ファンタジー異世界って・・・どういうことだっ!?

蒼凍 柊一

プロローグ中編 その男、一般人につき。

「え? ちょっとまってくれよ。死んだ? 俺が? どうして俺が死ななきゃならない? というか、今話してるじゃねぇか……って、うぉわっ!?」


俺の体が、テレビで見た胡散臭い映像効果であろう、あの『幽霊』のように透き通っているではないか。
俺はついにイカレチマッタノカ? 今のこの状況にしても、この美人のお姉さんも誰だか全然わからん。


「ふぅ……あの神め、いつか殺してやる」
「は!?」


 美人のお姉さんがその風体に合わない言葉を吐いているぞ!? つか神!? 何、それ。実在したの?


「えぇと、説明します。あなた、白井源示朗さんは22歳という若さで亡くなりました。死因は『システムの誤作動』です。というかバグですね。その透き通った体はあなたが現在霊魂であるということを示しており、この白い部屋は『死者の転生』機能がバグを起こしてしまったために生まれてしまったものだということです。」


 これは、なんだ?
 こいつは何を言っているんだ?
 えらく軽く言ってくれるな。


「いろいろと意味不明なんだけど、要はそのバグ? っていうのはどういうことだ。俺はゲームしていた覚えもないし、ただ帰ってきただけだぞ? なんで死ななきゃならない!?」


 意味不明な事態に動転し、語尾が荒くなってしまったが、そんなことどうでもいい。
 今は説明してもらわないと。聞くことしかできないんだから。
 そう俺は自分に言い聞かせ、やっと荒くなった息が整った。
 それをどうやら目の前の女性は見ていたらしい。
 ため息を吐きながらも、丁寧に説明を始めてくれた。


「ふぅ……察してください。あなた方の住んでいる地球という星のある世界は我々の創造主である『神』が作ったものです。一応神は全知全能の存在なのですが、永く運用しているとどうしても不具合が起こってしまうものなのです。主に死者関連のシステムに。そしてその不具合がバグ。あなたが死んでしまったのは死者関連のシステムの『死者の選定』と『死者の転生』機能にバグが発生したためです。本来であればバグが発生する前に構築しなおす予定でしたが、構築がえーと、あなた方の単位で0.001秒遅れてしまったために誤作動したのです。」


「うん、意味不明だけど、何となくは、理解した。『神』がいて、バグが起こったのは分かった。それで、俺が死んだ理由と、あなたはなんなのか教えてくれ」


 というかよくそんな短時間で『死者の選定』から『死者の転生』までしたな。まぁ、毎日すごい数の人間や生物が死んでいると聞いたことがあるし、自動化でもしないと神様も手間がすごくかかるのだろう。


「すんなり信じるんですね? ふつうこういうのってもう少し動揺しませんかね?」


 そりゃあ信じるしかないだろ? 現に俺の体は霊魂?のようで透明だし、右手で左手を触ろうとしたが通り抜けたし……元の世界に未練はないが、鍋は食いたかったなぁ。楽しみにしてたのに。
 俺はそんな雑念を振り払い、重要なことを何一つ目の前の女性が言っていないことに言及する。


「とにかく質問に答えてくれ。現状で死んだことは分かったがまだ肝心の理由を聞いてない。」


 その言葉に『女性』は明らかに不満そうだった。なぜだろうか、意味が分からない。


「えーっと、その、ですね。バグが発生している最中に、『死者の選定』が発動しました。この時点で本来死ぬはずのないあなたが選ばれてしまい、あなたは死んでしまったのです。そしてバグが治らないまま『死者の転生』が発動。通常であれば気付かぬうちに人格は消滅し、次の生を与えられていたはずなのですが、その転生バグによる『世界線の変更』が発動、本来いけないはずの異世界にあなたの魂は飛ばされてしまったのです。そして、そのバグの収拾をつけるために私は来たのですが……」


「神の怠慢じゃねぇか? それ? というか死んだっていうならさっさと人格なりなんなり消して、俺を転生させればいいじゃないか? それか生き返らせるか、なぜ、いま、俺と話をしている?」


 そう、話をする意味がないのだ。死んだっていうなら持ち前の若さで理解した。だがそんなバグなら神と呼ばれる奴ならいくらでも修正がきくはずじゃないのか?
 その疑問をぶつけた答えがこれらだ。


 ・生き返らせようとしたができなかった。『世界線の変更』のため、霊魂がバグにより違う世界に行ってしまったため、神でも対処不能だったかららしい。ようするに正常にシステムが動いていれば干渉は可能だったが、バグのためにできたイレギュラーについては干渉不可能ということだ。その上、俺に関するいくつかの事項がブラックボックス化しており、完全に操作不能、解読不能になっているとのこと。知ったこっちゃないが。
 ・今転生させていないのは、『死者の転生』バグにより俺に異世界で生きるかそのまま消滅するか選べるようになってしまったらしい。
 ・美人のお姉さんの名前はラズエル。おっぱいでかいよ。彼女はこの異世界の守護天使らしい。神の後始末を言いつけられたらしい。バグの始末をつけろ。と。彼女がこの白い部屋にいられるのはこの『空間』があることは把握できたので来てみたが、存在でき、説明はできるがその他の行為はできないとのこと。


「と、いうことだな。」


 確認する。ある「可能性」に期待しながら。


「はい」


 思いの他、俺への処理がうまくいかなかったのか、しょんぼりとするラズエル。


「……」


黙りこくる俺。


「どうしたんですが?白井さん? で、どうしますか? 消えます?」


「待ってくれ、異世界って、どんな世界なんだ?」


 俺は願う、「可能性」を。


「まぁあなた方で言う剣と魔法のファンタジー世界ですね。文明の程度は中世ヨーロッパを想像していただければ。また、レベル制です、この世界では位階と呼んでいるようですが。スキルもあります。スキルは行動によって取得可能ですが、あなたにはバグで与えられた、メニュー機能があります。まさしくあなた方の世界にあるゲームそのものですね。めんどくさそうです。さぁ、それで、どうします? 消えます?」


俺に事務的に選択を迫る彼女。俺は元の地球に未練は……勿論あるし、泣きたい。だが父母も死んでしまっているし、残してきたものは何もない。うん。しかもこの消滅か生きるかって、これはやっぱり。






「異世界転生キタアアアアァァァァァアア!! うぉぉぉおおおおお、ヒャッハーーー!! さぁチートをよこせ! なにがいいかな!? やっぱり不老不死は当然として、魔法とか武器とかすべて使えるようにして、無限の魔力と体力とスタミナと!! というかスキルとか全部くれ!!」






 そう! これはよく見るラノベの異世界転生モノに他ならない! チートでハーレムでうはうはな生活がまっているぞ!
 まさしく俺の求めた「可能性」そのものだ!


「あ、そういうのはできないようになっちゃってます。バグに干渉できないのは神も天使も同じですから。えーと、職種は一般人?スキルなし、メニュー機能が使えるだけですね。」






 俺の中の時間が止まった。






「え? 本当マジで?」




 希望も夢も期待も打ち砕かれた俺の声が、白い部屋にこだました。

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