ファンタジー異世界って・・・どういうことだっ!?

蒼凍 柊一

第5話 治癒術師の複雑な思い

「ん・・・ここは・・・どこだ?」


アレンが目を覚ますとそこは木造の少し手狭な部屋だった。そこはとても年季が入っていて、いかにもファンタジー異世界といった洒落た造りだ。


「ん・・・痛っ・・・まだ痛むな・・・ナイフで全身切り刻まれたかと思ったぞ
・・・」


スキル取得時いきなり襲ってきた、全身をナイフで深く傷つけられるような痛み。
アレンには少なからず精神的にも、身体的にもダメージを受けていた。
しかし、腕や足には異常はなく、普通に動かせる。
上体を起こし、一通り身体を調べてみたが身体には傷一つなく、どことなく頑丈になった雰囲気が漂ってくる。
最後にステータスを確認してみた。




名前:アレン
種族:人族 LV2
職業:一般人LV2 MASTER


STR 68
DEF 56
INT 40
SPD 75
TEC 60


体力 500
魔力 150


所持スキル


固有
【異世界言語理解】LVー
【メニュー】LV-


ノーマルスキル
【魔力値増加】LV1
【周辺探索】LV-
【軽業】LV5
【剣術】LV1 【一般人】成長限界
【体術】LV1 【一般人】成長限界
【刻印付呪】LV-


パッシブスキル
[アクロバット]Lv3


アクティブスキル
[日常風景]




「ん・・・・?能力値が上がってるな・・・?どういうことだ?やっぱりあのスキルが影響してるのか・・・?でも・・・それっぽいスキルは見当たらないし・・・というか、剣術と体術【一般人】だとLV1で成長限界なのか・・・転職ってどうすんだ?」


アレンがそう独り言をいっていると部屋の扉が開き、栗色の髪の小柄な女性が現れた。


「あれ?起きたのですね?体の調子はいかがですか・・・おっととまずは自己紹介を・・・私の名前はリリアです。職業は【治癒術師】です。門の前で倒れたあなたを衛兵さんたちがここまで運んでくれたのですよ?」


「あ・・・ありがとうございます・・・私の名前はアレンといいます。職業は・・・【一般人】です。助けてくださってありがとうございました・・・。」


治癒術師と名乗る女性に少しビビりながら、アレンは自己紹介と終える。


「それで・・・アレンさん。いろいろと聞きたいことがあるのです。この町の門までくる途中で何に襲われたのですか?えっと・・・答えられる範囲でいいですよ?」


(は・・・?襲われた・・・?あぁ・・・血だらけだったからか。【メニュー】からスキル取得しただけ・・・ってきっと信じないよなぁ・・・まぁ、話すだけ話してみるか・・・。美人だし。)


「えっと、固有スキルの【メニュー】からスキルを取得したら・・・全身から血が噴き出たんです。」


ありのままをアレンは伝えた。


「え・・・?固有スキルって、あなた【一般人】じゃないんですか?それにスキル取得で血が噴き出るなんて聞いたことがないですよ?」


(あ、やべ・・・今の反応から見ると・・・確実に不審者認定か・・・?適当にごまかすか・・・)


「いやぁ・・・実をいうとですね・・・森の中で目が覚めまして、それから前の記憶がないんですよねー・・・」


「記憶喪失?あやしいですね・・・でも【一般人】の人は基本的に善良なはず・・・嘘をついても【詐術】スキルでは【一般人】とは名乗れない・・・あ、アレを使えば・・・」


数秒リリアは何かを早口でつぶやいていたがアレンには聞こえなかった。
そしてリリアは水晶のような丸い物体をどこからともなく取り出した。


「ねぇ、アレンさん。もう一度、この球に触れて、先ほどの言葉を復唱してもらえますか?これは【審議の球】。あなたが嘘をついていればこの球は反応します。」


アレンはされるがまま、躊躇なく手を伸ばして球に触れて言葉を復唱する


「森の中で目が覚めて、それまで(部分的に)前の記憶がないんですよ」


頭に別な意味を込めながら復唱すると、球には何の変化もない。リリアは少し驚いたあと、アレンが思ってもみない発言をした。


「あぁ・・・本当に記憶喪失なのですね・・・かわいそうに・・・ちょうど今は暇な時期ですし・・・私でよければ記憶の復帰をお手伝いしましょうか?」


(こ・・・これはすごい流れだ・・・!この世界の常識を教えてもらうのにうってつけだ!美人だし!)


「是非、お願いします!!」


「え、えぇ・・・こちらこそ・・・その前にちょっと【詳細分析】をかけさせてください。あなたの能力値など、異常がないか調べますね。」


リリアは思案顔でそう言ったので、アレンは快く応諾した。
そしてリリアが【詳細分析】とつぶやくとリリアの目の前に青い四角い画面が現れる。【メニュー】と同じ画面だ。


「え・・・?これって・・・アレンさん?あなたは、【一般人】ですよね・・・?」


「え?そうだけど・・・何か問題がありましたか・・・?」


一拍おいて・・・


「大ありです!なんですかこの能力値は!?普通の【冒険者】並みの能力値ですよっ!?とても一般人とは思えません!一体どんなことをすれば【一般人】でこんなに能力値が上がるのですかっ!!」


「はっ!?ちょっと待ってくれ!?いきなり言われてもわかりませんよっ!?き、記憶がないんだからっ・・・・もしかして・・・俺、強いの?」


(まさかまさかっ、やっぱりチートに俺なってた!?)


そんな希望を抱いたアレンの夢は・・・


「い・・・いえ、一般的な【一般人】と違って能力値は【冒険者】ほぼ同じくらいです・・・が・・・」


リリアの説明を要約するとこうだ。


・職業はその人が「これを頑張りたい!」とか、「この能力で強くなって生きていく」とか思うと、勝手に変わるもので、大体12歳くらいまでの間にこの世界では職業が決まるらしい。
・12歳までの子供はすべて【一般人】でまれに12歳を過ぎても【一般人】ということもあるらしいが総じて能力値が低い。
・【一般人】から職業は変わる。【一般人】に戻ることはありえない。
・アレンがみた平均値は【冒険者】のFランクの男性によるものだそうだ・・・。


ということらしい。あ、ちなみにメニューはすべての人が使えるらしい。インベントリ管理は【空間拡張】の魔術刻印がはいった特殊な袋を持つことでしか効果が発揮されない・・・とのこと。


「っていうことは・・・ふつーの【冒険者】くらいの【一般人】ってこと?オレ?」


「え、えぇ・・・まれな人です・・・記憶喪失になったせいでしょうか?」


思案顔でリリアさんはそういうが、俺はそんなことにかまっている余裕はない、なぜならチートじゃなお事実がショックだからだ・・・あんなに痛い思いをしたのにただの【冒険者】レベルなんて・・・。
アレンの夢は、打ち砕かれた。


「あー・・・そういうことにしておいてください・・・いろいろと面倒なので・・・」


アレンは脱力しながら、リリアにそう告げた。




それからは1か月。あわただしい日々が過ぎた。


兵舎の医務室にいるカムレンさんという女性からは「ま、がんばれ」とか投げやりに応答されるし、記憶喪失が治る気配がないので、リリアさんからは日増しに心配されるし・・・。
その代わりといってはなんだが、いろいろな情報を仕入れることに成功した。
まぁ、いわゆるこの世界での「常識」っていうやつだ。


お金はすべての国が共通の硬貨を使っている。金貨、銀貨、銅貨だ。単位は金貨がKキール、銀貨がGギール、銅貨がDドールだ。
魔王とか、勇者とか聖女とかは、いるらしい。現在の勇者は各地を巡って大物の魔族退治をしているらしい。勇者も聖女も魔王も複数いる。そのどれもが並はずれた能力をもっていて、名前なども教えてくれたが、あまり記憶にない・・・途中からリリアさんの胸を凝視してしまった・・・だって、とっても大きいんだもの・・・。
職業は転職可能らしい。ためしに冒険者になって生きていくかな~って軽く考えていたら、いつの間にか職業が【冒険者(未認可)】と出ていた。普通の冒険者になるには冒険者ギルドに行き、冒険者登録しないといけないらしい。
リリアさんに冒険者になるという旨を話したら、最初は心配していたが、恩を返したいという旨を伝えたらしぶしぶ納得してくれた。装備がないと困るだろうということで、ロングソードと軽装の皮鎧と剥ぎ取り用のダガーをくれた。どちらも衛兵たちに支給されていた基本的な装備だ。特別にくれたらしい。ありがたいことだ。
あと魔力が150になったので、いろいろと試してみた。ためしに、路傍の小さい石にダガーで【炎属性】LV1と【爆発】LV1の両方を意味する魔術刻印を掘ってみたら魔力をすべて使い切ってしまった。だが、石に施した刻印はしっかり機能しており、手ごろな岩に投げつけてみたが・・・結果はただ岩にちょっと焦げ目がついただけという悲惨な結果に。リリアさんからは「魔術刻印は魔力を膨大に使うので、熟練した魔術師だけが使える魔法なんです。【魔術刻印】の能力だけで一生食べていける分の収入は手に入りますが、依頼数が多すぎて、過労で倒れてしまう人がほとんどとか・・・それで流通に規制がかかって値段もすごく高くなってしまっているんですよね・・・」とのこと。ちなみに俺の【魔術刻印】は誰にも教えないし、今後も必要になったとき以外は使わないことに決めた。なんでかって?・・・使いつぶされるのわかっててその職業につきたくないからだな・・・。




アレンの今後の方針は目処が立った。
まずは冒険者ギルドに行って登録をし、小さい依頼をこなしながら、細々と異世界ライフを堪能しようとアレンは決めた。


登録試験は試験管との実地訓練も兼ねた研修兼テストらしい。研修内容は冒険者にかかわる野営の仕方や、食べられる野草の見分け方、動物の剥ぎ取り方・・・などなど様々な訓練をするらしい。ちょうどこの季節に開催されるらしく、今回の訓練は志願者20名、担当冒険者10名で担当冒険者2名と志願者4名でパーティーを組んで訓練するらしい。
ちなみに冒険者ギルドに行くのは2回目だ。最初は志願をしにいった。テンプレのごとき受付嬢とはなしてとても気分がよかったのは覚えている。
冒険者ギルドの中は木造で広く、とても賑やかだった。いろいろな格好をした冒険者たちであふれていて、男も女もみな手慣れたように掲示板に張ってある依頼書を手に取り、カウンターで受け付けをしていたのが印象的だった。
冒険者はF~SSまであるらしい。SSランクには勇者や聖女がそこに分類される。Aランクまでは昇格試験となる依頼を受け、合格することによって上がれる。Sランク以上はギルドが定めた人たちにしか与えられないランクだそうだ。なんでもSランク以上は国の特権階級くらいの権限が与えられるとか・・・噂に過ぎないが。






さて、翌日に登録試験を控えたアレンは、カムレン、リリアとともにリリアの家で夕食を共にしていた。


「アレンさん・・・大丈夫なんですか?まぁ・・・あなたの能力値ならいいところまで行けると思いますが・・・危険ですよ」


「なんだぁ?リリア?もうこの男が気に入っちまったのか!?まぁ・・・顔は結構いい感じだが・・・その貧弱な体が納得いかねぇなぁ・・・なんだってそんな体であんな能力値になるんだか?あやしいったらねぇぜ。」


「そんなこと・・・あるわけないじゃないですかっ!///あ、あとアレンさんは怪しくなんてありません!ただちょっと【一般人】の枠からはみ出てしまっていただけです!」


(リリアさん・・・好意の否定は、はっきり言うんだな・・・結構ショックだな・・・俺・・・)


リリアがそう言うと、カムレンが茶化す。いつもと変わらないなと思いながらアレンは言う。


「カムレンさん、リリアさん。面倒見てくださってありがとうございました。服も、食べ物も、住むところ、お風呂も貸してくださって本当にありがとうございました!」


「お礼なんて気がはえぇなぁ?アレン?そういうのは実地訓練から帰ってきて、合格してからいうもんだぜ?」


「そうですよアレンさん。それまで私へのお礼は取っておいてください。」


「あははっ、そうですよね・・・なんだか緊張しちゃってるみたいで・・・報酬受け取って、リリアさんにお金を返せるようになるまでまだしばらくかかるのに、何言ってるんだろ、俺・・・」


「まぁ、初めての冒険者試験なんだっ!気合い入れていけば問題ねぇよっ!あっはっはっは!」


「そうですよっ!ガツンっといって、ガツンっと合格してきてください!・・・お礼なんていらないですから、無事で、ここに帰ってきていただければ、私はそれで・・・」


「ん?何か言った?リリアさん?最後のほうが聞こえな「な、なんでもないです!!」


ほう~?っとカムレンが怪しい目つきで赤くなるリリアとアレンを交互に見る。
そうかそうかと納得したあと、おもむろにカムレンは立ち上がると


「さぁって、私はお邪魔のようだ・・・帰るからな!アレン!明日はしっかりやれよっ!」


「は、はい!!」


「え!?カムレンもういっちゃうの!?もう少しゆっくりしていけばいいじゃない?」


勢いよく返事をしたアレンの肩をたたき自分の寝室に行くよう促し、リリアに、カムレンはアレンに聞こえないように耳打ちをする。






「アイツのこと、好きになっちまったんだろ?イケメンだしなぁ・・・?」






と嬉しそうに言うカムレンに


「なっ!?」


と耳の先まで赤くなったリリアは驚き静かにカムレンに尋ね返す。


「な、なんで・・・わかったの・・・?」


「だっはっは!!やっぱりリリアは分かりやすいな!?正直に告白してしまえよっ!」


「そ、そんな大きい声で笑わないでよっ!アレンに聞こえちゃうでしょっ!?///」


そんな掛け合いのあと、いきなり真剣な顔をしてカムレンは言う。


「さっさと告白しちまわないと・・・・死んじまうぜ?あいつ?・・・じゃあなリリアっ!悔いは残すなよっ!」


そんな言葉を残し、家から去るカムレン。






「わかってるわよ・・・でも・・・言える訳ないじゃない・・・私には・・・・」






上気した顔をそのままに、リリアは夜空に浮かぶ月を見ながらだれともなく呟いた。

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