ファンタジー異世界って・・・どういうことだっ!?

蒼凍 柊一

第2話 豹変

「で…、一応聞いておくが…」


俺が横目でゼウスを睨みながら話の核心をつこうとした。だが、ゼウスはそれをわかっていたかのように俺より早く言葉を紡ぐ。


「ああ、なんで君を狙ったか…だね?」


話が早くて助かる。俺は小さくうなずき、ゼウスと向き合う。


「そうだ。ほかの神たちから聞いたぞ?お前が俺を狙って、源神とかいう奴とかをけしかけたって…。一体どういうつもりだ?」


声が少し荒々しくなってしまった。だが、それを気に留める余裕なんて、今の俺にはない。
ゼウスはいきなり真面目くさった顔をして口を開いた。


「…そうだね。一概にいえば…君が、不死族だったから…だね。」


何度も耳にしていた不死族という言葉。
勇者に呪いの弾丸を受けたときに現れた男が言っていた言葉だ。
現に俺もスキルとして【不死族化】というものを使っている。


「…確かに、俺は不死族と呼ばれる存在になったらしいが…なんでそれだけでお前みたいな世界の頂点にいるやつから狙われなきゃならない?」


はあ、とゼウスがため息をつく。


「…え~と…昔、あの世界に不死族がいたことは何となく憶測がつくだろうけど…とにかく、その不死族が現に君のいる世界…ラズニエルに居たんだよ。そいつは、もうめちゃくちゃ強かった。人間でありながら山ほどもある魔物を一撃で葬りさり、何度殺しても尽きない命…。心は人間でありながらも、絶対的な力を持ったそいつは魔物達を虐殺し始めたんだ。…家族も、家庭もある魔物達をだよ?中には人間を殺すような奴もいたけど、それは奴が殺した魔物の数に比べれば大したことはない。この世界におけるパワーバランスが崩れ始めた。」


「パワーバランス?魔物と人間の間にそんなものがあるのか?」


「そうだよ。この世界では魔物の命と人間の命の重みは一緒なんだ。で、この世界で死んだ人も魔物も転生することになるんだけど…これまた不死族が殺した魔物の魂はみんな壊れてしまっていてね…。あ、魂が壊れるっていうのは、君も目にしただろうけど、あんまりにも強い魔力で魔物を倒すと跡形も残らず消えてしまうだろう?それのことを言うんだ。魂が壊れると、転生ができない。その魂は本当に無に消えてしまうんだ。それが大量に起きた…すると…何が起こると思う?」


俺はわからない。というか、今までの話全部が突拍子もない話だ。
とてもではないが信じられない…だが、目の前のゼウスは至極真面目に、俺に言い聞かせるように話をしている。それを見ると、理由はわからないが、信じるしかないように聞こえてくるのだ。


「わからない…一体何が起こるんだ?」


「…世界の崩壊。世界自体の消滅。生きてるもの、死んでいるもの…その世界の全部が全部、なくなるんだよ。」


「そんなバカな!?」


「ありえないって、思うだろう?でも、世界はそういう風にできてるんだ。魂一つ一つに世界を維持するための要素…【オリジン】って言うんだけど、それが詰まってるんだよ。一定数の【オリジン】がないと、世界が腐ってしまう。だから、その【オリジン】を魔物や人間が生きている間ばらまいてもらう。で、それがなくなると人間や魔物は死んでしまう…。もちろん、【オリジン】はその方法でしか世界にばらまけない。私がそういう風に作ったわけじゃなくて、それが当たり前だから…。私の起源まで話をするとかなり長くなっちゃうから、割愛するね。…で、その要素が十分に詰まった魂が、ばらまく前に消されちゃったんだ…。で、あのラズニエルは【オリジン】不足に陥った。簡単に作り出せるものじゃないし、魂なんて一から創造するのはかなりの手間なんだ…。だからリサイクルしてたのに、あいつが全部ぶち壊した。だから…私は奴を殺すようにラズエルとアテネに命じた。」


「でも、俺がそれをやったわけじゃ…」


ない、と言いかけて俺は口を噤んだ。先ほどまで大量の魔物や魔族をぶっ殺していたのだ。あの異常な火力で。


「思い当たる節があるだろう?そうなる前に私は君を殺したかった。だから、君に源神をけしかけたんだ。」


俺はついに頭にきた。それならそうと説明すればいいだけの話だろう。しかも、不死族って種族があるからには、絶対に創造したのはこいつかアテネかラズエルだ。予想がつく。どんな気持ちで作ったか分からないが、作って殺すなんてそんな勝手なこと、いくら神でも俺は許せなかった。


「…それを説明してくれればよかったじゃないか!?お前らは一体何様のつもりなんだ!?人の命を軽く見すぎだっ!!」


「それは君にも言えることだよ。アレン君。君も魔物達の命をさんざん奪ってきたじゃないか?よくよく自分の行いを顧みてよ。」


「だがあれは襲われたから命を奪っただけだっ!殺らなきゃ殺られる!それに、お前みたいに俺は命を創造しておいて、自分で始末するなんてそんなむごいことしていない!!」


「……むごいこと…ね。命の重さについて議論しても先が見えないだけだよ。もうやめよう。で…わかってくれたところで…死んでくれないかな?」


「はっ!?」


ゼウスが最後の言葉を言ったと同時に、俺の全身をどこまでも冷たく、鋭い殺気が襲う。
思わず冷や汗が噴き出るが、そんなことにかまっていられるか。


「なんで死ななきゃならない!?」


「君はもうすでに嫁を二人も持ってる…しかも、二人ともすでに不死族になってるんだよ。アレン君。君が発生源。で、君を殺せばあの二人の不死族化は解ける。…ほら、これが一番犠牲が少なくて、リスクを軽減できるでしょ?…納得したのなら…死んでくれ!!」


気付くと奴は目の前に居た。
世界が瞬時にスローモーションに変わる。


いつの間にかゼウスの手には黄金の剣が…あれは見覚えがある。アテネとラズエルが襲ってきたときに使っていた不死族を殺す剣だ。


迫りくるその刃を、すんでのところで俺は躱した。


「…なんでこんなめんどくさいことを…というか君、予想以上の戦闘力だね…今の一撃ならほとんどの神に対して有効打になるんだけどね…。ちょっとばかし、本気を出そうか…いや、久しぶりに本気を出すなぁ…こっちでも向こうでも私に相対することのできる猛者はもういないからね…!」


ゼウスの魔力が高まるのを感じた。
そして何事か口の中でつぶやいているのを、俺は聞き逃さなかった。




「ま、全部…暇つぶし、なんだけどねぇ…くくっ…面白いくらいにはまってくれたね…」




ゼウスはそれを言い終わるか終らないうちに、すでに俺の目の前に迫ってきていた。
そして、黄金の剣が振るわれる。先ほどとは段違いの速度で。




こうして、俺と最高神との戦いは始まった。

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