ゾンビになって生き返ったので 復讐してやる

カイガ

84話「超圧倒的な理不尽」


「限定進化」

 コウガが私を援護しに急降下してきたが、私は大丈夫だと彼に言って再び自分一人にさせた。今私の前にいる敵兵は3人。どれも冒険者Aランク級の強さを持ってる。ざっとGランクのモンストール・魔物1匹分の戦力だ。
 けれど「限定進化」した今の私はそれら数匹分の戦力にまで達している。人族の戦士に勝てないようでは魔人族への復讐は敵わない。コウガの援護無しにこの3人を倒さなければならない。
 ひと回り大きくなった体を自在に動かす。初めにいちばん背が高い男を狙う。向かって来る私に全く反応できていない。拳闘武術を使って顎に雷電を纏った掌底をくらわせる。
 打撃と感電のダブル攻撃に為す術もなく意識を刈り取られる長身の兵士。

 トッポ隊長!と後ろから叫ぶ女兵士がこちらに向かって来る。武器は槍。風魔法を纏って猛スピードで私の胴体を貫こうとしてくる。
 単純な真っすぐ突きかと思えば、途中で槍先が曲がって斜めから襲ってくる。かなり熟練された槍術だ。風魔法の付与でスピードもある。
 だけど速さはこちらの方が上。「見切り」で槍先をギリギリで躱し、「神速」で彼女の真後ろに移動。振り向くよりも速くこちらの攻撃が通る。

 「驟雨しゅうう

 鬼族拳闘武術の乱打技。名の通り数秒間で激しい連続の拳打を浴びせる。ただ適当に拳を当てるのではない。一撃全て相手の急所に入れている。
 後頭部、脊髄部、腰椎、脇腹。人体の背面における急所部分に全ての拳を入れる。女兵士はうつ伏せに倒れて動かなくなった。あと一人。
 2人がやられても冷静さを欠くことなく遠距離から魔法を放つ最後の手練れ兵士。狙いは私かと思えば私の足元に魔法を被弾させた。目くらましかと気づいた直後、足が地から離れなくなっていた。
 魔法をぶつけると見せかけて目くらまし...と見せかけた拘束技だった。相手は知略に長けている。動けなくなった私を見て、剣を抜いて突き刺しにくる。
 うん、好都合。足が動かないだけで上半身は自由。くっついたままの足に力を入れてその場で踏ん張る。腰が入った拳を、剣がこちらにくる寸前のところで放つ!

 「剛鬼」

 雷電纏った渾身の正拳突きが、相手の剣を砕いて顔面に直撃する。
 
 「ば...かな...!」
 
 顔の骨格が少し変わってしまった最後の兵士は仰向けに倒れて意識を手放した。一方の私も足元の周りの地面を削って拘束を解いた。
 「限定進化」を解いて元の体型に戻った私に、さっき倒した女兵士が声をかけてきた。

 「止めを、刺さないの...?」
 「私が殺すのは、魔人族と仲間を害した魔族たちって決めている。もう戦えない人族を別に殺そうとは思わない。背後からまた襲ってきたら殺すと思うけど」

 そう返した私に、彼女はそれ以上何も言わなくなった。これでひとまず私の方は終わった。
 コウガの方を見やると、どうやら終わっていたようだった。
 彼の戦場には、無数の死体が転がっていた...。




 リミッター解除してからの戦いの流れは、一方的にこちら側のペースとなった。
 超音速で駆けて瞬く間に弓兵どもを全員刈り取った。一斉に首を刎ねて凄惨な血の噴水が見られた。それを目の当たりにした兵どもとカミラは青ざめていた。
 だがすぐに気を取り直して次の罠をかけにきた。広範囲の捕獲網を上から放ってきたこれにも聖水効果が付与していた。
 同時に真下にいる兵たちが一斉に拘束魔法で俺を縛ろうとする。が、光速度の10分の1程の速度で動く俺を捕らえることは当然失敗に終わり、隙だらけのそいつらを斬り殺す。
 そして、嵐魔法「暴風」で捕獲網を吹き飛ばすという力業で罠を突破してみせた。
 そこからは、俺の姿を捉えることさえできないまま、この戦場にいる兵士たちはただ無抵抗に殺されていった...!

 現在、ここに残っている人間は、カミラ(数秒前、上空にいる召喚獣を殴って殺して地に落として、今は地に這いつくばっている)と気まぐれで生かしておいた実力ある兵士二人、味方のアレンくらいだ。アレンが相手した兵士はみんな死んでいないようだ。殺すまでもないといったところか。
 全員、もはや最初の勢いは無くなり心が折れていた。怯えた目で俺たちを見ている。カミラもその一人、俺が目を向けるとヒッと息を詰まらせ後ずさる。落下で怪我したのか、中々立ち上がれずにいる。
  
 「あんな力...聞いてない!何なのあれ...次元が違い過ぎる、策略どうこうの範疇を軽く超えている...聞いてない!」

 冷静さを失いうわ言のように呟く。全くその通り。次元が違う。作戦・対策・知略どうこうが通用しない理不尽な相手。人族にとって最強最悪最大の敵であり脅威が、今の俺だ。
 SF映画なんかで出る地球侵略モノのそれと同じだ。敵は理不尽。それに対抗するには、ずば抜けた知能と柔軟に対応できる策謀知略、そしてそれを補う武力だ。フィクションではそれで大体敵を撃退してきたが、ここは現実(俺にとってはこの世界もフィクションそのものだが)で、相手はフィクションを凌駕する理不尽さを持つチート人間。
 所詮虫けら1匹と巨象との綱引き勝負と同然。勝てる要素など無い。そいつが主人公でない限り、勝つ要素は無い。

 俺が、主人公だからだ!

 やがてカミラの足元にまで近づいて見下ろす構図に。依然彼女は恐怖に震えている。

 「俺の戦力を、見誤り過ぎたな。テメーがどんなにこちらの意表を突く策を発揮してもこっちとしては驚かされた!で終わりだ。それくらいに、武力に差があり過ぎたんだ。
 ...せっかくだから、俺のステータス見せといてやろう」

 カミラの目線と同じ高さになるようしゃがんで彼女にステータスプレートを見せる。

 「......こんなの、どうしようもないじゃないですか...どんなに軍略に長けていても、武力が足らなすぎる...初めから詰んでいたのですね、あなたたちに仕掛けた時点で、この結末は確定されていたということ...」
 「そうだな。昼間俺たちに絡んだあのデカクズが殺されたからといって敵討ちなんかすべきじゃなかった。国の要人でテメーらにとって貴重な戦力だったとしてもだ。賢いテメーでもこの力は読めなかったみたいだな」

 しばらく彼女は黙る。その間にアレンがこちらにやってくる。特に目立った傷は無い。完全勝利のようだ。お疲れという念を込めて肩に手を置く。アレンはニッコリ微笑んでその手を撫でる。

 「あなたも、もの凄いですね。この国屈指の戦力である彼らを倒したのだから」
 
 今度はアレンに話しかける。アレンはじっとカミラを見つめて返事する。

 「ん、中々強かった。けどさらに上を目指してる私にとって敵じゃなかった。あの人たちなら、きっとGランクにも勝てる」

 そう返されたカミラは、もはや乾いた笑いしか返せなかった。しかしすぐさま深刻そうな顔をして再び俺に話しかける。

 「それで...この後はどうするおつもりですか?先日滅ぼしたドラグニア王国のように、この国も滅ぼすのでしょうか...?罪の無い人や、亜人さえも、先程あなたが兵士たちを殺したよう、に」

 次第に顔をまた青くさせて俺に自分たちをどうするつもりか問うてきた。

 「言っておきますが、ハーベスタン王国を滅ぼした場合、亜人族の国「パルケ王国」はあなたたちを放ってはおきませんよ。この2国は不可侵条約と同時に安全保障条約も結んでいます。どちらかが危機に陥った時、もう一方が武力を以て救護するというものです。今すぐは無理でしょうが、数日であなたたちを討伐しにくると、思います」
 「そうなった場合は今度は亜人族が滅ぶがな」
 「ぐ、ぅ............」

 秒で、しかも強がりにしか聞こえないだろう返しに、カミラは言い返すことができずにいた。さっき俺のプレートを見て、それが可能だろうと悟ったのだろう。
 それにしても、不干渉を徹底していた魔族が人族の危機に駆けつけるとは。おそらくそういうことをするのは亜人族だけだろう。この国に住んでいた奴いたくらいだし。とはいっても早くてせいぜい明日くらいか。その間にこの国は滅び、攻めてきた亜人どもも返り討ちにしてジ・エンドだ。
 ふと、あることを思い出して、怯えた目でこちらを見てるカミラに問う。

 「なぁ、訊きたいことがあるんだけど、パルケ王国には―「な、何ということだ...!!」...ん?」

 と続きを言おうとしたその時、少し遠くからオッサンの怒鳴り声が聞こえてきた。


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