ファンタジー異世界って・・・どういうことだっ!?

蒼凍 柊一

第17話 神殺し

「だめええええええええええええ!!」


クローディアが叫ぶ。
リリアがさらにスピードを上げる。


だが、追いつかない。
どうやっても間に合わないのだ。
どんなに魔力を使っても、その刹那の瞬間には間に合わない…。


二人の目には、絶望の色が宿っていた。






―――――――――――






時間は少し巻戻る。
ヴァイルは巨人の足に向けて魔力爆散を使った。
それから、よろけさせたのはよかったのだ…。
だが、彼女はそこで油断してしまったのだ。


「クハハ!!この程度かっ!!……ぐぁっ!!」


嗤った直後、ヴァイルの頭にすさまじい衝撃が走る。
なぜか、はじいたはずの足が、ヴァイルの頭を捕らえていた。
数百メートル吹き飛ばされるヴァイル。


「ゴオオアアアアア!!」


怒りの声を上げるガイア。
まるで何かに八つ当たりでもするかのように、巨人は思いっきり拳を振り上げ、騎士団を圧潰させる。


「ぐああああああああああああああ!」


騎士たちの断末魔が響く。
余波にやられたものも多数だ。


「クハハ!!神如きが、我に手を出すか…!!許さぬ!!許さぬぞ!!」


完全にヴァイルはキれてしまった。
双剣に自分の持っている最大の魔力を注ぎ込み、飛び上がる。


「ハアアアアアアアアアアアアアア!!出来損ないの神ガァ!!」


ズバァっ!!という轟音と共に、巨人の片腕をヴァイルは斬り落とす。
だが、それでも彼女は止まらない。




「【破滅の一撃】!!」




残っているすべての魔力を総動員させ、ヴァイルは決めにかかる。
両手の剣をクロスさせ、高い瞬発力で風のように空に飛び立つ。
ガイアは残った片腕…左腕で彼女を向かい打つ。


「ハアアアアアアアア!!」


「ゴォォォアアアアアアアアア!!!!」


左腕の拳を真っ向からたたき斬るヴァイル。
ーバキバキっ、という轟音と共に、巨人の体にまで亀裂が走る。


「ぐっ…なんというタフさか…だが、これで、終わりだっ!!」


クロスした剣を思いっきり振りぬくヴァイル。
巨人の腕が完全に消し飛び、体の半分をえぐる。


「はぁ、はぁ……我の、勝利、だ。」


仰向けになり、倒れ伏すヴァイル。
全ての魔力を使い果たし、巨人を打倒した。
あとはガイアが崩れ、消えるのを待つだけだった。








…だが、いつまでたってもするはずの轟音がしないことにヴァイルは気が付く。






もはや動かぬ体を無理やり動かし、首だけをガイアの方へ向けるヴァイル。
そして彼女は信じられぬものを目にした。


「なっ…再生…だと!?」


そう、ガイアはすでに五体満足の体に戻っていたのだ。


「ヴァイルゥウウウゥウウ!!逃げてぇええええ!!」


遠くに黒猫の声が聞こえる。
だが、ガイアが拳を握り、ヴァイルをつぶそうとする方が早い。


「ちっ………ここで、終わるのか…我は…」


覚悟を決め、目を閉じるヴァイル。


(悪いな、リーダー…我はここで、死ぬようだ…すまない)


心のなかでハデスに謝罪しながら嗤うヴァイル。


「クハハ…来るがよい、クズ神が…我を殺せるものなら殺して見せよっ!!」


一喝するヴァイルに、周囲すべての大地を震わせながら、巨人の拳がヴァイルを捕らえるか捕らえないかの距離まで迫りくる。














だが、その刹那…蒼き閃光がヴァイルの視界を埋め尽くした。










そして、轟音が鳴り響く。




アレンの声が、ヴァイルの耳に届く。
どこまでも優しく、いたわるような声だった。


「大丈夫か?よく、頑張ったな。」


その声を最後に、ヴァイルは意識を手放した。






―――――――――――




「おい、ヴァイル…しっかりしろ。あの程度の相手にお前は負けちまったのか?」


腕の中で眠っているナイスバディの元男の感触を楽しみながら、ヴァイルに声を掛ける。
だが、返事がない。
ゆっくりと彼女の体を地面におろしてやる。
すると、大きな彼女の胸が上下しているのが見えた…どうやら生きてはいるようだったので一安心だ。
そして俺はヴァイルをこんな目に合わせた張本人…ガイアを睨み付ける。
先ほどヴァイルを助けたときに喰らわせた一撃が、奴の右腕を完全に吹き飛ばしていた。
だが、俺の怒りはそんなものじゃあ、収まらない。
瞬間的にガイアの目の前まで来ると、奴と俺はにらみ合った。






「絶対に、お前は俺が倒す!!うおおおおおっ!!」






蒼きロングソードを構え、剣に魔力を送り込む。
一瞬の間にありったけの魔力を全てつぎ込む。
身体と、剣とに、注ぎ込む。


クローディアとリリアが駆け寄ってきて、何事か叫ぶが、俺の耳には届かない。
完全に、俺は切れていたのだ。
その様子を見てあきらめたのか、リリアとクローディアはヴァイルを持ち上げ、空中移動で遠くへ逃げていくのが見えた。


「早く逃げないと、巻き込まれるわよ!リリア!!」


「わかってます!!皆さんも早く逃げてください!!」


二人は必死で周囲の人間に避難を呼びかけているようだった。
気付けば周りの魔物は全滅している。
だが、そんなことはどうでもいい。
俺は怒っているのだ。


「ゴオオオオオオ!!」


にらみ合って数瞬、動かなかったガイアは、叫びながらもう片方の吹き飛んでいない腕を振りかぶる。
瞬間的に目の前に迫りくる拳…俺は、わざとそれを受けた。




だが、ガイアの拳が俺の肌に触れることはない。
俺の纏っている魔力の層が、ガイアの拳を止めていた。


「ゴア!?」


間抜けな声を出すガイア。
俺は、奴に問いかける。


「なぁ…捕食する側から、捕食される側になった気分って…どんな感じなんだ?」


その瞬間、俺は【闘神の威圧】を発動させる。
目の前の敵から、【怯え】、【恐怖】の感情が伝わってくる。


「……俺の仲間を傷つけるやつは、たとえ神だろうが、悪魔だろうが、天使だろうが、人間だろうが…絶対に、許さない!!」




何かが俺の中ではじける。
すると、バチバチと剣の周囲に蒼い電撃のような物が迸った。
剣に送り込んだ魔力が、今にも爆発しそうになっているのだ。
奴もやっと正気に戻ったか、もう一度拳を振り上げていた。




だが、遅い。




俺はロングソードを大上段に構え、思いっきり…振り下ろす。








「うおらあああああああああ!!」








稲妻が落ちたような轟音と共に、ガイアの体が見事に縦半分に切り裂かれる。
その瞬間、目の前のログが更新されていた。


ログ


ー【超越する意思】の発動を確認しましたー


ー【神殺し】自動発動されますー








源神ガイアの体が崩れ去っていくのが見える。
それは地面に落ちる前に、光の粒子となって、消えていく。


そして、ログは続く。




ログ


ー源神ガイアを撃破しましたー


ー【最高神の因子】を獲得ー


ー【神殺し】が再使用可能になりましたー


ーインベントリに【神の眼】を追加しました-






それを確認しながら、俺は地面に降り立った。
そして、魔力を使いすぎたのか、急激に意識が遠のいた。








―――――――――――








どこまでも暗く、狭い部屋にソレはいた。
黒い闇の塊のようなものがうごめいている。
そして、ソレは言葉を発する。
四角く映し出されている青年…アレンを見て、嗤いながら。




「やっと…完成したな。奴を殺すための…【道具】が。」




そして、ソレは音もなく消え去り、あとには暗く静まり返った簡素な部屋だけが残った。

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