ゾンビになって生き返ったので 復讐してやる

カイガ

57話「18名の処刑場」


 ドラグニア王国の各所で救世団...皇雅のクラスメイトたちが、ゾンビ兵士と応戦していた。実力はクラスメイトたちの方が上回っているが、殺しても死なない相手に彼らは徐々に疲弊していく。しばらく泥沼状態になっていたが、突然ゾンビたちは一斉に王宮方面へ走りだした。
 わけがわからない様子になりながらも、クラスメイトたちはゾンビを追って王宮前にたどり着く。
 王宮前は、大きな庭があり、中央には王宮へ続くアスファルト舗装の通路が敷かれてある。
 そのだだっ広い庭で、クラスメイトたちとゾンビたちは対峙する...かと思えば、ゾンビたちは、先程とは変わり、戦闘態勢を完全に解き、脱力状態にあった。

 「何なんだこいつら...!?街中で暴れていたのに突然ここまで走ってきて、今は戦う気ゼロの様子だし...」

 ゾンビたちの様子に戸惑いの声を上げたのは、クラスの男子学級委員の鈴木貞三郎である。
 彼は大西たちとは違って、皇雅には直接的にも間接的にも害を与えてはいなかったが、皇雅を腫れもの扱いする姿勢は他のクラスメイトたちと同じであり、過去に皇雅の態度を糾弾したこともある。大西たちを敵に回したくないからこその行為であったが、結果的には、彼も皇雅にとっての復讐対象に入ってしまっている。
 鈴木を含む18名のクラスメイトたちは、全員どうすべきかと棒立ち状態になっていたが、そんな状況を変える出来事が。

 ―パンッ―

 両手を合わせて叩く音が、後方から聞こえた。と、同時に―

 「「「「「ドオオオオオオオオオオ――――――」」」」」

 脱力していたゾンビたちの体が突然不自然に膨らんだかと思えば、小規模な爆発が起こった。

 「うわぁ!?」「何!?何なのよぉ!!」「ぎゃあああ!!熱いっ」「おい、爆発に巻き込まれた奴がいるぞ!すぐに治療を―」

 突然の爆発に狼狽する者、爆発に巻き込まれて大怪我を負う者、そんな彼らを見て治療を試みようとする者など、クラスメイトたちの反応は様々だ。その表情は、全員恐怖に染まっていた。
 そんな中、鈴木はただ一人、爆発が起こる直前に聞いた音の鳴った方を凝視していた。その方向から誰かが悠々と歩いてくるのが目視できた。
 やがてその正体が明らかになると同時に、鈴木は目を見開いて、他のクラスメイトたちとは種類の違った狼狽を見せた。

 「あ、あいつは...!?」
 そんな鈴木の様子を不審に思ったクラスメイトの何人かも後方を見る。そして同様に驚愕した。
 無理もない。王宮前に突然現れた人物は、死んだと思われていた元クラスメイトだったのだから。




 手を叩くと同時に、例のごとくゾンビ兵士どもが自爆した。それに巻き込まれて重傷を負ったカスどもが何人かいた。あれしきの爆発でか、ザッコw 嘲笑しながら歩いて行くと、俺に気付いた男が一人、狼狽にしながら何か呟いた。
 確かあのキモ額縁眼鏡は、学級委員の男の鈴木か。大西どもほどではないが、俺にとっての害虫だな。よし、たくさん苦しめて殺すぞぉ!
 鈴木の狼狽につられて、残りの奴らも俺に注目した。

 「え...あれって甲斐田!?」「嘘!?ホントに甲斐田?」「先月の実戦訓練でいなくなったんじゃ!?」「ねぇ、なんかおかしくない?雰囲気が別人で...」「あの状況で生還できたのか?」

 例のごとく俺が現れたことにあれこれほざいている。いちいちあいつらの疑問に答える気はないので、俺の用件を簡潔に述べて、さっさとコトに移ろう。ごちゃごちゃ喚いているあいつらにさっきみたいに手をたたいて注目させる。

 「はいはーい、テメーら約1ヵ月ぶりですねー。覚えているかなー?甲斐田皇雅でーす。テメーらに見捨てられ、嗤われながら地獄に落とされて、死んでしまった男でしたー。奇跡的に復活した今は、ゾンビとして活動している。そんな俺が、お前らに要求することはただ一つ。

 ―死ね」

 瞬間、俺は駆けた。全力疾走ではないが、これから殺すあいつらには俺が一切見えていないようだった。最初に手にかけたのは、男子生徒の誰かだ。
 駆けた勢いのまま、手を広げて力いっぱい首から上を《《掴んで引っこ抜いてやった》》...!
 今俺が掴んでいる頭を回して顔を見てみると、その顔は、間抜けに呆けていたからだ。

 「え...あれ?俺の体が、何であんなところ...に.........」

 首を引き千切られたことすら気付いていない首だけの男子生徒は呆然と自分の体を見つめて、血を吐いて事切れた。俺は無造作に物言わぬ死体首を投げ捨てる。未だに呆然としているカスどもに向けて。

 「え...?う、わああああああああああ!!?」
 誰かがその首を見て情けない悲鳴を上げる。それにつられて他も喚きだす。

 「森川が!森川の首がぁ!?」

 ああ、今殺した奴、森川っつったっけ?たしか森川巧だったっけ?まぁどうでもいいや。全員殺すし。もう思い出す価値すらない。ただのモブどもだ。
 だが、モブだろうが殺さないというのは絶対無い。こいつらも同罪だからだ。当然だろうが。大西どもに肩入れして、同調して俺を孤立に追いやったのだから。
 大西どもと一緒になって俺を蔑んで嗤って見捨てて落としたのだから。
 事情など知るか。俺は自分の感情に従う。欲望のままに、こいつらをぶち殺す。温情など一欠けらすら与えない。
 
 「いや、自分の心配してろよ?数舜後か数秒後かにはテメーらも同じ目に遭うんだって」

 そう言いながら2人目の首を刎ねる。今度は恐怖が張り付いたような顔が見られた。イイね。とてもそそられます!

 「の、野口が...!」
 ああ、こいつ野球部の野口か。野口将輝だったか?

 「ま、待ってくれよ!殺すことなのか!?俺たちに見捨てられて、死んじまって、そりゃ憎い気持ちになるだろうけどさ!仕方なかったんだって!ああでもしないと、俺たちがあのモンストールに殺されていたかもしれなかったんだぞ!?お、俺たちも申し訳ないとは思ってたよ。本当だ。甲斐田は嫌な奴だったけど、死ねとまでは思ってなかったし!」

 鈴木が俺を宥めようと必死に説得にかかる。俺は無表情。それを見た鈴木はさらに口を動かす。
 
 「そうだ!藤原先生が嘆いていたぞ?甲斐田を助けられなかったって!高園もしばらく誰とも話せないくらいに落ち込んでいたし!お前が死んで、喜んでた奴は、大西とかだったぞ!山本とか、片上や須藤、里中、安藤だってそうだ!こ...ろすなら、あいつらだけにしないか...?」

 死にたくないとばかりに必死に弁明する鈴木をよそに、俺は一人考え込む。

 「先生はともかく、高園が、ねぇ?俺が死んだと落ち込んでいたと?」
 「あ、ああそうだ。俺も、本当にすまないと思っている!だから、この通り―
 
 ―くたばれぇ甲斐田ぁ!!」

 突然、鈴木が声を荒げて大きく手を振り上げる。直後、俺の胸から剣が生えた。後ろを見ると、してやったと言いたそうに不敵に笑みを浮かべる男子生徒が俺を刺し貫いていた。
 こいつは早川。早川たかしだ。須藤と仲が良く、俺を貶めるような発言をしていたこと、忘れてはいない。害虫野郎だ。そしてヤニカスでもある。
 そういや、須藤が俺の下駄箱にタバコの吸い殻を大量投棄したのって、あれにこいつも加担していたとか何とか。ならここで十分に地獄を見せてぶっ殺すとするか!
 武器からして、こいつは剣士か。この一撃で俺を仕留めたと思っているようで、ざまぁと言いそうなキモい顔してやがる。
 ここまできて尚も俺を不快にさせるのかよ。決めたわ。こいつには元の世界での分も合わせて、絶望と恐怖を味わわせてぶち殺す。
 剣の切っ先を掴んで適当にへし折る。そして柄部分も引き抜いて投げ捨てる。ついでに柄を握ってた早川の右手も引き千切る。

 「あぎゃああああああ!?手が!手がぁ!甲斐田が!?何で生きてぇ!?」
 激痛と疑問でパニックになって転げまわる無様ヤニカス野郎。

 「は?は??早川...?甲斐田はなんで平気なんだ...!?」
 鈴木は理解が追いつかない様子で俺を見ている。その顔には絶望が張り付いている。

 「話聞いてなかったのか?俺はゾンビだ。剣でぶっ刺そうが、首を刎ねようが、死ぬことはない。だって死んでいるんだし、な!」
 そう言いながら、倒れ込んでいる早川の頭を掴み上げて、鉤状の手でその腹を抉る。

 「あああああああ!?痛い痛い痛いいいいぃ!!」
 無様に悲鳴を上げる早川を見て、鈴木と他のカスどもは恐怖のどん底に陥っていた。涙を浮かべて震えている者、嘔吐する者、腰を抜かしている者様々だ。

 「ああ、鈴木。言っておくが、さっきお前が挙げた名前の奴らな?とっくに俺が全員殺したぞ」
 「え...!?」
 「それにしても、高園のことは予想外だったわ。わざわざ情報どうもな。というわけで、ぶっ殺すな?」
 
 淡々と言いたいこと言って、俺は早川を虐殺しにかかる。腹に突っ込んだままの手をデタラメに掻き回して、内臓を掴みで潰していく。
 胃、肝臓、腸全て、肺、腎臓と、一つ潰す度にこのヤニカス野郎がくっそウケるほどに断末魔の叫び声を上げるものだから、思わず吹き出す。

 「ぎゃああああああ、ごぷっ!!あ、あああ、い、や、だ、ぁぁぁ」
 「うははは!あー面白れぇ。ねぇどんな気持ち?背後から一突きして仕留めたと思ったら、全く効いてなくて、今度は自分の内臓が潰されていることについて、どんな気持ちぃ!?」(ぐりぐりぐりぐりぐりぃ―)
 「ごっぷぁ!!ごめ、なさ...も、ゆる、し...」
 「はい、聞こえません。死ね」

 冷淡に返事して、腕を振り上げて、ヤニカスを一気に地面に叩きつける。マッハ数十の速度で。
 パァン!と破裂音がして、さっきまで早川たかしだったものが、ただの汚らしい燃える粗大ごみへと変貌した!

 「ひ...ひぃ...」
 さっきまで人間だったクラスメイトがグロテスクに殺されるところを目の前で見たカスどもは、悲鳴すら上げることができず、掠れた声しか出せず、絶望しきった顔で見ていた。

 「ま、こいつには結構不快な想いをさせられてきたから、こうやって思う存分に苦しめて殺した。けど安心しろ。残りのテメーらはそんなに苦痛を与えないで比較的マシにぶっ殺してあげるから。んじゃ...」

 日本刀化した左腕を振るいながら、俺はこの状況に相応しくないくらい優しい笑みを浮かべて、この惨劇に相応しくないくらい爽やかで明るい声音で、続きを述べた―
 



 「さよーなら!みーんなっ☆」

 


 数分後、王宮前の庭に、真っ赤で鉄臭い花がたくさん咲いた。

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