ゾンビになって生き返ったので 復讐してやる

カイガ

120話「一つの決着」


 脳がスパークしていて、回復させるべく元の状態まで抑制した直後、頭から血が絶え間なく流れ続けた。数分経ってやっと血が止まって、脳も正常に戻ったのを確認してから立ち上がって、ザイ―トのもとに近づく。奴はまだ体力が減り続けているらしく、顔色がさらに悪くなっていき、出血量も増えている。放っておいてももう死ぬのだろう。

 「まさか敗因が、自滅だとは思わなかった...。超進化にかかる負担は、俺自身の想像以上だったようだ。体力勝負で、負けた。それがこの戦いの結末だ」

 自嘲するように言葉に出して俺に話しかける。割とお喋りなこの魔人族トップの最期の会話に、俺は付き合うことにした。

 「不死じゃないテメーが、あんな規格外な強化を決行すればそうなるさ。死んだって不思議じゃない。身の丈に合った進化で止まるべきだったんだよ」
 「はっ、不死身のお前がそう言っても、嫌味にしか聞こえないな...。仕方がないだろう、こうまでしなければ、今のお前の本気とまともに戦える気がしないと、最初の強化したあの一撃をくらった時に悟ったからな」

 10000%解除したあの時か...というか、その言い方だと、こいつは...


 「お前は、強くなり過ぎた。イレギュラーという称号に相応しいくらいにな」


 あの時点で、俺がこいつより強くなっていたと、予感していたのか。こっちは格上だと思っていたのだが。
 強くなり過ぎた、ねぇ...。

 「残りの同胞たちが束になっても、おそらくお前には届くまい。お前には俺の理解に及ばぬ力が宿っている。ゾンビといったか?屍族や同胞の誰にも存在しない未だ不明の能力。もしかしたらそれこそが、異世界から来た際に授けられた特別な力なのかもしえないな」
 「そうか...そういう解釈があったか。確かに、あり得るかもな」
 
 研究熱心だけあって、この場でよく思いついたものだ。頭のキレも相当良いな。こんな奴によく勝てたよホント。

 「......それで?お前は残りの同胞たちをも殺す気でいるのか?この戦争にどう関わるつもりだ?」

 仲間たちへの心配半分興味半分からか、俺にそんな質問をしてきた。というか、その質問は俺にとっては的外れもいいところだな...。

 「アホか。俺の方から残りのあいつらを殺すことはしねーよ。俺を害すること、不快にさせたりしない限りはこっちからは何もしない......ただ、とある魔人族に復讐したいと思っている娘がいる。少なくともそいつ一人は死ぬだろうな。
 それとこの戦争なんかどうでもいい。テメーらが勝手に始めたことだ。どう転ぼうが知らん。ただ人族側に数人、復讐したいクソどもがいるから、そいつらを殺すくらいはするけどな」
 
(......ネルギガルドの奴か)「その人族たちは、不幸だな。俺を殺すほどの男に目を付けられたのだから...。それに、本当にどこまでも傲慢だなお前は。今やこの世界は、お前の気分次第で簡単にどうこう変えられるのだから」
 「かもな。その点は自他共に認めるよ。この力は今やあっちの世界で言う、核兵器同然だもんな」

 核兵器という言葉に訝し気に眉を顰めるザイ―トを無視して空を見上げる。俺がそういう存在になるなんて、思いもしなかったなぁ。ただ復讐したいが為に行動していたら、こうなったとしか言えないんだよなぁ。

 あ。せっかくだし、こっちからも話を振ろうか。こいつもいつ死ぬか分からないし。死ぬ前に、この超強化素材を奪わないわけにはいかないよな?
 血がさらに流れ出して、体がやせ細っていく様子もお構いなしに、ザイ―トに話しかける。

  「そういえば、長生きしている知り合いからテメーらのこと少し聞いたんだが...エルザレスって竜人族だ」
 「エルザレス...懐かしい名だ。まだ生きていたか。ならば奴の寿命は今日だな。今は同胞が攻めに行ってる頃だろうしな。それより、俺たちのことを聞いただと?何を?」
 「死ぬかどうかは分からないぞ?まぁ質問に答えるか、主に昔のテメーらのことだな。その当時もテメーらは人族・魔族から世界の脅威として認識されていた...それくらいのスペックが魔石を使う前からあったと」
 「......ああ。だがそれでもエルザレスとは、俺にとって宿敵同然の関係だったな。何度殺し合ったか。まぁ今となっては俺が圧倒するのだろうが」

 息絶え絶えになりながらも自慢げに笑うザイ―トを尻目に続きを話す。

 「聞いた話じゃあ、テメーは今みたいな野心家じゃない性格だったそうだな?野心というよりも探求心が強い?ような男だったと。竜や獣、亜人たちの生態・戦闘法何にでも興味を持つだけの、そこまで危ない奴じゃなかったと。それが今はどうだ?全種族根絶やしにするだの、世界を支配するだの、随分と悪の帝王様的なキャラになってんじゃねーか。100年以上も経てば、そういう心変わりが起きるものなのか?」

 修行中エルザレスから聞いた魔人族の話は、主にザイ―トのことについてだった。いちばん遭遇した魔人族だったからか、奴について色々知れたのだろう。魔人族が脅威とは言っていたが、それは奴ら全員ではなく、当時の奴らの長であった魔人の王にのみ向けられたものだったらしい。昔のザイ―ト含む他の奴らは、そこまで世界征服にお熱ではなかったとのこと。
 だがエルザレスの言ったことと今のこいつらを見ると矛盾している。今では全員が全てを壊そうとしていて、世界を魔人族のものにしようとしている。これも、魔石の性だというのだろうか?もしエルザレスがここにいれば、何か気付いたかもしれないな。

 「ふん、奴め...そんなことを話していたのか。悪いがお前の問いに詳しく応じる気はない。まぁ心変わりしたというのは、否定しないが。
 “特別な力を手にしたから変わってしまった” というのは、お前にも通じるところがあるだろう?強くなった時には、俺はこの世界を潰してモノにしたいという衝動に駆られていたんだ...それだけさ」

 「......そうか」 

 「最期に、教えて欲しいことがある......お前がいた世界についてだ。どんなところなんだ?」

 ...ははっ。根本的なものは変わらずってところか。何にでも興味を持つ性分は、100年以上経っても消えないみたいだ。せっかくだから答えてあげるか。


 「ここと違って魔力という概念が無い、当然魔法も無い。魔物もいない...というか知性ある生物は人間...人族だけだ。剣や火器を用いて争ったりもしない。ここよりも娯楽が豊富で退屈もしない。平和で楽しい......でも要らない人間が比較的多い、クソッタレな世界だ...!」


 俺は楽しそうに、だが殺意を剥き出して、笑顔でそう答えた。

 「そうか......それは、また興味深い世界、だな...ククク」

 ザイ―トは満足気に笑って納得した。...もうそろそろ、こいつの命の灯が消えるな。ここまでか。

 「もう、いいよな?終わらせるからな......じゃあな」
 「ああ.........さようなら、だ」


 瞬きした時には、ザイ―トの体は無くなっていた。それくらい早く奴を捕食した。

 魔人族の長を、討ち取った瞬間だった。世界を脅かした男は、イレギュラーゾンビによって喰われて死んだ...。


 復讐達成。今までで一番、手強くて苦労した、強力な復讐対象だった...。


 「ザイ―ト......テメーが復讐対象じゃなくて、世界を滅ぼそうなんて考える奴じゃなかったら、色々気が合ったかもな...」





 戦いが終わり、しばらく余韻に浸ってから、俺は一旦帰るべく移動した。まずここがどこなのかだが...ジャンプして上空から大陸の形を確認したところ、ここは運良くもオリバー大陸だった。これならすぐにカミラの家に行けるな。
 そう思って「瞬神速」を発動しようとしたのだが、脚が思うように動いてくれない。うーん、やっぱり後遺症みたいなのが残ってるのか?6桁台まで解除したその反動はやっぱり深刻みたいで、まだ全速力では走れないようだ。
 仕方なく徒歩で帰ろうと移動していると―


 「コウガぁ!!」


 向こうから「神速」でこっちに突進してくる...アレンが。勢いそのままで、俺に“だいしゅきホールド”でしがみついて倒れかかってきた。

 「アレン......出迎えありがとう。とりあえずこっちはひとまずってところだ」

 頬ずりするアレンを撫でながら戦況を報告した。少ししてからアレンは俺の顔から離れて、マウント状態のままそっちの状況を教えてくれた。
 モンストールや魔物が襲ってきたが、彼女たちで余裕で撃退したとのこと。その後アレン一人で俺のところへ来た、というわけだ。魔人族が侵入してこなかったのはとりあえずラッキーか。だがいつ来るか分からないし、二人早く帰った方がいいな。
 起き上がったところで、聞きそびれたことを今聞くことに。

 「アレン、どうして俺がここにいるって分かったんだ?ザイ―トの戦気を感知して来たとか?」
 「ん...それもあるけど、コウガを実際に見たっていう人の案内で、ここに来た。最初はどうやって海を渡ろうかって難儀していた時に、偶然会った。といっても、生身の人じゃないけど...」
 「あー......なるほど」

 アレンが海を渡らずに済んだのは、そいつの案内のお陰だったのか。しかもそいつはまだ...俺たちを見ている。


 「―そうなんだろ?感知しているぜ?出てこいよ。少し前から俺らを離れたところで見てるのは気付いてるぜ」


 森林地帯の木々に向かって声をかける。アレンも気付いたようで、俺と同じ方をジッと見つめている。
 数秒してから、少し離れた大木の後ろから水晶玉が現れてこちらに近づく。2、3メートル離れた位置で止まり、沈黙。そしてさらに少し経ってから、俺はその声を聞いた。



 『......コウガさん』


ミーシャ・ドラグニアは、恥ずかし気に俺の名を呼んだ。

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