ファンタジー異世界って・・・どういうことだっ!?

蒼凍 柊一

第7話 最高神の居城



ヴァイルとハデスが互いを見て、頷きあう。
そして、二人掛りで書き上げた術式に触れる。


「いくぞ…覚悟は…いいな?」


ヴァイルが静かに私たちに聞いてきた。その声は緊張を感じさせる声だった。
今からの大仕事に気負っているのだろうか。…それも仕方のないことかもしれない。魔力全てを注ぎ込み、起動させなければならない術式なのだから。


失敗は即ち、死だ。


私は静かに頷く。
リリアも隣で頷いていた。


「…それじゃあ…やるよ、ヴァイル…。無事だったら、向こうでハグの一つでもしてくれよ?…いたっ!」


ハデスが軽口をたたくと、ヴァイルは笑顔で思いっきりハデスの頭を強打する。


「…フン!リーダーにやれるのは、我からの真心籠ったグーパンチだけだっ!…だが、今ので緊張が執れた…たまには役に立つのだな?」


「ひど…!ヴァイルひどいよっ!僕だって君の童貞を卒業させてあげようとあれこれいろいろと「黙れ!!」


今度こそヴァイルが抜刀し、ハデスの喉元に刃を突き付ける。


「ヴァイル!ハデス!こうしてる間にもアレンが大変なことになってるかもしれないのよ!?早く行くわよっ!!さっさと魔力全部出し切りなさい!!」


私は収拾がつかなくなる前に二人を止める。


「…ほら、ヴァイルのせいで怒られたじゃないか…」


「元はと言えば貴様がっ…!」


「早く、行きましょう?」


隣のリリアがすごくいい笑顔で二人に声を掛けた。背後に龍が見える。


「…すまん」


「ごめんなさい。」


二人は口を噤み、まだ何か言い争っていたけど、私が包丁を取り出すと、二人はすぐに術式の起動に取り掛かった。


「…やるぞ」


「…はいはい…やりますよ…」


術式に両手で触れて、何事か呟く。
そして、詠唱が終了したと同時に、全身を圧迫するような魔力が、私たちに襲い掛かる。勿論、ヴァイルとハデスの魔力だ。
ハデスは必死の形相で額に汗を浮かべている…だが、それと対照的なのはヴァイルだ。どこか戸惑った表情で、だが、少しするとそれも納得の表情に変わる。


「リーダー!我の魔力で行けるっ!!貴様は手を出すな!!」


その言葉に私たちは動揺する。先ほどまでの談義では、魔力を全て使わないといけないのではなかったのか。その旨を私が大声で問うと、ヴァイルは苦笑いしながら答えてくれた。


「お前たちの、夫の魔力だ…我にも主の魔力が流れていたことをすっかり忘れていたのだ!…そんな顔をするな!!」


一斉にあきれた目を向けられたヴァイルは、居心地が悪そうだ。


「転移!!」


ヴァイルが地面の術式に手をついたまま。私たちとハデスは棒立ちのまま…みんなの体はついに最高神の居る場所へと転移されたのだった。






―――――――――






そこは、まさしく白亜の城。どこかのおとぎ話に登場するかのような、立派な城が、私たちの居る小高い丘から一望できた。


「ここが…天界ですか?…イメージとちょっと違いますねぇ…。もっとこう、黄金でキラキラしてるかと思ったんですけど。」


「君は天界をどういう風に思っているのかよくわからないけれど、ここは立派な最高神、ゼウスの居る天界の城だよ。…どうだいヴァイル?アレン君の反応はする?」


「…そうだな……かすかに…するな。だが、相当厄介な場所にとらえられている様だ。…しかも、生命反応がかなり薄い。これは危険な状態だぞ…。」


ヴァイルの言葉に、全員が静まりかえってしまった。


「…アレン、捕まっちゃったんだ…」


正直、驚いた。今までが今までだっただけに、アレンが負けるところが想像つかないのだ。


「…きっとアレン君の居る場所は牢獄の中の、特別な場所…『白の独房』だろう。…あそこは今空のはずだからね。アレン君ほどの猛者ならば、きっとそこでしか拘束しえない。」


「…侵入ルートはどうするの?…というかヴァイル。あなた体は大丈夫なの?いくらアレンの魔力を使ったからって……」


そこで、私は言葉を切った。
ある可能性が思い浮かんだから。


「ヴァイル!もしかしてあんたが魔力を使ったせいで、アレンが負けたんじゃないでしょうね!?」


「そそそ、そんな訳ないだろう!?大体、我が使った魔力は、アレンの全体の魔力のうち、たった0.1割だぞ!?…それでも、かなりの量だったことには変わりはないが…。」


「まぁまぁ、二人とも…ここで争っていても仕方がない。それは本人から聞くとして…どうやって潜入しようかねぇ…」


ハデスが困ったような声を出したので、私は疑問の声を上げた。


「警備が堅いの?」


その問いに、ハデスは苦笑いしながら答える。


「いや、その逆。薄すぎて、侵入経路がありすぎるんだ。…実質こちらの敵になるような奴は、今の天界にはいないよ。ゼウスを除いてね。まぁ、そこら辺の天使だったら黒猫ちゃんや、リリアちゃんでも倒せるよ。」


「…それはまた…困った問題が出てきましたね。…普通に考えたら、まずアレンの救出が先ですよね?」


リリアがハデスに問う。
ハデスは頭をポリポリと掻きながら、頷く。


「そうだね。それが良いかもしれない。僕たちだけでは悔しいけど、最高神には勝てない。アレン君を救出、そしてみんなで…脱出か、ゼウスを殺すか…どっちかだね。」


「脱出という選択肢は、今後に影響するだろう…。下手をすれば永久に追われ続けかねないぞ?…今のハデスはすべてから隠蔽されるよう工作をしているからゼウスの眼には止まっていないが、こやつらはそれを持たない…。ここですべての因縁を断つのが、最善策だと我は思うが。」


「…神を、殺す…ですか…。」


リリアが微妙そうな顔をしている。
そういえば、リリアは一応聖職者だった。神を殺すことにためらいがあるのかもしれない。


「リリアちゃん。大丈夫だよ?君たちの信じてる『ラズニエル』っていう神様は、今回の最高神…ゼウスとは関係のない神様だから。気にしないで、思いっきり殺っちゃって問題ないよ?」


「いや、そうではなく…聖職者なのに相手を腐らせて殺したりとか…信じてない神様にしたって、神殺しなんて…もう私、治癒術士って名乗れないです…。…アレンのためなら、我慢できますけどね!」


もうリリアさん涙目だ。
いろいろと思うところがあるかもしれないが、それはそれ、これはこれで割り切ってほしいものだ。
アレンの命がかかっているのだから。


「…さて、じゃあ方針が決まったら、さっさと行くわよ!ハデス!先導しなさい!」


私の言葉にハデスは両手の平を上に向けてやれやれと言った様子だ。


「仕方ない…じゃあ先導するから、ついてきて。」


私たちは最高神の城を目指して歩き出した。

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