ファンタジー異世界って・・・どういうことだっ!?

蒼凍 柊一

第12話 屋敷にて

アレン達は屋敷のガイゼルの私室の扉をくぐる。
道中、アレンの顔は見られずに何事もなく戻ってこれたのだ。


ガイゼルがアレン達を席に座るように促し、全員座ったところで話し始めた。


「さて…とりあえず、皆が無事で何よりだ…闘技場があんなになってしまったが、直せない訳ではない。アレン君。そんな俯いてないで顔をあげなさい。」


その言葉を聞いて、気まずそうにアレンは顔を上げる。


「俺は……闘技場でも見ただろ?あの爆発…正直、あそこまでの威力だとは思わなかった…軽率な行動だった…俺が計画通りに行動してればあんな被害は「アレン君こちらを見なさい。」


その一声にアレンはガイゼルの方を見る。
そしてガイゼルは言葉を続ける。


「いいかね。君は確かにやりすぎた。だが、それは我らのためにしてくれたことだ……恩には思うが、恨みを覚えるほど君は酷いことをしたわけではない。」


「そうですの……もともとゲイルがわたくしを攫おうとした事が事の発端…アレンさんはなにも悪くありませんの。」


「それでも……それでも俺は……償いたい!」


アレンは必至で頼み込む。
どうか償いをさせてくれ、と。
ガイゼルはそれを見て、ある考えが浮かぶ。


「そうか…ならば、アレン君。君達に『商業都市イルガ』のフロウライト家代表である私…ガイゼル・フロウライトから【依頼】ではなく【頼みごと】をしよう。」


その言葉に驚く一行。


「その頼みごととは、なんでしょうか?」


ガイゼルは無言で、懐から一枚の板を取り出す。
それは装飾が施され、魔術刻印が入っている。
それをおもむろにアレンに差し出す。
恐る恐る受け取るアレン。


「これは…なんですか?…これは…【コール】が刻印されている?」


板に入っている魔術刻印を見て呟くアレン。


「なかなか綺麗な細工ね…。」


クローディアがキラキラと光る金色の細工を見て、関心したように言う。


「それはな、【コール】の魔術が施された2枚で1つの魔道器具だ。それがあればどんなところにいても片割れを持つ人間に念話で話ができるのだ。かなり高い代物でな…我が家にも3対しかないのだよ。」


「ガイゼルさん。どうして、そんな高価なものをアレン君に?」


リリアが不思議そうに尋ねる。


「…アレン君。君の能力は先ほど拝見させてもらったが、とてつもない力を君は持っているようだ。そこで、だ。私は貴族でもあり、為政者でもある。そして、そんな立場だからこそ、強い力が必要なこともある…なに、汚れ仕事をしてくれ、という訳ではない…ただ、君には私と対等な『友人』になって相談に乗ってほしいだけなのだ。もちろん、君が困ったときは私からも全力で支援をしよう。」


その言葉に意味がわからないという顔をするアレン。
それを見たリリアがアレンに小声でガイゼルの言葉の意味を説明する。


「アレン君、ガイゼルさんは、こう言ってるんです。『私と友達になってくれ、何か用事があるときに相談するから、その時は相談に乗ってくれ…友人である私の頼みごとを、聞いてくれ。その代わり君が困ったときは助けになろう。』…っていうとこですかね?……ずいぶん大きくでたものです…。」


ジト目をしながらリリアはガイゼルを見る。
ガイゼルはにやにやと笑っているだけだ。
それを見たクローディアはアレンに小声で話しかける。


「まるで悪役ね…まぁ、私たちの冒険者稼業が妨害されるわけでもなし…アレン。これはあなたの償いよ。あなたが決めなさい。」


アレンはしばらくクローディアとリリアを見ると、ありがとう、と小声でつぶやく。


「……わかりました、ガイゼルさん。その頼みごと。私、アレンが引き受けましょう!」


ガイゼルをしっかりと見据え、答えるアレン。


「うむ…まぁ、そんなにかしこまらないでくれ…。今日から私と君は友人だ。さて…それではアレン君。君はこれからどうするのだ?……ああ、それと今回のエルの依頼の報酬だ。…ああ、先に言っておくが、闘技場再建のためにお金を返します。とか言うなよ?それは正当な報酬なのだからな。」


そういいつつ金貨がたっぷり詰まった袋を手渡してきたガイゼルにアレンは呆然とする。


「え…?ちょっ、どういう、ことですか?なにか、頼みごとがあるのでは?」


それを聞いたガイゼルはにやりと笑う。


「ああ、それなら当面はまだないぞ?困ったら、力になってくれるだけでいい。闘技場はゲイルが直す。手配書もゲイルが始末してくれる…私は君という人材と友人になれた…私ばかり得しているのでな。君は好きに生きるといいと思うぞ?」


そして、ガイゼルはアレンを手招きし、耳元でささやく。


「それに、君は空も飛べるようだ…何かあったらすぐ駆け付けることも可能だろう…?期待しているぞ、アレン君。」


肩に手を置いて、にやにやと笑みを浮かべるガイゼルを見て、アレンはこう思う。


(あ、やば、友達になっちゃいけない人と友達になっちゃった…。というか、かなりのやり手だぞ?この人…政治家って怖い!!)




ひたすら、新しい友人に恐怖していたのだった。




――――――――――




同日、夕方にアレン達は屋敷の門の前にいた。




「本当にもう出発してしまうのか?」


ガイゼルが残念そうに言う。


「いえいえ、まだこの都市を出ると決めた訳ではないですし…」


あれから少し話をした結果、街の中級区に宿をとり、ほとぼりがさめるのを待つことにしたのだ。


「ああ…、今この町から出る方がかえって目立つからな…クローディアとリリアの装備も整えたいし…」


「そうか、それならば仕方あるまい。ほら、エル。」


ガイゼルのその言葉にエルが前に出てくる。


「アレンさん、クローディアさん、リリアさん…。わたくし、あなた方に助けられなければ今頃奴隷にされていたかもしれません…本当に、ありがとうございましたですの…。」


きっちりと頭を下げるエル。
なぜかその目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
そして、次の瞬間、アレンに駆けより、


ーちゅっ


と頬にキスをしたのだった。


急な事態に呆然とするアレン。
それを見たクローディアとリリアは


「エ、エル!ア、アレンは私のなんだから!とらないでよね!!というかアレン!!なに鼻の下伸ばしてるのよ!!」


と叫び、


「エルさん!?…私ですらまだキスなんてしてないのに…」


などとつぶやいていた。


ガイゼルはというと…


「アレン君。君に相談がある。一回シネ」


「えぇえええ!?ガイゼルさん!?さっきまで『好きに生きるがいい』とか言ってドヤ顔してたじゃないっすか!?」


「娘をたぶらかすものはユルサン!!」


素早い動きでアレンに掴み掛るガイゼル。


(このおっさん速すぎ!?)


「フン!!」


「ごふぅぅううう!!」


おっさんの綺麗なボディーブローは合計10発ほどだった。
全然いたくないけど、涙があふれてくるアレンであった。






「キレイにまとまったかと思ったのに…ちょっ!?まだ殴るんすか!?もういいで、ぐふっ!?なんでクローディアは何も言わずに去ろうとするの!?おうふっ!?リリア!?見捨てないでぇ…うぐふぅうぅうう!!」








父親にフルボッコにされているその光景を見ていたエルは思う。




(アレンさん……お元気で……ですの)




「……ぎゃあああああああああああ!!助けてくれぇえええええ!!」
















ガイゼルに殴られていたその時、突然ログが更新され、アレンの目の前に表示された。


アレンはそれを見て呆然とする。


ガイゼルは急にアレンの様子が変になったことを察知し殴るのをやめた。


その瞬間、






「【絶対障壁】ぃぃいいぃいい!!!!うああああああああああ!!」






アレンが真上に飛び上がりながら全力で障壁を天空に向かって半円状に展開させる。








そして、同時に天地をビリビリと振動させるほどの轟音がとどろく。






アレンは白に染まる視界の中、先ほどのログを思い出す。






ログ


ー風氷神竜ファフニールの出現を確認ー


ー標的設定、手動切り替え、風氷神竜ファフニール 目標…なし から目標…アレンの討伐 に変更されましたー


ー×××からのメッセージですー


ー生きろ。最高神を殺せ。ー


ーメッセージは終了ですー


ー因子の干渉により、ヴァイルの召喚が一時的に不能になりましたー












瞬間、アレンの絶対障壁は、




窓ガラスが割れるような甲高い音とともに、砕かれた。




アレンは障壁を破られ、地面へ向けて大きく吹きとばされる。




瞬時の判断でガイゼルがエル、リリア、クローディアを守る魔術障壁を展開させていたので、少し衝撃はガイゼル達の方に流れたようだったが目立つけがはないようだった。








「ぐぅぅうああ!」


アレンは久しぶりの痛みに顔をしかめながら、攻撃のした方を見る。












そこには、緑と白銀が入り混じった髪をした男性が、豪奢な鎧を身にまとい、剣と盾を持ち、空中に浮かんでいた。

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