ゾンビになって生き返ったので 復讐してやる

カイガ

22話「自己紹介」

 
 アレンが着たい服を色々見て回り、数十分で着替えが終わった後(最終的に灰色のタンクトップ系に落ち着いた。似合ってた。下は七分丈のズボンっぽいの。黒だ。)、屋台で買った焼き鳥っぽい串焼きを食べながら冒険者ギルドへ向かう。
 年季の入った赤いレンガ造りで、屋根部分には「冒険者ギルド」と、でかでかと書かれた看板が付いた建物があり、そこが冒険者ギルドだとすぐに分かった。
 
 早速中へ入ると(その際、「擬態」で目を普通の人間と同じ形態にしておいた。)、外装とは裏腹に中は掃除が行き届いた清潔感ある空間だった。入口正面に総合受付があり、右奥には酒場を兼ねた飲食店が、左奥には装備屋が経営している。某狩りゲームのギルドみたいな風景だ。
 中へ入ってきた俺たちに、酒場にいる冒険者どもが一瞥をくれるが、すぐに視界から外す。中には俺たちの格好を怪訝そうに見てる奴もいた。考えてみれば、今の俺たちの格好って、冒険者とはかけ離れているな。ま、登録しに来ただけという設定で通れるだろう。このあとクエスト受注するけど。
 受付にて登録手続きを進める。ステータスプレートを取り出し、冒険者としての情報が保存される。その際、ステータスも見られる形になるのだが、プレートが少々おかしな表示をするとかで適当にごまかした。受付嬢に怪訝な視線を向けられるがスルー。
 
 なお、冒険者としてのコードネームを登録することができるらしいので、俺のコードネームは、“オウガ”にした。ファーストネームの「皇」を「おう」とも読めることから。本名活動は今後の行動で支障をきたす可能性があるから、この制度には感謝だ。
 アレンはプレートがないため、ギルドが用意した登録証が刻まれた腕章をもらった。ランクもここで更新できるらしい。コードネームは“赤鬼”にしていた。
 俺たちのランクは最低ランクのFからだ。モンストールと同じ階級付けだ。というか、あの階級順は、元々こっちがオリジナルらしく、モンストールの階級はこっちを真似たようだ。
 さて、このままクエスト受注といこう。俺の戦闘をアレンに披露することも兼ねるから、割と熟練者向けのやつを受けたいのだが、登録初日からそういうのを受けられるのかと受付嬢に聞いてみたところ、命の保証はギルドでは請け負わないらしく、全て自己責任で片づけられる。故に、最低ランクでも受けるクエストに制限は無いとのこと。
 さらには、冒険者同士でのいざこざもギルド側に責任は一切無い。たとえ生死に関わる規模であっても、だ。
 それを聞いて安心し、迷わず今受けられる最高ランクのクエスト(今はGランクの高難易度が最高)を受注した。
 
 クエスト内容は、≪エーレ≫の討伐。エーレは、挿絵をみるに、日本のお化け図鑑とかで載ってる鵺みたいな巨獣だ。最近人里を荒らすようになり、至急どうにかしてほしいとのこと。
 なお、このクエストは王国の兵団から討伐隊が編成されて同行する場合があるらしい。金も今欲しいから、手柄取られたくねーなぁ。けどこれ以外のはしょぼそうだし、さっさと行くか。
 受付嬢が、再三にわたって受注の確認をしてきたが、軽いノリで三回頷き、クエスト受注証を受け取る。アレンと並んでギルドを出ようとした時、後ろからずかずかと足音を立てながら俺たちに話しかけてくる冒険者が。
 
 
 「おいテメェ、新米冒険者がなにエーレ討伐を受注してんだぁ!?彼女の前にかっこつけるにしても限度ってもんがあるだろうがぁ!」
 
 振り向くと酒気を帯びたおっさん顔の男が絡んできた。
 これはあれだ。ラノベでよくあるテンプレ展開だわ。新人に絡みビビらせて恥をかかせにくるやつだよ。この手の奴らの性質は2種類ある。前者は、後で謝ってきてこれから頑張れよ的な激励をかけにくるタイプ。後者は、単に弱い者いじめ、悪意しかないクズだ。周囲に恥かかせるだけじゃなく、将来自分より昇級し、手柄を取られることを防ぐためでもある。
 さて、こいつはどちらのタイプかね。
 
 「しかもなんだその装備は!この業界嘗めてんのか!?新入りのガキがそんなみすぼらしい格好で一体何を討伐するってぇ!?おとなしくFランクの雑魚魔物とちまちま遊んでろ!」
 「ダイの言う通りだぜ!エーレの餌願望にでもなりたいってなら別だがなぁ。それより、そっちのねーちゃん、俺らと組まねぇか?そんな色白ひょろガキよりいい思いさせるぜぇ~?」
 「ふへへ、タンクトップ1枚とか中々そそる格好じゃーん。俺らんとこ来て飲まねーか?酔いつぶれたら優しく介抱してやるからよぉ―!」
 
 俺への絡みからアレンへのナンパに変わり、3人のできあがった酔いどれどもがアレンにちょっかいをかける。アレンは嫌そうだ。酒臭いのだろう、こっちにも臭うし。
 
 因みに、こいつら3人ともアレンの角に気付いていない。それ以前に、入国前にいた門番も彼女の角に気付いていなかった。その理由は、俺の固有技能「認識阻害」のせいだ。「迷彩」技能は他人にも効果を譲渡できるのらしく、それにより常にアレンの周囲の人族には角が見えないようにしている。これは本人にも説明済だ。
 とにかく、鬱陶しい。無駄だと分かっているが、一応通過儀礼しておくか。
 
 「邪魔だ。これからクエストに行く。酔っ払いどもは隅で吐いてろ。」
 
 ダイと呼ばれている最初にからんできた男を横切り、アレンの手を引いて出ようとするが、取り巻きの一人が俺の肩を掴み引き留める。
 
 「だから、お前は黙ってねーちゃんを置いて雑魚狩ってこいっていってんだよ!雑魚らしくなぁ!?」
 「かっこつけてんじゃねーぞぉガキがぁ!恥かく前に失せろ!」
 「何なら、ここで分からせてやろうかぁ?冒険者Cランクのこのダイさんがみんなの前で軽くシメて自分の雑魚さを分からせてあげようかぁ!?」
 
 3人そろって俺を罵倒し始める。その目はどいつも悪意に満ちている。
 あいつら…元クラスメイトのコミクズだちと同じ目だ。周りの冒険者男女も遠巻きに俺らの様子を見ているが、大半が俺が罵倒されているのを面白がっている様子だ。 
 誰も止めに入る気配はない。受付嬢は我関せずといった様子だこっちを見てすらいない。慣れているのか、このパターンは。
 

 「はぁ...こいつら後者のタイプか。異世界に来てまでどうしてあいつらみたいなゴミカスどもにここで絡まれなきゃならんのかね?どうしてわざわざ悪意をばら撒いてくるのかね?頭沸いてんのか?酒のせいでここまでできるのか?」
 

 しかもガキだのヒョロだの言いやがって。確かに俺の顔年齢はまだ中3レベルだ。腕はこいつらに比べると若干細いが、単に無駄な肉が無いだけだし。どうでもいいか。俺のぼやきが聞こえたらしく3人がさらに逆上する。
 するとダイが俺にめがけて手にしていた酒瓶を投げつけてきた。瓶は割れ、破片が中身もろとも頭に降り注ぐ。痛覚無いので破片はどうってことないが、酒が口の中に。あまり美味しくない。
 アレンが小さく息を呑んだのをよそに、ダイとその取り巻き、傍観者どもが指さしたりしてゲラゲラ笑いやがる。さらに野郎は、酒を浴びせるだけでは飽き足らず、俺の顔面に殴りかかろうと腕を振り回している。周りはその様を囃し立てる。
 
 
 俺は思う。この手の絡みに対する主人公の対応は、笑い飛ばしてその場を後にしたり、やんわりとその場をとりなしたり、力をちらつかせ黙らせたりなど穏便だ。いずれもその後は絡んできた奴とは和解し、一緒に飲んだりするのだ。
 
 俺は思う。なぜ作者はこういう奴らを削除しないのかと。理解できない。自分をここまで虚仮にして、仲間を奪おうとまでしたのだ。こんなことしておいて何もしないとかどんな聖人だよ。
 
 俺は思う。こういうクズどもは、その場で見せしめに殺すべきだと。確かに意に介さない姿勢がカッコよく映るとも言えるが、読者の俺はこういうの見てるとイライラするのだ。チート級の強さ持ってるのになぜぶっ殺さないのかと。
 
 そして今。俺への罵倒・侮辱・仲間への視姦・不味い酒を浴びせる・そして暴力に移ろうとしている。もう十分だろう。
 殺す理由は、十分過ぎるだろう。俺は、お前ら温厚主人公とは違う。俺を害するゴミ、不快を与えてくるクズは全員地獄行きだ。まぁ、今回は初回特典だ。特別に温情をかけるか。
 
 野郎が拳を大きく振りかぶる。焦点合わない目を俺の顔に向けながら。こんな奴が冒険者上位クラスだと。冒険者への恥さらしだ、冒涜だ。
 
 足元お留守になってる野郎の脚に刃物と化した俺の足蹴りが入る。
 スパッ...といい音を立てたかと思うと、野郎の両脚が宙を舞う。
 
 俺にとってはゆっくりとした一連だったが、当の本人と周りのゴミカスどもはそうではなかったらしい。何が起きたのか全く反応できていない。脚を失った野郎でさえ自分の身に起きた惨劇を把握するのに数秒かかった。
 やがて自分の状態を理解するやいなや、さっきまでキモい笑みを浮かべた顔を真っ青に、激痛にさらにキモく歪め、耳障りな悲鳴をギルド中に響かせる。
 取り巻き2人とも腰を抜かし尻を着くが、その顔面2つにつま先蹴りを叩き込み、酒場で面白がってた傍観者どもへ吹っ飛ばしぶつけさせる。
 ある男は突然のことに声も出せず呆然とし、ある女はパニックで悲鳴を上げ、ある男は野郎の無様な惨状を見て嘔吐するなど、多種多様なキモい反応をみせてくれた。
 「威圧」や「威嚇」といったプレッシャーをかける系の技能は無いため、周りのゴミカスどもに牽制をかけることはできないが、この惨状を起こしたという事実が、俺にちょっかいかけてはいけないと十分に伝わったようだ。誰もが青ざめた表情で俺を見ている。受付嬢も顔を引きつらせていた。
 
 さて、ようやく周りが少し静かになったな。まだ足りない。俺をキレさせたらどうなるかここで今一度喧伝する必要がある。膝から下が無い無様野郎の首を乱暴に掴み、奥にいる奴らにも聞こえる声量で喋る。
 

 「これは、自己紹介と見せしめを兼ねた行為だ。俺に害をなすとどうなるか。悪意をぶつけたらどうなるか。不快感を与えたらどうなるか。俺だけじゃない。ここにいる仲間にもちょっかいかけるとどうなるか。俺の顔をよく見ておけ!今後絶対にちょっかいかけたらいけないこの俺の顔をよく覚えておけ!!
 ああ、今回はこれでも温情をかけてるんだぜ?本来なら、このカス野郎の首をスパッといってた。けど俺もそんなに鬼畜じゃない。今回は初回特典として殺さずに済ませている。けど次からは...もう慈悲は無い、確実に殺す。
 とにかく、今後俺にああいうちょっかいをかけることのないように。俺からちょっかいをかけることはしないから安心しろ、ゴミカスども。以上っ!!!」
 

 最後の一声に衝撃波を混ぜ、建物内のガラスを全て割った。それにまた悲鳴を上げる者がいたが無視。言いたいこと言えたし、もういいか。
 ふとアレンを見やると、割と引いた様子だった。あれま。ま、いいか。まずはまだ掴んだままでいるこのゴミの処分だ。膝下から血がぼたぼた流れ、顔がすっかり青白くなり、涙を流して、さっきからごめんなさい、ごめんなさいと繰り返している。
 

 「おい、テメーも聞いてただろ?これに懲りたら俺みたいな新米君にもちょっかいをかけるんじゃねーぞ?そして、次は、死なすからな?」
 
 そう言って、ゴミを無造作にまた酒場にいる連中めがけて投げ捨てた。あースッキリした。



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