キャプテン・エルドレッドの異世界航路 ~Pirates of the ANOTHER-WORLD~

蒼凍 柊一

第十二話 海上にて

「騎士は 姫に恋をする
 俺たちは 海に恋をする
 神父は 神に愛をささやく
 俺たちは 獲物に死をささやく
 俺たちは 酒を飲み干すぜ
 ヨーホー ヨーホー
 ああ、最高の海賊だ
 おれたちゃ女神だって奪い取る
 ヨーホー ヨーホー
 財宝と女 それに酒
 ヨーホー ヨーホー
 全部 頂け!」


 乗組員たちが威勢よく歌を歌っている。
 これぞ海賊というやつだ。歌詞はセンスがないが、歌っていると楽しくなってくる歌詞だ。
「最高ね、海賊は」
 私がポツリと呟くと、
「だろ?」
 いつの間にか私の肩を抱きつつ、彼は現れた。
 あの妙な女を仲間にしてから三日間、私たちはずっと海の上だ。
 何もかもが新鮮で、美しく感じる。
 こんな景色を見れたのは、ひとえにあの砂浜で彼に出会えた幸運のおかげだろう。
 そういえば、とあの妙な女を探すが、どこにもいないことに気付いた。
「ユーカ……だったわね、たしか」
「そうだ。どうかしたか?」
「どうかしたか、じゃないわ。あの女はどこに行ったのよ? まさか、船長室にずっと閉じ込めておくつもりはないわよね?」
「じゃあどこに配置するつもりだ? あんな細腕じゃロープは結べないし、力仕事もできやしない。君のように航海士の術を仕込んでいるわけでもないし、目だって特別良いわけじゃない。ほら、どこにも配置できないだろ?」
 確かにその通りだが、気に喰わない。
 あの女ばかりが特別扱いされているようで気に喰わないのだ。
「なら、牢にぶち込んでおけばいいじゃない」
「それじゃあ仲間にした意味がないだろ? ……ははぁ、分かったぞリッカ」
「何をよ」
 彼はすべてを見透かしたような目で、また私の事を見てきた。
「君は嫉妬してるんだな? 光栄なことだ」
「ななな、何を言ってるのよっ」
 図星。図星だった。だが、素直に認めるのも悔しいので、さらにあの女について言及してやることにした。
「それより、仲間にした意味がない、ってことなら、船長室にずっと閉じ込めておくのも意味がないわよね? 一体あなたはあの女に何を見出したの? なに? 昔の女にでも似ていたの?」
「違う」
 彼はすかさず断言する。私の眼をまっすぐに見つめながら。
 ああ、だめだ。そんな目で見つめられてしまうと、私は弱い。
 耐えきれず、フイと横を向く。
「なにが違うっていうのよ……」
「俺はあの女の不思議な『能力』が目当てなんだ」
「はっ、ついにあなたもヤキが回ったみたいね? 魔法なんてお伽噺よ?」
「だったら、あの大穴はどうやって開けたと思う? 仲間たちが必死で直した、あの大穴。あれはアイツが能力で開けた穴なんだよ」
 それが本当なら、いったいどんな力だというのか。
 触れるだけで全部吹っ飛ばす能力だったらできるのかもしれないが。
「いいわ――話に乗ってあげる。一体どんな能力なのよ」
「いいか、よく聞け、アイツの能力はな――『風を操る』能力だ」
「え? それだけなの?」
 それだけなのか。もっと強そうな能力かと思ったら期待外れだ。
 それに、目に見えない風を操れるなんて言われたところで信じられるわけがない。
「だったら見てみるか? あいつが風を操るところを」
「大きく出たわね。いいじゃない、見せてもらうわ」
 私は半信半疑でそういうと、彼は颯爽と甲板へと飛び降りて、船長室の扉を開けた。
 彼が何事か叫ぶと、あの女――ユーカ・アマツキが出てきたではないか。

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