女顔の僕は異世界でがんばる
恨みを抱く少女 35
「出でよアプサラス!!」
悪夢のような光景を見た瞬間、反射的に召喚されたのはピクシーではなくアプサラスだった。
信頼がおけるだけでなく、人を運ぶことのできる高い運搬能力と、街中でも力を発揮しやすい水の力は、この状況に一番適している。
あとは戦闘能力だけだ。
あの魔物たちは、個々は大したことないけれど、数が多すぎる。
<配下進化>発動――アプサラスを水の精霊ウンディーネへと進化させる。
その進化は、サラマンダーたちとは違って形態はそれほど変化せず、力だけが増したようだった。
これならワユンたちにも、僕の召喚獣だってことがわかるだろう。
さらにハイ・ピクシーを召喚し、それぞれに<増殖>、<群化>を用いて救助に向かわせる。
町が近づいてくると、その様子が見て取れた。
人の気配のなくなった建物に、まるで羽虫のように魔物どもが集っている。
町の人たちは?
すでに避難したのか、それとも――?
「はっはっ・・・・・・」
チリチリと、頭の中で火花が散るのを感じた。
まだ住んで半年だけれども、この世界での故郷となった町だ。
    その町に、魔物が群がっている。まるで腐肉に集る無数の蝿のように。
呼吸が信じられないほど浅く、速くなっていた。
    ーー何してやがる!
魔力を右腕に集中させると、まるで墨汁のように真黒なオーラが腕の周りに現れた。
それは外へ向かってどんどん巨大化していく。
    意識せずに発動されたのは、初めて使う暗黒魔法だ。
魔法はふつう、訓練しなければまともに使えるようにはならない。
けれど、例外はある。
その魔法に対する適性が圧倒的に高く、かつ効率の悪い運用に対応できるほどの膨大な魔力があること。
初めて火魔法を使った時だって、火を起こすことはできた。
それを敵にどうやってぶつけるか。
問題はそこにある。
暗黒魔法の特性は、命そのものを奪うということだ。
命というのは生命エネルギーで、それは解放エネルギーに似ている。
つまりこの魔法は、僕の力の一つ<喰贄>に近い。
違うのは、生きているものから奪うという点だけだ。
イメージも使用法も完全に身についている。
本来ならもっと洗練された型があるのだろうが、それじゃなければならないというわけじゃない。
何より、この魔法はもっとも僕に向いているという確信があった。
オーラは巨大な腕を模した。真上に向けて振り上げられた巨大な腕は、いくらでも大きく広げられる。
それを魔物の群れに向かって伸ばす――腕はひどく穏やかな様子でその体積を拡大しながら魔物たちへ接近していった。
    群に触れる。
瞬間、その周囲の魔物が地上へと落ちていった。まるで砂でできた物体が崩れていくようだ。同時に膨大な量のエネルギーが流れ込んでくるのを感じた。これは、〈解放〉エネルギー?
    巨大な腕が触れた部分がぽっかりと欠けていた。一瞬で無数の生命が散ったんだ。
名前なんて必要のない魔法だけれど、区別のためあえて言うならリーサル・タッチ(死の手)。
あの手に触れた魔物は、込めた魔力に比例する量の生命エネルギーを吸い取られる。
僕のスキルはマックスの八。
この程度の魔力を込めただけで、あの数を瞬殺できるのか。
腕を羽虫を払うように横薙ぎに振った。
間違って町の人まで殺しちゃいけないから、上空にいる魔物にだけ触れるよう、細心の注意を払う。
町が近づいてきて、一旦リーサル・タッチを解除すると、モザイクのように見えた町の上空も、きれいに晴れていた。
    雑魚の殲滅は大体完了した。
手元に残していたハイ・ピクシーに避難場所を尋ねようとして振り返る最中、他と様子の違う一角がちらと目に映る。
強化された目に映ったのは、猛然と大剣をふるうリュカ姉と魔物を千切っては捨てているマルコ、そして他数十人の冒険者たちだった。
冒険者ギルドを中心に、そこを守るように展開している。
大部分は街中に散ってしまっていたが、妖精たちの一部もその周りで戦っていた。
ワユンは――?
焦って目を凝らしていると、ギルドの扉が開かれて、慌てたようにワユンが飛び出してきた。
「よかった……」
思わずそうつぶやいてしまった。
みんな傷だらけだけど、とにかく無事のようだ。
妖精を見て、僕が来たことを悟ったんだろう。
ワユンは何かを探すようにきょろきょろと首を振っていて、やがてこちらを認めると嬉しそうに手を振ってきた。
強化された僕でもようやく見える距離。
あんなところからでも見えるなんて、どんだけ目がいいんだよ。
「はは……」
こんな状況なのに、僕も思わず振り返してしまった。
悪夢のような光景を見た瞬間、反射的に召喚されたのはピクシーではなくアプサラスだった。
信頼がおけるだけでなく、人を運ぶことのできる高い運搬能力と、街中でも力を発揮しやすい水の力は、この状況に一番適している。
あとは戦闘能力だけだ。
あの魔物たちは、個々は大したことないけれど、数が多すぎる。
<配下進化>発動――アプサラスを水の精霊ウンディーネへと進化させる。
その進化は、サラマンダーたちとは違って形態はそれほど変化せず、力だけが増したようだった。
これならワユンたちにも、僕の召喚獣だってことがわかるだろう。
さらにハイ・ピクシーを召喚し、それぞれに<増殖>、<群化>を用いて救助に向かわせる。
町が近づいてくると、その様子が見て取れた。
人の気配のなくなった建物に、まるで羽虫のように魔物どもが集っている。
町の人たちは?
すでに避難したのか、それとも――?
「はっはっ・・・・・・」
チリチリと、頭の中で火花が散るのを感じた。
まだ住んで半年だけれども、この世界での故郷となった町だ。
    その町に、魔物が群がっている。まるで腐肉に集る無数の蝿のように。
呼吸が信じられないほど浅く、速くなっていた。
    ーー何してやがる!
魔力を右腕に集中させると、まるで墨汁のように真黒なオーラが腕の周りに現れた。
それは外へ向かってどんどん巨大化していく。
    意識せずに発動されたのは、初めて使う暗黒魔法だ。
魔法はふつう、訓練しなければまともに使えるようにはならない。
けれど、例外はある。
その魔法に対する適性が圧倒的に高く、かつ効率の悪い運用に対応できるほどの膨大な魔力があること。
初めて火魔法を使った時だって、火を起こすことはできた。
それを敵にどうやってぶつけるか。
問題はそこにある。
暗黒魔法の特性は、命そのものを奪うということだ。
命というのは生命エネルギーで、それは解放エネルギーに似ている。
つまりこの魔法は、僕の力の一つ<喰贄>に近い。
違うのは、生きているものから奪うという点だけだ。
イメージも使用法も完全に身についている。
本来ならもっと洗練された型があるのだろうが、それじゃなければならないというわけじゃない。
何より、この魔法はもっとも僕に向いているという確信があった。
オーラは巨大な腕を模した。真上に向けて振り上げられた巨大な腕は、いくらでも大きく広げられる。
それを魔物の群れに向かって伸ばす――腕はひどく穏やかな様子でその体積を拡大しながら魔物たちへ接近していった。
    群に触れる。
瞬間、その周囲の魔物が地上へと落ちていった。まるで砂でできた物体が崩れていくようだ。同時に膨大な量のエネルギーが流れ込んでくるのを感じた。これは、〈解放〉エネルギー?
    巨大な腕が触れた部分がぽっかりと欠けていた。一瞬で無数の生命が散ったんだ。
名前なんて必要のない魔法だけれど、区別のためあえて言うならリーサル・タッチ(死の手)。
あの手に触れた魔物は、込めた魔力に比例する量の生命エネルギーを吸い取られる。
僕のスキルはマックスの八。
この程度の魔力を込めただけで、あの数を瞬殺できるのか。
腕を羽虫を払うように横薙ぎに振った。
間違って町の人まで殺しちゃいけないから、上空にいる魔物にだけ触れるよう、細心の注意を払う。
町が近づいてきて、一旦リーサル・タッチを解除すると、モザイクのように見えた町の上空も、きれいに晴れていた。
    雑魚の殲滅は大体完了した。
手元に残していたハイ・ピクシーに避難場所を尋ねようとして振り返る最中、他と様子の違う一角がちらと目に映る。
強化された目に映ったのは、猛然と大剣をふるうリュカ姉と魔物を千切っては捨てているマルコ、そして他数十人の冒険者たちだった。
冒険者ギルドを中心に、そこを守るように展開している。
大部分は街中に散ってしまっていたが、妖精たちの一部もその周りで戦っていた。
ワユンは――?
焦って目を凝らしていると、ギルドの扉が開かれて、慌てたようにワユンが飛び出してきた。
「よかった……」
思わずそうつぶやいてしまった。
みんな傷だらけだけど、とにかく無事のようだ。
妖精を見て、僕が来たことを悟ったんだろう。
ワユンは何かを探すようにきょろきょろと首を振っていて、やがてこちらを認めると嬉しそうに手を振ってきた。
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