女顔の僕は異世界でがんばる

ひつき

回想

 幼稚園に入園するころになると、僕はたいていの能力をうまく抑えることができるようになっていた。
 抑えるというよりは、封印に近い。
 反射的に手が出ることや、感情的になってしまうことは子供なのだから当然ある。
 それすら封じるためには、自らその力を破壊するしかなかった。
 
 完全な力は、自らの細胞のアポトーシスすら自在に操る。
 分化の誘導すら可能だ。
 つまり、細胞の増減を自由に操作できるということ。
 僕は自分の体を自由にカスタマイズすることができるようになっていた。

 そしてカスタムした。
 根源的な力だけは手が出せなかったが、怪力などの大方の力の封印は可能だった。
 
 すべては生きるために。
 僕はこのころ、すでに力だけでは生きていけないことを悟っていた。
 いや、むしろ生きるためには力が邪魔とさえ知っていた。
 母さんの指導の賜物だ。
 
 僕はひどく内向的だった。
 封印したけれど、もしものことがある。
 それを抑えるために、僕は反撃を意識的に禁じていた。
 みんなから意識的に距離をとり、近づかれることを恐れていた。
 それが逆効果だということにすら、当時の幼い僕にはわからなかった。
 好奇心の塊のような園児が、僕の気を引こうとすることなど明白だ。
 その手段が、どんどん悪い方向に進化していくことも。

 けれど僕は、いじめられようが何されようが、無視を決め込んだ。

 そして事件は起きた。
 耐え切れなくなった僕は敵を排除して、失敗を悟る。
 間違えてしまった。
 二度と起こらないようにと、僕は記憶を、知識を、神経系統をすべて破壊して、能力を永久に封じた。

 事実、あの世界で僕の力が覚醒することは二度となかった。
 そもそもそんな力があること自体忘れていたのだから。
 
 破壊の後遺症により僕は家で療養した。
 病院へ行けるほどのお金もなかったからだ。
 父さんと母さんは離婚し、母さんは一人で僕を育てた。
 身寄りもないらしい。

 小学校三年から僕は社会に復帰した。
 小学校という箱庭社会は、僕に厳しかった。
 後遺症と勉学の遅れによって、僕は落ちこぼれた。加えて同世代の子とのコミュニケーションの経験はない。
 それまで培ってきたものをすべてリセットしてしまったのだから、正真正銘、ゼロだ。

 僕はいじめられた。 



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