底辺騎士と神奏歌姫の交響曲

蒼凍 柊一

キレた妹

「こ、これは違うんだっ!リアナ!」


 セツナはバッ、と勢いよくカノンから離れ、弁解を開始する。


「決してキキキ、キスをしようとしていた訳じゃなくて…」
「わけじゃなくて…なんなんです?」


 リアナは低く、暗い声音でこちらに向かって囁くようにして話してくる。


 ――こ、怖い…!!これはマズイ!!後ろのカノンはなんだか紅くなって棒立ちしてるし…!!)


「…!!そう!!目にゴミが入ってたのを、取ろうとしてたんだよ!!」
「あんなに顔と顔が近づいて…唇と唇が触れそうになっていたのに?」


 ――あ、コレ詰んだ。


 リアナの背後に形容しがたいどす黒いオーラが現れているように、セツナには見えた。


「お兄様!!」
「はいっ!!」


 リアナに大きな声で呼ばれ、勢いよく返事を返すセツナ。
 カノンはビクっとして我に返るが、状況が呑み込めていない。


「お兄様は…騎士になったんでしたよね…?」
「な、なぜそれを…!?いや、正確にはもう一人の俺っぽいんだけど…」
「夜の2時過ぎにリリア教官から私の方に連絡が入ったんですよ…!もう一人のお兄様とか、もう一人のカノンさんとか…!もう意味が分かりませんが…騎士になったのなら、もう少し節度ある行動を肝に銘じてください!!」


 ――そこなのか!?


 とは、言えないので、セツナは何度も首を縦に振る。


「それと…カノンさん!!」
「…!?わ、私…?」
「あなた以外に誰がいるんです!お兄様と契約したんですよね!?」


 すさまじい剣幕でセツナを押しのけカノンに近づくリアナ。
 すでにカノンは涙目でセツナの方を見ている。


「こっちを見てください!!」
「は、はぃぃ……」
「お兄様は私のお兄様です!!あなたは神姫として契約しただけで、お兄様の恋人ではないのですから…そこはわきまえてください!!」


 その言葉に、カノンではなくセツナが過剰に反応した。


「おいおいリアナ…!別にそういうことを俺とカノンがしてたわけじゃないだろ!?大体なんでそんなに怒ってるんだよ!?」
「っ……!何で…って……そ、そんなの……」


 なぜこんなにも自分は怒っているのか…その理由をリアナは分かっていた。
 だが、セツナに言うつもりなどない。


「言えるわけないじゃないですかっ!!それよりお兄様!騎士になったのなら、私と手合せをしてください!!勝てなかったら、カノンさんにはここから出てってもらいます!!」
「は!?なんでそうなるんだよ…!?大体俺はまだ…」
「いいですから…、私と、戦ってください!!今日の二時に学院の第三訓練場で待ってますからっ!!ぼっこぼこにしてあげます!!」
「えぇぇ!?」


 そう言ってリアナは転移魔法を使って何処かへ行ってしまった。


 ――寝巻のままだったけど…大丈夫なのか?リアナ…。


 寝巻のままの妹を心配するセツナだが、それと同時に今日の予定が狂ってしまったことにため息を吐いた。


「ねぇセツナ……?リアナさんと…戦うの?」


 服の裾を引っ張りながら、自信なさ気に見つめてくるカノン。


「向こうはやる気みたいだし…あぁなったリアナは何を言っても聞かないからなぁ…どうしよう…あいつ…神姫使いのなかでも最上のクラス…Sランクの神姫使いなのに…」
「Sランク…?」


 聞きなれない言葉にカノンが首をかしげる。


「学内の神姫使いのランクのことだよ。神姫と神姫使いの連携や、意思の疎通、力の強さ…それらすべての総合力で判断されるランク付けなんだ。弱い順でE~Sランクがあって、Sランクは学内でもリアナ含めて5人しかいないんだ」
「……リアナさん…つよいんだね?」
「強いなんてもんじゃない…学院内でリリア教官とまともにやりあえるのはきっとリアナだけだよ…」


 言葉を失う二人。それだけ規格外な力を持つリアナと交える一戦はきっといい経験にはなるだろうが、こちらはまだ【契約の言葉ラストリア】さえまだ見つかっていない状態だ。


「カノンとの契約だって…まだ出来てないのに…」
「…セツナ…」


 またしても溜息をついてセツナはキッチンへと戻ろうとする。
 だが、それを引き留めるかのようにカノンがセツナの背中へ抱き着く。
 ふにふにした感触がセツナの背中にあたるが、いきなりのことで某立ちするしかない。


「えっ?か、カノン…?」
「大丈夫…私とセツナなら…絶対勝てるから…」


 それは確信を秘めた言葉。
 絶対に自分とセツナなら勝てるという自信に満ち溢れた言葉。
 それは……セツナは絶対に契約の言葉を見つけられるという意味でもあった。


「……俺に…見つけられるかな…」
「セツナなら、大丈夫。絶対」


 力強い肯定の言葉に、セツナは背中を押された気がした。


「ごめんカノン…なんだか俺、弱気になってた。良く考えたら、もう一人の俺はリリア教官に一撃入れるところまで追い込んだんだもんな…」
「その意気…セツナ…!」
「ああ…カノンをここから追い出すなんて、俺は嫌だからね」

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