ファンタジー異世界って・・・どういうことだっ!?
第15話 源神との戦い
「皆の者!つづけぇ!!敵は知性のない魔物ぞ!冒険者の底力、見せてやるのだ!!」
戦場に野太い男の声が響く。
その声に、ヨーグはハッとしたような顔をして、声のした方を向くとそこには筋骨隆々の男の姿があった。
「冒険者ギルドの支部長、レムト様か!!彼がいれば百人力だな…うぉおおおお!!行くぞおおお!!!」
そう、なんとこの戦場には冒険者ギルドの支部長、レムトがいたのだ。彼は昔、単独でドラゴンを討伐した功績のある冒険者だった、
その姿を見て、ほかの冒険者も雄叫びを上げ、魔物の群れに突っ込んでいく。
そして、ついに両軍が激突した。
「グアルルル!!」
オオカミ型の魔物たちは疾駆し、前線にいた盾持ちの冒険者たちと激突。
「耐えろ!!今だっ!魔術で敵を吹き飛ばせ!!」
レムトの指揮下に入っていた少数の冒険者たちは多勢に無勢だ。
だが、必死で応戦する。魔術師の魔力が轟音をたてながら戦場を荒らしていく。
後ろにいた魔物たちが吹き飛ぶ。
魔物の焦げるにおいや、血の匂いがあたりに充満していくのをヨーグは感じていた。
「まだまだぁ!!」
必死で盾で攻撃を防ぎながら、剣で応戦するヨーグ。
そんな時、どこからともなく一人の少女の清浄で静かな声があたりに響き渡る。
その声は静かでありながら、戦場の皆に届くような声だった。
「聖地におられし神々よ…彼の者らに癒しを与えたまえ…」
それは治癒の詠唱だった。
声のする方に目を向けると、ヨーグは宙に浮いているリリアをみて、少し驚くが、そんなことは今はどうでもいい。
この混戦のなか、治癒の魔法は貴重なのだ。ましてや相手は倒しても倒しても次から次へと襲い掛かってくるので、もはや個々の戦闘になりかけていたのだ。
「リリアさんかっ!ありがたい…!」
「【範囲治癒】!!」
少女の声があたりに響く。
すると、ヨーグの体には変化は起きなかった。
それを確認すると、途端に顔が青くなるヨーグ。
「まさか…詠唱失敗だと!?」
ヨーグが感じたのは詠唱の失敗ではないか、ということだった。詠唱失敗とは新米魔術師にはよくあることで、しっかりとした手順を踏まずに魔術を行使すると起きるものだ。熟練の魔術師ですら目の前に大型の巨人を前にして、悠然と術式を組めるものがいないように、リリアもそうでないか、と思ったのだ。
だが、途端に変化が起きていることにヨーグは気付く。
自分たちの体でなく、魔物たちの体が淡い光を帯びていることに。
「何を考えているんだ!?これじゃあ魔物たちが活性化するだろう!?」
リリアに怒声を浴びせるヨーグ。
だが、次の瞬間、ヨーグは我が目を疑った。
ージュワアア!!
という音と共に白い体の魔物達は溶けていくのだ。
「なんだ!?…これは、オーバーヒールか!?」
広範囲に設定されていたリリアの術式はすこし出力が落ちていたため、何匹か殲滅しきれず残ってしまったが、見るからに魔物の量が減ったのがヨーグにはわかった。
「…こいつぁ、どういうことだ!?」
「詮索は後にして!!今は目の前の敵を倒すわよ!!」
女性の声が耳元を過ぎ去ったかと思い、そちらを振り向くと、今まさにクローディアが前衛を任されている冒険者を抜け、単身敵陣に突っ込んで行っていたのが、ヨーグは確認した。
「戻れ嬢ちゃん!?死にたいのかっ!?」
数百体の魔物にあっという間に囲まれてしまった少女を見て、ヨーグは歯を食いしばる。
だが、次の瞬間、集まった魔物の群れが神速の速さで動く【何か】に切り刻まれていく様子が見えた。
「はああああああああ!!死になさい!この白くてキモい魔物どもがっ!!」
声が聞こえた。確かにクローディアの声だというのがヨーグには理解できた。
ゴーレム型の大きな魔物にも、クローディアは臆さず突っ込み、その膝、腕、胴体、頭、すべてを瞬時に切り離していく。
「ていっ!!」
二刀の包丁が蒼く光り輝き、尋常ではない攻撃力を生み出している。
冗談のようにスパスパと切れていくゴーレム。
雷撃を放ってくる魔物もいたが、クローディアはなんということもないように、包丁の一振りで雷を払いのけ、目にもとまらぬ速さで魔物に接敵、頭を切り離す。
そして、数百体の魔物が倒れ伏した時、そこの戦場には黒き髪をして、まったく汚れひとつついていない少女…クローディアの姿があった。
「…なんだあいつは!?まるで黒い閃光だったぞ!?」
「それを言うならあの治癒術士もだ!治癒で敵を倒すなんて、聞いたことが無い…デスヒーラー、か…」
「なんにせよ、勝の目が見えたぞ!!あと魔物はもう少しで方がつく!二人を守りながら、戦線を押し上げるぞ!!」
「「うおおおおおおおおおおおおおお!!」」
一気に士気が上がる冒険者たち。
前線のクローディアとリリアのちょうど間にいたヨーグは、いつの間にか横に立っている禍々しい鎧を着た女性に気付かなかった。
「なかなかやるな…どれ、我はあの騎士団どもと共に源神の相手でもするか…」
静かに呟くと、瞬時に女性は消え去った。
だが、魔物たちは残り千五百くらいだ、先の見えない戦いは、始まったばかりだった。
――――――――――――
巨人が足を振り上げ、群がる虫を蹴散らすように巨人は騎士団を蹴り飛ばそうとする。
「第一撃、来るぞ!!魔法騎士部隊!障壁を展開!攻撃をしのげぇ!!」
騎士団の団長が声を張り上げる。
前線にいる騎士が障壁を構築。
瞬間、大地をゆらし巨人の足が障壁に当たる。
すると、パリンという轟音とともに、障壁が崩れてしまったのを団長は確認。
前線の魔術騎士は青い顔をしていた。
団長は目をつむり、考える。
(これは…なんだというのだ…?全滅は免れん…我らの命運もここまでか…」
だが、再びした轟音に目を開けた団長は信じられないものをまのあたりにした。
なんと、一人の女性が、巨人の一撃を止めたのだ。
その手にある双つの剣は、どこまでも黒く燃え上がっている。
「クハハハハ!!源神も落ちたものだ!!我でも防ぎきれるとは…天界での怠惰がたたったか!?」
瞬間、黒い波動が放たれる。
猛烈に襲い掛かってくるプレッシャーに騎士団全員は立ち上がれなくなってしまった。
滝のように流れ出る汗をぬぐいながら、地面に這いつくばる団長はなんとか声を上げる。
「な、なんだあれは…!?」
だが、その問いに答えられるものはいなかった。
瞬時に襲い掛かってきた爆風によって。
「【魔力爆散】ッッ!!」
黒き魔力が放たれる。
ヴァイルを中心としてではなく、ヴァイルが巨人の足に突き立てた剣先から、魔力波が砲撃のように噴出していた。
「グオオオオオオ!」
巨人は悲鳴を上げ、数歩下がる。
「相手に不足はなし!我、アレンの使い魔にして、最強の存在…ヴァイルなるぞ!いざ、尋常に勝負!!」
生身でヴァイルは飛び上がり巨人と交戦し始めた。
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