ゾンビになって生き返ったので 復讐してやる

カイガ

109話「ラインハルツ兵士団vs序列4位クロック」


 ラインハルツ王国外地と海域。ここで滞在している兵士・戦士たちが国民たちに被害が及ばないよう、敵をここまで引き付けたのだ。ここで両者とも存分に力を振るって争っている。ラインハルツ王国の兵士たちは、人族同盟国の中でもレベルが抜きん出ている。この国の兵団は代々彼らをまとめている兵士団長が実力・指導ともに優れているからである。
 現兵士団長もまた例に漏れず、実力・指導力とも歴代最強を誇っている。


 「はっ、よっ、おらっ、」


 戦闘が始まってから約30分間、ラインハートは休むことなくモンストールと魔物を討伐し続けていた。 彼にとっては災害レベルの敵なども脅威にならない。全て苦戦することなく、斬り殺し続けた。

 「す、すみませんラインハート団長!助けていただいて...!」
 「あー。お前その様じゃあもうキツいだろう。下位レベル相手にしてろ。それ以上は他の仲間に任せろ」

 時々負傷した仲間兵を助けたりもする。ドライに見えて仲間を大事にするその姿勢は、自国の全兵士に尊敬されている。

 「“水心みずごころ”」

 海の方で、数メートルの水の刃が横薙ぎに振るわれ、同時に複数のモンストールが犠牲になった。
 ラインハート程ではないが、彼女もまた中々の快進撃を見せていた。
 たった今Gランクモンストールを倒した海棲族の生き残り・マリス。彼女は今得意としている海上(中)戦を繰り広げている。
 海棲族は水魔法に長けた種族として有名だった。そのお株は今も健在で、マリスに立つモンストールは全て水魔法の餌食となった。
 そのマリスだが、彼女はこの戦いではモンストールばかりを標的にして狩り続けている。その理由はごくシンプルだった。

 「まだだ...。まだ殺す、モンストールども...!」
 モンストールに対する復讐心。マリスの戦争に参加する動機はそこに限る。無論自分を救ってくれたラインハートと庇護してくれたラインハルツ王国の為に動いてるのもあるが、大半は自身の為である。
 家族も、友達も、領海も全て奪われた恨みを存分に晴らすべく、この時の為に磨いてきた力を振るう。モンストールに鬼気迫って攻撃して狩るその様子は、仲間の兵士でさえ畏怖する程だ。本気を出していない状態で災害レベルをも殺す彼女も、人族にとって十分な戦力であった。

 「生き生きとモンストールどもを殺しているな?少しは気は晴れたか?」
 「...戦争中に会話してくるなんて余裕ね?仲間兵たちは全然そうじゃないのに。私に話しかける暇があったら、もっと多くの魔物でも狩れば?モンストールは私がきっちり殺すから」」
 「俺以上にドライだな、相変わらず。つーかお前も余裕じゃねーか、会話してくれるんだからな」
 「......言ってろ」

 そんなマリスにラインハートが話しかけてくる。お互い軽口を叩き合って戦いに応じる。地上のど真ん中に蔓延るモンストールと魔物は、残すところ下位レベルが大半になり、あとは自国の兵士たちに任せることにした。

 二人の主戦力が揃い、海域の敵勢力の主力級が全滅するもの時間の問題...かと思われた。
 人族の快進撃もそう長くは続かなかった。


 「ぎゃあ!?」「かはぁ!!」「あ”あ”あ”!!」「なんだこの化けも...ごあ”あ”!」「あああああああぐぎゃあ!?」


 地上方向から仲間たちの断末魔の叫びが聞こえると同時に斬撃音・衝撃音・何かを砕く音が響いた。それまで余裕感を出してモンストールを狩っていたマリスの表情が一変する。魔族特有である“戦気の感知”によって、地上に突如現れた存在の強さを認識して戦慄する。
 そしてその表情は次第に憎悪・憤怒に染まっていく。戦気感知で対象の戦力と、その正体をも明らかにしたが、その敵はマリスにとって因縁のある敵だったからだ。
 顔色を変えて海から出て音がした方へ向かうマリスを見たラインハートも、ただ事では無いと察知して後に続こうとしたが、周囲にまだ敵がたくさんいるため、仲間らとともにその殲滅を優先した。
 海上のモンストールに目をくれることなくマリスは駆ける。


 「こんなことがあるなんて、ホントに偶然ね...。けど今はこの偶然に感謝するわ。この憎しみの根源が、今私の前に現れたのだから!!」


 これまで以上の殺意を滾らせながら、音源地に辿り着く。そこにはたくさんの仲間兵の死体の山があり、その中心に細身の人型の男が立っていた。


 「魔人族...!!しかもお前は私の国を滅ぼしたあの時、のぉ!!」


 怒りに任せて目の前にいる魔人族に怒鳴り声をたたきつける。尋常じゃない殺意を向けられた魔人族はマリスに目を向ける。そして意外そうに目を見開いた。

 「ん?......そこの女、海棲族か?俺が数年前滅ぼしたハズだったが、生き残りがいたのか?まったく、鬼族をたくさん殺し損ねたネルギガルドを責めることがもう出来ないな...」

 マリスの殺気に動じることなく独り言を呟く魔人族に彼女の怒りのボルテージはさらに上がる。
 「私の国じゃ飽き足らず、今度はこの国を滅ぼすつもりか......どこまで私の仲間を!殺す気だ!?お前はここで殺す!!」
 
 そう叫んで、手に濃密の水魔法が込められた魔力を纏い、“水心”とよばれる中距離攻撃を放つ。数メートルにわたる水の剣を、横薙ぎに振るう。Gランクモンストールを一撃で沈黙させた一撃だが、この魔人族相手ではそうはいかなかった。

 「ふん...」
 魔人族が片腕を目にも止まらない速さで振るった直後、水の剣が容易く折れた。
 が、通じないのは想定内だったらしく、即座に次の攻撃に移っていた。

 「“氷結牢獄アブソリュート・ゼロ”!!」

 魔人族を飲み込むかのように足元から巨大な鮫の口を模した氷の口腔が現れ、一瞬で対象を閉じ込めた。そしてその牢獄の中は、生物が生命活動不可能の温度まで秒で低下する。
 相手は魔人族。普通の生物を水準に考えてはいけないということで、氷の温度はマイナス千を下回らせた。Sランクの生物をも活動不可能にするレベルの牢獄。これで動きを完全に止められたかに思えたが...

 「“獄炎災禍ヘルフレイム”」
 「――!!?」

 その思惑は、濃密な魔力が込められた巨大な炎柱によって破られた。遠くにいる敵味方にまでも、その熱量で怯む程の超高熱の炎に対し、マリスは即座に身を守るべく水魔法が付与された「魔力防障壁」を己の身に張り付けた。

 「――そこでその防御法、良い判断だ。が、耐久力が脆い」
 「が......はぁ......ッ」

 獄炎を防ぎきった刹那、感知できない程の速度でマリスに接近した魔人族の漆黒の刃で、彼女の腹が貫かれていた。遅れて腹から夥しい血を流してその場で倒れる。そんな彼女を、魔人族は黙って見下す。

 「そういえば、海棲族のお前なら今の光景見覚えがあるんじゃないか?この俺の速さに誰一人見切ることが出来ずに死んでいく、あの一方的な殺戮を」
 「......」
 「だからさっきは動きを止める為の水魔法の上級、氷魔法を使ったんだろ?悪いな、俺には炎熱にも魔法の適正があるんでね。あんな氷じゃあ俺は止められない。分かるか?格が違い過ぎるんだよ」
 「グ...ウアアアアアァァ...!!」

 マリスは自分の無力さにただ叫ぶことしかできなかった。そして近づいてくる死に、恐怖もしていた。さっきの刃には闇属性が付与されて、動きが制限される。

 「もう殺すことになるが、せっかく二度遭ったんだ。自己紹介しよう。
 序列4位・クロック、この世界で俺より速い奴は存在しない。じゃあな、最後の海棲族よ。今度こそ滅べ...!」

 暗黒魔法でつくられた剣を突き立てて、容赦なく振り下ろす。

 (私、は...何もできなかった......こいつに傷一つさえも。憎いこいつを殺せないまま......みんな、のところに、私も......。)
 「あ、ああああああああぁ.........!!」



 「させるかよ」
 

 ガキン!と、刃と刃がぶつかり合う音がして、火花が散る。マリスに迫っていたクロックの剣は、突然乱入してきた男に止められた。
 
 「あ?俺の剣を止めた...?」

 即座に距離をとって、乱入してきた男を警戒するクロックに対し、乱入してきた男...ラインハートは後から来た兵士たちにマリスを預けさせる。

 「う...あ、あぁ...」
 「もう止めておけ。その代わり、その気持ちを俺に預けさせてくれ。あとは俺がお前の気持ちの分まで暴れてやるよ」

 何か言いたそうにしているマリスに二言声をかけて、敵の方に向き直る。

 「俺が相手だ、魔人族」


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