ファンタジー異世界って・・・どういうことだっ!?

蒼凍 柊一

第23話 リリアの気持ち

私たちはルナの店から外へと出る。空を見上げると、太陽は真上の位置にある…ちょうどお昼時だ。
そんなことを思っていると、左の方向からいい匂いがした。
肉の焼けるにおいだ。
その匂いに敏感に反応したのは、最愛の夫であるアレンだ。


「お?…リリア。串焼きがあるぞ?食べようぜ!」


「え!?あ…///」


彼は私の手をとり、ゆっくりと串焼き屋の方へと歩き出す。
手から伝わるぬくもりが、なんだかうれしく感じてしまう。
決して、ルナの店から買ったアレが原因ではない。


…それにしても、ルナったら…なんであんなもの思いつくんでしょうか…アレンと同郷の転生者で、元の世界ではそれもあったとか…一体どういう世界なんでしょう…?


そんなことを考えているうちに、串焼き屋の前まで来てしまう。


「串焼き2本ください。」


「あいよっ!今焼いてるからちょっと待ちな…なんだいあんちゃん!可愛い彼女だな!ガハハ!」


店主のおじさんは私たちを見て、豪快に笑い飛ばす。
私は頬が真っ赤になるのを感じた。
アレンは思いっきり笑顔になり、おじさんに向けて言い放つ。


「違うぞおっちゃん…このお方は、俺のお嫁さんだ!!」


「おぉ…!あんちゃんやるねぇ!!こんな可愛い娘さんを嫁にとるたぁ…いいね、気に行った!それ、もう二本サービスだ!」


焼きたての串を二本ずつ渡してくれたおじさんは、とてもいい笑顔で私を見てくる。
恥ずかしいのか、うれしいのか…私の顔がほころぶのを、私自身が感じた。


「マジか!ありがとうおっちゃん!」


「ありがとうございます!おじさん!」


「おう!会計は800ドールだ!」


お金を出そうとすると、アレンはすでにおじさんの手のひらに800ドール渡していた。


「あっ、ありがとうございます…アレン。」


「あそこに腰かけて食べようか?」


アレンが指をさしたそこには腰を掛けるのにちょうどいい大きさの木箱が置いてあった。
民家の脇にあるそれは空き箱で、放置されてから時間も浅いのか、綺麗だったので私たちは迷わず腰を掛けて、肉をほおばる。


「はむはむ………これ…おいしいです!」


とたんに肉汁がジュワっとしみだしてきて、いい香りが口の中に広がる。スパイスも程よく聞いており、ピリ辛な味だ。
大雑把な味付けだが、こういうのもたまにはいいと思った。


「これ、うまいな…!」


気が付くとアレンはすでに二本目に達していた。
夢中で肉を食べると、いつの間にか完食していた。


「ふぅ…食べた食べた…」


「おいしかったですね…アレン!私、次は宝石店が見たいです!」


「お、いいな!言ってみるか…」


私たちは立ち上がり、近くの宝石店へと、足を踏み入れた。




―――――――――




宝石店に入ると目の前に、私の腰くらいの小さいおじさんが立っていた。
ドワーフだ。彼らは小さいが、鉄や宝石を扱わせたら一流の技術を持つ種族だ。


「らっしゃい…」


小さくぼそぼそと呟くと、ドワーフのおじさんはカウンターに座り、私たちを眺めていた。
そんなおじさんをしり目に、私たちは宝石を見ることにた。


「わぁ…!」


「こりゃすごいな…」


私たちは感嘆の声を上げた。
ショーケースの中には金や銀で作られたネックレスや、付呪が施された腕輪やサークレットなどが所せましと並んでいた。
キラキラと輝くそれらは、城壁都市では見る事さえなかったものだ。


「すごい……あ、これ綺麗…」」


ショーケースの中の一つの腕輪が、私の目に留まった。
それは、白く光り輝くミスリルでできた髪飾りだった。それは精巧で、蝶々のようなデザインだ。
思わず溜息が出るほど、綺麗なつくりのそれから、私の眼は離れなくなってしまった。
すると、アレンが横に来てそれを見る。


「おお…センスいいな…リリア。似合いそうだな…。」


「いや、私には似合わないでしょう…それに、値段も手が届きません。」


「そんなことはないぞ?リリアだったら似合うと思うんだけどなぁ…300キール…かぁ…高いなぁ。」


しばらく私たちはその宝石店で時間を過ごした。
結局何も買わずに外に出る。


その後は、のんびりとアレンと過ごした。
お茶を楽しんだり、服を見たり…とても幸せな時間だった。


そして、宿屋の部屋に戻ると、まだそこにはクローディア達の姿は見えなかった。


「あれ?だれもいませんね?」


「ちょっと待て……ああ、分かった。怪我、するなよ?」


アレンが急に頭に手を当てて何かをつぶやいていたので、私は声を掛ける。


「どうしたんですか?アレン。」


「いや、ヴァイルから連絡があってな、なんだか明日の朝まで戻れないらしい。詳しい理由は話してくれなかった。あと、クローディアは冒険者ギルドの依頼を達成したらしいけど、なんか仲良くなった受付嬢のお姉さんと食事しに行くとか…。」


「そうですか…じゃあ、二人で食事にしましょう。食堂に行けば、食べられるんでしたよね?」




――――――


「やっぱり高級宿の料理は何度喰ってもいいもんだ!」


「そうですね、お風呂も気持ちよかったですし…こんな生活続けてたら、戻れなくなっちゃいそうです。」


私たちは食事を終え、お風呂に入った。
もちろん寝巻を着て、二人とも同じ部屋だ…ちなみに、私の下着はクローディアと選んだ例の『アレ』だ。


「…あの、アレン…こんな時しか言えないので言っちゃいますね…私と結婚してくれて…ありがとう…」


私は今の気持ちを率直に伝えることにした。
アレンの眼を見て、伝えたい。この想いを。


「ハーフエルフである私は、長寿です…ながい、長い時間を過ごします…私はまだ生まれてから22年しかたってませんが…これから外見年齢が衰えることはなくなるでしょう…ですが、アレンや、クローディアはそうじゃない…私には、この先絶対にあるであろう…孤独が、怖いんです…。」


アレンは黙って私を抱きしめる。


「…リリア…」


自然と涙があふれてきた。


「私は…人々に嫌われる身です…今はばれてなくても、いつかきっと、ばれてしまう…その時に傷つくのはきっとあなたたちだから………知ってました?ハーフエルフって、年を取るごとに耳がとんがっていくんですよ?エルフみたいに…。人間とエルフは大きく違います…エルフは、貧相な胸に、高身長…そして、耳がとがっている…これがエルフと人間を見分ける方法です…私は怖い…いつかアレンやクローディアに迷惑をかけるんじゃないかって、いつも心配なんですっ…」


身体が震える。脳裏に移るのは幼き頃に受けた侮辱と暴力…。
遠慮もなしに殴ってくる村の住民から救ってくれたのは、その村にちょうど立ち寄ってきたカムレンだった。彼女は殴られているリリアを見て、言った。


『俺が面倒みてやるから、俺と一緒に来い。』


その後はもうなし崩しに治癒術士になると決めて、修行を始めていた。
彼女は半人前の認定を受けたときに、アレンと出会った、そして死にそうな目にあいながらも、一緒にいる。
記憶を失ったという彼に不憫さを感じた私は、最初はしょうがなく、見ていたという感じだったが、いつからか私の眼は、彼しかうつさなくなっていた。
明るく元気な彼。冒険者になると言い出した時は本当にびっくりした。
危険な職業だ。死んでしまうかもしれない、と思ったら、とたんに私はその恋心に気付いた…。


そして彼は、私と、クローディアと一緒になってくれた…アレンへの感謝が私の奥底からあふれてくる。


アレンの抱擁がより一層強さを増した。
そして、彼はささやく。


「俺は、どんなリリアだって受け入れるよ。ハーフエルフでも、人でも、エルフでも俺は気にしない…それで、どんな苦難に出逢おうと、だ。それに、寿命がなんだ。そんなもん忘れるくらいに楽しい思いをさせてやるし、若返りの薬や、不老不死になる薬だってあるかもしれない…俺の残りの人生をかけて、俺たち3人…いや、ヴァイルも入れて4人が、幸せになれる方法を見つけ出して見せるさ…。だから、泣くなリリア。泣いていいのは全部だめだったってあきらめたときだけだ…こんなことしか言えなくてごめんな…でも、俺は本気だぞ?何が何でもお前たちと幸せになってやろうって言うやる気だけはあるからな…?ほら、顔を上げて…」


ーちゅっ


リリアの唇と、アレンの唇が重なる。
どちらからともなく、ついばむようなキスを交わす。


「…ん…アレン…」


「リリア…愛してる。絶対に、幸せにして見せるから…絶対、放してなんかやらないからな…」


深いキスを交わし、舌と舌を交わし、キスをする。


「ふぁ…んむ……やっ…」


アレンがリリアの背中に手を回し、服を脱がせる。


月光に照らされるリリアの姿は、まるで女神の如き美しさだった。
傷一つない白い肌に、栗色の髪…揺れる大きな二つの胸が、アレンの情欲を煽る。


「…いいか…?」


アレンはリリアをベッドに優しく押し倒し、まっすぐリリアの眼を見て尋ねる。


もう涙は流していない。
私は早くなった鼓動を感じる…きっと赤い顔をしているだろう……ゆっくりと私は、うなずき、震える声で言う。






「愛してます…アレン…」






ついにアレンは、もう一人の妻との初夜を迎えたのだった。




とりあえずこれだけは言っておこう。
彼は今回も、5回は挑んだらしい、と。

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