生まれながらにして凶運の持ち主の俺はファンタジー異世界への転生ボーナスがガチャだった時の絶望感を忘れない。

蒼凍 柊一

てへぺろ

「なんだ!?どういうことなんだ…説明しろ白井!!」
「おいおいどういうことも何もないぞ?お前は死んだだけだよ」


 あまりに気が動転してしまい、白井に掴み掛る俺。
 だが、白井は飄々とした態度を崩さない。


「まずは落ち着けよ。お前」
「…これが落ち着いていられるかっ!死んだって言われて落ちつけるやつがいたら見てみたいもんだっ!」
「そんなに唾飛ばさないでくれるか?汚いだろ?飛ばすんだったら意識を飛ばしてくれ…騒がしい」
「誰のせいだと思ってんだよっ!コラ!そんなわざとらしい突き放し方したって俺は落ち込まないからなっ!説明しろよ!どうして俺が死んだのかっ、どうしてお前がここに居るのか…!」


 ふぅ…と白井は大きくため息を吐いた。


「説明?それならもう一度、お前にしてやるとしようか?正直今すぐにでもクローディアとリリアのもとに帰りたくてしょうがないが、友人の頼みだ…一応答えてやるからありがたく思えよ?」
「なんでそんなに上から目線なんだよ…!」
「昔から俺はこんなだったじゃないか?…いや、お前に対してだけか」
「たちが悪いぞっ!白井!……ふぅふぅ…」


 最後の方はもう叫びまくったせいで息切れしてしまった。
 身体が半透明でも息切れするんだな。


「どうだ…たまっていた物は全部出せたのか?」
「…あ、あぁ…」
「それなら。説明してやるから耳かっぽじってよーく聞けよ?」
「お、おう」
「まずフェイズ1…お前は死んだ。どのようにして、とか、なんで、とかの質問はしないでくれよ?お前が勝手にバナナの皮で滑って転んで気絶して運悪く歩道に突っ込んできたトラックにひき肉にされただけだからな。他人の介入とか、神様の陰謀とかそんなもんじゃないことだけは把握しとけよ?異論は認めない。」


 白井が信じられないようなことを言う…だが、その目は真剣そのもの。
 信じざるを得なかった。


「…ホントに…死んじまったのか…俺……」


 俺はここにきてようやく自分の状況を理解した。
 死んだのだ。紛う事無き死が、俺を襲ったのだ。


「なんにもしてねぇよ……俺。ただただ、生きてただけなのに、こんなにあっさり死ぬなんて……」
「そこには同情する。お前、本当にツいてないのな……で? そろそろいいか? 続きを説明したいんだが」
「お前には慈悲の心とか、友人を慰めてやろうとかいう気持ちはないのか!? 悪魔か!?」
「いや? 神様だけど?」
「前半全部スルーして素っ頓狂な答え返すな!」
「続き……いいか?」
「なんでそんなめんどくさい奴を見るような目で俺を見るんだよっ! どういうことだっ!?」
「冗談だ」
「一体何がどこまで冗談なんだよっ!?」
「……というのは嘘だ」
「もういい……続けてくれ……」


 白井はいつの間にかしていたメガネを中指で押し上げながらきざったらしく説明し始めた。


「フェイズ2だが、俺の元へ魂となったお前がやってきた。この理由は多分お前が死ぬ直前に思っていたあの思いが未練となっていて、俺のところに金をとりに来た……という訳だろうよ。しかしお前も相当にみみっちい奴だな? いなくなった男に貸した500円を返してもらいに、わざわざ神である俺のところに来るなんてな。フツーだったら死んだら自我も残さず消えうせるはずなんだが」
「悪かったな……あの時はそれがすごい心残りだったからな。そうだ。金だよ。金。利子込みで800円返せ」
「あとで別なもので返してやるから……まず黙ろうぜ? な? 話が進まないから」


俺は突き付けていた右手を下した。


「やっと聞く気になったか。……で、フェイズ3だ。なぜかお前、転生、いや、転移か。できるようになってるぞ? ま、俺が指定した世界にしか転生はできないけどな?」
「…転移って…」


 まさか、と思った。これほどてんぷら…いや、テンプレなことが俺の人生に起きようとは。
 ラノベを愛読していたので、転生と転移の違いくらいは分かる。転生は生まれ変わって0歳からスタートする…本当に新しい人生、という奴だ。
 で、転移というのは今の姿かたちのまま地球とは違う世界などに行ける…という事だろう。


「それと、俺は今500円を持っていないからな。転生ボーナスっていう形でお前に恩を返すとするよ」
「返す気はあったんだな? ん? でもちょっと待てよ白井。転移っていうことは、地球には戻れないんだよな?」
「当たり前だろう? お前は正しく【死】んだんだから。なぜかお前の魂が俺のところへ来ただけなんだから地球に戻るなんてことはできない。行きは簡単らしいが、魂の帰り道は恐ろしく難しいらしいぞ? ま、何の事だかわからないとは思うが」
「さっぱりわからん。だが、俺がラノベみたいな出来事に巻き込まれたって言うのは理解したぞ? 白井」


 理解せざるを得ないだろう。実際に自分の体は半透明で、白井はフツーの体だ。 ちょっとばかし装飾過多な蒼い服を着ているが…そんなことはどうでもいい。
 理解したのだ。死んだことは。
 理解したのだ。転移できることは。


 理解したのだ。俺はもう戻れない、と。


 だから俺は問いかける。大事なことだ。


「なあ、転生ボーナスってなんだ? 転移だったら転生ボーナスっていうのは変だよな?」
「はあ……相変わらず細かいとこを気にするな? お前は。別に大して変わらない。転生ボーナスの仕様を転移に合わせて変えるだけだから、気にするな。面倒だから」
「面倒って……。あ、それと、俺が転移する世界ってのはどういう世界なんだ?」
「テンプレ通りだ。何もかもな。魔法があればスキルだってある。ホラ、【小説家になりたい】っていうサイトで見たことあるだろ? あれの転生系のファンタジー異世界物みたいな世界さ」
「まさに夢にまで見たラノベの世界じゃないか……!」


 心の中で俺はガッツポーズを決めた。
 だがおかしい。ここまでで俺の凶運がまったく無視されているのはなぜだろうか?
 いつもだったら何かしらの重大な欠陥があるはず…と思って俺はハっとした。
 肝心のボーナス、とやらを聞いていない。


「んで、転移ボーナス? 転生ボーナス? めんどくせ……転生ボーナスだが」


 白井は宙に浮かんでいる四角い枠の中を操作し…途中で固まった。


「どうした? 早くボーナスくれよ」


その時白井は信じられないことを口走った。
よりにもよって凶運の持ち主である、幸運とはまったく縁のない『俺』に向かって……奴はこういった。












「わり、ボーナス…ガチャ形式にしちゃった」










「……てへペロ♪」










 静寂があたりを支配した。


 そして次の瞬間




「しらいぃいぃいぃいぃいぃ!お前…!!……ふざけんなあああああああああああああ!!」




 俺の絶叫があたりの空気を震わせた。

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