ゾンビになって生き返ったので 復讐してやる

カイガ

69話「イレギュラーのゾンビ」


 俺がモンストールどもと同類。現在の魔人族と似た存在。屍族...。

 「コウガさんが、モンストールと同じ存在...!?そんなことって...」

 ミーシャがショックを受けている。俺が人族の宿敵と同類だったということに対するショックなのかどうかは知らんが。
 俺も少なからず衝撃を受けている。死んだ自分がまさかの人間たちの敵として生まれ変わっていたのだから。
 だが、ザイ―トが魔石のことを言った時、俺は薄々予感していた。自分がどうしてゾンビとして復活したのかを。そして魔物のなれの果てがモンストールだと知らされた時、自分もあいつらと同じ過程で今に至ったのだと。

 「あとは王女でも分かる通り、今から5年くらい前...俺たちからにしたらごく最近のことだな...俺たちはついに動いた」
 「地下一帯に、大量の魔石を気化させて瘴気地帯をつくって、昔繁栄していた魔人族たちと同じくらいの数の同胞を誕生させた。そいつらで新たなる魔人族の軍を編成して、満を持して再びこの世界に現れて人族・魔族、無差別に襲った」
 「戦士と民を殺し、領地を侵略して、数百年前のあの時代を再現させた!

 ...俺の授業は以上だ。これでこの世界の真実を知ることができただろ?」

 最後にそう締めくくってザイ―トはこの世界の真実とモンストール発生の真実を全て話した。だが、まだ謎が解けていないものがある。

 「俺がモンストールどもと限りなく近い存在であることは分かった。俺とあいつらの違いと言えば、元の種族が異なる、というのが一般的だろう。
 だが、まだある。それも大きな違いが」
 俺はザイ―トを睨んでそう述べる。そんな視線を受けても、ザイ―トは余裕の笑みを浮かべたままだ。ミーシャはどういうことかと俺を見て、すぐにハッとした様子を見せる。彼女も気付いたようだ。

 「屍族だろうと、心臓や脳を破壊したり、体を真っ二つにしたり、炎で跡形もなく消したりすれば、モンストールでも生前通り絶命して動かなくなってる。それは俺も、人族も魔族も、知っての通りだ。

 だが、俺は見ての通り、バラバラにされても、心臓や脳を破壊されても、致死に至る傷を負っても毒に冒されても、しばらくすれば再生して元通りに復活、生命活動が停止することがない。不死身の化け物、“ゾンビ”だ!
 この体質はどういうことなんだ?結局、俺は何なんだ?」

 未だに最大の謎である俺のこのゾンビ体質。殺しても死なない。もう死んでいるのだから。
 消し炭にしても消えたりしない。塵が集まって元通りに再生される。
 そんなチート能力を備えているのは俺ただ一人。これまでに遭遇したモンストールで俺と同じ奴など、誰一人としていなかった。
 質問をして数秒たち、ザイ―トがようやく口を開いた。


 「俺にも分からん」

 それが、奴の答えだった。

 「分からん、だと...?話からするに研究熱心だったテメーでも、俺がどういう存在なのか、分からないってか?」
 
 噛みつくようにザイ―トに詰問するが、彼は憮然として答える。
 
 「瘴気を吸ったことで不死にはならない。規格外の力が得られるだけだ。
 さっき俺は、初めてお前と遭った時、軽く小突いたと言ったな?あれは本当は生け捕りもしくは殺してお前を研究しようとしての攻撃だった。あの2撃でお前は死んだと思ったのだが...その直後、お前は予想外の行動をした。
 分裂体とは言え、俺の攻撃を受けて死なない生物はいなかった。
 だがお前は死ぬことなく、それどころかその後再び現れたお前の身体は元に戻っていたな?俺にとって、全くの未知で不可解な現象だった。完全の不死身生物など、初めて見た生物だ。
 お前は、俺にとっても“イレギュラー”だ」

 俺を得体の知れない生物を見る目でそう言うザイ―トに、俺はしばし呆然とする。隣にいるミーシャも同様だった。
 つまり、俺だけ例外で、イレギュラー反応が起きて、このクソチートでさえも把握していない事態を起こしているということになるのか、俺は。この世界のバグ事象に当てられてゾンビになった、って言われても納得できる自信があるわこんなの。
 ともかく、分かったことは...

 俺は死んだが、ザイ―トが発生させた瘴気によって、死体状態のまま生前通りに活動できるようになり、その際に規格外の力を手にした。だがその力は、ザイ―トが従えてる魔物どもと違ったものだった。殺しても終わらない不死身の身体となり、無限に強くなれるゾンビスキルだった。そのことについてはザイ―トでさえも予想外であり、俺はイレギュラーであるということ。

 といったところだ。

 で?だから何だよ、って話だよ。首と胴体バラバラにされたこの状況で一体どうしろというのやら。

 「さて、色々話し込んだが、このままさようならするわけにもいくまい。
 長い長い時を経て、今ようやっと俺たち魔人族が再び表舞台に出て世界を支配する時がきた。手始めに、この国を消して、そのあと竜の国も消して、この大陸を支配するとしよう」

 ザイ―トの言葉に俺は戦慄する。サラマンドラには、アレンたちがいる。このままこいつを好きにさせると、あいつらも殺される...。
 出会ってまだひと月も経っていないが、アレンは高校の部活仲間以上に仲間意識を感じていて、死んでほしくはないと思ってもいる。
 ...クィンと他の人族や魔族、あとお姫さんは別にどうでもいいが。あと、《《あいつ》》も...。

 たった一人のために、俺はどこまで頑張れる?漫画やラノベの主人公みたいに、身を削って命を賭して、自分よりはるかに強い化け物に立ち向かえるか?
 俺は不死身だ。だから死を恐れることはない。だがそれだけだ。指一本動かせないこんな自分が、目の前にいるクソチート野郎にどう立ち向かえばいいんだ?
 仮に拘束が解けて自由になったとしても、力の差は依然変わらない。
 敵わない敵に、頑張れるほど、俺は主人公気質じゃねーんだよ...

 ザイ―トに対する闘争心が折れかけたその時、ミーシャが俺の庇う様にザイ―トに再び立ちはだかった。ザイ―トは、またか、と言いたそうな顔を浮かべる。
 俺は戸惑ったまま彼女に声をかける。

 「お姫さんよ...さっきも言ったが、ここでテメーにできることはないはずだ。あいつ相手には無駄だが、ここから遠いどこかへ逃げる方がまだマシだろ?テメーを殺そうとした俺を、それでも庇うつもりか?気は確かか?」

 憎まれ口をたたく俺に、ミーシャは振り返って、無理やりに笑顔をつくってみせる。


 「どうせ同じ死ぬ末路なら、逃げるよりも立ち向かって死ぬ方がマシです...!」


 その言葉に俺は驚かされた。このお姫さんがそこまで肝が据わっていて、覚悟を決めていたなんて。俺と違って力が無いどころか戦闘センスが全く無いのに、なぜお姫さんはそこに立っていられるのか...?

 「戦闘において力も才能も無いのに、俺よりはるかに弱いのに、なんでそこにいられる?なんでここから、俺から離れようとしない...?」

 またも質問する俺を見つめながら、ミーシャは今度は頬を赤らめながら歯切れ悪く答えた。

 「そ、れは...コウガさんが...私にとって、憧れの人で、気になる人で...特別に想思っている人だから...その...うう」

 最後は普通なら聞き取れないような声量だが、五感が発達した俺には全て聞きとれた。
 まさかだが、家族の仇である俺に...異性として気があるとかいうクチなのか...?いや、これまでの内容振り返って、そういうフラグなんか発生しなかったハズだろ?ラブコメ系ラノベ主人公気質じゃない俺が異性に、しかもお姫さんと接点持つとか、たとえここが異世界だろうとあり得ん!
 アレン?彼女は例外だ!

 ―と、シリアスぶち壊しても状況は変わらない。が、完全に終わったわけじゃないようだ。
 「気配感知」でついさっき気付いた。とりあえず、ここから巻き返せるかどうかは分からない。だがもうやるっきゃない。

 「不死身のお前は後にするとして、まずは王女、お前から―」

 と、ザイ―トがミーシャを標的にしたその時―

 
 「鬼族拳闘術『剛閃』」

 ザイ―トの側頭部を、雷を纏ったつま先蹴りが正確無比に射抜いた―!
 ドキュウウゥンと音とともに、ザイ―トはもの凄いスピードで真横に吹っ飛んだ。壁をいくつも巻き添えにしながら姿が見えなくなっていった。

 それを成した張本人は、驚愕の表情が張り付いたままのミーシャの真横まで来て、俺の拘束を解いてくれた。

 「俺のお願い聞いてくれてサンキュー。マジで助かったわ― アレン」
 「うん、助けにきた。コウガ、今度は私が助ける番だよ!」

 「限定進化」を遂げたアレンが、来てくれた。そうだ、俺は“保険”をかけておいたんだった。予想外の事態が起きることを想定して、アレンにメッセージを残しておいたんだった!お陰で彼女に助けられた。
 折れかけていた心が回復し、再び立つ気力が湧いた。まだ敗けてはいない。
 さぁ、もう一度挑もう。あの化け物級のクソチート野郎に...!!

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