底辺騎士と神奏歌姫の交響曲
振出の底辺騎士
時刻は、夜の7時。
日が落ち、暗くなった路地をカノンとセツナは歩いていた。
「…カノン…」
「なに…?セツナ」
「昨日初めて出会ったとき、抱き着いてきただろ…?あれって…なんで?」
自身の声が震えているのも構わず、セツナはカノンに問いかける。
カノンが見ているのは、カノンが欲しているのは、もう一人の…神姫使いの方の自分なのではないかという不安からだ。
「セツナが私のモノだって……記憶にある…」
「記憶に…?」
「うっすらと…あるだけだから…なんとも言えない…」
セツナの脳裏にあの時の記憶が蘇る。
自分と出会った時のあの笑顔は今でもはっきりと思い出せる。
――どうすればいいんだ…?
それだけが、セツナの中に疑問として渦巻いていた。
どうすれば、神姫使いになれるのか。
どうすれば、神姫と…カノンと契約し、力を借りることができるのか。
どのような言葉を尽くせば…カノンは力を貸してくれるのだろう…?
考えれば考えるほどに、セツナは思考の溝に嵌って行った。
――悩んだ時は思いっきり叫んで、最初っから考え直すんです…私もそうしてきたので…セツナもきっとこの先悩むことがあるでしょう。そうしたら…思いっきり叫んでみてください。あなたは強い子だから。あなたは世界で一番…強い人なんだから…悩みなんてするだけ損ですよ☆
ふと、鮮明に記憶が蘇った。
「あ…」
「どうしたの…?」
それは、今は居ない…あの人の言葉。
いつも天真爛漫で、強くて、笑顔が絶えない…セツナが憧れてやまなかった一人の大人。
「院長先生…」
昔の…それこそ10才くらいの頃だ。
セツナは孤児院【森の家】という場所に、リアナと院長先生と一緒に住んでいたことがある。
そこで…セツナは院長先生にいつも言われていたのだ。
迷った時、悩んだ時はとにかく、叫ぶことだ…と。
そしてあなたは世界で一番強い人なんだ、と。
この院長先生という人物こそ、セツナが神姫使い…ヒーローに成りたいと思うようになったきっかけの人なのだ。
その院長先生の教えを、セツナは鮮明に思い出した。
だから…やってみることにした。
「…あああああああああああああ!!」
「な、なに?」
いきなり叫びだしたセツナに、カノンはびっくりして距離をとってしまう。
「あああああああああああああああああああああああああ!!」
セツナの叫びは、止まらない。
「ああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!」
夜中の道に、叫び声が響き渡る。
近隣の住人達が何事かと思って外に飛び出てきた。
「な、何事じゃっ!?」
「……………ふぅ………。すみません!!ただ、叫んでただけです!!」
「そ、そうか…近所迷惑じゃからな!気をつけるんじゃぞ!青年!!」
「はいっ!すみませんでした!!」
悪態を突きながら引っ込んでいく住人達。
セツナ達以外、だれも居なくなった後…セツナは晴れやかな顔をして、カノンに向き合う。
「……と、言うことで…もう一回、自己紹介から」
「…え?」
カノンは戸惑いを隠せない。
どういうことだろう…?と動揺してしまっている。
「だから、俺達は初めて出会った時…あの時もなんだか騒動が起きてて、まともに挨拶もできなかったでしょ?だから、挨拶」
「あい…さつ…」
頷いて、セツナは続ける。
「俺は、セツナ・ヴェルシェント…成りたいものは騎士。でも今は底辺騎士をやってる…。だけど、もう一人の俺は神姫使いらしい」
「う、うん……」
カノンは頷く。
「……俺の趣味は音楽を聞くことで…君の歌が大好きなんだっ!よろしく!」
「あ、ありが、とう」
カノンは未だ戸惑っているが、セツナに君の番だ、と言われたどたどしく、恥ずかしそうに話し出した。
「わ。私は…カノン・ナナミ……神姫、です。一応、歌などを歌ってます……。し、知っているかと思いますが…Sevenseっていう名前で…歌ってます…よろしくお願い、します」
「ああ、宜しく…!」
セツナとカノンは握手をする。
「………」
「………」
沈黙。
「………ふふっ…ふふふっ」
こぼれる、笑み。
カノンが、笑っているのだ。
これ以上無い位の、素敵な笑顔で。
「セツナ…結構おちゃめ?」
「……ははっ…なにやってんだろうな…?」
握手をつなぐ手に切り替えて、カノンがセツナの手を引いて歩き出す。
「えっ?」
「目、つむって…ちょっと、来て?」
「あ、ああ…?」
されるがままについていくセツナ。
道中は夜遅いこともあり、あまり人通りもなく、カノンがSevenseだとバレることもなかった。
どこかの建物の中にはいると魔力の気配がした。
転移魔法陣だろうか…と、そう思った瞬間、身体が少し浮き上がる感覚の後、吹き抜ける風。
セツナが思った通り、転移魔法陣を抜けたらしい。
「目、開けていいよ?」
カノンの声の後…ゆっくりと、目を開けた。
「…すごいな…」
「でしょ…?ここ…わたしの、お気に入りの場所…」
そこは、街を一望できる…教会の屋上。
建物が高いこともあり、学院も、王城も…全て見える。
一つ一つの建物の明かりが、幻想的な風景を醸し出していた。
「こんな場所が…あったのか…」
「…ねぇ、セツナ…」
カノンの声に、セツナは耳を傾ける。
いつもの…静かな声で。
「私…貴方と、契約したいの」
「えっ!?…俺で、いいの…?」
その言葉に、カノンはむすっとした顔をした。
「貴方と以外、考えられない…。だから、待ってるから……【契約の言葉】を……貴方の、言葉を…ください。【今】の私が、【今】のあなたと契約したいから…」
「…っ…!!」
そこまで言われて、なぜかセツナの目から涙が溢れ出す。
「あ、あれ!?こ、こんなつもり、じゃ」
そっと…セツナの胸の中に飛び込むカノン。
「大丈夫……あなたなら…できるから…」
「あ、あぁ……っ……」
セツナはひしとカノンを抱きしめる…。
「絶対、絶対…君と…」
涙声なのにも関わらず、セツナは言葉を紡ぐ。
「もう一人の俺とか、もう一人の君とか…訳分かんないけど……俺は、俺のできることを……やるだけだ…!」
「その意気…。ねぇ、セツナ…もう一つお願いが…」
カノンは心底申し訳なさそうに、セツナの顔を覗き込む。
「お、お願い!?」
なんだろうか?…これはひょっとすると、ひょっとするのではないだろうか…とセツナは期待を抱く。
人気のない夜の教会。
絶好のロケーション。
「き、き「私ね…今夜寝る場所がないの…リアナさんは昨日、一泊だけって言ったんだけど……今日も、セツナの家に泊まりたい…」
「………………」
「だ…ダメ…?」
その後、セツナがものすごく紅くなりながら、カノンを家まで案内したのは…言うまでもないだろう。
日が落ち、暗くなった路地をカノンとセツナは歩いていた。
「…カノン…」
「なに…?セツナ」
「昨日初めて出会ったとき、抱き着いてきただろ…?あれって…なんで?」
自身の声が震えているのも構わず、セツナはカノンに問いかける。
カノンが見ているのは、カノンが欲しているのは、もう一人の…神姫使いの方の自分なのではないかという不安からだ。
「セツナが私のモノだって……記憶にある…」
「記憶に…?」
「うっすらと…あるだけだから…なんとも言えない…」
セツナの脳裏にあの時の記憶が蘇る。
自分と出会った時のあの笑顔は今でもはっきりと思い出せる。
――どうすればいいんだ…?
それだけが、セツナの中に疑問として渦巻いていた。
どうすれば、神姫使いになれるのか。
どうすれば、神姫と…カノンと契約し、力を借りることができるのか。
どのような言葉を尽くせば…カノンは力を貸してくれるのだろう…?
考えれば考えるほどに、セツナは思考の溝に嵌って行った。
――悩んだ時は思いっきり叫んで、最初っから考え直すんです…私もそうしてきたので…セツナもきっとこの先悩むことがあるでしょう。そうしたら…思いっきり叫んでみてください。あなたは強い子だから。あなたは世界で一番…強い人なんだから…悩みなんてするだけ損ですよ☆
ふと、鮮明に記憶が蘇った。
「あ…」
「どうしたの…?」
それは、今は居ない…あの人の言葉。
いつも天真爛漫で、強くて、笑顔が絶えない…セツナが憧れてやまなかった一人の大人。
「院長先生…」
昔の…それこそ10才くらいの頃だ。
セツナは孤児院【森の家】という場所に、リアナと院長先生と一緒に住んでいたことがある。
そこで…セツナは院長先生にいつも言われていたのだ。
迷った時、悩んだ時はとにかく、叫ぶことだ…と。
そしてあなたは世界で一番強い人なんだ、と。
この院長先生という人物こそ、セツナが神姫使い…ヒーローに成りたいと思うようになったきっかけの人なのだ。
その院長先生の教えを、セツナは鮮明に思い出した。
だから…やってみることにした。
「…あああああああああああああ!!」
「な、なに?」
いきなり叫びだしたセツナに、カノンはびっくりして距離をとってしまう。
「あああああああああああああああああああああああああ!!」
セツナの叫びは、止まらない。
「ああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!」
夜中の道に、叫び声が響き渡る。
近隣の住人達が何事かと思って外に飛び出てきた。
「な、何事じゃっ!?」
「……………ふぅ………。すみません!!ただ、叫んでただけです!!」
「そ、そうか…近所迷惑じゃからな!気をつけるんじゃぞ!青年!!」
「はいっ!すみませんでした!!」
悪態を突きながら引っ込んでいく住人達。
セツナ達以外、だれも居なくなった後…セツナは晴れやかな顔をして、カノンに向き合う。
「……と、言うことで…もう一回、自己紹介から」
「…え?」
カノンは戸惑いを隠せない。
どういうことだろう…?と動揺してしまっている。
「だから、俺達は初めて出会った時…あの時もなんだか騒動が起きてて、まともに挨拶もできなかったでしょ?だから、挨拶」
「あい…さつ…」
頷いて、セツナは続ける。
「俺は、セツナ・ヴェルシェント…成りたいものは騎士。でも今は底辺騎士をやってる…。だけど、もう一人の俺は神姫使いらしい」
「う、うん……」
カノンは頷く。
「……俺の趣味は音楽を聞くことで…君の歌が大好きなんだっ!よろしく!」
「あ、ありが、とう」
カノンは未だ戸惑っているが、セツナに君の番だ、と言われたどたどしく、恥ずかしそうに話し出した。
「わ。私は…カノン・ナナミ……神姫、です。一応、歌などを歌ってます……。し、知っているかと思いますが…Sevenseっていう名前で…歌ってます…よろしくお願い、します」
「ああ、宜しく…!」
セツナとカノンは握手をする。
「………」
「………」
沈黙。
「………ふふっ…ふふふっ」
こぼれる、笑み。
カノンが、笑っているのだ。
これ以上無い位の、素敵な笑顔で。
「セツナ…結構おちゃめ?」
「……ははっ…なにやってんだろうな…?」
握手をつなぐ手に切り替えて、カノンがセツナの手を引いて歩き出す。
「えっ?」
「目、つむって…ちょっと、来て?」
「あ、ああ…?」
されるがままについていくセツナ。
道中は夜遅いこともあり、あまり人通りもなく、カノンがSevenseだとバレることもなかった。
どこかの建物の中にはいると魔力の気配がした。
転移魔法陣だろうか…と、そう思った瞬間、身体が少し浮き上がる感覚の後、吹き抜ける風。
セツナが思った通り、転移魔法陣を抜けたらしい。
「目、開けていいよ?」
カノンの声の後…ゆっくりと、目を開けた。
「…すごいな…」
「でしょ…?ここ…わたしの、お気に入りの場所…」
そこは、街を一望できる…教会の屋上。
建物が高いこともあり、学院も、王城も…全て見える。
一つ一つの建物の明かりが、幻想的な風景を醸し出していた。
「こんな場所が…あったのか…」
「…ねぇ、セツナ…」
カノンの声に、セツナは耳を傾ける。
いつもの…静かな声で。
「私…貴方と、契約したいの」
「えっ!?…俺で、いいの…?」
その言葉に、カノンはむすっとした顔をした。
「貴方と以外、考えられない…。だから、待ってるから……【契約の言葉】を……貴方の、言葉を…ください。【今】の私が、【今】のあなたと契約したいから…」
「…っ…!!」
そこまで言われて、なぜかセツナの目から涙が溢れ出す。
「あ、あれ!?こ、こんなつもり、じゃ」
そっと…セツナの胸の中に飛び込むカノン。
「大丈夫……あなたなら…できるから…」
「あ、あぁ……っ……」
セツナはひしとカノンを抱きしめる…。
「絶対、絶対…君と…」
涙声なのにも関わらず、セツナは言葉を紡ぐ。
「もう一人の俺とか、もう一人の君とか…訳分かんないけど……俺は、俺のできることを……やるだけだ…!」
「その意気…。ねぇ、セツナ…もう一つお願いが…」
カノンは心底申し訳なさそうに、セツナの顔を覗き込む。
「お、お願い!?」
なんだろうか?…これはひょっとすると、ひょっとするのではないだろうか…とセツナは期待を抱く。
人気のない夜の教会。
絶好のロケーション。
「き、き「私ね…今夜寝る場所がないの…リアナさんは昨日、一泊だけって言ったんだけど……今日も、セツナの家に泊まりたい…」
「………………」
「だ…ダメ…?」
その後、セツナがものすごく紅くなりながら、カノンを家まで案内したのは…言うまでもないだろう。
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