ファンタジー異世界って・・・どういうことだっ!?

蒼凍 柊一

第10話 学生騎士

あの後、エルとアレンは必死で女性教師と男たちを説得した。
まぁ、エルはフロウライト家の娘だということもあり、もめ事もなかったのだが。


「…申し訳ありませんでした。エルさんのお知り合いとは気付かず……私はエルさんの学年を担当しております、シャーリー・ハイランドです。」


女性教師の誤解は解けたようで、深く礼をして、名を名乗ってくれた。
頭を下げるハイランドをエルが止める。


「いいんですの。ハイランド先生、今回はアレンさんが悪いですの。所定の手続きをとってから見学に来ればよかったんですの!」


「ああ…すみませんでした!次回はきっちり手続してから来ますんで!!」


アレンも謝り始める。


「…エルさんがそういうなら…。しかし、アレンさん。あなたは何者なんですか…?生徒たちの攻撃も難なく避けていましたし。」


その言葉に気まずそうになるアレン。


「えっと…ほら、俺…冒険者ですし!強いですし!なんなら生徒さんに稽古もつけちゃいますよ…なんつって…」


強引にごまかそうとするアレンを怪しそうに見つめる教師。
そして、なにか思いついたようにエルの表情が明るく変わる。


「ねぇ、先生!アレンさんもお強いことですし、いい機会ですの。わたくしたちとアレンさんで、戦闘訓練をおすすめしますの。」


その言葉にえっ、と驚くアレン。
ハイランド先生はしばらく思案した後、結論をだしたようだ。


「それはいいですね…さぞや名のある冒険者様なのでしょうし…冒険者の方と剣を交える機会は、めったにありません…アレンさんさえよければ、お願いします。」


にやっ、と笑うエル。


「アレンさん…無断でこの敷地に侵入して、先生方を困らせた罰ですの…訓練のお話、受けてくださいですの。」


「エル…お前、そんな奴だっけ「アレンさん?「わかりました…俺でよければ、お相手しましょう。」


しぶしぶうなずくアレン。エルは横ではしゃいでいた。


「さて…では生徒に事情を説明しますので、少々このテント内でお待ちください…」


「またあとでですの~」


そう言い残し、エルと教師は出て行ってしまう。




―――――――――




「…で、なんでこんなに注目されてんだ?俺。」


アレンが独り言をつぶやく。
無理もない…アレンがエルに連れられ外に出ると、坊ちゃんやお嬢様といったこぎれいで成金っぽい子供たちがひそひそと話しているのが聞こえたのだ。


「あれが例の…なんだか思ったよりひょろひょろしてますわ…最強の剣士様とお聞きしたので、マッチョな方かとばかり…」


「でも、顔はカッコイイですわよ?剣の腕も達者でいらっしゃるようですし…」


「…ふん…あんなやつ…俺にかかれば一捻りだ。」


「エル様のお知り合いにあんな方が…?どういう関係なんでしょうか?」


「やっぱり、彼氏とかじゃない?こんなところまで会いにくるなんてそれ以外考えられないもの。」


「…あいつ、俺たちのエル様に手をだしたのか…許せんっ!!」


アレンは耐える。
きゃーきゃー言ってる女子連中と、殺気がこもった男連中の視線をひたすらに耐える。
そして、早足でハイランドのそばまでやってきたアレンが一礼する。


「…初めまして、俺はアレン。急な来訪にもかかわらず迎え入れてくれたことに感謝する…。そこで、お礼と言ってはなんだが、みんなの剣術の稽古の相手をさせてほしい。」


「アレンさんは先ほども話した通り、腕の立つ冒険者様です…さて、こんな機会はめったにありません…相手をしたい方はアレンさんに直接訓練を申し込むこと。いいですね?」


途端にざわざわしだす生徒たち。
お前がイケよ、とか、私と夜の訓練を…とか言ってるアホまでいた。


(こいつら…どうしようもないな)


お前が言うな。


「アレンさんは冒険者ランクはどれくらいなんですかー?」


生徒の一人から質問があがったので、アレンはドヤ顔で答える。


「数週間前に冒険者になったばかりでな…Fランクだ!!」


冒険者カードを見せつけ、ドヤっているアレンを見て静まり返る生徒たち。ハイランドも唖然としていた。


すると、先ほどフィゼルという生徒と戦っていた生徒のうちの一人、シグマが笑い出す。


「はっはっは!!先生も人が悪いっ!それに先輩方もだ…わざわざFランクの冒険者様と戦わせて、俺たちに自信をつけようとしてくださるとは…!」


それに合わせて周りの生徒たちも笑い始める。
あきらかにバカにしたような態度をとる彼らに、エルは憮然としていた。


「アレンさん。遠慮はいりませんの。ぶっ飛ばしちゃってくださいですの。」


「いいのか?」


「ええ、いいですの。」


「冒険者様…エル様とはどこでお知り合いになられたんですか…?もしかして、警備に雇われただけ…とかですかねぇ?」


いやらしい声であからさまにけなしてくる生徒。
それを見て、アレンは何とも思わなかった。


(…吠えてるな~なんかめんどくさくなってきたし…脅すか!)


そして、一計を思いつくアレン。


「あー、実はそうなんだよー…エル様とは屋敷周辺の警備をしている途中でお声を掛けていただいたんだ…ありがたいことだよ。」


「アレンさん!?」


目を見開くエル。
そんなエルにウィンクするアレン。


「エル様、お言葉ですが、このような低能の輩とはお付き合いしない方がよろしいかと…」


シグマにいきなり睨み付けられたアレンは、いきなり笑い出した。


「ハッハッハ!!面白いことを言うな坊や!」


「俺を誰だと思っている!口を慎め、Fランク冒険者がっ!」


その言葉を待ってましたと言わんばかりにアレンはさらに笑う。


「…へぇ…どこの誰なんだい?俺には全く見当がつかないなぁ…?」


「この…いいだろう!教えてやる!俺は、英雄キルベリオンの息子…シグマだっ!貴様とは生まれからして違うんだ!下衆が!生意気な口をきくな!!」


その名を聞いてアレンはエルに耳打ちする。


「なあエル。キルベリオンって誰だ?」


その言葉に驚くエル。


「キルベリオン様と言えば、昔、最強の騎士とうたわれた剣盾騎士ですの…なんでもその剣は神竜の鱗を切り裂き、その盾は魔王の一撃ですら完全に防ぎきるとか…本当かはさておき、英雄と名付けられるだけの功績は成し遂げていますの。」


「ふーん…結構すごい奴の息子なわけだ……いじめたくなるなぁ…」


「どうしたアレンとやら!俺の父の名を聞いて怖気づいたか!」


呟いた後、さらに笑い出すアレン。どこかの黒い龍を思い浮かべながら。


「クッハッハッハ!!小僧!調子に乗るな!!」


絶妙なタイミングで【闘神の威圧】をちょびっと発動させるアレン。
瞬時に周りに広がる威圧。
笑い声をあげていた生徒たちも黙り込んでしまった。


「ひ、い、いいだろう!!俺を怒らせたな…貴様…!勝負だっ!」


いきなり発せられた威圧に悲鳴を上げそうになるが、シグマは耐え、勝負を挑んだ。


それを見ていたハイランドはため息をつきながら思う。


(さっきの戦いは手加減なんて私はしていなかったはず…でも、シグマさんは学院の目玉生徒ですし…アレンさんの力も見てみたいです…ここは、闘わせましょうか…。)


意を決したハイランドはシグマのグループの生徒に指示を出す。


「…さぁ、みなさん離れてください!アレンさんは訓練用の好きな武器を使ってください…結界は皆さんで作り上げること。いいですね!治癒術士が後ろで控えていますので、いくら怪我をしても大丈夫です!思い切り戦いなさい!!」


はい、と大きく声が響き、かなり広い範囲に結界が張られ、魔術の映像で大きくアレンとフィゼル達が映し出された。


「ねぇ、エルさん。本当にアレンさんてFランクの冒険者なんですか?」


ハイランドがエルに尋ねる。
彼女は先ほどの戦いを経験した中の一人だ。全力を尽くした彼女でも傷一つ負わせることができなかった事実は変わらないのだ。


「…えっと、ハイランド先生。あの人は化け物より怖い人ですの。甘く見てたら大変なことになりますの。シグマさんも相手が悪すぎですの…よりによってあの人を敵に回すなんて…。」


エルはあきれたようにシグマを見ていた。


「俺は一人でいい。貴様らはパーティーでかかってこい!」


アレンは威圧しながら言うと、シグマはついにキレたようだ。


「きさまぁああ!俺たちを馬鹿にするのもいい加減にしろ!いいぞ!そんなに死にたいなら殺してやる!お前らいくぞ!コイツをぶちのめす!…アレンとやら!負けても言い訳なぞするなよっ!」


シグマとフィゼルと呼ばれていた男と、短剣と弓を携えている女、杖を持ったシスターっぽい恰好をした女、いかにも魔術師といった風貌の男が円形に広がった結界の中に入る。


「はぁ…アレンさんも回りくどいことをするですの…彼らのプライド、ずたずたにする気ですの…?」


エルの呟きを聞いたハイランドはなぜか悪寒がしていた。


「…止めたほうがよかったかもしれませんね…」


ハイランドの呟きは誰の耳にも届かなかった。






――――――――






場所は変わり、商業都市イルガの教会内部。


その教会の宝物庫の中に、黒い炎が突如燃え上がり一人の女…ヴァイルが現れる。


「フン…カビ臭いところだな…」


宝物庫の中はいろいろなものが置いてある。魔剣と呼ばれる代物や、聖剣と呼ばれる代物だ。
そのどれもがヴァイルの求めているものではない。


探し始めて数分で、彼女はそれを見つける。
厳重に封印が施されているソレを見つけると、ニヤリと嗤う。


短剣を瞬時に出現させ、黒い炎を纏わせる。
封印の術式を見極め、ヴァイルは短剣をふるった。


「脆いな…」


封印が解かれたことを確認する。
中身を開け、装飾が施された透明な拳大の球を手に取る。


「…これが聖球か…悪趣味なデザインよ…しかし、使った形跡がないとは…そうか、こちらの世界の住人には教えてないのだな。この球の使い方を…」


それを手にしたままヴァイルは再び黒い炎に包まれ、姿を消してしまった。

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