ゾンビになって生き返ったので 復讐してやる

カイガ

59話「絶望と苦痛に泣き叫ぶ王子」


 俺に突然声をかけられてビクッとしてして、さらに俺の顔を見て驚愕する。が、流石は腐っても王子と言ったところか、すぐに気を取り直して俺に対し、あの人を見下したキモくて不愉快にさせられる口調で話してくる。

 「貴様...あのハズレ者か!死んだと思ったのだが。運が良かったのか、それとも精霊にでもなって化けて出てきたのか。」
 「相変わらず人を見下した態度と言動だな。しかも俺の名前まで忘れちまったようで。」

先程のビビり顔はなりを潜め俺を貶すような口調で話す。ビビッてたくせに。まー面の皮が厚いこと。そういうところは流石この国を統べる者といったところか。まぁ人として終わってる性格だが。

 「本当に、貴様がこの騒動を起こした主犯者か?」
 「そうだ。そしてお前がつけたのか知らんが、救世団のメンバー、つまり俺の元クラスメイトどもを片っ端から殺しているのも、オ・レ・さ...!」
 俺は自分に親指をさして自白した。

 「ありえぬ!あの時、ブラットの報告によれば、貴様の職業とステータスは他の異世界人たちよりはるかに弱いと聞いた!そんな貴様にあいつらを...殺した?信じられるか、ハズレ者が!」
 「いやー残念だったな?せっかく苦労して異世界から召喚した人間で結成した世界最強レベルの武力組織が、俺一人に壊滅させられたのだから。今の俺にはそれができるだけの力がある。
 試してみるか?テメー少しは戦闘できるんだろ?下位レベルのモンストールを倒せるくらいには、か?」

マルス・ドラグニア 19才 人族 レベル30
職業 僧侶
体力 500
攻撃 500
防御 500
魔力 500
魔防 500
速さ 500
固有技能 光魔法レベル5 闇魔法レベル5 重力魔法レベル5 魔力障壁 堅牢 魔力光線 回復

 「鑑定」ですぐさま確認する。王族である故に、素質はそこらの兵士よりは高いようだ。ま、今の俺からすれば塵や埃と変わらないが。
 
 「その身なりとクソな性格のくせして僧侶かよ?ジョブチェンジした方がいいぜ?テメーみたいな僧侶がいてたまるかよ。」
 「なぜ余の職業を把握している......いや、もういい。というより、ステータスも把握したのなら、分かっただろう?余と貴様との戦力の差を。貴様が余を殺すことなど、あり得ぬと!」

 プレート無しに自分のことを知られて動揺したが、すぐに余裕になる。まだ自分が俺を上回っていると思っているらしい。

 「あの頃の俺と比べるなってー。仕方ない。俺の今の全て見せてやるよ。ほらっ。」
 俺はクズ王子に自分のプレートを投げ渡す。それを見たクズ王子の顔色が徐々に青くなっていく。

 「......は??レベル500超え?全ステータス5桁...いや、6桁??それに、この技能の数...!ゾンビ...だと!?」
 動揺のあまりにプレートが手から滑り落ちた。

 「ったく、人の持ち物を落とすなっての。」
 「―!!?キ、サマ!?いつの間に!?」

 こいつからしてみれば、俺が突如真横に現れたように見えたのだろう。この時点で、力の差...というか格の差に気が付いていいのだが、そうはならなかった。

 「故障だ!貴様のプレートがおかしくなってしまっている。そうに違いない!こんなステータスの人間などいてたまるか!!」
 「プレートの耐久力については知らないけど、一応正式な数値だぞ。今見せた『瞬足』が証拠のつもりだが。」
 「ほざけぇ!縛り付けてくれるっ!重力魔法、『束縛』!!」
 冷静さを半分欠いた様子で重力魔法を唱える。その直後、身体を縛られた感覚が。

 「重力の塊でできた縄で対象を縛り上げる魔法だ!これをくらって脱出した者は誰一人いない!!このまま骨を砕いてやるっ!!」

 わざわざ解説して、さらに束縛を強める。確かに並みの人間なら内臓も潰せそうだな。クズ王子が手をグッとより強く握ると、縛る強さが増した。が、こちらは何とも無い。
 
 「ん?これがテメーが言う骨を砕くレベルか?」
 「は?な、何ともないというのか!?」

 動揺したクズ王子は、拘束したままもう一つ魔法を唱える。二重魔法できるとは、意外に達者なんだ。
 で、現れたのが、巨大な悪魔っぽいなにかの巨大な口だ。

 「闇魔法『悪魔の口腔デビル・ゲート『』!砕けろぉ!」
 
 そう叫ぶのと同時に、悪魔の口が、俺を嚙み砕こうと一気に閉じられ―なかった。
 牙が体に触れる寸前、あくびしながら突き出した俺の右手に顎の動きが止められたのだ。

 「あ...?なぜ閉じない!最大出力だというのに、片腕で止めただとぉ!!?」
 「ことごとく漫画の雑魚キャラみたいなリアクションをしてくれて面白いな、ゴミカス僧侶(笑)王子。で、そろそろ分かったか?俺とテメーとの戦力差を。」

 そう言いながら、拘束などまるでなかったかのように平然と歩いてみせる。

 「な...なぁ!?こんなことが...!貴様は、どのようにしてその次元に至ったんだ!?」
 「それは、テメーも俺と同じ目に遭えば、分かるんじゃね?」

 問答しながら、両者との距離が縮まり、いつでも拳や蹴りが届く範囲内まで近づく。

 「く、そおおおおおお!!」
 ついに発狂した王子(笑)は、やけくそに焦点の合わない魔法を乱発する。それを最小限の動きで躱し続け、「硬化」して刀化した左腕を振るい、パニック王子の両腕を綺麗に切断する。

 「がああああああああ!!?余の、腕がああああ!!!」

 自分の腕から血の噴水が上がる様を見てさらに発狂するダサ王子。

 「それくらい我慢してみせろよ。俺なんかそんなのよりももっと酷い目に遭ったんだから。
 ...テメーの命令のせいで。」

 無意識に声のトーンが落ちる。まだ悲鳴を上げている大げさ王子の胸倉をつかみ上げ、こっちに顔を向けさせる。

 「は、離せ!貴様、誰の胸倉をつかみ上げているのだ...!?ず、図が高いぞ!?」
 「掴み上げてるのに図も何もあるかよ、生きる価値無し王子が。」

 声のトーンをさらに落とすのと同時に、風魔法を声に乗せて、威圧をかける。ここにくる道中で、こっそり練習した成果もあって、生ゴミ王子は顔を恐怖に引きつらせる。

 「テメー、俺にあれだけの仕打ちさせといて、よくまぁまだそういう態度が取れるな?あの日、テメーの命令で、兵士とクラスメイトの魔法で廃墟を壊したことで、俺は瘴気まみれの地下へ落ちて、そこで死んだ。
 テメーらの身勝手な召喚で、世界を救えだの化け物と戦えだのと、自分らの都合を押し付けておきながら、俺みたいに優れないステータスがいると分かれば、手のひらクルーっと態度を一変させ、元クラスメイトとともに俺を蔑み、嘲笑い、しまいには怪我して動けなくなった俺を捨て駒にした...。
 俺は、元の世界でまだやりたいことが沢山あったんだ。それをテメーらの勝手で全て奪われた!挙句!命まで奪われた!!分かるか!?俺がテメーら王族どもをどれだけ憎んでいるか!!」

 口調とは裏腹に、俺の顔は憎悪で歪むことなく、どこまでも冷たくて平坦で、無表情だった。それが余計に恐怖として感じたらしく、クソゴミ王子はすっかり萎縮して、身体も震えていた。だが、まだ言い返す余力はあるらしく、

 「し、仕方なかろ、う。あの時は、本当、に...窮地だった...キ、サマを救助して、いたら、あの災害モンストールに、追いつかれ、全滅の、可能性があったのだぞ?避けられない、犠牲だった...。分かってく、れ...!」

 途切れ途切れに、必死に弁明した。傍から見れば、助かりたい為の詭弁に思えるが、一応事実でもある。

 「確かに、あんな状況だったら、動けない俺を切り捨てるのは合理的で正しい判断だった。一を捨てて十を救う、みたいなやつだよな?」

 同意するように言った俺に少し安堵したような表情を浮かべる。が...

 「だが、テメーはあの時、俺を見下しながら何を言った?俺はしっかり脳裏に焼き付いているぞ?俺が今後の戦いで活躍などしないだろうだの、不要な駒だの、死ねと言っていたようなものだったなぁ?
 何が、召喚にいくら時間と努力、魔力を費やしたと思う、だ?
 何が、身を削る思いでようやく叶った召喚だ?
 忘れたとは言わせねー。テメーは、俺を侮蔑を込めた眼で見下して、罵って、嗤ったんだ。だから...存分に苦しめて殺す!」

 ニタァと、嗜虐的な笑みを浮かべて、俺は暗黒魔法を唱える。
 「“苦しめ”」

 その一言で、魔法が発動する。詠唱短縮ってやつだ。魔法は、「苦の環状線ペイン・ローラー」―ただ全身が引き裂かれるような感覚を味わう効果だ。

 「ぐああああああああああああ!!!よ、せええええええええええ!?」

 ゴミ...呼称変えるの飽きたな。王子でいいや。王子の部屋中に絶叫が響く。
 「誰かっ!余を、余をたすけ、ぎゃあああああああああ!!!」

 助けを呼ぶが、誰も駆けつけてくることはない。

 「ああ、言い忘れてた。王宮内に残っているのは、テメーと国王と兵士数人...といっても、国王の護衛兵だな。もうそれだけだ。全部、俺が消したぞ。」
 「あ、ああ...あ―――――」

 それを聞いた王子は、完全に折れたみたいで、涙を流す。

 「絶望したか?悔いているか?俺は、こんな状況になっても、お前らへの恨みや憎しみや殺意を滾らせていたぜ?ほら、俺に殺意の一つでも向けてみろよ。あの時の俺みたいに!」

 さらに歪んだ笑みを見せて、魔法を強める。

 「ひああああああ!!も、もう、赦しえ...助けて...撤回するから...貴様、いや、貴方様をハズレ者というのは取り消すから...望むものは全て献上するから...こ、ろ、さないで!!」

 あーあ。俺に対する憎悪や殺意など皆無。命乞いしかできないとは。

 「望むもの...。俺が望むものは...」
 ここで言葉を切って、できる限り爽やかな笑顔をしてみせる。



 「テメーの、無残な死、だ」

 魔法を解除して、嵐魔法を纏った正拳突きを王子の胴体に叩き込む。
 直後、王子の腹に風穴が空き、さらに風穴を起点に全身に亀裂が走って、ズパパパッと体がバラバラになる。正拳突きと同時に、風の刃も乗せて相手に斬撃をもくらわせる攻撃。「風刃拳」とでも名付けようか。安直だが。

 「か...か...」
 かすれた声を出した直後、ぼとぼとと肉片となって地面に落ちる。首から下はただの肉塊と化した。
 
 「あっはははははははは!!ついにぶっ殺した!復讐できた!このゴミカス王子をこうすることがずっと念願だった!もう殺したあの8人と同じくらいに憎み恨み、殺意を抱いてきたこいつを!気ん持ち良いいいぃぃぃ!!」

 快哉を上げて大喜びする、先日ぶりの行為だ。
 だがまだ終わりではない。次は諸悪の根源だ。俺をここに勝手に召喚しておいて不遇な目に遭わせて、この世界で死なせたも同然のあの老害を殺しに行く。
 しばらく喜びの声を上げてから、俺は再び侵攻する。

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