ゾンビになって生き返ったので 復讐してやる

カイガ

25話「エーレ討伐」

 
 鳴き声がしてから1分程で足音が聞こえ、その数秒後、エーレが稲妻のオーラを出しながら村にやって来た。
 体長3m半ば、狸みたいな胴体、ネコ科の手足、狐みたいな尻尾、そして猿みたいな頭をした、文字通り化け物の形をした奴だ。まさしく鵺だ。ここではエーレと呼ばれてるが、幻獣種と分類されるのも納得だな。
 すぐにクィンやコザをはじめとする討伐隊が到着。村民は全員避難できたようだ。
 
 「近接戦闘型は前衛、遠距離型は後衛、俺は先頭でクィンは中衛だ!気も手も一切抜くな!行くぞ!!」
 
 コザが口早に指示を出し、彼を含む前衛兵士がエーレにかかっていく。観戦がてら、エーレの強さを測るか。


エーレ 魔物(幻獣種) レベル150
体力 3000
攻撃 3000
防御 3000
魔力 3000
魔防 3000
速さ 3000
固有技能 未来予知 炎熱魔法レベル7 雷電魔法レベル8 
 
 
 これ、あいつらじゃ無理じゃね?魔法レベルがクィンを上回っている。しかも、特殊な固有技能である「未来予知」によってさっきから兵士たちの攻撃を躱しまくってる。
 討伐隊の中でいちばん強いのは、おそらくクィンだ。リーダーのコザもレベルとステータスは彼女より少し上だが、固有技能がクィンの方が強い。固有技能がショボいとステータスが高くても総合的には強いとは言えないからな。
 

 「あの人たち、このままいくと全滅する。レベルが違い過ぎる。私でも倒せない。」
 
 アレンも討伐隊とエーレとの戦力差を正確に把握している。アレンのステータスさえも上回ってやがる。これがGランクの魔物か。そら、あの受付嬢も二人で挑もうとした俺らを止めようとするよな。
 
 「アレン、一緒に行くか?レベル上げにもなれそうだし。」
 
 アレンも復讐のために修行していた。ならば、こういう奴を倒せば、ものすごい経験値を得てレベルが大幅アップするだろう。
 しかし、アレンは首を横に振って、
 
 「いい。今回はコウガに任せる。だって前に、戦ってるところ見せてくれるって約束してくれたから。今度は、私が観戦する番!」
 
 と鼻息フンフンと詰め寄って、俺一人で戦いに行ってくれと促してきた。
 
 「お、おう。そういう約束だったな。じゃ、そこで見ててくれ。」
 
 エーレからある程度アレンを離れさせ、俺はその場で軽く準備運動をする。このモーションは、陸上競技のレース前にいつも行うルーチンだ。無意識に戦う時にもやるようになっている。
 
 戦況は、もう半分近くの兵士が戦闘不能にされているな。近づく者は圧倒的膂力で軽く薙ぎ払い、魔法攻撃の遠距離攻撃には尻尾から雷撃、炎の魔法を放って全て飲み込んでいく。クィンとコザがそれぞれ長剣と太刀で応戦してるがまるでダメージを与えていない。あの2人に俺の力がバレるかもしれないが、仕方ない。後で適当に誤魔化そう。
 
 「よし、じゃあ行ってくる!」

                                                                       *
 
 全く歯が立たない。味方が半分以上やられた。コザ隊長も、ボロボロだ。王国の中でも腕の立つ兵士で編成された討伐隊でもGランクの魔物には敵わないの...?
 ここでやられるようでは、モンストールから人々を守ることなど...。
 コザ隊長が前に出る。その顔は、覚悟を決めている顔だ。死ぬ覚悟で突っ込む気だ。
 ダメだ、やられる。行ってはダメだ。けど、ここで退いたら、この村が襲われる。村民たちの平和が脅かされる。私たちが、守らなきゃならない!
 退くに退けない。この状況どうすれば良い?頭が真っ白になっていく。
 
 そうこうしているうちに、隊長が駆け出す。その彼に、エーレが尻尾から迸る黄色い雷を放とうとする。叫んで呼びかけるが、反応しない。目の前の雷が見えていないのか、真っすぐ走ってく。耳も目もやられている。このままでは死ぬ...!
 「縮地」で駆けようとしたその時、もの凄い速さで駆ける影が私の横を過ぎ去った。その際、かすかだが力強い声が聞こえた。
 

 「あんたはここにいろ。すぐ終わらせる。」


                                                                            *
 
 「瞬足」で駆ける。途中でクィンに労いの言葉を適当にかけ彼女の黄色い髪をなびかせて通過する。そして一気にエーレに接近する。前方にコザが走っている。目が碌に見えていないのか、エーレの雷撃魔法を避ける気配がない。仕方ない、とりあえず庇ってやるか。
 一瞬でコザの前に立つと同時に、黄色い閃光が迸る。ギリギリ間に合うか。両手を前に掲げ、「魔力障壁」を発動。
 直後、妖怪のぬりかべみたいな大きさの水晶壁が出現し、バリバリと音を立てる雷を止める。数秒間、雷が轟く音がして、やがて勢いが止み、雷が消滅する。障壁には少々ヒビが入っていた。
 
 「あんな分厚い魔力障壁、見たことない...。あの強力な雷を防ぎ切った...。」
 
 クィンが驚愕の光景に息を吞んでいるが、俺は気付いていない。突然の闖入者にエーレも不審げに俺を見やる。そして強力な魔力を全身に迸りさせる。俺がさっきまでの奴らとは違って危険な敵だと本能で察知したのか。

 「...そこにいる君は...?仲間が殆どやられた。ここは、俺が食い止めるから...は、や、く...ひ、」
 
 かすんだ目で俺を見やり、避難を促そうとするが、言い終える前にうつ伏せに倒れた。一応死んでいないな。どかせるか。
 
 「残った兵士さんで、この隊長さん担いでここから離れてくれ。あまり人がいると戦い辛いから。」
 
 5人程の生き残りが他の倒れた兵士を担いで俺らのもとから離れる。その中に、クィンも兵士を背負って退く様子が見られた。去り際に俺を心配そうに一瞥して、すぐに去った。
 
 「よっし、これでのびのび戦える。こいよ。さっさと狩って、ギルドに弁償金払わなきゃならねーんだからよ。」
 
 手招きして煽る。エーレは一声鳴いて、口元に凝縮した魔力を浮かばせる。あの赤い色からして炎熱魔法か。ここは、俺も魔法を放ってみるか。初めてやるな、魔法攻撃。
 数秒後、エーレが俺をめがけて真っ赤な凝縮された炎球を放つ。摂氏1万度はありそう。触れるとどうなるかと思うと怖いので早く消化しよう。

 「“水砲”」
 
 水魔法の高火力技を放つ。レベルⅩまでいくと、氷も混ぜられる。巨大な水砲の中には、氷の破片も混ぜておいた。二段攻撃をくらえ!
 炎球と水砲が激突するも、一瞬で炎を飲み込み、そのまま一直線にもの凄いスピードで地面を抉りながら通過する。巨大な水しぶきが辺り一面に舞い、地面も俺もびしょびしょになった。
 
 水は、中に研磨剤を混ぜてウォータージェット機で放水すると、鉄板をも貫通する。今回は、氷を研磨剤として混ぜてみた。結果はさっきの通りだ。当たれば上位のモンストールもきっと風穴空いてほぼ即死だ。
 が、水砲が通過した跡には、エーレの残骸らしきものは見られなかった。それどころか、俺が攻撃されていた。
 地面に電撃が走り、水たまりを伝って、俺の体に電気が流れて、めちゃくそ感電状態だ。痛くはないが、体がボロボロになっていくのが分かる。このままいけば黒焦げだ。一旦上へ跳んで、放電から逃れる。
 
 なぜやられていたのか、と考える間もなく、上空からエーレが高く鳴きながら前脚を振り落として俺を叩き落とす。俺が跳ぶことも読まれていた...だと!?驚愕するも、あいつの固有技能を思い出し、納得がいった。
 
 「未来予知」だ。俺が水魔法で自身の魔法が消されることを予知し、俺が発生させた水たまりを利用して放電攻撃を仕掛けて、二重の攻撃をしてきた。さらに、俺が放電から逃れるべく上へ跳ぶことさえも予知し、予め自身も跳んでいた。一手二手を読む技能。それも知能が高い魔物がそれを持つ。それがどれだけ厄介で強力なものか。クィン、コザはもちろん、今のアレンでさえ勝てねーぞコイツは。あのハリネズミ型モンストールに匹敵するかもしれないレベルだ。
 
 地面に激突する直前に体勢を立て直し、両足で着地する。アレンやクィン(いつの間にか近くにいた)が驚愕の表情で今のやりとりを見ていた。アレンはエーレの計算された戦略に、クィンは俺が放電攻撃を受け、思い切り殴られたにも関わらず、普通に立っていることにそれぞれ驚いている、といったところか。
 俺も少し驚いている。ここまで高知能な魔物だとは思わなかった。「未来予知」は強力だ。是非手に入れよう。次は、俺の番だ。反撃も防御もさせない。一瞬で片づける!
 
 「身体武装化」で両肘に推進エンジンを付ける。両手には圧縮した魔力光線を溜める。属性は光。普通の人間がこんなことをすれば、手が爛れる。実際俺の手も爛れてきているが、どうせ治る。そして、ゾンビだから可能な、脳の「制限解除」。身体がいくら悲鳴を上げようが、関係無い。これ以上に無い肉体強化だ。
 

 「脳のリミッター300%解除」
 
 「瞬足」でダッシュする。今の俺が本気で走れば、100mを5秒~3秒で駆け抜けるだろう。300%の俺の走りは、エーレでさえ捉えられないみたいだ。右腕を空手の構えで控える。

 力の放出の出発点は右足から。地面を踏みしめ、力の流れを右足から前に突き出している左腕へ。左手を素早く横腹に引っ込める。同時に左足を前に出し踏み込む。左腕→左手→左足、そして右腕から右手へ。
 この時、体幹をキュッと締めて、力が分散しないようにする。捻りを加えた正拳突き、それも魔力光線を込め、推進エンジンも出力で威力増加、脳のリミッター500%解除。これまでにない強力な一撃。
 いや、一撃で終わらない。エーレのどてっ腹に正拳突きが入る直後、体を素早く時計回りに捻って、左アッパーの姿勢へ。光線を込めた強烈アッパーを同じ場所へ叩き込む。
 直後、2度眩しい爆発が起きる。そしてもの凄い音がして、あたりに砂ぼこりが舞う。
 
 深呼吸して、体のリミッターに蓋をして自然体の構えになり、俺の攻撃のターンが終了した頃、目の前にいたエーレは、上半身がキレイさっぱり無くなっていた。
 
 砂ぼこりによりクィンをはじめとする兵士たちが俺たちを捉えていない今のうちに、さっさと捕食を済ます。ここで「早食い」が役に立つぜ。
 適当な部位を食いちぎり、エーレの固有技能を奪う。「未来予知」・「雷電魔法」を手に入れ、レベルが1上がった。
 
 エーレ討伐完了!

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