生まれながらにして凶運の持ち主の俺はファンタジー異世界への転生ボーナスがガチャだった時の絶望感を忘れない。

蒼凍 柊一

不幸と運がないというのは必ずしも同じではない

「あ?なんだこの状況は…」


カイリは一人愚痴る。
両手の剣の確かな重みを感じながら外に出たら、目の前には息も絶え絶えな女の子がいて、その後ろにはゴツゴツとした装備の男…3人が居たのだ。


「た、助けてくれんかやっ!?」


追われてた少女はカイリの顔を下から見上げ、懇願する。
その姿は男であれば必ず守ってやりたくなるようなものだった。


「えっと…あの…お疲れ様でーす…さ、行こうか」
「おいちょっと待てキサマ」
「いやだって俺全然怪しくないですよ?ただ変な衛兵に捕まって監禁された挙句、いやらしい目で体を見られ、扉を壊して脱走しようとしたらあなた方に会っただけです。呼び止められる理由もわからないし、むしろ俺被害者…ああ、なんて俺は運がないんだろう…」
「うるさいこの犯罪者め!……いい、こいつも殺せ」


問答無用で告げられたリーダーらしき男の命令。
カイリは自分の顔が引きつるのを感じた。


「な、なぁ…君…一体何をしたんだ…というか誰だ?」
「わたく…いいえ…わっちは何もしてはないぞ?ただ、こいつらが追ってきただけじゃ…!主様こそ一体なにもの…」
「レティシオン・アーレングラディ・セントラル・クオレツィア皇女…!覚悟しろ!」
「おい皇女とか言われてるぞ?君…っておいっ!いきなり斬りかかって…!」


カイリは斬りかかってきた二人の男に即座に反応し、横に居た少女を後ろに放り投げた。


「ひゃあっ!?」


それと同時に二人が剣をカイリへと突き立てる。


「そう簡単にやられてたまるか…!」


カイリは向けられた二本の剣を両手の白と黒の剣で受け止める。
状況は全くわからないが、自分へと向けられた敵意と、なにしろ後ろにいるであろう少女を殺そうとしているのだ。


どちらに味方するかはカイリの中で、結論が出ていた。
交錯する剣戟。
カイリは一歩も引かない。
斬りかかってくる二人を上手くいなし、受け止め、弾く。
はたから見ればカイリは達人級の双剣の使い手に見えただろうが、本人には全く自覚はない。
なにせ本人は喧嘩すらしたことがなかったのだ。
二対一の攻防がどんなものか、見当がつかない。
しかしこんなにも戦えている。
その異常性を、カイリは知らない。


(アレン流って…もしかして結構強いスキルだったりするのか?)


戦っていたカイリの視界の端で、ログが更新され続けている


ログ
―【アレン流短双剣術】がLV2にレベルアップ―
―【直感強化】がLV2にレベルアップ―
―行動ボーナス パッシブスキル 【体術】LV1 を習得しました―
―【体術】がLV2にレベルアップ―


「こいつ、手ごわいぞっ!テノル!」
「泣き言を言うな!相手は一人だぞ!押し切れ!…ここで殺さねば、後の活動に支障を来す…!必ず殺すのだっ」


後ろに控えていたテノルと呼ばれた男が二人に喝を入れる。
その言葉に後押しされ、力を一段と強めてきた…正確には魔力による身体強化を男二人は使ったのだ。
段々と押され始めるカイリ。


(くそぉ…廊下の幅が狭いからなんとかしのぎ切れてるが…これはマズイな…はぁ、運がない)


カイリの額を汗が伝う。
その時、後ろに居た少女が動いた。
それに目ざとく気付いた男の一人が叫ぶ。


「待てぇ!」
「その先は行き止まりだっ!何ができるわけでもない!放っておけ!」


後ろに居た男が指示を飛ばす。
少女は今までカイリが居た部屋へと駆け込み、


「隠されし古の扉よ…わが言葉に従い、開け!!」


威厳に満ちた声を発すると、急激に変化が起こる。
部屋全体が光り輝き、壁に魔法陣が出現したのだ。


「主様も早く!これはわっちらしか通れぬようにしてある故――」
「逃げられたらとっくに逃げてる…うぉっ!?あぶねぇなっ!」


後ろに気を取られたカイリは、肌への剣の直撃は避けたものの、服と、その服の下に巻いていたさらし・・・まで斬られてしまった。
今まで押さえつけられていた二つのそれは、プルンと音が出そうなほど張りがあり、素晴らしいモノだった。


「うっ」


男の二人がそちらに目を奪われ、一瞬動きが止まったのを、カイリは見逃さない。
羞恥など感じている暇なんて、ない。
飛び上がって放ったしなやかな蹴りが、男二人の脳をまとめて揺らす。
その威力は新しく手に入れたパッシブスキル【体術】の効果により強化されていて、男を昏倒させるには十分なものだ。


「…男ってのは、なんでこんなに馬鹿なんだっ!?」
「え、え!?」


恨み言をいいながら後ろに跳び退り、カイリは困惑している少女を抱きかかえ、壁に描かれた魔法陣へと向かって跳躍する。


二人の体は魔法陣へと吸い込まれ、消え去った。


「この…役立たずどもがぁああっ!!」


テノルと呼ばれていた男はその場で怒りをぶちまけ、昏倒している男二人を放って独房の魔法陣へと駆け寄る。
だが、それはテノルを拒否するかのように弾け、消え去った。

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