ゾンビになって生き返ったので 復讐してやる

カイガ

12話「新しい力」

 
 さっきは逃げることに必死だったが、捜す身となってからはこれが中々見つからないもので、あの人型をようやく見つけ出すのに1時間くらいかかった。俺の方へ身体を向けていないところ、俺に気づいていないようだ。相変わらず項垂れたままで、顔の全貌が明らかになっていない。牙とか生えてんのか、あいつ?
 
 勝負は一瞬。全速力で走り、モンストールに肉薄し、適当にどこかに齧り付いて食いちぎる。そしてまた全速力で逃げる。以上だ。
 もちろん成功する保証は無い。反撃されまくって肉を取り込めない、皮膚が固すぎて歯が通らない、などといった事態が起きることもあり得る。まぁ、死んでいる身だ。残基は無限といっていい。成功するまで挑めばいい。
 
 覚悟を決め、クラウチングスタートの構えを取り、勢いよく地面を蹴ってスタートをきる。目標との距離は約50m。2~3秒でモンストールに接近し、低い姿勢を取る。まだこちらに気配を向けていない。

 (―ここだっ!!!)

 4足歩行の動物くらいまで低くした姿勢のままで、スピードの勢いを乗せて、狙うははらわた部分。さっき大穴を空けられた借りを返す意趣があったわけじゃないが、柔らかい部分といえば、というノリで狙った。
 ―ブチッと音が後から聞こえる。口の中に異物が入っている感触が。急には止まらず。徐々にスピードを緩めて、止まる。口の中には、鉄臭いものが…肉だ。
 
 あいつの、肉を、食ったんだ。生きている間は、肉は焼いたものしか食べなかった。だから、生で、それも血抜きもしていない不衛生極まりない状態で食べるなど、普通では絶対にやりたくなかった。行為である。味も臭いも酷い。そうだ、味覚と嗅覚だけ今は遮断しよう。うん、何も感じない。
 
 今、あのモンストールとの距離は大体20m程だ。すぐに視界から外れるくらいまで逃げようかと思ったのだが、どういうわけか、あいつには敵意も殺意も何も感じられなかった。腹を食いちぎられたのに、俺を追おう素振りすら見せない。今も傷口から血を滴らせたまま、立ち尽くしている。
 襲ってくる気配が無いので、先にステータスがどうなったのかを確認することに。



カイダコウガ 17才 人族 レベル111
職業 ゾンビ
体力 0/10000
攻撃 4500(45000)
防御 4000(40000)
魔力 2000(20000)
魔防 2000(20000)
速さ 5000(50000)
固有技能 全言語翻訳可能 逆境強化 五感遮断 自動再生 略奪 感染 制限解除 瞬足(+縮地、神速) 身体武装化 魔力障壁 硬化


 「...ひょおぉ~」
 レベルと能力値の数値に目を剥く。レベルが100上がり、通常時で4桁台まで上昇していて、「逆境強化」が常に発動されているため、実質5桁のステータスということになる。他の人族と比べるまでもなく、自分がキチガイに強くなったと分かる。
 固有技能だが、この3つが特に興味深くて戦力アップに大きく貢献しそうだ。


『制限解除』:脳のリミッターを外す。100%全て解除すると死に至る。

『瞬足』:移動速度を上昇させる。「縮地」・「神速」も同技能で発動可能。

『身体武装化』:自身の身体を武器と化す。変形例...鉤爪、螺旋状、大槌、槍など なお、技能「硬化」と併用可能。

 
 昔、スポーツ科学に関する本で知識にとどめていたが、人の脳は、普段10~20%しか力を発揮しないようにできている。もし、脳の力を全て発揮しようものなら、体が崩壊し、死ぬこともあるからだ。そういうことで、脳が自動的にリミッターをかけている。命の危機に瀕した時、スポーツでいう「ゾーン」に入る時の場合、たまにリミッターが解除されるらしいが、それでも50%を超えることはほとんど無いらしい。
 だが、俺はゾンビだ。体が崩壊しようが、「自動再生」があるし、痛みも無視できるし、100%解除どころか、そのさらに上もいける。「制限解除」は、ゾンビにとってこれ以上ないくらい相性ばっちりな技能だ!「逆境強化」に上乗せでさらに能力値が上昇しそうだな。

 「身体武装化」、これも今のステータスを持つ俺にとってかなり心強い。この肉体そのものがすでに凶器みたいなものだ。ましてや俺は格闘技に覚えもある。使える技能だ。
 さらに「硬化」は、いわば身体を「硬質化」するということ。その状態で武装化までするとか、もはや兵器だ。武器が要らないな。
 
 ここで俺は、「硬化」と「瞬足」と「身体武装化」は今さっき食ったモンストールの固有技能ではと推測する。レベルが上がったのなら、技能も当然略奪できているだろうし、何より俺は、この技能を目にしたことがある。最初に遭遇して、すれ違い様に移動したアレ。「瞬足」だったのだろう。そして「硬化」と「身体武装化」で俺の右腕と腹を攻撃したのだろう。
 相手が格上でも、「略奪」は成功するようだ。成功率はまだ不明だが。
 
 そのモンストールだが、相変わらず血を流したまま、こちらに向かってくる様子はない。とは言え、いつ気が変わるのかも分からないので、もう視界から消えた方がいいだろう。早速この「瞬足」を使って逃げようか。
 と、俺がここから立ち去ろうとする気配でも察知したのか、人型が突如俺の方に首を巡らせて...
 

 「俺の肉を食ってレベルアップしたのか。面白い人族もいたものだ...。」
 
 と、喋りだしたのだ。


 「キエェェェェ!喋ったアァァァ!?...ゴホン、モンストールが人語を話した...!?」
 
 思わず取り乱してしまったが、すぐにとりなおす。つーか、本当にびっくりした。いきなりこっち向いたかと思えば、喋り出すんだから。
 いつの間にか顔を上げていたので、モンストールの顔があらわになる。髪は生えておらず、目は黒と黄色が混じった模様で、造形は人間のそれとあまり変わらなかった。

 「...いや、もう人族ではないのか?俺の攻撃を受けて普通に立っているところ、屍族にでも生まれ変わったか?この瘴気に当てられて身体に異常でも起きたか。まぁどちらにしろ、俺の技能を吸ったか。面白い。」
 
 俺を興味深そうに見据えて独り言を呟く。あんな形でぶつぶつ何か言っているとか、十分怖い。早く立ち去ろう。
 人型モンストールと意思疎通する気は皆無の俺は、「瞬足」を発動し、この場を全速力で去った。

                                                                              *

 「意思疎通する気無しか...。少し話してみたかったが...。ま、この先同胞たちと戦うつもりなら、また遭うことになるだろう。その時は、本気でやり合える程に成長しているだろう...。」
 
 誰もいなくなった場所で一人呟く人型モンストール。その最中、食われた腹に手を当てる。するとみるみる傷が塞がり、血も止まった。そして、あてもなくのらりくらりと歩いていった。



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