ゾンビになって生き返ったので 復讐してやる

カイガ

117話「最大の武器」

 ズオオオオオ――!
 (......!!)

 サラマンドラ王国...魔法の影響で大雨が降っているこの地での戦争の中、魔人族序列2位・ヴェルドは、集中を乱して気を取られてしまった。その理由は、はるか遠く...自分の本拠地付近から突如感知した“規格外”で濃密な戦気に動揺したからである。しかもその戦気が二つも感知しただから尚更驚愕ものだ。思わず本拠地の方角に目を向けてしまう。
 そして―その隙を見逃す程、敵は甘くなかった。

 「ギャシャアアアアアアア!!」
 「――!ぐ...う...!!」

 咆哮とともに襲ってきた攻撃をくらい、肩を負傷して数十メートル退く。再度集中して進化したことで生えた漆黒の翼と両手に超濃密の闇属性の魔力を発生させる。

 「らしくないな?一瞬とはいえああいう隙を見せるとは」
 「......ふん」

 敵の挑発に応じることなく二人に狙いを定めて、翼と手にある暗黒の魔力光線を4つ放つ。対する相手...二人の蛇龍もそれぞれ極太い魔力光線で応戦。
 ヴェルドと対立する二人の竜人...一人は先程挑発した白き蛇竜...カブリアス。
 全長5mを超える白い胴体にいくつもの翼を模した被膜があり、白く長い髭を2本生やし、額からも金色の長い角が生えている。見た目と違わない超強力な力・魔力を宿している。彼の水魔法は、天候にも影響させる程で、今の大雨も彼の仕業だ。

 もう一人は族長のエルザレス。進化した彼の見た目は同じく蛇型の龍。体長10mに近い胴体で、浮いているカブリアスと違い、彼は地にいる。人型時の強靭な筋肉をさらに発達させた腕が2本、より硬度が増した赤い鱗に覆われて、禍々しい角と牙を生やし、見るもの全てを射殺すかのような眼をしている。
 その見た目と他の追随を許さない圧倒的な強さを称えて、彼は“赤神竜《せきしんりゅう》”とも呼ばれている。

 なおドリュウも先程戦闘に参加していたが限界を感じて撤退し、現在は野戦病院で仲間に治療されている。
 カブリアスとエルザレスとの死闘を再度繰り広げながら、ヴェルドは微かな懸念を浮かべる。

 (さっき魔人族の本拠地方向から父上の濃密な戦気を感知した。あれは“限定進化”をしている...!しかもそんな父上と対峙している奴も、この世界の生物とは考えられないくらいの戦気だ!少なくとも俺と戦っている竜二人と......俺よりも強い!
 カイダコウガ......イレギュラーな強さだ...)

 遠く離れた地でも二人の戦気を感知できるヴェルドも達者だが、それだけにあの二人の戦気は規格外の高さなのである。それも重々承知した上で、ヴェルドは戦慄した。

 「カブリアス、感じたか?この別の戦気...」
 「ああ、これがあの魔人族の長のそれなんだろうな。はっきり言って勝てる気がしない」
 
 竜の彼らもまた、ザイ―トの戦気を感知していた。今や世界を滅ぼす強さを持つとされている魔人族の長の男が本気を出すということは、それだけ強い敵が現れたのだろうと二人は推察して、その正体もすぐに察知する。

 「恐らく相手はカイダか...ついに激突したみたいだぞ。どちらかが、この世界の頂点となるだろうな」
 「コウガが勝てば魔人族は敗北も同然。しかし魔人族が勝てば...おそらくこの世界は終わる、か...。全ては奴らの結果に委ねられている」

 竜人戦士二人は、遠く離れた場所での決闘の行く末を案じながら、ヴェルドを見据えて魔力を溜める。ヴェルドも同様に再度魔力を溜めて、そして武器の剣も構えた。
 3人の死闘は、さらに苛烈を極めていく...。





 口火を切ったのは完全に同時。俺も奴も同時に空気を割くようなハイキックを交わして、激突させた。
 ガキィン!まるで鉄骨と鉄骨で殴り合うかのような音。
 続いて正拳...これも同時にぶつかり合う。
 バァン!シンバルを何十にも重ねて思い切り鳴らしたような音。
 そこから半月蹴り、腕刀、膝蹴り、肘撃ち、十文字蹴り...そのどれも、ほぼ同じ威力で悉く相殺される。
 ドン!ギィン!ドッゴォォン!ゴッ、オォォン...!

 一撃一撃に全力と殺意を込めて拳と蹴りを繰り出すが、それは奴も同じようで全て対応された。相殺には成功したが、骨が折れて、筋肉が千切れて、体がやや変形したなどお互いタダでは済まなかった。が、お互い規格外な回復力ですぐに元通り。すぐさま次の攻撃に移る。

 殴り合い・蹴り合い―俺たちが今やっていることは、そんな原始的な戦闘法だった。魔法や武器が豊富であるこのファンタジー世界で、普通であれば滑稽に映る光景だろう。だが生憎、俺たちは普通じゃないし、まともじゃない脳筋だ。世界の頂点を決める戦いだというのに、互いにいちばんの武器がコレ素手だというのだから。
 俺が読んできた異世界ファンタジー作品の主人公は、多彩な魔術に高火力の兵器を駆使していたというのに、俺ときたらこんな地味な戦法が切り札なのだから。こんな戦いを得意とする主人公が書籍化したら、地味過ぎて誰からも覚えられねーよ多分。せめて「滅びのバースト何とか」くらいは撃ってみせようか?
 向こうも肉弾戦が主体だというのは幸いと考えていいのか分からんが(あいつ手に鉤爪ついてるけど)、こうして肉体を用いた戦いになっている。

 気が付けば、地下から出てきていて、中空で殴り蹴り合っていた。お互い一拍の間も無く次の攻撃を放ち続ける。ザイ―トの爪で耳や肩が抉りとばされる。こっちも負けじと風の刃を付与した手刀で奴の腹の肉をごっそり斬り落と...せなかった。

 「限定進化」した奴の形は、はっきり言って“異形”だった。全身真っ黒の肌、髪が全て抜け落ちた代わりに無色の湾曲した角が生えている。さらに厄介なのが、奴の体質だ。打撃を与えると、奴の体にゴムの弾力性が帯びてダメージが分散されて、斬撃属性の攻撃に対しては鱗みたいなのが浮き出て威力が軽減される。しかも絶妙なタイミングでだ。
 本人の意思によるものかは知らんが、とにかく面倒だ。大したダメージを負わない。加えてあの防御力だし。魔法で、って思うも奴の「魔法弱体化鎧」でまた軽減される。万能耐久で超高火力型ってところの、まさに化け物チート野郎だ。

 「連繋稼働《リレーアクセル》」

 だからここからは、全て人体急所を突いて壊していく。修行の成果を今ここで発揮する時がきた。
 下半身→腰→体幹→肩→腕→拳へと、力と速度を繋げていく。「瞬神速」でザイ―トに接近、そして渾身のストレートを放つ!

 「絶拳」

 このパス技で最初に覚えたのが、この何の捻りも無いただのストレート打ちだ。だがシンプルにして超強力。それを疑うことなく、自信満々に打ち放った!狙いは額と角の境目。角を根元から吹っ飛ばして大量出血を図った一発だ。

 「っ...ぐ...!」
 狙い通り角を吹き飛ばして血飛沫が舞う形となった。ザイ―トは激痛によろめくも、すぐ回復させて反撃に出た。

 「またあの溜め技か。本当に効くぜ、全くよぉ...!」
 半ば切れ気味にどす黒い魔力を纏った拳を飛ばしてきた。「複眼」・「見切り」で とんできた拳をギリギリ躱して隙をつくらせる。そこから再び体内リレーだ!
 先程と同じ経路でパスしていき、奴の拳を躱した際踏み込んだ左足の力を利用して、左アッパーを放った。喉笛を正確に狙った拳が射抜く―!
 


 「ほら、全部お前のツケだ」


 ザイ―トの頭頂部分に拳が触れる寸前、腕を使ってコレを防ごうとする。無駄だ!防いだとしてもすぐに蹴りで胴体の急所に入れて―

 「――――――」

 気が付けば、俺は地面にめり込んでいた。何が起きたか全く分からないでいる、何せ意識が落ちていたから。たぶん頭が飛んだのだと思う。というか段々思い出してきた。俺は奴にぶん殴られてその衝撃で頭部がはじけ飛んだのだ。
 さらに殴られる直前に見た光景は、ザイ―トが俺とよく似たモーションで拳の威力を受け流していって、最後は防いだ腕と逆の拳で、俺をぶん殴る、といった内容だった...。

 (...いやおいおい。嘘だろ?え、マジ...?あいつ、まさか...!!)

 塵が集まって頭が元に戻るのを待ちながら、俺は衝撃の事実に軽く身震いした。一方のザイ―トは、殴った方の右腕と俺の拳を受け止めた方の左腕両方がズタボロになっていた。数秒後すぐに回復したが、その額からは脂汗が出ていた。

 「いやぁ、お前のオリジナル技。そう簡単には扱えないな。覚えるのが得意な俺でも、一回で成功しないとは...腕をオシャカにしてしまった」
 「テメー......俺の技を使いやがったな...!?やってくれるじゃねーかよ、おい」

 少し切れ気味に返すも、ザイ―トは不遜な態度のまま、言い返す。

 「どうだ、己を真似された気分は?お前が今まで行ってきたのと同じだ」
 「へぇ......なる程なぁ?」

 今まで俺が喰って固有技能を奪ってきたあの行為に対する意趣返しのつもりか?あんな未完全なカウンターに俺はさっき沈められたってのか。くっそムカつく!!

 「言ってくれるじゃねーかよ?次はあんなカウンターで受け流せると思うな?ぶっ潰す!!」
 「いや、次はお前と同じ完成度で返してみせるから、また沈めてやるよ」
 「ほざいてろ!カウンター技使いの真髄を見せてやんよおおお!!」

 そう叫んで今度は俺から攻めに出た。左脚を起点にパスを回して、最後に右脚を半月蹴りの要領で振りかぶり、“絶拳”の蹴り版としてザイ―トの肝臓部分に叩き込んだ!

 「絶脚」

 足がザイ―トの体に触れた瞬間、奴は全身を猛回転させて、触れたところを起点に力を上へ流していって、また右腕をゴール地点として力を一気に放出...倍返しに出た。
 
 「ほら、ひしゃげろ」

 今度は完璧なモーション・力の受け流しをやってのけて、得意げに超高火力のフックを浴びせてきた。



 「テメーがな」

 だが俺はそれに対して動揺することなく、むしろ、かかりやがった!と嗜虐的な笑みを見せてやった!はっ、誰が頭に血が上ったって?得意技を真似されたくらいで冷静さを欠く俺はもういない!!俺みたいにカウンター技を使う敵が現れることなど想定済みだ!ならばその対策も当然バッチリだ!
 ...なぁに、方法は簡単だ。倍返ししてきた攻撃を、さらに倍返しで放ってやれば良いだけ!!
 右フックを腹に受けたその勢いを使って跳び宙返りをする。倍返しの威力は凄まじく、通常のカウンター要領の宙返りの倍以上の速度で回転したため、体に拳が触れた時点で、俺はもう蹴りのモーションに入っていた。その勢いを殺さず全て利用して、頭が上下逆のままの爪先蹴り...オーバーヘッドキックを放った!

 ―ガツウウウウゥゥゥン......!!

 威力は俺二人分の蹴りとザイ―トの拳計3人分。まさか倍返しをさらに倍にして返されるとは思わなかったザイ―トは、防御する間さえなくその身にモロにくらうハメになった。

 「ごはぁ!?な......にぃ!?」

 骨を何本か、そして胃あたりの内臓を破壊した感触を得ながらザイ―トを遠く彼方へ吹っ飛ばしてやった。俺の体は...うん問題無い。エルザレスたちに教わった身体のコントロール修行の成果がここで発揮できた!意のままに体の部位を操るのは意外に難しい。あいつらはそういった運動のプロだったから本当に為になった。
 っと...感傷に浸っている場合じゃない。吹っ飛んだザイ―トに追撃をかける。海を隔てて別の島へ飛んでいったザイ―トを追って空中を駆ける。
 島に着いた直後、極太の赤い魔力光線が向かってきた。火属性か。

 「ちっ、吹っ飛ばしたのは悪手だったか...」

 自分のミスに毒づきながら水属性の魔力光線を放って相殺する。と、足元から無数の土でできた剣山が飛び出してきた。その場で真上に跳んで回避、下へ氷を放って大地を凍らせる。着地の際、氷を砕いてその破片を前方へ投げつける。
 ギンって音がいくつか鳴った後、土煙から傷が治った様子のザイ―トが出てきた。まだ......余力はたっぷりってところか...。正直さっきの一撃で命もっていったと思ったのだが。

 「カウンター技をさらにカウンター技で返すとは、想像もつかなかったぞ!お前、かなりエグい発想をするな?俺とお前以外の奴があれをやれば、確実に身体は砕けていただろうな。恐らく同胞でも誰一人成し得られないだろうな」
 「その言い方だと、自分はできるって言ってるように聞こえるな?アレさえも、真似できるってのかよ?」
 「ああその通りだ。俺は、覚えが良い方なんでね...ククク」
 「......へっ、そうかよ。なら......やってみろ」


 そう吐き捨てて、拳を構えて駆け出す。
 さぁ殺し合いを再開しよう...!











*カブリアスの見た目...MHのアマ〇マガツチをモチーフに、
エルザレスは顔が同作品のラ〇シャンロン・胴体がガララ〇ジャラという感じです。

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