底辺騎士と神奏歌姫の交響曲

蒼凍 柊一

カイトとユキ

 あの後すぐにカノンを起こして、セツナは教室へと戻った。
 相変わらずの男子生徒からの殺意と、女子からの好奇の目線はあまりコミュニケーションが得意ではないセツナにとっては耐えがたいものだった。
 だが、それも今日という日が終わってしまえばなんということもない。
 時刻は放課後。
 授業の終了後、一気にカノンに流れていく人々の垣根を越え、彼女だけを救いだし、逃げ切ったのはつい今ほどのことだ。


 ちなみに、セツナが指導保護対象者ということは他の生徒たちには口外しないように…とのことだった。
 セツナも自分から指導保護が必要なものだ、と周囲に言いふらすつもりはないので頷いておいた。


「はぁ…やっと解放されたと思ったら…」
「私との個人授業プライベートレッスンに何か不満があるんですか?セツナくん?」
「いえ…光栄なことだな…と」


 正直、これは本当の気持ちだ。


「悪魔や魔物の討伐実績が他の教官方より飛びぬけて多い…リリア教官に神姫の扱いについてご教授頂くなんて…恐れ多いですよ」
「…ほめても何も出ませんよ?セツナくん…。この執務室ではいささか狭いので、訓練場にいきましょうか。あそこだったら目立たずに練習ができますからね。」


 訓練場とはこの学院にある施設の一つだ。
 本来であれば使用許可が下りないと使えないのだが、今はリリアがついているので、自由に使用できるのだろう。
 リリアを先頭にセツナ、カノンの順で廊下を歩く。
 学院…クラウディア聖姫騎士学院と言う名のこの学院はとても広大な敷地を持つ学院だ。
 この国の中でも最大規模を誇る姫と騎士の為の養成学院で、そこに在籍する姫と騎士は約1500人。数はそれほど多くないように思えるが、騎士の【質】が違う。
 他の姫騎士を養成する学院では2000人を超える所もあるが、そのほとんどが実戦訓練を月に一回しかしない。
 対して、この学院は月に十五回実戦訓練を行う。
 実戦訓練…とは近隣を脅かす魔物を討伐したり、騎士同士で戦ったりすることだ。
 戦闘の訓練を十分に積めるこの学院は、他の学院とはまったくと言っていいほど、【質】が違うのだ。


「あれれ…?セツナ君!カノンちゃん!どこ行くのっ?って…リリア教官…」
「ユキ…あまり廊下を走るんじゃないとあれほど……」


 元気よくセツナの後ろから声をかけてきたユキだったが、先頭を歩くリリアを見て、固まってしまう。
 追ってきたカイトも同じ様にリリアを見て固まってしまった。


「あぁ、ユキちゃんとカイトくんですか?…確か貴様等はセツナくんの友達でしたよね?」
「え、えぇ」


 カイトが今にも逃げ出したそうにこちらを見るが、セツナは知らないふりをする。


「…貴様等ならセツナくんの相手をさせても問題ないですし…それに秘密も守りそうです…ねぇ、カイトくん、ユキちゃん…少し頼みごとをしたいのですが」
「いやです~!!」
「あきらめろユキ…!この人に逆らっちゃダメだ…!」


 ユキが間髪入れずに駄々をこねる。
 それをカイトが素早く静止をしようとするが、もう遅い。


「…今、なんと?」


 場の空気が凍りついたようにセツナは感じられた。
 リリアの放つ人を殺さんばかりの気が、この場を支配するかのように漂ったのだ。


「いい気になるなよ…?」
「ひっ…!!ごめんなさいごめんなさい!!」
「り、リリア教官!わたくしカイトと、このユキが貴方様のお願いを叶えさせて頂きたいと思いますので、どうか剣を、気を、お収めください!!」
「フン…いいだろう。………じゃあ、二人とも、行きましょうか☆」


 あまりの性格の変わりようにセツナとカノンは黙っているしかなかった。




―――――


「さぁ…それでは指導を開始しますよ?構えてください。ルールは簡単、どちらかの神姫か騎士が倒れるかしたら終わりです。戦闘不能の種別は問いません。カイトくん、ユキちゃん、セツナくんとカノンちゃんを上手く捌いてあげてくださいね」
「わかりました」


 カイトはユキを伴い、広い土の地面がある練習場…セツナとカノンのいる所とは反対側に立った。
 ちょうど両者の間にはリリアが端の方に立っている。
 練習場の形は長方形になっていて、端から端までの距離は約200メートル。ここで訓練をするのだ。


「ちょっとまってください!教官!俺はまだカノンとの【契約の言葉ラストリア】がっ……」


 セツナが声を上げるが、リリアは聞こうともせずに右手を上に上げる。


「…それでは戦闘を開始します。治癒は私が受け持ちますので、存分に戦うように。手を抜いたら…容赦はしません」
「はい!…行くよ、ユキ」
「え~…なんかセツナくんもカノンちゃんもすごい怯えてるよ…?それに意味わかんないし…友達を傷つけるなんて…そんなの…」
「仕方ないんだよユキ。リリア教官に目をつけられたら、もう従うしかないんだから……それでも僕はセツナの相手をするのが自分でよかったとも思ってるし。指導保護対象者…だっけ?…セツナも大変なことになってるだろうし、協力したいんだ」
「…だから彼女できないんだよ…カイトは…友達想いなのはいいことだけどさ…」
「それは今は関係ないじゃないか…行くよ?ユキ」
「は~い…」
「ということで、悪く思わないでくれよっ、セツナ!」


 カイトはセツナに向かって叫ぶ。
 あからさまにやる気なカイトを見て、セツナは焦る。


「なにがと言うことで…だっ!ちょっと待ってくれよっ!!」
「それでは…始めっっ!!」


 リリアが無情にも上げた右手を振り下ろす。
 開始の合図だ。


「【善行には報いを、悪行には罰を、大義あるものに力を】!」


 カイトが【契約の言葉ラストリア】を紡ぐ。
 その言葉に反応して、ユキの身体から魔力が放たれる。


「【契約の言葉ラストリア】承認、第Ⅲ階層まで解放を確認……カイト、受け取って!」


 カイトの身体には先ほどまで着ていた学院の制服ではなく…白い甲冑が装着されており、両手にはカイトの身長と同じくらいの十字槍が握られていた。


「おいおいウソだろ!?全力でやるって…ホントにカイトの全力じゃないかっ!?」
「カイト・グングニル、いざ参る!!」


 カイトの神姫であるユキの力は、身体能力を底上げする甲冑と決して折れない十字槍に変化する…というものだ。
 神姫の解放可能階層は全部でⅤ階層あるとされているが、大体の騎士はⅢ階層まで解放すれば良い方だとされている。
 階層を経るごとに神姫から借りられる力に制限が無くなっていき、第Ⅴ階層では神姫の全ての力を借りることが出来る。
 今、カイトはⅢ階層まで解放した。
 それは…常人では決して勝つことのできない相手になってしまったことを意味する。
 今のセツナでは到底相手にならない。


「ふっ…!!」


 カイトは小さく息を吸うと…眼にもとまらぬ速さで駆けだした。


「なっ!?」


 セツナは感じる。
 カイトの本気を。
 そして瞬時に判断する。


 ―このままじゃ、カノンが危ない!!


「ごめん!カノン!!」
「え……?きゃっ!」


 セツナはとっさにカノンを後ろに突き飛ばす。
 そうしなければ、カイトの槍で二人とも刺されてしまうと思ったからだ。
 その判断は、間違っては居なかった。


「悪いね…セツナ…」
「っ…!!ぐああああああああ!!」
「セツナっ!?」


 土の地面に、鮮血が飛び散る。
 セツナの腹を…カイトの十字槍が貫通していた。

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