れがある。ここは経験豊富のお前の力を借りよう。一緒に戦争で戦ってくれ」
 「もちろん...!精一杯サポートしますよ!」

 頬を上気させたカミラは嬉しそうに快諾した。俺に頼られるのが本当に嬉しいらしい。すると左袖をクイクイと引っ張る感触がして、見るとアレンが上目遣いで見つめながら意見する。

 「コウガ、私も戦争に行く。今度はコウガを一人で行かせたくない。もしかしたら戦争に魔人族が現れるかもしれない。その中に私の仇がいるかもしれないし。何より二人でいる方が効率良いと思うから」
 「アレン......良いのか?次の戦争は、さっきのお姫さんも、そしてクィンも確実に殺すことになる。その覚悟は決められるか?」
 「ん......私はコウガの一番の味方。だからコウガの邪魔する人は、たとえクィンでも...。覚悟はできる」

 俺の問いかけにアレンはしっかりとそう答えた。いちおう覚悟はあるみたいだ。まぁ...大丈夫そうか。

 「分かった、なら今度はアレン、そしてカミラと一緒に戦争に参加しよう。二人とも協力頼むな」
 「うん!」
 「はい!」

 二人とも力強く返事してくれた。
 この後はもう夜だということで、祝勝会を開いた。戦争への準備は、明日からすることにした。とにかく今日はみんなで楽しく飲み食いしてお喋りとかして楽しく過ごした。


 「それにしても、“好きです” か...」

 ミーシャの最後の一言が脳裏に浮かぶ。異性に通信越しとはいえあんなに真正面から告白されるのは、中々無いイベントだったな。
 だけど、本気で復讐の邪魔をするのなら.........殺す―。


 

魔人族サイド

 同時刻、崩壊した魔人族の本拠地に、4人の魔人族が揃って暗い顔をしていた。完全にお通夜ムードである。

 「父上が...本当に...!!まさかそんな......ちくしょう!!」 

 崩れた建物に拳を入れてやり場のない怒りをばら撒くヴェルドに、声をかける者は誰もいない。100年前に異世界の人族戦士たちに敗北した以降、これまで魔人族をまとめて引っ張ってきたのはザイ―トだった。その彼がいなくなった以上、実質魔人族は終わりも同然だった。頭が消えてからすぐには集団をまとめるのは困難あるいは不可能である。
 序列でトップを決めるならここではヴェルドがそれに当たるのだが、肝心の本人には今のようにまとめることを考えておらず、先程からザイ―トの喪失への絶望に打ちひしがれたままでいる。そんな彼を見た他の魔人族たちは、もうダメだと思わずにはいられなかった。
 仮に他の誰かがトップを務めたとしても、あのザイ―トを殺した敵を討てる気がしないと、皆薄々感づいていた。それ程までに彼らにとってザイ―トの存在は大きく、戦力が桁違いだったのだ。

 彼らが本拠地に再結集してから3日経っても、誰も行動することなく無気力に過ごしていた。ベロニカも、人族の戦争などどうでもよく思っていた。
 ただ...ネルギガルドだけは、気配を遮断しつつ地上の様子を見続けていた。ザイ―トと年が近い彼は現在の魔人族たちの最年長であり、古株だった。一応ベロニカも古株ではあるが、二人には及ばない。
 

 (そういえば、先代の族長様が討たれるまでのザイ―ト様って、《《あんな性格》》していなかったのよねぇ...百数年前の戦いで生き残ったあたしたちを率いるようになってから、最近までのあんな性格に突然変わったのよねぇ。今さらだけど、どうして突然人が変わったようになったのかしら...。結局分かることないまま死んじゃったわねぇ...ザイートちゃん)

 古くからの親しい友の死を憂いながら、各大陸の大まかな情勢をある程度確認すると、ため息吐きながら本拠地へ戻った―。




 父 ザイ―トは、俺の誇りだった。
 先代の長が死んだ後、父上が懸命に皆を率いて拠点をつくり、人族や魔族どもに見つからないよう色々ここのことを調べたり自身を鍛えたりしていた。俺もその姿勢を倣って自分を鍛えた。
 魔石を手に入れてそれを吸収して苦痛を乗り越えて、そのお陰で異次元の力を手にした後、父上は世界を滅ぼし支配すると宣言し、同胞を完璧にまとめて侵略を進めた。ネルギガルドやベロニカが言っていた、先代の力をも凌駕していると。俺はあの人について行けばいい、とそう思い過ごしてきた。他の追随を許さないあの異次元の力とカリスマ性について行くことに間違いは無いと信じて。
 
 だがその彼は死んだ。殺された。いちばんと思っていた父上が数日前この世から消えてしまった。

 ―カイダコウガ。異世界からきた人族。何かの間違いだと信じたかった。負けるはずが無いと。
 だがベロニカが映し出した全てを見て、俺は絶望した。奴は真っ向から父上と戦い、力でねじ伏せて、勝利したのだ。文句が無いくらいの勝利だった。
 父上に勝てない俺が、あんな奴に勝てるわけない。いや、そもそも戦いにすらならない。ただ一方的に嬲られて死ぬだけだ。

 俺たち魔人族は...もう終わるのだ。今度こそ完全に...!!

 


 《お前は憎くないのか?父のザイ―トを殺した人族が...》


 「!?」
 誰だ...?男の声だがネルギガルドじゃない。他の男の同胞はもういないし、屍族どもは人の言葉を喋らない。というより今の声は、俺の頭の中に直接響いたような...。

 《あれだけ慕って誇りに思っていた偉大な父が、よりにもよって忌々しい異世界人によって殺された。これで、二度も族長が人族に殺されたのだ!!何も思わないのか...?》

 ......誰だか知らないが、愚問だな。憎いさ。殺したいくらいに!復讐したいと思ってる!だが、あの父上を完璧に討ち果たしたあの異世界人に俺は勿論、同胞全員束になっても、きっと敵わない...。奴はそういう化け物と化してしまった、俺にはどうすることも...!力が、足りない...これだけ変わってもなお、俺には...!!

 《ククク...お前から伝わってくるこの憎しみ、復讐心...。合格だ!しかも前任者以上の素質がお前にはある...。お前なら今度こそ、俺の目的を達成してくれる器となれるだろう...!さぁ受け取れ!!俺を、使え...!!》

 「な...!?」

 気が付くと目の前に瘴気なのかただの蜃気楼なのか分からない...“黒い何か”が現れて、次の瞬間には俺の中に入った感覚がした。

 「あ、熱い...!いったい俺に何が!?あ、ア”ア”ア”ア”ア”ァ”.........」


 暗転―。


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