底辺騎士と神奏歌姫の交響曲

蒼凍 柊一

訓練と言う名の実戦

「ぐああああああ!!」


 突如として襲い掛かってきたカイトに対応しきれず、セツナは腹部に槍を受けてしまった。


「セツナっ!?」
「…うっわ…痛そう…ちょっとカイト…もう少し手加減してもよかったんじゃない…?」
「これが、実戦だったらとっくにセツナは死んでる…それに、手を抜くなんて、横で見てるあの人が許さないよ」


 武装と化しているユキの不満そうな声に、カイトは苦痛そうに答えを返す。


「それで終わり…?セツナくん」


 いつの間にかセツナの横に立っているリリア。
 その眼光はどこまでも鋭く…どこまでも厳しかった。


「その程度なのか?」


 静かに呟くリリア。


「甘ったれるな…!立てっ!!」
「待ってくださいっ!教官!?」


 足を思いっきり振りかぶったリリアを見て、カイトが声を張り上げる。
 だが、遅い。


「!?……ぐぅァアア!!」


 思いっきり傷口に蹴りを受けたセツナは練習場の端まで吹き飛んでしまった。


「セツナぁあああ!」


 カノンが悲鳴を上げる。


「…生身であの力…信じられない…」
「セツナっ!?教官っ!どういうことですかっ!?早くセツナに治療を!!」


 カイトはリリアに向かって怒鳴るが、リリアは何気なくカイトの方を向き、言い放つ。


「貴様もだ…カイト。なぜ、殺すつもりで攻撃しない?奴の神姫はまだ覚醒すらしていないし、傷一つ負っていないではないか?…神姫使い同士の戦いで大切なことは…先に相手の神姫を潰すこと…と教えたはずだが!?」
(!?…この教官…こんな人だったのかっ!?流石…この国随一の騎士と言われただけのことはあるが…)
「返事はどうした!!それにまだセツナは動いている!!戦闘は終わっていないのだぞっ!!動け!!」
「は、はい!!」


 カイトは反抗できない。
 生身での威圧感がカイトのいままで感じてきたものとは格が違う。
 この教官は一体どれほどの死地を潜り抜けてきたのだろうか…とカイトは思った。
 だから…向かう。
 セツナの神姫…カノンの元へ。


「セツナぁ!セツナっ!!」


 泣き叫ぶカノン。
 その様子にどうしてもカイトは槍を突きだせない。
 構えた十字槍が震える。
 手が、震えているのだ。


「どうしたカイト?……そこが貴様に足りないところだ…。頭もいい、実力もある…。だが、情にもろい…。貴様は軍規違反をしたものに、情けをかけてやるほど甘いのか…?」
「でも……友を傷つけろというのは…そこまでの事が今のセツナに必要なんですかっ!?」


 悲痛に叫ぶカイトは見てしまう。
 リリアの瞳を…まるで地獄の底を見てきたかのような…残酷で、冷酷な瞳を。


「…私は…この手で、数えきれない程の同士だったものを殺した…。裏切った者の中には、親しい親友と呼ばれるものまでいたのだ…。貴様には失望した。私がやろう。…今のセツナには、これは必要なことなのだ」
「っ!!わ、私がやります!!私がやるので…!!ぐぁっ!!」


 神姫の武装を纏ったカイトを蹴り一発で吹っ飛ばすリリア。


「まったく…これだから男はダメなんだ…女が少し位可愛いからといって、殺すのをためらうようなら、死んだ方がましだ。来い、クロディ」
「御意」


 どこからともなく現れる黒猫。
 この黒猫こそ、リリアの神姫。
 今まではリリアが魔法で透明化させていたのだ。


「【全ての者を斬り倒すデストロイ】」
「【契約の言葉ラストリア】承認。第Ⅴ階層までの解放を確認」


 黒猫が黒い霧に変化し、リリアの体を覆う……。霧が晴れ、現れたのは漆黒の剣を携え、禍々しい鎧を纏ったリリアだった。


「に、にげろ、セツナ…!この教官は…ヤバイ…!!」
「ここで踏ん張れないようでは、お前に騎士の資格はない…。死ぬまであらがい続けてこその騎士だ…言っておくが、私は騎士の資格のないものに治癒をかけてやるほど、甘くないぞ」


 カツ、カツと靴をならしながらセツナとカノンの方へゆっくりとリリアは近づいて行く。


「………っ」 


 カノンはぎゅっ、とセツナを抱きしめたまま離れない。


「…フン…死ね…!」


 黒い剣は振り上げられ…カノンを殺さんと迫りくる。
 その場にいるリリアを除いた誰もが忘れていた。
 これは訓練だということを。
 それほどまでに、この教官の力量は素晴らしかった。
 訓練を、実戦だと思い込ませることに成功しているのだから。


「カノン…!」


 セツナは思う。絶対にこの少女に傷をつけさせる訳にはいかない、と。


 ――腹の痛みがなんだ…カノンが斬られる方が余程傷つく…


 セツナは思う。守りたい、と。


 ――この狂った教官から、カノンを…


 セツナは思う。救いたい、と。


 すると勝手に…身体が動いた。
 カノンを瞬時に抱きかかえ、振り下ろされた剣からカノンを救い出したのだ。


「ちっ……」


 リリアはあからさまな舌打ちをすると、距離をとったセツナをみやる。


「そう、こなくては…楽しくないな?」


 深い蒼色の目をしたセツナは瞬時に言葉を紡ぐ…。


「【追復カノン斉奏ユニゾン】!!…行くぞカノン…俺の力は、君のために捧げよう」


 その時、カノンの元々金色だった目は、蒼色へと変貌し、髪の毛も腰までだった長さが、踵まで伸びた。


「……!私の力は…貴方の為に捧げる…一緒にイこ?…セツナ…」


 瞬間、カノンの背中から純白の大翼が一対出現した。
 セツナはカノンを抱き寄せると…ゆっくりと背中の中心をなぞる。


「あっ……っ、あぅ…!!」


 紅潮した頬。荒い吐息…すべてがカノンの歓びを表している。
 それはまるで歌のような…歓びに打ち震えた曲のように聞こえた。
 そして蒼く光輝く魔力が、セツナがなぞったカノンの背中の中心から放たれ…その中にセツナは手を差し込む。


「あっ……!…っ、んぅっ…あぁ!!」


 そして…掴み、引き出す。
 一振りのつるぎを。刃渡りにして一メートルほど。
 刀身は蒼銀に光り輝き、煌めいている。
 それを抜き放つと、爆発的な魔力が練習場を襲った。


「…んぅ…」


 ぐったりとカノンはその場に崩れ落ちそうになるが、セツナが優しく抱き留める。
 腹部のけがはいつの間にか完治している。


「…お前を絶対に傷つけさせはしない…」
「今回も…歌わなくて…いいの?」
「ああ…この程度・・・・の相手なら、大丈夫だ」


 二人は、見つめ合う。
 ようやく会えた恋人のように。


「セツナ…なのか…?」
「人が変わったみたい…」


 今までのセツナではない、人格がまるで違うセツナをカイトとユキは見ていた。
 そして、対峙するリリアはというと…。


「…貴様…違うな…違う。貴様じゃない・・・・・・
「あぁ?なんのことだ?…先に吹っかけてきたのはお前だからな…行くぞ…!」
「これは…マズいな…」


 リリアは急激に汗がにじみ出てきた。
 そして思う。
 目の前の存在を、【恐れ】ながら。


 ――…とんでもない化物を覚醒おこしたようだ…。


 そして叫ぶ。


「おい、貴様等!撤退しろ!訓練は失敗だ!!巻き込まれるから早く逃げろっ!!」
「え…?」

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