生まれながらにして凶運の持ち主の俺はファンタジー異世界への転生ボーナスがガチャだった時の絶望感を忘れない。
街道沿いの美女と少女
(馬……! 俺今馬に乗ってるっ!)
関所を出て数分、カイリはパッシブスキル、馬術の効果の程を堪能していた。
開けた街道沿いを、陛下達が乗っている馬車の少し後ろから、ゆっくりと追いかけるようにして馬を走らせる。
そうしながら考えるのは、このスキル――【馬術】LV1のことだ。
なぜこんなにいいタイミングで馬術など習得できたのだろうか。それを考えると少し不安になる。
(ノーマルのランクのスキルだったしな……それにしても幸運だ)
「主様、考え事かや?」
「いや、いいタイミングで馬術のスキルを引き当てたからかな? 今の今まで持ち前の不幸続きで、ガチャの結果があんまり良く無かったのもあるんだけど……」
心の中でアイツのサポート抜きの結果で、と付け足しておく。
失敗手作りクッキーとかもあったが、非常食用にとってあるままだ。食べることはおそらくないだろう。
「なるほど、いきなりの幸運にどうすれば良いのかわからなくなった……というところかや?」
「あ、ああ……」
後ろから抱きしめてきているシオンの手の力が、より一層強くなるのを感じた。
どうしたというのだろう。俺は何か変な事を言ってしまったのだろうか。
「そんなの考えてもどうなるわけでもありんせん! 今はただ、主様は前だけを向いていればよいと思うっ! そ、その主様の友人の最高神様が、きっと加護を与えてくれたんじゃろっ」
「うーん……そうだな、そういう事にしとくか」
「そうじゃそうじゃっ」
ぎゅーっ、とシオンが俺の体にしがみつくようにして身体を密着させてくる。一体この皇女様は何を考えているのだろうか。俺を殺す気なのだろうかと本気で心配になってくる。
「く、苦しいってシオン……ああ、そういえば、約束通りグングーニルの事は内緒にしてもらうようにルゼル……陛下と話はできたのか?」
あぶないあぶない。兵士の人たちが居る前で流石にルゼルノさん、とか言ったらやばいよな。
「わっちを舐めるでないぞ、主様。父上と話すのは少し骨が折れたが、主様のお陰で大きな力を得られたと話をしたら、このことは内密にしておこうぞ、と言われての。母上も同じく秘密にしてくれると仰っていたから、その点は安心しても良いかと思うが……どうかや?」
よかった……もし、俺が力をばら撒ける存在だと思われて、その力を振るわないかとか言われたら流石にどうすることもできない。アレンの言うとおりだな。あんまりこの力を他の良くわからない人たちに見せつけるのは良くない。
直接話をするタイミングもなかったし、関所に行くまでの間に腰を据えて話をすることもできなかったからなぁ。その点、シオンは俺にできないことをやってくれた。本当にありがたい。
「ありがとうシオン。」
「わっちにかかれば造作もないことよ。魔物化したゴブリンを倒すより容易いことじゃ」
そんなこともあったな、といまさらながらに思い出す。もう遠い昔の事みたいに思えてならない。
(あれ……? そういえば下水道のゴブリンから俺とシオンレベルアップしてないような気がするぞ? グングーニルが倒したワイバーンの分の経験値は、俺達には入ってこないのか?)
そう、下水道でゴブリンを倒した時レベルは上がった、しかし、それより強いと思われるワイバーンの分の経験値が入っていないのだ。
「なあシオン、どうして魔物のゴブリンを倒してレベルが上がったのに、ワイバーンを倒してもレベルが上がらないんだ? というより、魔物化ってどういう原理なんだ、あれ」
そう質問してみると、シオンが少し思案顔になった。
カイリが、考え込むシオンも可愛いとか思っていると、何か思い当たった事があったようで、パッと明るい顔に切り替わった。
シオンの感情表現が豊かすぎてニヤけが止まらないんですが、どうすればいいんですかね。
「ワイバーンはな、動物なんじゃ。ゴブリンと同じな。そもそもレベルアップの仕組み……というよりは、自身の能力が強化されるのは魔物の魔力を無意識下で吸収しているから、というのが一般的な説であり、だから魔物じゃないワイバーンをニルニルが倒しても魔力が入らないから、レベルアップしない、というわけじゃ」
ふふん、と得意気に話すシオンに、カイリはふむふむと頷いた。
「じゃあ、魔物化ってのはなんなんだ? ゴブリンの様子を思い出すと……ただ泣き喚いたら魔物化したってイメージなんだけど」
あの時のゴブリンの事を思い出す。いきなり咆哮したかと思うと、変化が始まり、魔物化したのだ。
「……あれは、恨みによる変化じゃな」
「恨み?」
「そうじゃ。ほれ、わっちらが四匹のゴブリンをいとも簡単に倒してしまったじゃろう? きっとあやつらは仲間か家族だったのであろう。どうしてもわっちらを倒したい、殺したい、という欲求にゴブリンの魔力が暴走し、魔物化してしまった……という訳じゃな。あくまで推測じゃがの」
そういうものなのかと納得するしかないだろう。
なんにせよ魔物を倒さないと経験値が入らず、レベルアップしないというのは頭に入れておいた方がよさそうだ。
これだけの質問をシオンは解決してくれたが、まだ問題は山積みだ。
これからの身の振り方や、資金の調達方法、アレンへの礼……。考えなければならないことはたくさんある。
異世界から帰りたいとは微塵も思わないが、シオンとずっと一緒に旅が出来るわけでもない。
それを考えると悲しくなるが、相手は皇女、こっちはどこぞの馬の骨だ。
今でこそ勢いで騎士を名乗り、隣に居たりできるが、フェレスに到着して、ルゼルノさんが兵を率いてセントラルを取り返せば、きっと俺は用済みだ。
(今から考えてもしょうがないよな。目の前の事だけ集中しよう)
心配そうにこちらを見ているシオンに気付くこともなく、カイリは馬を進めた。
関所を出て数分、カイリはパッシブスキル、馬術の効果の程を堪能していた。
開けた街道沿いを、陛下達が乗っている馬車の少し後ろから、ゆっくりと追いかけるようにして馬を走らせる。
そうしながら考えるのは、このスキル――【馬術】LV1のことだ。
なぜこんなにいいタイミングで馬術など習得できたのだろうか。それを考えると少し不安になる。
(ノーマルのランクのスキルだったしな……それにしても幸運だ)
「主様、考え事かや?」
「いや、いいタイミングで馬術のスキルを引き当てたからかな? 今の今まで持ち前の不幸続きで、ガチャの結果があんまり良く無かったのもあるんだけど……」
心の中でアイツのサポート抜きの結果で、と付け足しておく。
失敗手作りクッキーとかもあったが、非常食用にとってあるままだ。食べることはおそらくないだろう。
「なるほど、いきなりの幸運にどうすれば良いのかわからなくなった……というところかや?」
「あ、ああ……」
後ろから抱きしめてきているシオンの手の力が、より一層強くなるのを感じた。
どうしたというのだろう。俺は何か変な事を言ってしまったのだろうか。
「そんなの考えてもどうなるわけでもありんせん! 今はただ、主様は前だけを向いていればよいと思うっ! そ、その主様の友人の最高神様が、きっと加護を与えてくれたんじゃろっ」
「うーん……そうだな、そういう事にしとくか」
「そうじゃそうじゃっ」
ぎゅーっ、とシオンが俺の体にしがみつくようにして身体を密着させてくる。一体この皇女様は何を考えているのだろうか。俺を殺す気なのだろうかと本気で心配になってくる。
「く、苦しいってシオン……ああ、そういえば、約束通りグングーニルの事は内緒にしてもらうようにルゼル……陛下と話はできたのか?」
あぶないあぶない。兵士の人たちが居る前で流石にルゼルノさん、とか言ったらやばいよな。
「わっちを舐めるでないぞ、主様。父上と話すのは少し骨が折れたが、主様のお陰で大きな力を得られたと話をしたら、このことは内密にしておこうぞ、と言われての。母上も同じく秘密にしてくれると仰っていたから、その点は安心しても良いかと思うが……どうかや?」
よかった……もし、俺が力をばら撒ける存在だと思われて、その力を振るわないかとか言われたら流石にどうすることもできない。アレンの言うとおりだな。あんまりこの力を他の良くわからない人たちに見せつけるのは良くない。
直接話をするタイミングもなかったし、関所に行くまでの間に腰を据えて話をすることもできなかったからなぁ。その点、シオンは俺にできないことをやってくれた。本当にありがたい。
「ありがとうシオン。」
「わっちにかかれば造作もないことよ。魔物化したゴブリンを倒すより容易いことじゃ」
そんなこともあったな、といまさらながらに思い出す。もう遠い昔の事みたいに思えてならない。
(あれ……? そういえば下水道のゴブリンから俺とシオンレベルアップしてないような気がするぞ? グングーニルが倒したワイバーンの分の経験値は、俺達には入ってこないのか?)
そう、下水道でゴブリンを倒した時レベルは上がった、しかし、それより強いと思われるワイバーンの分の経験値が入っていないのだ。
「なあシオン、どうして魔物のゴブリンを倒してレベルが上がったのに、ワイバーンを倒してもレベルが上がらないんだ? というより、魔物化ってどういう原理なんだ、あれ」
そう質問してみると、シオンが少し思案顔になった。
カイリが、考え込むシオンも可愛いとか思っていると、何か思い当たった事があったようで、パッと明るい顔に切り替わった。
シオンの感情表現が豊かすぎてニヤけが止まらないんですが、どうすればいいんですかね。
「ワイバーンはな、動物なんじゃ。ゴブリンと同じな。そもそもレベルアップの仕組み……というよりは、自身の能力が強化されるのは魔物の魔力を無意識下で吸収しているから、というのが一般的な説であり、だから魔物じゃないワイバーンをニルニルが倒しても魔力が入らないから、レベルアップしない、というわけじゃ」
ふふん、と得意気に話すシオンに、カイリはふむふむと頷いた。
「じゃあ、魔物化ってのはなんなんだ? ゴブリンの様子を思い出すと……ただ泣き喚いたら魔物化したってイメージなんだけど」
あの時のゴブリンの事を思い出す。いきなり咆哮したかと思うと、変化が始まり、魔物化したのだ。
「……あれは、恨みによる変化じゃな」
「恨み?」
「そうじゃ。ほれ、わっちらが四匹のゴブリンをいとも簡単に倒してしまったじゃろう? きっとあやつらは仲間か家族だったのであろう。どうしてもわっちらを倒したい、殺したい、という欲求にゴブリンの魔力が暴走し、魔物化してしまった……という訳じゃな。あくまで推測じゃがの」
そういうものなのかと納得するしかないだろう。
なんにせよ魔物を倒さないと経験値が入らず、レベルアップしないというのは頭に入れておいた方がよさそうだ。
これだけの質問をシオンは解決してくれたが、まだ問題は山積みだ。
これからの身の振り方や、資金の調達方法、アレンへの礼……。考えなければならないことはたくさんある。
異世界から帰りたいとは微塵も思わないが、シオンとずっと一緒に旅が出来るわけでもない。
それを考えると悲しくなるが、相手は皇女、こっちはどこぞの馬の骨だ。
今でこそ勢いで騎士を名乗り、隣に居たりできるが、フェレスに到着して、ルゼルノさんが兵を率いてセントラルを取り返せば、きっと俺は用済みだ。
(今から考えてもしょうがないよな。目の前の事だけ集中しよう)
心配そうにこちらを見ているシオンに気付くこともなく、カイリは馬を進めた。
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