雪月風花、ばーちゃるせかいを征く酔狂な青年

蒼凍 柊一

蛍殿最高





 蛍殿と清明殿は先ほどの戦いでかなり消耗してしまったらしく、今は広場の真ん中に座り込んでいる状態である。


 だが、それも無理はないだろう。か弱い乙女があの四十匹のサルを討ち果たしたのだから。




「刹那っち、ありがとう~! 助かったよっ」


「……ありがとう」


「礼など良いのだ。蛍殿、清明殿」




 もうダメだったよ、などと空を見上げながら言う蛍殿は、本当に――嬉しそうである。


 何がそんなに嬉しいのかよくわからないが、皆生きてて何よりであるな。




「えっと、ビショップちゃんは名前はなんていうのかな?」




 蛍殿がミカンのことを言っているのは明白だ。


 それにしても、ひと目でプレイヤーの職業を当てるとは、流石蛍殿。情報収集に関しては流石くのいち、と言ったところか?




「は、はい! 私、ミカンって言います!」


「あはは、刹那っち、桜っちからミカリンに鞍替えしたの~? 悲しむよ桜っち、あんなに刹那っちラブだったのに」


「ミカリンて……蛍、安直すぎ」


「わ、わたしと刹那はそんな関係じゃありませんよっ!?」


「呼び捨てとかもう確定じゃ~ん、うりうり、やるねえミカリン!」


「だから違いますってばー!」




 ぎゃーぎゃーと騒がしいな……流石女子である。


 だが、見ていてこちらも和むもの。良い、良いぞもっとやるがいい。




「……蛍、刹那さんに聞く」


「あぁ、そうだったそうだった!」


「わたしも聞きたいことがあるのだが――おそらくそちらも同じ疑問を持っているであろう」


「え、やっぱりわかるんだ刹那っち」


「ああ、分かるとも。単刀直入に聞くが――桜殿と雪崩殿とは一緒ではないのか?」




 その瞬間、両方が両方とも悟ったのであろうな。


 やはり、はぐれていたのは間違いない。




「一緒じゃない……ってことは刹那っちも桜っちと雪崩っちどこいったか分からないんだね~……」


「まず情報交換が先ではないか? 蛍殿。わたしたちの現状は、皆とはぐれ、ちょうど居合わせたミカンと共にこれからこの世界の攻略に乗り出したところであるな。そちらはどうなのであろうか」


「こっちも同じだよ。あれから二日位意気消沈して、あーってなってたけどこれじゃだめだーってね。事件前に一緒に探索してた清明と一緒に行動してれば、いつかは会えるかなーって。雪月風花は営業停止してたし、私たちのたまり場なくなっちゃったようなもんだからね。桜っちと雪崩っちも一緒に居るんじゃないかな?」


「流石蛍殿。そこまで予測を立てていたとは」


「そんなこと言って、刹那っちも情報収集とかしてたんでしょ? 噂になってたよ、変な侍が女の噂を訪ね回ってるってね」


「なんと、語弊があるにも程がある。女の噂ではない。桜殿と雪崩殿、蛍殿と清明殿の事を尋ねていただけだ」


「うん――で? 私と清明の噂は聞いたけど、桜っちと雪崩っちの噂は聞いた?」


「話が早くて助かる。結論から言うと、ない。まったくないのだ。初心者プレイヤーたち、攻略組の者達に聞いて回ってみたが、そのような者達は見たことがないという」


「それで私たちの噂を先に聞いたからこっちに来たって訳か」


「そういうことになるな」


「刹那っちは桜っちたちの事どう推測してる?」


「そうさな……おそらく、ビギンズに居る可能性はないであろう。ここ数日、宿屋を尋ね歩いたり、NPCの民家に入ってみたりしたが桜殿達の噂もない。死んだという可能性も捨てきれぬが、そうではないと信じている。となれば――顔がばれないよう姿かたちを変えているか、またはフードをかぶっているか――変装の方法は知らぬが、それに近い方法をとっているのであろうな。最近の初心者プレイヤーの中での事件では、女性プレイヤーに乱暴しかけた事件もあったようであるしな」


「……そうだよね、私もそう思う。でも雪崩っちはともかくとして、桜っちはきっと変装なんてできやしない。声だって変えられないしね。雪崩っちが最初の町で買い出しとかして、フィールドの安全な場所を隠れ家にしてる可能性はゼロじゃない」


「ふむ……その可能性もあるか。なんにせよ、今の状況では手がかりもなにもないのだ。わたしたちの名が噂になれば、自ずと桜殿と雪崩殿もわたしたちに気付くであろう。そこで――である。蛍殿と清明殿に頼みがある」




 やっと本題に入ることができた。


 だが、受け入れてくれるかはわからぬ。しかし、頼みもせずに引き下がるなど愚の骨頂であるぞ。


 わたしが切り出すと、彼女たちは嫌な顔をするかもしれぬが、嫌なら嫌でそれで良いのだ。




「なに? 頼みって。悪いけど刹那っちの頼みでも脱ぐことはできないかな?」


「ぶふぉっ!」


「……ミカンさん、汚い」


「だ、だって蛍さんが変なこと言うから、げほっ、げほっ、み、水が気管支に――!!」


「くくく――はっはっはっはっは! やはり最高であるな、蛍殿は!」


「はは、ありがと///」


「いや、久しぶりに笑った気がするな。いやいや、別に脱げとか、脱いでくれとか頼むつもりはないぞ」


「じゃあセッ〇スしてくれとか? 刹那っちだったら私――」


「――ちょ、ちょっと蛍さん!?」


「……バカ」




 今女子の口から信じらぬ単語が聞こえた気がしたが、わたしは知らぬぞ。


 蛍殿、エロい。胸をはだけさせるでない! だ、だが――もっと見たい気もする!




「刹那もガン見してないで後ろ向いて! ほら、真面目な話をするんじゃなかったの!?」


「お、おおそうであった。わたしとしたことが忘れておったわ」


「……忘れんなよっ」


「清明殿?」


「……なんでも、ない」


「さてそれではふざけるのもここまでにして~、なんだい刹那っち?」


「うむ。それで、先程の話だが、やはりわたしたちの名を知らしめるには大きな功績を作り上げる事であるが、それは個人でも仕方がないと思う訳である。そこで提案したいのは、ギルドの立ち上げ、それにともない、名前を上げるため、単独ギルドでの街道をふさぐ例のキングゴブリンの討伐である」


「――刹那っち、それ本気で言ってる? 情報集めたなら、それなりに危険というか、あのキングゴブリンに私たち四人で挑むなんて無謀っていうほか無いってのは分かってるんだよね?」


「分かっている。それを承知の上で、であるが」


「なにか対策とかあるわけ?」


「ふむ。実際に見せたほうが早そうであるな」




 わたしはアレを見せることにした。


 メニューから、インベントリを開き、あるアイテムを具現化させた。


 それは、わたしの腕程の太さのある――緑色の指、『キングゴブリンの人差し指』である。




「こ、これって?」


「アイテム名は『キングゴブリンの人差し指』である。腕を斬り落としたらこの素材が手に入った次第だ」


「え?」


「わたし独りで倒す寸前まで追いつめたは良いが、大量にゴブリンどもが湧きおってな、このままではいかぬと思い退却した次第であるぞ。すなわち、あのゴブリンどもを惹きつける、もしくは対処する者がおれば、あ奴をしとめることは容易いのだ」


「ちょっとちょっと刹那っち、一体何やってんのさ!?」


「だから言っておるであろう――キングゴブリンの腕を斬り落とし――」


「違う、なんでそんなことできたのかって聞いてるの!」


「わ、私も初耳なんですが」


「ミカンには内緒にしていたのだが、そういうことである」


「そういうことである、じゃねーよっ! 答えろ、今すぐ、早く、早急に!」


「そんなに胸倉をひねりあげないで欲しいのであるが――分かった、分かった故、放してくれ」




 やっと解放してくれた蛍殿はなぜか息があらい。


 どうしたのであろうか。先ほどまではあんなに冷静であったのに。


 これ以上待たせるとわたしの首が飛びかねぬので、説明することにしようか。




「まず、だな、わたしは奴の弱い奴と戦ったことがあるのだ。チュートリアルダンジョンで、だが」


「ああ、あの時の――」


「そう、ミカンをわたしが助けたときのあの敵であったのだ。ここのボスは。攻撃方法や思考回路もおなじようであった為、すぐに追い詰めることができたのだ」


「チュートリアルダンジョンでそんなの出ないはずじゃなかったけ――? アキ、おっと、清明、なにかわかる?」


「……いや、噂でVVRMMOのチュートリアルダンジョンは二種類あるって聞いた事あるけど、都市伝説みたいなものだったはず」


「その都市伝説級のものに、ちょうど二人が巻き込まれ、ちょうどそこのボスがこのゲームのゴブリンキングだったって……? そんな偶然、あるわけないよ」


「いや、蛍殿、実際にあったのだ。これを見てくれ。わたしは嘘は吐いておらぬ。それに、嘘をついてどうなるというのだ。ゴブリン程度であれば、わたしの見立てではあるが、清明殿と蛍殿、それにミカンも居ればなんとか防ぎきる、または殲滅することが可能であるのだ」




 しばし、沈黙する蛍殿。


 ここで引くわけにはいかぬ。倒せそうな相手が居て、リスクも少ない。


 ならば。




 攻めぬ訳にはいかぬのだ。




「だめ、危険すぎる。刹那っち。これはあなた一人の闘いじゃない。この世界に囚われた、一万人のプレイヤー全部の闘いなんだよ。わるいけど、刹那っちの話しには乗れないよ。いくら勝てる見込みがあるからって、それは見込みでしかない。十分な人数を集めて、すこしでも人が死なないように対策を立ててからじゃないと、先には進めない。これは初心者プレイヤーを救う事にもなるんだよ。ここでもし、私たちがゴブリンキングを倒して、次の街を解放したとする。まだレベルの低い攻略組も居る中で、いきなり第二の街にワープして、その付近のおそらく強い敵と戦ったらどうなると思う? そう、あっさり負けて死んじゃうかもしれない。その決まりとか、常識とか、そういうものがまだ全然ここじゃあ確立されてないんだよ。だから、私は刹那っちのその考えには乗れない」




 なんと、頭の切れる女子であるか――。


 わたしは、わたしが恥ずかしい。




「――っ、そう、であるか。すまぬ、そこまで考えが及んでいなかった。手柄を立てることばかりに気を取られていた」


「分かってくれればいいの。刹那っち。ところで代替案があるんだけど……」


「代替案……? であるか」


「そう、最初の街、ビギンズでなにやら冷静な人たちが攻略に向けて動き出すらしいんだよ。それに私たちも参加しない? もちろん、私たちで一つのギルドとしてね。あっちはあっちのギルドがあるけど、あっちのギルドに協力する感じで」


「それは、どういうことであるか?」


「つまり、蛍さんが言いたいのはこういう事ではないでしょうか? 私たちとは別なギルドに協力するために、私たちでギルドを立ち上げよう、ってことですよね?」


「そ、そういうこと」


「……名案」




 なんと、そのような手段があるとは。


 一体蛍殿はどこからそのような情報を手に入れてくるのであろうか?


 だが、そんなことは今はどうでも良い。




「それならば、わたしたちの名前と、その、わたしたちとは別なギルドの連盟になり、安全でありながらも手柄と名はあげられるという訳か……! 流石蛍殿!」


「あはは、せっかく刹那っちが考えてくれた作戦とか、ボスの情報とかあるみたいだし。あっちが喉から手が出るくらい欲しい情報を持ってるわけだから、交渉は任せて! アイテムの取り分とか、こういうゲームじゃあ結構重要だからね! それじゃあ、一端街にもどろっか」



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