ファンタジー異世界って・・・どういうことだっ!?

蒼凍 柊一

第9話 終焉の剣

闘いの火蓋が、斬って落とされた。


「グオオオオ!」


「オオオオオン!!」


黒龍と白龍が激しくぶつかり合う。
互いに反動で後ろに吹き飛ぶ。
だが、それだけでは終わらない。
瞬時に体制を黒龍は立て直すと、黒炎の熱線のようなブレスを吐き出す。
それは、破滅の息吹だ。さらされた大地や、木が瞬く間に消滅していく。
だが、白龍も黙ってそれを受け止めるわけではない。
黒炎とは対照的な、白炎のブレスを吐き出した。
こちらも同じく、熱線のようなブレスだった。


互いの息吹はぶつかり合い、せめぎあい…


地形が変わるほどの破壊を二匹はもたらしていた。


しかし、その均衡も長くは続かない。
次第に黒炎が押され始める。


「ガアアアァァァ!!」


それを認めまいと、さらに黒龍は出力を上げる。
その強靭な体でさえ、耐えきれないほどの出力だ。
自分の吐き出したブレスの衝撃で、体の内部が破壊されていっているのを、黒龍は感じていた。




だが、黒龍の攻撃は激しさを増すばかり。


少しも衰えたりはしないのだ。


己へのダメージなど気にしないと言わんばかりのその堂々とした態度に、白龍はわずかに目を見開いた。


『例えわが身が朽ち果てようとも、貴様だけは殺すっ!!』


白龍の頭に、覚悟を秘めた、重い声が響く。
それを打ち払うように、白龍も出力を上げていく。


次第に黒龍の体から、鮮血が噴き出し始めた。


それでもなお、攻撃をやめない黒龍。


神話級の戦いを、二匹は繰り広げていた。




――――――――




一方その頃、民衆たちはパニック状態に陥っていた。
勇者と魔王の手下と言われた女が闘っているのは理解していた。
だが、女の方が急に黒い龍に姿を変え、そして勇者はそれを引き付けつつ聖国の外で戦いを繰り広げているのだ。


「皆のもの!!静まるのだっ!!」


そこへ、壮年の男が姿を現した。
そう…この男こそ、この国の王だ。
瞬時に民衆たちは跪いた。


「兵士たちよっ!速やかにこの者たちを塔の最上階まで運ぶのだっ!あの勇者は今、外で黒龍を食い止めておる!!…この魔王を始末すれば、外の騒ぎも収まるはずだ!」


その言葉を聞き、兵士たちが意識を失っているアレン、リリア、クローディアをそれぞれ抱えると、塔の内部に入っていった。


「ちょっと待ってください!!」


そこでセルリアが声を上げる。
彼女は震えていた。極度の緊張か、ここで仕損じれば確実に3人とはここで別れる運命だと、直感でわかったからか…。
そんな彼女を見て、国王は優しく微笑む。


「なに、心配するでない。確実に、この魔王と、手下たちを葬ったあと、勇者の隙をついて国に返してやる…いましばらくの辛抱だ。」


「そ、そうではないのです!国王陛下!」


震える声で、精一杯にセルリアは伝える。


「彼らは、魔王の一行ではありません!!」


その言葉に、すぐさま民衆たちが反応する。
ざわざわと騒がしくなるのを、兵士たちがとがめる。


その中から、兵士長らしき人物が国王陛下の前に出て、跪く。


「俺たちは見たんだ!奴がすべてを消し去れるくらいの魔法を使うところを!!あんな魔法を使えるのは、魔王以外にありえん!!国王陛下!そやつも魔王の毒牙にかかっておるのではありませんか!?それに、外で勇者様が闘っている相手は、間違いなくそいつらの仲間です!」


「…私は、商業都市一の貴族、フロウライト家の使用人をしております、セルリアと申します…。国王陛下…私は彼らと行動を共にしたこともありますが、魔王と呼ばれるような悪逆非道な行いは全くしておりません!…外で暴挙に出ているアレは、あまりにも勇者様の仲間たちに対するその…接し方が、よろしくなく、頭にきてやってしまっているのですっ」


「ほう…セルリアとやら。君はかのフロウライト家の者だったか…。だが、安心したまえ。我らが最高神は、決して間違った判断などなさらない。この疑いの掛けられている可哀想な者たちも、我らが神が潔白を証明してくだされば、解放しよう。」


確かに、その通りだとセルリアは思う。
黒であっても、白であっても、最高神が審判をすれば、それが絶対の決定だ。
ようするに、とにかく審判はする。その結果次第で、解放するかしないかを決めるということだ。


「かしこまりました…すべては、陛下のお心のままに…」


彼女は、国王の前に跪き、頭を垂れた。


「うむ…ならばともに来るがいい。セルリア。君と、君が慕っているこのものたちが白であったのであれば、余は君等に謝罪をせねばなるまい…。」


「はっ、はいっ。ありがとうございます!」


「うむ…ゆくぞ。【転移】!!」


王は兵士たちとセルリアを連れて、一緒に塔の内部まで行き、床に描かれていた転移魔法陣で移動した。




―――――




「グオォォオ!!」


我は大きく声を上げ、ブレスを吐きながら、空中に飛び上がる。
そして、途中でさっとブレスを切り、大きく背中の翼をはためかせながら、側面へと回り込む。


白龍の首に、かみついた。


「オォォ!!」


だが、我が牙は軽く白龍の鱗に傷をつけた程度だった。


大きく首を振り、白龍は我を跳ね上げる。
そして、互いに空中を飛び回る。


狙いを澄まし、我は火球を放つ。
それをすんでのところで白龍はかわした。
そのカウンター気味に、白龍も白いブレスを放ってきた。


我はよけきれずに、諸に当たってしまう。
かろうじて障壁が働いたが、傷は深い。
だが、我の修復能力は伊達ではない。
瞬時に傷を治すと、再び白龍に接近。


自慢の爪で、奴を引き裂く。


奴もただで受けてくれるわけではなかった。
避け、飛ぶすれ違いざまに我を翼爪でえぐってくる。


激しい攻防が続いた。
遠目に、塔の最上階にアレン達がいるのが見えた。


(まずい。あそこでは、所定の手順を踏まなければ、最高神への道は開けても、傷一つつけることができぬ。かくなる上は…)


我は翼をはためかせ、白龍と組み合う。
何度か爪を合わせたが、筋力だけならば、我も負けてはいないので、隙をつき、白龍の腹に爪を食い込ませる。


そして、塔の中腹めがけて白龍を投げつける。


「オォォオオォオッッ!?」


なすすべなく、塔にたたきつけられる白龍。


だが、塔はびくともしない。
しかし、当初の目的…儀式の中断は成功したようだ。


我がそちらに気を取られていると、目の前の白龍が我のしたことと同じ様に、足の爪で我をつかみ、上へと投げる。


頂上付近まで吹き飛ばされた。
すぐさま追ってきた白龍の一撃が、我に直撃する。


「ぐあああああああ!!」


全身にすさまじい衝撃が走り、人間の姿に戻ってしまった。
そして、塔の頂上へと転がり落ちる。


全身を激しく打ちつけながらも、足は無事だったので、立ち上がる。
まだ、闘いは終わってはいない。


奴も消耗していたのか、人の姿に戻り、我と数百メートルほど離れた場所に着地した。


「…なかなかやるな…だが、俺にかなう訳がないだろう…ぐっ!?」


我は油断している奴の顔に剣を投げつけた。
激しく回転しながら迫りくる剣を奴はよけそこない、顔に傷がついた。


「この…クソ女がっ!!俺がこの手で、葬ってくれる!!」


「クハハっ…できるものなら、やってみろ!!この下衆が!」


両手に再び剣を顕現させ、我は奴と切り結ぶ。
右手の剣で一閃。
身体を大きく逸らして、その攻撃はよけられる。
だが、左手の剣で追撃、だがその攻撃も奴の剣によってはじかれた。
返す剣で、もう一度一閃。それも避けられた。


「クッ!」


奴の剣が我に迫る。
かろうじて避けても、すぐさま追撃がやってくる。
体術と剣術を合わせたその攻撃方法は、まさに怒涛の勢い。
我は防戦一方になってしまった。


我の脇腹を狙って奴の蹴りを見切る。
両手の剣をクロスし、神速の速さで踏み込む。


「っ!?」


確実に、奴を切り裂いたと思った。
大きく血を出しながら倒れたのは、我だった。


「ぐああああああっ!!」


痛みが走る。
傷口に呪いを受けてしまったようだった。
まさに、絶体絶命。


身体が鉛のように重くなってしまった。


視界の端で昏倒状態から起き上がったクローディアとリリア、メイドが、兵士たちの拘束を振り払って我を助けようと駆け寄ってくるのが見えた。
国王は先ほどの衝撃で、腰を抜かしてしまっているのも見えた。


「ヴァイルっ!!」


「くっ…」


だが、遅い。
奴の眼は確実に殺意を帯びていた。


「この、魔王の手下めっ…!!」


奴が剣を振り上げ、








奴の全力で、それが振り下ろされる。






(ここまで、か。)




我は覚悟を決める。
前にもこんなことがあった。
そう、あれは源神ガイアとの戦闘の時だったか。
あの時もこんな絶体絶命の状況で……そんなとき颯爽と現れたのは、わが主だった。


心が波打つ。


また、我は負けるのか?


また、人間如きに我は負けるのか?…主でもない人間に、アレンでもない人間に。


今回は、アレンは来ない。


世界がスローモーションに見える。


(やりきれない思いを抱えたまま死ぬわけにはいかぬ)


(奴に殺されるくらいならば…最後位道連れにしてやろう)


絶対的な意思を持って、不屈の意志を持って、我は、その一撃に対抗する。
たった二本の細腕と、スタイルのいい体すべてを総動員して。




「死ねぇ!!女ぁ!!」




奴の一撃が我に届く刹那、右腕が、全身が…異常な力で満たされたのを感じた。




そして、我の意思に共鳴するかのように…奴の剣を…ほかでもない、我の剣が止めていた。








ーキィイィン










剣と剣のぶつかる甲高い音が、塔の最上部で響き渡った。

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