底辺騎士と神奏歌姫の交響曲

蒼凍 柊一

神姫とは

「冗談にしては…タチが悪くないですか…?」


 セツナは不機嫌を隠さずに、リリアに対して抗議する。
 自分が今助けなかったならカノンは確実に斬られていたのだ…セツナは完全にリリアを敵を見るような目で見ていた。


「…まず落ち着きなさい…セツナくん。いきなり襲ったのはお詫びします…すみませんでした」
「………割とあっさり謝るんですね…」
「当たり前でしょう?…上からの命令とはいえ、私があなた方に斬りかかったのは事実なのだから」
「そうですか…上からの命令…?…俺達に何か用でも?」


 セツナは未だ警戒を解いていない。
 目で牽制しながら、リリアに自分たちを呼んだ理由を尋ねる。


「用があるか…ですか…そうですねぇ…ここで一つ授業でもしましょうか?セツナくん」
「授業…?」
「はい。そうです…神姫がどういうモノか…また、我々神姫使いがどういう者かをです」


 いきなりなんだ、とセツナは思う。


「簡単なことじゃないですか…神姫は神姫使いに【力】を与える者…但し、神姫はその力を自分で使うことはできない。それに、【力】とは言っても、ソレは神姫によってそれぞれ違う…剣であったり鎚であったり…鎧でもあり、そのままの魔力であることもある…と、神姫についてはそういう認識です」
「では、神姫使いとは?」
「…神姫使いとは、神姫と【契約の言葉ラストリア】によって契約し、人知を超えた力を借りる存在…または、その素質を持ったもの…です」


 そこまで黙って聞いていたリリアは、静かにパチパチと拍手をした。


「まさしく教科書通りの回答ですね…?セツナくん。ですが、あなたは理解していない。【神姫】という存在自体の概念を」
「概念…?」


 概念、とはどういうことだろうか?セツナは思った。
 自分は神姫とは力があるもの、あって当然のものとして教えられて来たので、今の回答で十分なのではないか。


「…十分ではありませんね?…そもそも【神姫】の【力】とは…その力を引き出す【契約の言葉ラストリア】とはなんなのかあなたは考えたことがありますか?」
「いえ…」
「1年生のほとんどがまだそこまで習っていませんからね?…でも、あなたはソレを早急に知る必要があります」
「なぜ…?」
「物事には順番があります。…まず説明を聞きなさい。セツナくん」
「…わかりました」


 しぶしぶ了承するセツナ。
 リリアももう剣をしまっていて、執務室の中へと促してきたので、それに従った。


―――――


「まぁ…ソファにでも腰を掛けてください。カノンちゃんも眠そうですしね…」
「…ふぁ………」
「…はい」


 セツナは入口側のソファの左側に、カノンはセツナの膝の上に頭を乗せ、ソファに寝転がった。正面にはリリアが座る。


「さて、本題に入ります。…まず、神姫とは…セツナくんのいった通り【力】であり、神姫使いのよきパートナーでもあります。ですが、神姫と神姫使いであればどんな組み合わせでも良いという訳ではないのはセツナくんも知ってますね?」
「ええ…神姫側が神姫使いの【契約の言葉ラストリア】を了承しなければ、神姫とはパートナーにはなれないと」
「そうです。大きい【力】を持っている者とその【力】を行使する者は【契約】によってその協力関係を実現させている…と、端的に言うとこうなります」
「…そんな風に考えたことはなかったです…」
「では、セツナくんにとって神姫とはなんですか?…家族ですか?友人ですか…?恋人、ですか?」
「…わかりません…」


 すやすやと眠っているカノンを見ながらセツナは再びため息を吐く。


「神姫とは、道具ですよ、セツナくん。そこに変な感情を持ちこむものが三流騎士と言われるんです」
「なっ!?」
「私はそういう考えです。…それに、人と同じ姿かたちをしている者もいれば、狼や猫など動物の形をしている者もいる…神姫は我々の理解を遥かに超えた存在であり、我々はそれを【使う】ことしかできない…だから、道具なんですよ」


 その考えにはセツナはどうしても納得はできない。
 膝の上にある整った顔をしている一人の少女は、セツナにとってすでに守るべき…大切な人になっていたからだ。
 だが、あえてそれをこの場でセツナは言わなかった。
 代わりに、別の質問…というよりは確認をすることにした。


「それより…こんな質問をするってことは…俺はやはり神姫使いになってるってことですか?」
「はい。貴方は神姫使いとしてすでに覚醒してます」


 やけにあっさりと、それでいて淡々とリリアは事実を告げる。
 そしてセツナの眼をじっと見て、ため息を吐く。


「昨日の夜の出来事は…【白の騎士団ホワイトナイツ】が、カノンちゃんを攫おうとした出来事は覚えていますか?」
「なぜ教官がそれを…」
「いいから、答えてください」


 無言の圧力を感じ取ったセツナは素直に受け答えをすることにした。


「…うっすらと、ですが…」
「…では、あなたがその【白の騎士団ホワイトナイツ】の第三部隊を全滅させたことは、記憶にありますか?」


 その質問に、ついにセツナは叫ばざるを得ない。
 この場に呼び出された意味が理解できたからだ。
 ――――彼女は暗にこういっているのだ。
 昨日の夜、覚醒したな?と。
 昨日の夜、カノンと契約したな?と。
 昨日の夜、その力を使って…部隊を全滅させたな?…と。


 体のいい尋問に呼び出されていたのだ。


「ありませんし、そんな記憶も、やる理由も…ありません!」


 その答えに、リリアは全く、何の反応も示さない。
 沈黙と言う名の圧迫が、セツナに襲い掛かる。


 ――なんなんだこの状況は…!?神姫使いに覚醒している、と裏をとられた挙句、騎士団の部隊を全滅させたのは俺か?と問われてる…意味が分からない!


 数十秒の沈黙をようやく破ったのはリリアからだった。


「いいでしょう…わかりました。貴方はやっていない、と私が判断しましたので、この件についてはもう問いません」
「……ええ、わかりました」
「では…授業の続きです」
「まだやるんですか?」
「ええ、貴方には、自分の場合がいかに特殊なケースかを知ってもらわなければなりませんから」


 特殊なケース、という言葉にセツナはまたしても疑問を覚えた。


「神姫使いは15歳までに覚醒できなければ、底辺騎士ということになるのは理解できていますね?」
「はい…」


 やはりそこか、とセツナは思う。


「私の力で視た・・所、貴方は16歳になってから覚醒しています…いえ、正確には…神姫使いとしての力が再度・・目覚めたかのような反応を示していたのです」
「それは…どういうことなんですか…?」
「言葉通りの意味です。貴方は前に幼少のころの記憶がない、と言っていましたね?…あなたは相当昔…それこそ生まれた瞬間から神姫使いとして覚醒していた…、その力を何者かが【封印】し、昨日まで封印が解かれることはなかったが、ある理由により、封印が解かれた…と考えたほうがしっくりくるんですよ」
「そんなことを言われても、俺には記憶がないんです…!大体、なんでそんな封印なんて…」
「ごめんなさい。セツナくん。今のは私の妄言だと思って忘れてください。…そんなことより、今は目の前の事実について説明しなければなりません」


 話を脱線させたのはそっちじゃないか、とセツナは思うが何も言わないことにした。


「あなたはカノンちゃんとの【契約の言葉ラストリア】を覚えていませんね?」


 その言葉に、またしてもセツナは無言になる。
 その通り、わからないのだ。覚えていないのだ。
 契約するときに必ず神姫使い側…騎士側から放つはずの…力を借り受けるのに必要なソレをセツナは全く覚えていない。


「……はい」
「そこが、問題なのです。セツナくん」
「…へ?」


 思わず間抜けな声を出してしまうセツナ。


「【力】を持っているが、それがどんな力かわからない…、使い方も知らない…そんな騎士を、学院が放っておくと思いますか?」
「思いません…」
「と…言うことで、貴方は今日から指導保護対象者に認定されましたので、そのことを伝えたかったんです。あと、今日の放課後から休息日以外毎日、私と神姫使いとしての実戦訓練が義務付けられましたので、その通告です」
「指導保護対象者!?実戦訓練!?」


 いきなりのこと過ぎて頭がついていかないセツナは、戸惑うばかりだ。


「当面の目標は、力の発現、制御です。実戦とは言っても大したことはしません…首が飛んだりしても私は治癒魔法が使えますので心配しないでくださいね」
「…すごい心配なんですが…」
「捕縛されなかっただけ、ありがたいと思ってください…」


 最後に小さくリリアが呟いたが、セツナの耳にそれが届くことはなかった。

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