生まれながらにして凶運の持ち主の俺はファンタジー異世界への転生ボーナスがガチャだった時の絶望感を忘れない。

蒼凍 柊一

気付いたら街の宿屋に

「…はっ!?ここはどこ!?トラは!?白井は!?アレンは!?」


カイリはがばっ、と跳ね起きた。
頭の中でさっき起こった事件が立て続けにフラッシュバックされてパニックに陥ったのだ。


「落ち着け。ここは帝都【セントラル】にある宿屋だ。そして、白井とアレンは同一人物で、俺のことだ。そして魔獅子は俺がきちんと殺っといたから心配するな」
「し、白井アレン!?」
「…呼び方を統一しろよ。今はアレンとして現界してるから、アレンと呼べ」


その後もあたふたするカイリをアレンはしっかりと介抱してやった。
あんなに大きな獅子…魔物だが、それといきなり戦わせたうえ、魔物の威圧を真正面から受けたのだ。
正常な思考でいられる方がおかしいというものだ。
だが、しばらくするとカイリも段々と落ち着いてきたようだ。


「…で、白井は…ああ、アレン…か?言いたいことはいろいろあるけど、まずこれだけは言わせてくれ」
「なんだ?」
「ありがとう。それとこの宿のお金は俺持ちなのか?」
「…礼は受け取っておくし、ここの金はもう払ってある」


アレンの言葉を聞いてあからさまに表情が明るくなるカイリ。
そして一言、言い放つ。


「アレン。俺のガチャに細工しただろう?」
「あ、ばれたか?」


やっぱりか、とカイリは思った。
だが、ガチャの確率を変えられて意図的にSSRを引き当てさせられたことの前に…、この眼の前の男に感謝する気持ちの方が大きかった。
幸運どうこうという前に、自分の命を救ってくれた奴を恨む道理はないからだ。
話を聞くに、アレンは自分を助けてくれたらしく、さらには宿にも運んでくれたし金も払ってくれた。


ほら、恨む道理なんてひとっつもないだろう?


「…なんだよ黙りこくって…?生理か?」
「お前ぶっ殺すぞ?」
「なんだ違うのか。…じゃああれだな?最初に会ったとき意味深な言葉を残していって、あっさりと再会したから腑に落ちないんだろう?」
「いや、それもあるかもだけどさ…」
「ほかにもあるのか?」
「…ない。それを説明してくれ。なんでお前が…ガチャであたった英霊だったんだ?」
「…それはな…」


アレンが声を潜めて言うので、カイリもつられて真剣な面持ちになった。


「俺の本体がそういう風に設定しただけだよ」
「本体?」
「そう。俺はアレンっていう名の英霊で、最高神であることは間違いないんだけどな…?なんていうんだろうな?説明が難しいんだが…ま、とりあえずお前が最初に会った時の俺が本体。で、その記憶をもとに俺が作られたんだよ。なんだ、分身とでも考えてくれ」
「…英霊って、そういうことか…」


カイリはアレンの話を聞いて変に納得した。
それであれば最後の別れ方も納得がいくからだ。


「だがな…カイリ。残念なお知らせがある」
「なんだよ?」
「【英霊召喚】の効力は24時間。しかも、3日に一回しか使えない」
「…マジ?」
「マジだ」


「説明文に書いとけよぉおおおおお!?」


衝撃的な事実にカイリが叫び声をあげるが、アレンは聞かないふりを決め込む。


「で…だ。簡単なチュートリアルみたいなもので…ま、所謂世界設定見たいなもんだが…」
「……」
「この世界には魔物もいるし、普通の獣もいる。見分け方は…そうだな…殺した時に光の粒子に変わる奴が魔物だ。うん」
「見分けてないし…それ」
「しょうがないだろう?俺だって詳しくは知らないし…」
「知らないのか!?神様なんだろう!?」
「…全知全能の神様なんて俺がぶっ殺したわ」


カイリはその意味不明な発言に対して深く掘り下げないことに決めた。
なぜかって?
話が長くなりそうで、ほかのことを聞けないかもしれないからだ。


「で、俺の今置かれてる状況はどんな感じなんだ?」
「どんな感じもなにも…安全だ。外よりはな。俺があと3分したら消える以外は通常運転じゃないか?」


カイリは自分がどれだけ気絶していたのか理解した。
そして、血の気が引いた。


「あと3分!?は…え!?」
「必要なことしか言わないぞ?よく聞けよ。まず冒険者ギルドに登録しておけ。そうすれば各国を自在に歩き回れる権利が得られるし、後ろ盾も少なからずできるからな。道は他の奴に聞け」
「冒険者ギルドなんてものがあるのか…」
「ほかにも魔術師ギルド、戦士ギルド、商業組合なんてものがあるが、一番は冒険者だな」
「わかった」
「で、そこからお前は一人で生きなきゃならない。少なくとも、あと一週間はな。夜間の依頼は絶対に受けるなよ?一人じゃ心配だからな。あと、その低能力値だったら探し物のクエストとかがいいだろう」
「…低能力値って…ま、そうだけど…」
「ガチャの件についてだが…あんまり他人にひけらかすな。お前のことだ…悪い未来しか見えない」


カイリは静かに頷く。
頭の中で言われたことを刻み付けるしか今はできないので、黙って話を聞いているのだ。


「さて…討伐系のクエストもやめとけ。一人じゃ死ににいくようなものだからな。俺的には一日中引きこもっていて、俺が召喚できるようになったら一緒に行動すればいいと思うんだが…そうも言ってられない」
「…お前は俺の母さんか父さんか…」
「過保護すぎたな。親はやめろ。俺はお前の使い魔だからな。次は魔力を十分に込めて呼んでくれよ?期待以上の働きできるからな。……さて、まあこんなところだな。また生きて会おう」


そう言い残して、アレンは消え去った。






「…やばい、混乱しすぎて訳分かんないけど…とにかく、宿を出て冒険者ギルドに行けばいいんだな?」




カイリの当面の目標が決まった瞬間だった。

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