底辺騎士と神奏歌姫の交響曲

蒼凍 柊一

リアナ・ヴェルシェント

「それで、俺のかわいい第三部隊を壊滅させたのがだれか、分かったのかい?」


 暗闇の中で呪符から声が響いていた。
 この呪符は通信機器としての役割を果たしている。
 顔が見えずその言葉から何の感情も窺い知れない。リリアも淡々と用意していた答えを返す。


「いえ…今のところはわかっておりません…あの少年は【輪唱カノン】とたまたま出逢ったそうです…。証言によると、周りには騎士団の方が倒れていて…状況が全く分からなかった…と」
「…ほう…それはまた妙だね?【輪唱カノン】はまだ神姫使いと一回も契約していないハツモノだからねぇ…その少年が力を使った…というのも考えにくいな」


 予想通りの答えに、リリアは胸を撫でおろした。


「そうですね…どういたしましょうか…?もう一度捜査をやりなおしますか?」
「いや…いい。この件に関してはこれで打ち切りだ…。まぁうちの騎士団にもいい刺激になるだろうし…第三部隊も大した人間はいなかったしね」


 どこまでも無感情。
 そのような男の声に、リリアは冷や汗が止まらなくなった。
 ――この男…どういう目的なのか、さっぱりわからん…。


「…ねぇ、君…、仮に、【輪唱カノン】が…少年に力を使わせた…なんてことは…」
「ありえません。神姫は神姫使いに【契約の言葉ラストリア】を言わせるなどと言う事、前例がないです」
「ヤケにハッキリ否定するね?」
「ありえないことですからね」
「それが例え【神奏歌姫エリュシオン・ディーヴァ】でもかい?」
「………」


 リリアは言葉に詰まる。
 ここで即答は出来ない。
 不明点が多すぎる【神奏歌姫】という存在に確定しているものなど、何もないからだ。


「あっはっは!冗談だよ。冗談。かわいい教え子を守ろうとしている君の努力を、俺が無にするわけがないだろ?」


 男は笑う。
 リリアは何も言えなかった。


―――――




「…で?お兄様…説明して頂けますか?…どうして、Sevenseのカノンさんと知り合いなのかを」
「り、リアナこそ、どうしてカノンと知り合いなんだよ!?」


 目の前に、セツナもよく見知った顔…リアナがムッとした様子で座っている。
 はたから見ると女王のような気品を持つ彼女は…血は繋がっていないが、セツナの妹だった。


「私は…生徒会の活動で何回か【奏歌】系統の神姫だと言われる方の捜索をしていました…。そこで、出逢ったのが、カノンさん…Sevenseのこの方だったんです……まさか、お兄様のクラスに転入するなんて…。今朝見かけた時は心臓がとまると思ったんですよ?」
「…あー……【奏歌】系統って…え!?カノンがその候補だったのか!?」
「【奏歌】って…なに?」


 思わぬリアナの言葉に、セツナは声を荒げた。
 だが、隣で服の裾をひっぱって来るカノンに説明するのが先だと判断した。


「えーっとな、【奏歌】系統っていうのは、神姫使い達が勝手につけた、神姫の能力のことで…例えば…カイトとユキは…」
「うん…」
「あれは、【騎士武装】系統。…ああいうふうに槍や鎧に変化する神姫はそう呼ばれるんだ。他にも神姫自身が武装して戦う【武装神姫】とか、異能の力を騎士に発現させる【異能付与】系統と様々あるんだ。…で、【奏歌】系統は、その神姫の能力でも一際【強い】能力のことなんだ」
「…?私、それなの?」


 カノンは首を少し傾げ、セツナを困ったような顔で見つめる。
 改まってカノンとまじまじと見つめ合ったセツナは途端に顔が紅くなった。


「そそそ、それは…リアナ!?どうだったんだっ!?」


 その様子を見ていたリアナは大きくため息を吐いて説明を始めた。


「……結果は分からずじまいでした…。【白の騎士団ホワイトナイツ】が保護していた神姫の中のカノンさんは、どの騎士とも契約を交わして居なかったようでしたからね」
「【白の騎士団ホワイトナイツ】が保護していたっ!?」


 セツナはリアナの言葉に反応せずには居られない。
 保護された神姫というのは、騎士団の中でも共有の神姫にされていた…という事なのだが、誰とも契約していなかった、とはどういう事なのだろうと思ったからだ。


「ええ…?お兄様は何をそんなにびっくりなさっているんですか?…Sevenseは、【白の騎士団ホワイトナイツ】がプロデュースした歌姫じゃあないですか?…それに、カノンさんを保護した理由も、騎士団長がひと目惚れして…という形ですし…」
「知らなかった…って、【白の騎士団ホワイトナイツ】の騎士団長がひと目惚れ!?あの鬼神と呼ばれた人がか!?」
「らしいですよ…?って、カノンさんがそこにいらっしゃるので、聞いてみたほうが早いかもしれませんが?」


 リアナの言葉に、セツナはゴクリ、と喉を鳴らす。


「か、カノン…質問なんだけど…」
「……?なに、セツナ?」
「【白の騎士団ホワイトナイツ】の騎士団長にひと目惚れされたの…?」


 カノンはセツナの問いを聞いた瞬間、自身の身体をひしと抱きしめた。


「ご、ごめん!聞いちゃいけないことだった……」


 セツナは小刻みに震えるカノンに必死で頭を下げる。
 だが、カノンはいいの、といい、質問に答えた。


「……断っても、断っても…歌を歌ってください、とか……契約してくれ……とか、言われた…全部断って、それでもしつこいから…逃げ出したの」
「逃げ出した…」
「そう…歌を上手いって言ってくれて…すごくうれしかった。だから歌は歌ってたんだけど……騎士団長とか言う人が、自分の為だけに歌えって……それが嫌で、逃げ出して……セツナに出逢ったの」


 その答えを聞いて、セツナはホッと胸を撫でおろした。


 ――酷いことされて無いみたいで…よかった…。


「お兄様?いまなにか、いかがわしいことを考えておられませんでしたか?」
「そんなことは無いぞっ!?…俺はただ…カノンが無事でよかったな…って」


 セツナは恥ずかしさで紅くなりながら、下を向いた。


「……それで、なんでカノンさんが、セツナお兄様と一緒に、我が家に帰宅してくるのですか…?泊まるのは昨日だけだと言ったはずですが…」
「ご、ごめんなさい……でも、私、行くところが…無くて…」
「ご自分の歌で稼いだお金はどうしたのです?」
「……騎士団を逃げ出した時、全部置いてきちゃったから……」


 しょんぼりしながら、カノンは下を向く。
 その様子を見ていたセツナはなぜか…どうしようもなくなってしまっていた。


「リアナ…」
「なんですか?お兄様?」
「そんなにカノンを家に泊めるのが嫌なのか…?」
「いえ…そういう訳ではなく…お兄様は【白の騎士団ホワイトナイツ】の追手が家に来ることを想定していないのですか?」


 想定していない訳ではない。
 ソレありきで、セツナはリアナと交渉をするつもりなのだから。


「分かってる。【白の騎士団ホワイトナイツ】が家に押しかけてこないとも限らないが…カノンを宿に泊まらせたり、野宿させる方が危険だ」
「……」
「それに、カノンは俺が守るって…決めたから」


 これでどうだ…とセツナは拳を握る。
 相対したリアナは…


「……相当カノンさんに入れ込んでますね?お兄様……」
「守るだけだ。俺の神姫……いや、俺の友達、だからな。当たり前の事だ」
「セツナ……ありがとう」


 カノンはセツナの腕に抱き着いた。
 それを見てリアナの眉毛が一瞬ピクっと動くが、誰も気づいていない。


「………もう…お好きにどうぞ…」
「リアナ……!ありがとう!」
「ありがとう……リアナさん」


 セツナとカノンはリアナに頭を下げた。
 そしてセツナがカノンの手を引き、御客用の泊り部屋に案内をしに行った。


「それでお兄様が……神姫使いになれるのなら……」


 一人リアナは呟くが、セツナとカノンには聞こえなかった。

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