ゾンビになって生き返ったので 復讐してやる

カイガ

71話「オーバードーズ/連繋」


 彼らが戦い始めてから僅か1分程経ったところで、そこはもう王国とは呼べない更地と化していた。たった二人の争いで、王宮が消滅して、街が滅び、国という存在が跡形もなく消えてしまった...なんてこと、この場の外にいる人たちには信じられない話だろう。
 だが、実際二人の争いを目にすれば、納得せざるを得ない。それだけ、二人の争いは、世界を破壊するレベルの被害をもたらしている。

 僅か数秒で王宮が瓦礫の山と化したその場に、アレンたちは遠目で皇雅とザイ―トの戦いを見ていた。

 「ドラグニア王国が、もはや滅亡したと言っても、過言ではありませんね...二人が本気で戦っただけで、国一つが消滅してしまうなんて...」
 「いいえ、この国はコウガさんによって既に滅亡の1歩手前まで追い込まれていました。どちらにしろこの国は終わっていたのです......そういえば、あなたはサント王国の...」
 
 辺りを見回して呆然と呟くクィンにミーシャが応答してクィンの格好を見て気付く。

 「申し遅れました。私はサント王国の副兵長であるクィンと申します。王の命で、コウガさんを監視しています」
 クィンは改まってミーシャに挨拶をした。それに丁寧な返しをしたミーシャは、今度はアレンとドリュウにも目を向けた。視線に気付いたアレンは、クィンに倣い自己紹介をする。

 「私、アレン。鬼族の生き残り。サント王国に行く途中の洞窟でコウガと会って、仲間になった」
 「サラマンドラ王国の戦士ドリュウ、竜人族だ。アレンとクィンの護衛を任されてもいる」

 2人の自己紹介に、ミーシャがやや驚いた様子でいる。
 
 「鬼族...。最近絶滅したと聞きましたが、その生き残りの一人が、コウガさんの仲間だったのですか...それに、竜人族の方まで。色々、驚かされました...」
 (それに、アレンさん、コウガさんとかなり親し気にしている...それって、そういうこと...?)
 内心葛藤しているミーシャに、クィンが話に入る。

 「ミーシャ様...。質問なのですが...さっき言った国が既に滅亡1歩手前という話...彼が、コウガさんが本当にそうしたのですか...?」

 クィンの質問に、ミーシャは悲し気に答える。
 「はい...彼によって父のカドゥラ国王と兄のマルス王子、その他貴族、王国の街の人々。皆殺されました。彼の復讐で、国が物理的に滅ぼされてしまいました...」
 「そうですか......私は、彼を...また彼の復讐を止めることができませんでしたか...」

 クィンが悲痛に声を漏らす。その様子を見てミーシャは謝罪するように続ける。

 「私の提案で、彼を異世界から召喚してしまったのが、全て悪いのです。彼が復讐に走らせてしまったのは、私のせいなんです...!」
 「異世界召喚...ドラグニア王国が最近成功したという。そんな真実が...」
驚愕するクィンを見て、ミーシャはさらに続ける。

 「仮にあの魔人を退けられたその後は、コウガさんはおそらく私を殺しにくるでしょう。全ての元凶である私へ復讐することが、彼の望みでしょうから」
 「そんなこと...!これ以上コウガさんに、復讐など!私が、あなたをお守りします!死なせるわけにはいきません!」

 クィンは憤った様子でミーシャの護衛を買って出る。しかし、アレンが諫めるように割って入る。

 「クィン、またコウガの前に立ち塞がったら、今度は殺される。それでいいの...?コウガなら、迷うことなくそうすると思う」
 「っ!それでも、私はコウガさんにこれ以上復讐の爪痕を残してほしくはないのです。たとえ敵視されていても...彼に人の心が少しでも残っているなら、私は止めにいきます!」
 「そう...それがクィンの答えなのね」

 アレンはそれ以上何も言わなくなった。クィンも黙って、2人が争っている方角へ目を向ける。

 「コウガさん...あなたは今、何を思って何を考えて、行動しているのですか?」
 誰にも聞こえない音量で、ミーシャは呟いた。




 互いの拳と蹴りがぶつかるごとに、空気に皹が入ったような音がした。今俺たちは音速を超えた速度でぶつかり合っている。「彼ら」のレベルに達していなければ、その姿を視認することすらできない程だ。
 俺たちが争った跡は、地図を描きなおさなければならないくらいに、地形が滅茶苦茶になっていて、荒れている。
 まるで世界が滅亡するようなこの光景をつくりだしたのが、たった2人の争いによるものとは、何も事情を知らない者たちにとって予想外のものであろう。


 戦闘再開してから、ザイ―トの肉をさらに2回喰って「過剰略奪」してようやく、互角にやり合えている状況だ。それほどまでに、俺と奴との差は大きなものだった。
 この固有技能のお陰で、何とか戦えている。力が増したお陰で、冷静さを取り戻し、心に余裕もできた。

 「―ははははははぁ!!!」
 ザイ―トは笑っている。久々に全力に近い力を存分に振るうことに対する喜びからなのかはどうか知らないが、そんな感じがする。いや、たぶんそうだろう。なぜなら、

 「はあああああああああ!!」
 俺も、この状況を楽しんでいるからだ。ゾンビになってからは、ほぼ1撃で相手を殺してしまい、復讐する時は半分未満の力しか発揮できなかったため、全力で戦ったことがなかった。
 だが今は、思う存分に全力で戦っても倒れない相手がいる。本気になれる自分に喜びを感じている。ザイ―トもたぶん俺と同じことを思っているから、笑っているのだろう。とにかくここにきて初めてゾンビの俺が持てる全てを出せるときがきたのだ。

 初戦では焦って魔法の乱発だけになってしまったが、俺が本気で戦う時は、本来の戦闘スタイルは完全なる肉弾戦だ。
 脳のリミッター解除による人間の域を凌駕した身体能力、どんな生物をも上回るパワー・スピードを十二分に発揮すること。限界と制限が完全に無くなった奴が本気を発揮できるのは、結局は《《コレ》》に限る。

 というわけで、ここからは漫画やラノベで見て記憶した素手格闘の技を使っての攻撃だ。
 ザイ―トから少し距離をとって、突進態勢に入る。もちろんただの突進ではない。前傾姿勢のまま自分の腕を身体にあてている俺をザイ―トは訝し気に眺める。
 腕を自分の腰と背に巻き付けてその態勢のまま身体を大きくねじる。布や雑巾を限界まで絞るように。その姿勢のまま、力を溜める。数秒で最大限に力を溜めて、限界を超えた捻りを解き、溜めていた力を全て解き放ち、標的目がけて回転しながら突進。
 脳のリミッターは1500%解除。光速の約5分の1の速度のジャイロ回転突進の完成だ。そして油断しているザイ―トの腹に頭から突撃。
 ドキュンと耳が劈くような音が辺りに響き、ザイ―トは地と平行に吹っ飛ばされる。普通の生物・モンストールなら、木端微塵か大穴が空く程だろうが、当たった感触では、せいぜいアメフトの全力タックル程度のダメージだ。
 なので、すぐさま追撃に出る。飛ばした方向へ走り続けると、その先には案の定、何とも無さげな様子で立っているザイ―トがいた。
 俺は奴を視認するやいなや、すぐに次の攻撃に移る。突進系がダメなら、拳打や蹴りでいく。
 「瞬神速」で即座にザイ―トに肉薄して、音速の左足刀蹴りを放つ。その際に、アレンのマネで、足に雷を纏ってみた。当たった瞬間、雷鳴かと聞き違えるような音が響いた。
 が、その蹴りは、片手で容易く受け止められていた。そして今度はザイ―トの攻撃に移る。俺の左足を掴んだまま、「武装硬化」した左手を貫手状にして俺の心臓を刺し貫こうとする。 
 もちろんこのままやられるわけない。今まで見えなかった奴の攻撃の動きが、今ならしっかり捉えられるようになっている。だから、ここからカウンター技を放つことも可能だ。
 カウンター技をたくさん扱っていたラノベ主人公の内容を思い出しながら即座に構える。なお、今相手が繰り出しているのは刺し技。今の状態だと刺し貫かれるので、狙われている部分に「硬化」を集中させておく。
 そして奴の突きが胸に当たった直後、全身の筋肉と骨をフル稼働させる。攻撃された胸部分を起点に、腹と背→腰→右脚→右足の順に衝撃をずらして、最後の右足を使い、カウンター蹴りを奴の腹に叩き込む!
 奴自身の突きの威力と俺の蹴りを合わせた倍返し技をくらい、さしものザイ―トも苦悶に顔を歪めた。それも当然だろう。奴の腹から血が出ている。俺の蹴りが効いた証拠だ。

 「今のは...!?」
 ザイ―トは俺のカウンター技に驚きの反応を見せる。

 「何、少し格闘技を出しただけだ。使ったのは今が初めてだがな。ぶっつけ本番で成功できてよかったよ。ま、これから繰り出す技全て、ぶっつけ本番だけどな!」

 距離をとるザイ―トを追って、攻めに転じる。追ってくる俺に対し、ザイ―トが突然前に出て、俺の首を落としたあの鉤爪状に立てた手を構えて俺を迎え撃つように突撃しに来た。

 『破砕爪クラッシュガロン

 くらえばまた首が落とされる。他の部位に当たってもその部位が消し飛ぶ威力のクロー技だ。さらに奴は今突進しながらあの技を放とうとしている。威力はさっきの倍以上だ。
 それに対する俺は迎え撃つわけでもなく、魔力攻撃を放つわけでもなく、障壁を張ることもしない。カウンター技を使う。今度は突撃に対する型でだ。

 向かってくるザイ―トを見据えて、まずは特別に硬質化した両手を開いて、奴のクローがぶつかるタイミングを読んで前に突き出す。
 クローがぶつかった瞬間、全身を旋回させ、手首→肘→肩→背と腹→腰→脚と順にクローの衝撃を送っていく、音速で。そして最後にさっきと同じ、奴の攻撃も乗せた左の爆蹴りを顔面にぶちかます!
 2回目のカウンター蹴りが決まってまた吹っ飛ばされるザイ―トを見て、俺は軽く快哉を上げる。受け止めた部位だけでカウンター技を放つのではなく、受け止めた部分を起点にして、手から足へ、足から手へと全身を使って相手の攻撃を流してパスして加速もさせて、倍返し以上の威力にして返す。
 相手が強いほどこの威力は強くなる。途中失敗すれば体がバラバラに吹き飛ぶがな。

 この一連の流れは攻守ともに使える技だ。これを『連繋稼働リレーアクセル』と呼ぶ。この世界で俺だけにしかが使えないオリジナル技だ。ゾンビの体で、この新しく強化された「過剰略奪」で得た「身体武装硬化」を持つからこそ可能にできる特別技だ。
 能力値の差は技で補えばどうにかなる。現実での日本リレーがバトンパスの技術を進化させて世界でメダルを獲ったように、俺も技を磨いて進化させた。足りないなら足せばいい。

 ま、それでどうにかできる相手なら良いのだが、今戦っている奴は、そうはいかないようだが...。

 「俺の攻撃を利用して反撃をくらわす技か。それも凄く高度なカウンター技を、だ。クク、さっきと本当に別人のように強くなったな」

 二度もカウンター技をモロにくらったのにも関わらず、ザイ―トは楽し気な笑みを浮かべて戻ってきた。

 さぁ、まだ終われそうにないこの戦い、どう決着つけてやろうかな。


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