キャプテン・エルドレッドの異世界航路 ~Pirates of the ANOTHER-WORLD~
第三話 酒場の喧騒 ~リッカ・コルセリアと言う名の仲間~
ウミネコ亭に入ると、酒の匂いやら、煙草の匂いやらが充満していた。カウンターの方には人がぎっしりと詰まっており、脇の方では海の男たちによる楽団が形成されていた。
歌や楽器で騒がしい室内は、まさに海賊の楽園のような場所だろう。
私は少し、苦手な部類なのだが。
「おいマスター! ラムをくれ!」
ここでは彼の正体に気付くものはいないだろう。喧騒が激しすぎるし、皆が酔っぱらってフラフラになりながらも馬鹿騒ぎをしているからだ。
彼は懐から銅貨を出してマスターに支払いを済ませ、私の元に戻ってきた。
手には二つ、木のジョッキを持っていた。
「お前の分だ。飲め」
「ありがとう、気が利くのね」
彼は上機嫌らしく、ハハッ、と笑いジョッキを私の目の前に掲げた。
「それでは、これからの俺たちの発展を願って」
「そして、私たちの未来に幸運の光がさすことを願って」
彼の乾杯の声に合わせて、私は合いの手を入れた。
「乾杯」
こつん、とジョッキを合わせて私たちはラムを一気に喉の奥に押し込んだ。
「ぷっはぁああああ! やっとだ。やっとラムを飲めたぞ」
「ふふ、本当に酒が好きなのね」
「酒が嫌いな海賊なんて、海賊じゃない」
彼は言いながら、近くの喧嘩を始めたテーブルからワインをくすねてきた。
「手癖がいいのね」
「こういう事は慣れてるからな」
ジョッキにはワインが注がれ、私たちは壁際の方へと移動する。
肩と肩がぶつかり合うほどの距離だ。
周りには馬鹿騒ぎしている集団しかいない場所。
私は感心した。こんなに騒がしく訳の分からない場所でも彼は人ごみをかき分け、一番計画を話すのに都合の良い場所を見つけたからだ。
狙ってできる芸当ではない。
彼は私の方を向き、そのハスキーな声で囁いた。
「さて、リッカ。お前の目的はなんだ? 俺の仲間になった後、何がしたい?」
「なぜそんなことを聞くの?」
「そりゃあお前、俺が女関係で痛い目を見ていないとでも思ったか? 大体俺に言い寄ってくる奴は財宝目当てか、俺の腰の黄金銃が目当てだからな。あ、俺の股間についてる本物の黄金銃を狙ってきた美女もいたな」
「言っておくけれど、私は貴方のその……粗末なソレには興味がないわ」
私の返しに彼は「おおう」などと言いながらよろけてみせる。
「なら、コレか?」
彼は腰の黄金銃を私に見せつけてきたが、私の目的はソレじゃない。
「違うわね」
「ははぁ……? 分かったぞリッカ」
彼は私の受け答えを見て、何かを察したかのように笑った。
「何をよ?」
「お前は俺と共に奪って殺して暴れまくりたいだけだろ?」
今度は私がよろける番だった。
「なぜ、そうだと思ったの?」
「君は――そうだな、ある種、俺じゃない匂いがするんだよ。こういう時の俺の目の鋭さは半端じゃないぜ? 君は殺したいだけだ。鬱憤を晴らすために。新天地に行きたいとか、両親が騎士団の出で自分にも騎士団への道をしつこく勧めてくるからとかで、なにもかも嫌になっただけだろう?」
なんという事だ。
「……違うわ」
「そう言うしかないだろうな? 自分がそうだと認めたくないから。それに、ここで認めたら絶対に俺に置いて行かれるとか考えているだろう?」
彼の言葉は全て私の胸の内を開いてしまった。
おしまいだ。私の海賊になって冒険をするという夢にまで見た物語は、大鷲のエルドレッドに仲間になるのを拒否されておしまいになってしまう。
「ち、違うわっ」
その恐怖からか、私の声は震えてしまう。
この短時間でなぜこの男はここまでの考察を立てる事ができたのだろうか。人の奥底までをも見透かす力があるとでも言うのか。
彼は言う。きっと私をここにとどめるための言葉を。
私にとって死刑宣告にも等しい、その言葉を。
「いいぞ。仲間になれ。リッカ」
―――――!?
彼の言葉を飲み込むまで、数秒が掛かった。
今、彼はなんといった。
仲間になれ、と言ったのだ。
私が喉から手が出るくらい欲しかったその言葉を彼は言ってくれた。
彼は続ける。私の眼を真剣に見つめながら。
「俺を見くびるなよリッカ。お前は頭も切れるし、剣の腕もその辺の船乗りより使えそうに見えるしな。何より、契約をしたじゃないか。俺を酒場に連れて行く変わりに、君を俺の船に乗せると。俺は契約を破棄したりしない男だ。海賊エルドレッドは、志願してきた勇士を無下に返したりしない。それが例え、世間知らずのお嬢様だったとしても、だ」
「……!」
彼の言葉が心に刺さる。
一生彼に付いていきたいくらいにだ。
彼は最初から見抜いていたのだ。私がただのお転婆な娘だという事、暗い願望を持っている事、全てを受け入れてくれたのだ。
「ただ、約束してくれ。絶対に仲間を裏切るな、見捨てるな。これは俺の部下になった者全員に送っている言葉なんだがな。憶えろよ。『真実は仲間と共にある』ってな」
「『真実は仲間と共にある』……要するに、心にある本当の望みは、仲間と共に居ることだ、っていう事ね?」
私の言葉に彼はにんまりと最高の笑みを浮かべた。
「その通りだ。お嬢様にして最凶の海賊、リッカ。お前は俺、キャプテン・エルドレッドの仲間だ」
言いながら、彼は私の唇に――キスをした。
彼の不思議と心地よい匂いが私を包み込む。
腰にまで手を回されるのを感じるが、私はそれどころではない程動揺してしまっている。
「な、ななな」
顔が一気に熱くなるのを感じる。
私の今の顔はきっとリンゴよりも紅いだろう。
「あー、今のはアレだ。ほら。綺麗な女を見たら……キスするのが俺流だから、さ」
「ファーストキス……ありがとう、キャプテン」
「礼を言われるとは思わなかったな。まぁ、これからよろしく頼む」
――出逢ってから数時間しか経っていないが、私の心は完全に彼のモノにされてしまった。
「さぁて、今日は一緒のベッドで寝るか?」
「へっ!? え、ちょっと待って、まだ心の準備がっ、はうっ」
私の身体は知らないうちに宙に浮いていて――お姫様抱っこという奴だ――彼の腕にすっぽりと収まってしまっていた。
「船の調達やら、乗組員の募集なんざ後回しだ。今は類稀なる美女と共に凄絶なる一夜を過ごす方が先決だからな」
彼は宿屋についても、私と二度目、三度目のキスをしていてもなお、口元に笑みを湛えていた。
歌や楽器で騒がしい室内は、まさに海賊の楽園のような場所だろう。
私は少し、苦手な部類なのだが。
「おいマスター! ラムをくれ!」
ここでは彼の正体に気付くものはいないだろう。喧騒が激しすぎるし、皆が酔っぱらってフラフラになりながらも馬鹿騒ぎをしているからだ。
彼は懐から銅貨を出してマスターに支払いを済ませ、私の元に戻ってきた。
手には二つ、木のジョッキを持っていた。
「お前の分だ。飲め」
「ありがとう、気が利くのね」
彼は上機嫌らしく、ハハッ、と笑いジョッキを私の目の前に掲げた。
「それでは、これからの俺たちの発展を願って」
「そして、私たちの未来に幸運の光がさすことを願って」
彼の乾杯の声に合わせて、私は合いの手を入れた。
「乾杯」
こつん、とジョッキを合わせて私たちはラムを一気に喉の奥に押し込んだ。
「ぷっはぁああああ! やっとだ。やっとラムを飲めたぞ」
「ふふ、本当に酒が好きなのね」
「酒が嫌いな海賊なんて、海賊じゃない」
彼は言いながら、近くの喧嘩を始めたテーブルからワインをくすねてきた。
「手癖がいいのね」
「こういう事は慣れてるからな」
ジョッキにはワインが注がれ、私たちは壁際の方へと移動する。
肩と肩がぶつかり合うほどの距離だ。
周りには馬鹿騒ぎしている集団しかいない場所。
私は感心した。こんなに騒がしく訳の分からない場所でも彼は人ごみをかき分け、一番計画を話すのに都合の良い場所を見つけたからだ。
狙ってできる芸当ではない。
彼は私の方を向き、そのハスキーな声で囁いた。
「さて、リッカ。お前の目的はなんだ? 俺の仲間になった後、何がしたい?」
「なぜそんなことを聞くの?」
「そりゃあお前、俺が女関係で痛い目を見ていないとでも思ったか? 大体俺に言い寄ってくる奴は財宝目当てか、俺の腰の黄金銃が目当てだからな。あ、俺の股間についてる本物の黄金銃を狙ってきた美女もいたな」
「言っておくけれど、私は貴方のその……粗末なソレには興味がないわ」
私の返しに彼は「おおう」などと言いながらよろけてみせる。
「なら、コレか?」
彼は腰の黄金銃を私に見せつけてきたが、私の目的はソレじゃない。
「違うわね」
「ははぁ……? 分かったぞリッカ」
彼は私の受け答えを見て、何かを察したかのように笑った。
「何をよ?」
「お前は俺と共に奪って殺して暴れまくりたいだけだろ?」
今度は私がよろける番だった。
「なぜ、そうだと思ったの?」
「君は――そうだな、ある種、俺じゃない匂いがするんだよ。こういう時の俺の目の鋭さは半端じゃないぜ? 君は殺したいだけだ。鬱憤を晴らすために。新天地に行きたいとか、両親が騎士団の出で自分にも騎士団への道をしつこく勧めてくるからとかで、なにもかも嫌になっただけだろう?」
なんという事だ。
「……違うわ」
「そう言うしかないだろうな? 自分がそうだと認めたくないから。それに、ここで認めたら絶対に俺に置いて行かれるとか考えているだろう?」
彼の言葉は全て私の胸の内を開いてしまった。
おしまいだ。私の海賊になって冒険をするという夢にまで見た物語は、大鷲のエルドレッドに仲間になるのを拒否されておしまいになってしまう。
「ち、違うわっ」
その恐怖からか、私の声は震えてしまう。
この短時間でなぜこの男はここまでの考察を立てる事ができたのだろうか。人の奥底までをも見透かす力があるとでも言うのか。
彼は言う。きっと私をここにとどめるための言葉を。
私にとって死刑宣告にも等しい、その言葉を。
「いいぞ。仲間になれ。リッカ」
―――――!?
彼の言葉を飲み込むまで、数秒が掛かった。
今、彼はなんといった。
仲間になれ、と言ったのだ。
私が喉から手が出るくらい欲しかったその言葉を彼は言ってくれた。
彼は続ける。私の眼を真剣に見つめながら。
「俺を見くびるなよリッカ。お前は頭も切れるし、剣の腕もその辺の船乗りより使えそうに見えるしな。何より、契約をしたじゃないか。俺を酒場に連れて行く変わりに、君を俺の船に乗せると。俺は契約を破棄したりしない男だ。海賊エルドレッドは、志願してきた勇士を無下に返したりしない。それが例え、世間知らずのお嬢様だったとしても、だ」
「……!」
彼の言葉が心に刺さる。
一生彼に付いていきたいくらいにだ。
彼は最初から見抜いていたのだ。私がただのお転婆な娘だという事、暗い願望を持っている事、全てを受け入れてくれたのだ。
「ただ、約束してくれ。絶対に仲間を裏切るな、見捨てるな。これは俺の部下になった者全員に送っている言葉なんだがな。憶えろよ。『真実は仲間と共にある』ってな」
「『真実は仲間と共にある』……要するに、心にある本当の望みは、仲間と共に居ることだ、っていう事ね?」
私の言葉に彼はにんまりと最高の笑みを浮かべた。
「その通りだ。お嬢様にして最凶の海賊、リッカ。お前は俺、キャプテン・エルドレッドの仲間だ」
言いながら、彼は私の唇に――キスをした。
彼の不思議と心地よい匂いが私を包み込む。
腰にまで手を回されるのを感じるが、私はそれどころではない程動揺してしまっている。
「な、ななな」
顔が一気に熱くなるのを感じる。
私の今の顔はきっとリンゴよりも紅いだろう。
「あー、今のはアレだ。ほら。綺麗な女を見たら……キスするのが俺流だから、さ」
「ファーストキス……ありがとう、キャプテン」
「礼を言われるとは思わなかったな。まぁ、これからよろしく頼む」
――出逢ってから数時間しか経っていないが、私の心は完全に彼のモノにされてしまった。
「さぁて、今日は一緒のベッドで寝るか?」
「へっ!? え、ちょっと待って、まだ心の準備がっ、はうっ」
私の身体は知らないうちに宙に浮いていて――お姫様抱っこという奴だ――彼の腕にすっぽりと収まってしまっていた。
「船の調達やら、乗組員の募集なんざ後回しだ。今は類稀なる美女と共に凄絶なる一夜を過ごす方が先決だからな」
彼は宿屋についても、私と二度目、三度目のキスをしていてもなお、口元に笑みを湛えていた。
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