キャプテン・エルドレッドの異世界航路 ~Pirates of the ANOTHER-WORLD~

蒼凍 柊一

第十五話 ヴェイリン付近にて

「島が見えたぞー!!」
 ふぅ、と大きくため息を吐く。
 やっとヴェイリンが見えたらしい。朝から晩まで風をずっと操っているのはかなり疲労が溜まるもので、ようやくゆっくりと休めると私は安堵した。
「ご苦労だったな、夕華」
「道中の海軍連中も全部振り切ったものね! あの時の奴らの顔ったらなかったわよ」
 さわさわ、とリッカさんに頭を撫でられる。なんだか少しくすぐったい。
 この二日間、海賊連中からは驚くほどなにもされなかった。
 それはリッカさんが睨みを利かせてくれていたおかげだった。私を妹のように扱って、この船での立ち位置を上から、船長のエルドレッド、リッカさん、そして私。というように整えてくれたのだ。
 リッカさんはとってもいい人だ。エルドレッドは最低だけど。
「よし、島に着ける準備を始めて!! 少しでもヘマしたら私がアンタらの玉潰してやるよっ!!」
「ヘイ! 姉御! おいお前ら聞いたか!? 絶対にヘマすんじゃねぇぞ!!」
「アイアイサー!!」
 リッカさんは船員の人たちに指示を飛ばすために下の甲板へ降りて行った。
 残されたのは操舵をするエルドレッドと私。
「ねぇ、エルドレッーー」
「キャプテンだ。キャプテンをつけろ夕華」
 なんて面倒な男だ。
「キャプテン・エルドレッド……わかってるでしょ? 私との約束を果たしてよ。もう十分協力したでしょう? 早く愁に会わせて」
「……まだだ。俺へのツケはこんなもんじゃ綺麗にならん」
「ちょっと、どういうこと!?」
「言葉通りの意味だ。ほら、お前もやることが無いんだったらさっさと部屋にでも引きこもっちまえ。ヴェイリンで必要なものを揃えた後、あのクソ野郎をぶっ飛ばしに行くからな。アイツを殺したら、お前と愁を会わせてやる……」
「あのクソ野郎――って、もしかして、テイラーのこと?」
 私は騎士団の船で見つけた紙を思い出した。
 そうだ、テイラーを倒すために、このエルドレッドと言う男は航海を続けてるのだ。
「やめろ、その名前を聞くだけでムカムカしてくる。というか、お前どこでテイラーの事を知った?」
「そんなのあなたには関係ないでしょ? あの時は明確な約束をしなかったけど、そいつを殺したら私はやっと愁に会わせてもらえるのね?」
「――ああ、約束してやる。アイツを殺したら、会わせてやるよ。愁にな」
 これで私とエルドレッドの目的は一緒になった。あくまで、テイラーを殺すまでの間だけれど。
 だったら、早く会うために行動を起こす事こそが、今の私にとって一番の行動だ。
「それで? テイラーの足取りとか、そういうのわかってるの?」
「は? なんだいきなり協力的になりやがって。頭でも打ったのか? それと、あいつの名を口にするな。いくらおまえでも打ち殺しちまうかもしれねぇ」
「違う! その――殺すべきアイツを殺したら私も解放される訳でしょ!? だったら早くソイツを殺した方がいいってこと! それくらいわかるでしょう?」
「……ああ、そういうことか、クッ、ハッハッハッハ!」
「なんなの……いきなり笑い出したりしてキモチワルイ」
「いや、なんにも知らない馬鹿な女が、自分で人を殺すことを躊躇していた割には言葉じゃあ簡単に殺すと口にするんだな、と思ってな」
 なんのことだかよくわからない――というのが正直な感想だ。
 いったい、エルドレッドは私に何を言おうとしているのか。
「どういうこと……?」
「まだまだ甘いっつってんだよ、このクソガキが。本気で他人と斬り合ったこともないくせに偉そうな口聞くんじゃねぇ。アイツを殺すのは俺だし、その方法を決めるのも俺なんだよ」
 やってしまった、と思った。
「――っ」
 確かに、私は人を殺したことがない。
 酒場でのことだってそうだ。あと一歩で殺せない。
 そんな女のいう事なんて、聞いてくれるわけがないんだ。
 どんなに効率の良いことを言っても、どんなに理にかなっていることを提言しても、実績がなければ話にならないのだ。この男の前では。
 案に彼は言っている――うだうだ言う暇があったら、実績をあげろ、と。
「分かったらさっさと部屋に戻れ。島に上陸したら一仕事してもらうからな」
 怒ったような口調のエルドレッドから逃げるように、私は自室へと戻った。

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